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1章 幼き魂と賢者の杖

25 有能とはどういうことかDoYouKnow?

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 魔術師は賢者の杖を恍惚とした表情で見つめていた。
 もはや冒険者四人など眼中に無い様子だった。
 彼らでさえそうなのだ、僕のことなど完全に意識から消えている。

 そろそろ僕の相手をしてもらおう。

「王国で四面楚歌だった魔術師さん。
 こっちに来ても杖だけが心のよりどころですか?」

 魔術師の意識が僕に向く。

「誰にも賛同を得られない研究で、追い出されたんですよね。
 あなたは周りが無能だからとか考えているんでしょう。
 しかし根回しや人間関係を疎かにしたあなたの失策ですよね。」

 魔術師の表情がみるみる険しくなっていく。

「一つ予言してあげますよ。あなたは僕に負けます。
 無能さにふさわしい詰めの甘い末路ですね。」

 魔術師の表情が怒りに変わった。

「ガキが言うではないか。
 無能なら無能らしく口を閉じておればいい物を。
 賢者の石の材料だからと傷つけはすまいと思っておるのか?」

 僕の言葉に顔を真っ赤にする魔術師。
 おそらく王国でもちょっとしたことで激高するような性格だったのだろう。

「相手が無能だから理解できないというのは、ただの言い訳に過ぎません。
 理解させてこそ有能というものです。
 その点、あなたはどっちだったんでしょうね。
 王国で言われませんでした?
 あなたは無能だって。」

「ガキがぁこの儂に対して、減らず口を。」

 魔術師は僕に向かってきた。
 そして片手で僕の首を握る。

「ぐぅぅっ、ぐふ。」

 老人とは思えない凄まじい握力で僕の首を圧迫する。
 魔術師は怒りの中でも、僕が賢者の石の材料であることは忘れていない。
 その証拠に、魔法を撃ち込まれたりはしてない。
 計画通りだ。

 僕は首を絞められながらも、手を伸ばした。
 そして賢者の杖に触れる。

『僕も手伝うよ。』

 声が聞こえた気がした。
 初めて言葉を聞いた・・・しかしルディンだと確信した。

『私もいるよぉ~』

 え、誰?

 僕は賢者の杖の制御権を奪いにかかる。
 急速に賢者の杖とのリンクが確立していく。
 驚いた魔術師は制御権を守りにかかる。
 一瞬の間に激しい奪い合いが起こる。
 勝ったのは、僕と・・・ルディンだ!

 奇襲には成功したが、しかしまともにやり合えば再び制御権を取り返される。
 僕はすぐに賢者の杖を発動させる。
 僕の中の魔術回路構築用シェーダのバージョンが上がる。
 使用可能なレジスタ数、命令数、使用可能関数、変換ステージが凄まじい増加を起こす。
 広大な領域が展開される。
 時間は無い、得意魔法を打ち込むのみ。

 僕は賢者の杖とルディンの助けを借りて、魔術回路を急速構築していく。
 杖に力により異常に強力に編み込んだ魔法を発動する。

 「精神系魔法憤怒」

 魔術師に対して魔法が流れ込む。
 魔術師の目が血走る。

「うがぁぁ、クズガクズガクズガゴミクズガァ。
 無能無能無能ぉぉぉ。」

 魔術師が涎を流しながら叫び、凄まじい力で僕を突き飛ばす。
 僕は祭壇に激突する。
 杯が落ちて、賢者の石が床を転がる。
 賢者の杖はまだ魔術師の手の中にある。

「オノレオノレオノレ、ニクイ、コロシテヤル。
 儂を認めなかった彼奴等、邪魔をした冒険者、生意気な糞ガキ、馬鹿にした笑いを浮かべるあの魔族も。
 コロシテヤルゥゥゥ。」

 魔術師の魔力が急激に上昇していく。
 魔力が飽和しスパークする、完全に暴走状態だ。

 僕は冒険者の方を見る。
 既にカイデウスさんが魔術師に駆けだしていた。
 大剣を振り上げ、渾身の力で打ち下ろす。
 凄まじい光が発生する。
 横から槍の人の一撃がだめ押しで追加される。
 光はますます強くなる、それでも魔術師の魔力に押し返され、体には届かない。

「クソドモガァァァァ」

 魔術師からさらに凄まじい魔力が衝撃波となって周囲を巻き込む。
 二人とも数メートル後ろまで押し返されてしまったが、すぐに体制を整える。

 魔術師の目から涙のように血が流れ落ちる。
 魔力の暴走で魔導が焼き切れ始めている。
 首筋の血管が浮き出て今にも破裂しそうだ。

「ミンナ、ミンナ、ケシテヤル、グギャァァァ」

 魔術師の周りに黒い霧のようなものが現れる。
 そして黒から漆黒に変わる。
 周りの光、エネルギーを吸収している。
 これは、暴走大爆発パターン。

 おそらく魔術師はもう死ぬだろう、僕の勝ちだ。
 しかしあれを食らったら、たぶん助からない。
 人に詰めが甘いと言いつつ、自分の詰めが甘かった。
 絶体絶命となった。


 漆黒が辺りを巻き込み大きく膨らんだ。





 賢者の杖で魔法無双、微妙に失敗。
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