39 / 51
誰にも言えない③ 6月3日③
しおりを挟む
「ここ、ご自宅ですか? 」
「さぁ、どうだろうね? てか、入ってきて良かったの? 外国で知らない男と2人きりの空間。危機意識なかったりする?
あー、でもあんた面倒くさそうだから手を出す気もないわ。入ってきたなら座れば? 」
ケイは置いてある大きめのソファーを指差す。だが、杏梨は座らなかった。
「いえ、結構です。アドバイスだけいただければ帰ります」
そう伝えて、入ってきたドアの前に立った。自分を馬鹿にしてくるこの男の言いなりにこれ以上なりたくはない。
「あっそ。まぁ飯も奢って貰ったし、それなりに面白い話だったし、ついてきた事自体も面白いから、そんなあんたに俺からアドバイス」
杏梨の喉がごくりと鳴る。ケイはソファーに腰をおろして話し始めた。
「まずはセックスが愛のあるものっていう考えから改めたら? まぁ、反論する人なんて星の数ほどいるだろうし、そう考えたきゃそれでいいと思うけど。妊娠とか性病とか抜きにしたら、ただの楽しい娯楽だろ? 」
「なに、それ……それがアドバイス?」
杏梨の頭に血が登る。何か少しでも為になることを言ってくれると期待した自分が馬鹿だった。そのまま背を向けて出ていこうとする。
「人の話は最後まで聞けよ。折角話す気になったのに」
強い口調に後ろを振り向くとケイが真剣な目で杏梨を見ていた。馬鹿にしている目ではないと分かったので、もう一度彼に向き直る。
「ごめんなさい。聞きます」
「素直なのは良いところかもな。別に愛のあるセックスがないなんていう意味で言ってない。でも、愛があったってセックスしないことだってある。
あんたの愛の基準はセックスとかスキンシップとか会ってる時間とか、分かりやすい言葉で成り立ってるのが、問題じゃないかって言いたいだけ」
「それじゃ……駄目ですか? 」
杏梨の顔が明らかに落ち込んだのを見て、ケイは首をすくめた。
「別に駄目じゃない。まぁ分かりやすい指標だし、俺だって好きな女とは一緒にいたいし、いちゃこらしたい。
でもさ、愛があればお金を貰えて生活できる訳じゃない。お互い都合だってあるんだから、気持ちだけでずっと一緒に居られる訳もない。そのくらい分かるだろ? 」
言っていることは樹と同じなのに、何故こうも違う意味合いに聞こえるのか不思議だ。
「そうですね」
「だから、彼氏が『他の男作っていい』って言ったんなら、あんたはその通りにして、寂しい欲求は他で満たして、彼氏の前では物凄く幸せでいたら、別れずに済んだんじゃない? 」
「しましたよ!? 元彼の事、話したじゃないですか! 」
真剣に話したのに聞いていなかったのかと思い、杏梨は声を荒げた。
「あー、あんたがやたらと『最後まではしてない』って言ってた元彼?
多分だけど、そいつはお前の事、何とも思ってないよ? だから、あんたは満たされなかった。
いや、何ともは違うか。多分何か後ろめたいボランティア精神的なものがあって、最後までしなかっただけ」
杏梨はそうたの悲しそうな顔を思い出した。彼は彼女さんを自分と重ねていた。
「もし、そいつがあんたのことを本当に好きで、あんたを求めてセックスしてたら、きっとあんたは満たされて寂しい思いなんてしなかった。彼氏にももっと寛大になって、良い関係を築けたかもしれない。それかそいつに乗り換えてたか、だな」
「そんなこと……」
そうたといると、とても楽だったことを思い出すと最後まで言いきれなかった。
「よーするに、あんたには割り切りと覚悟が足らなかったって事だ。何でも清廉潔白、欠点なしの完璧さんじゃ欲しいものは手に入らない。
欲しいなら、他のものを捨ててまでがむしゃらに掴みにいけ」
ケイの目は獲物をみる肉食獣のようで、その眼光はこの男に狙われたら逃れられる女の人はいないんじゃないかと思える程に鋭いものだった。
「なら……がむしゃらに掴む方法を教えて下さい。私、彼氏とやり直したいんです! 」
ここまできたら、何かを掴み取りたくて杏梨はケイに負けない目で睨み返す。
杏梨の声にケイは唇を歪めた。一呼吸おいて言葉を発する。
「最初にあんたに『男を虜にする方法を教えてやる』って言ったけど、あれ嘘。
ちょっとからかって遊んで、良い思い出作ってやろうと思っただけ。
でもあんた、思いの外真面目で一生懸命だから今から言うのは嘘じゃない。
俺に教えられるのは『俺を虜にする方法』だけ。んでもってこっからは実践形式。大人だから、この意味分かるよな?
それでも、いいなら教えてやるよ。保証はしないけど、副産物で少しは『割り切りと覚悟』が身に付くかもな」
ケイの目は杏梨を掴んで放さない。杏梨は自身の心臓の音を聞きながら、その場に立ち尽くしていた。
「さぁ、どうだろうね? てか、入ってきて良かったの? 外国で知らない男と2人きりの空間。危機意識なかったりする?
あー、でもあんた面倒くさそうだから手を出す気もないわ。入ってきたなら座れば? 」
ケイは置いてある大きめのソファーを指差す。だが、杏梨は座らなかった。
「いえ、結構です。アドバイスだけいただければ帰ります」
そう伝えて、入ってきたドアの前に立った。自分を馬鹿にしてくるこの男の言いなりにこれ以上なりたくはない。
「あっそ。まぁ飯も奢って貰ったし、それなりに面白い話だったし、ついてきた事自体も面白いから、そんなあんたに俺からアドバイス」
杏梨の喉がごくりと鳴る。ケイはソファーに腰をおろして話し始めた。
「まずはセックスが愛のあるものっていう考えから改めたら? まぁ、反論する人なんて星の数ほどいるだろうし、そう考えたきゃそれでいいと思うけど。妊娠とか性病とか抜きにしたら、ただの楽しい娯楽だろ? 」
「なに、それ……それがアドバイス?」
杏梨の頭に血が登る。何か少しでも為になることを言ってくれると期待した自分が馬鹿だった。そのまま背を向けて出ていこうとする。
「人の話は最後まで聞けよ。折角話す気になったのに」
強い口調に後ろを振り向くとケイが真剣な目で杏梨を見ていた。馬鹿にしている目ではないと分かったので、もう一度彼に向き直る。
「ごめんなさい。聞きます」
「素直なのは良いところかもな。別に愛のあるセックスがないなんていう意味で言ってない。でも、愛があったってセックスしないことだってある。
あんたの愛の基準はセックスとかスキンシップとか会ってる時間とか、分かりやすい言葉で成り立ってるのが、問題じゃないかって言いたいだけ」
「それじゃ……駄目ですか? 」
杏梨の顔が明らかに落ち込んだのを見て、ケイは首をすくめた。
「別に駄目じゃない。まぁ分かりやすい指標だし、俺だって好きな女とは一緒にいたいし、いちゃこらしたい。
でもさ、愛があればお金を貰えて生活できる訳じゃない。お互い都合だってあるんだから、気持ちだけでずっと一緒に居られる訳もない。そのくらい分かるだろ? 」
言っていることは樹と同じなのに、何故こうも違う意味合いに聞こえるのか不思議だ。
「そうですね」
「だから、彼氏が『他の男作っていい』って言ったんなら、あんたはその通りにして、寂しい欲求は他で満たして、彼氏の前では物凄く幸せでいたら、別れずに済んだんじゃない? 」
「しましたよ!? 元彼の事、話したじゃないですか! 」
真剣に話したのに聞いていなかったのかと思い、杏梨は声を荒げた。
「あー、あんたがやたらと『最後まではしてない』って言ってた元彼?
多分だけど、そいつはお前の事、何とも思ってないよ? だから、あんたは満たされなかった。
いや、何ともは違うか。多分何か後ろめたいボランティア精神的なものがあって、最後までしなかっただけ」
杏梨はそうたの悲しそうな顔を思い出した。彼は彼女さんを自分と重ねていた。
「もし、そいつがあんたのことを本当に好きで、あんたを求めてセックスしてたら、きっとあんたは満たされて寂しい思いなんてしなかった。彼氏にももっと寛大になって、良い関係を築けたかもしれない。それかそいつに乗り換えてたか、だな」
「そんなこと……」
そうたといると、とても楽だったことを思い出すと最後まで言いきれなかった。
「よーするに、あんたには割り切りと覚悟が足らなかったって事だ。何でも清廉潔白、欠点なしの完璧さんじゃ欲しいものは手に入らない。
欲しいなら、他のものを捨ててまでがむしゃらに掴みにいけ」
ケイの目は獲物をみる肉食獣のようで、その眼光はこの男に狙われたら逃れられる女の人はいないんじゃないかと思える程に鋭いものだった。
「なら……がむしゃらに掴む方法を教えて下さい。私、彼氏とやり直したいんです! 」
ここまできたら、何かを掴み取りたくて杏梨はケイに負けない目で睨み返す。
杏梨の声にケイは唇を歪めた。一呼吸おいて言葉を発する。
「最初にあんたに『男を虜にする方法を教えてやる』って言ったけど、あれ嘘。
ちょっとからかって遊んで、良い思い出作ってやろうと思っただけ。
でもあんた、思いの外真面目で一生懸命だから今から言うのは嘘じゃない。
俺に教えられるのは『俺を虜にする方法』だけ。んでもってこっからは実践形式。大人だから、この意味分かるよな?
それでも、いいなら教えてやるよ。保証はしないけど、副産物で少しは『割り切りと覚悟』が身に付くかもな」
ケイの目は杏梨を掴んで放さない。杏梨は自身の心臓の音を聞きながら、その場に立ち尽くしていた。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる