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4章 神の雷光と裏切りの花

77 遺跡は今回スルーする

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 僕は一人ぽつんと立っている。
 考えることが多かったので頭をリセットしたい。
 宿に帰る前に素振りでもしていこう。

 僕はお礼に貰ったボロい剣を抜いた。
 ボロい上に子供が持っても大きすぎない、つまり大人からすれば小さい剣だ。
 おそらく僕に合わせてそういう物を、倉庫にあった在庫品から選んできたのだろう。

 僕は無心に剣を振るう。
 そしてあることに気がついた。
 僕が放出する微妙な魔力を剣がフィードバックしてくる。
 もしかしてと思い魔導を接続してみる。
 リンク成功。

 この剣、マジックアイテムですよ?

 賢者の杖には及ばないながら、高レベルの魔術回路構築サポート機能が付いていた。
 師匠から貰った杖よりも高機能だ。
 しかも魔導リンクが剣全体に及んでいる。
 これなら剣の周囲に魔法を纏わせることが可能だ。
 つまりリプリアの使う魔法剣と同じことが出来る。

 僕は暴風の魔法を剣から発動させた。
 難なく成功。
 剣を振るうごとに大きな風を起こす。

 魔導力発動、身体能力が向上する。
 そして大きく剣を一閃、暴風が巻き起こる。
 魔法と魔導力の同時使用が可能になった。

「なんだこりゃ。」

 このボロ剣、すごい拾い物だ。
 いや貰い物か。
 これを選んだ人、本気だったのか偶然だったのか。
 たぶん適当に選んだだけだと思うけど、大当たりだった。

 色々と実験をしていたら、さすがに魔力切れを起こしそうになったので、切り上げて宿に戻った。
 そして次の日、村を出立(しゅったつ)した。

 その後の馬車での移動は、特に大きなイベントが発生することは無かった。
 エリッタもあの話が無かったかのように、いつも通りの態度だ。
 途中でボロ剣の話をしたら、リプリアが剣の稽古を付けてくれると申し出てくれた。
 するとエリッタも負けじと自分もやると言い出した。
 こうして僕は魔法剣の訓練を積むことになった。

 そして予定より三日遅れてフェイベル王国の町に到着した。
 あくまで経由地なので早々に次の目的地へ向かうことになる。
 フェイベル王国は雪がちらついていた。
 町にはまだ雪が積もっていなかったけれど、山の方ではそれなりの積雪になっているらしい。
 ちなみにフェイベル王国の神の遺跡は、山間(やまあい)にあるということだ。
 神の遺跡は現状ではスルーだ。

 町からさらに三日ほど馬車に揺られ、ついに帝国との国境へ到着する。
 国境には要塞のような帝国の砦が設置されており、簡単に通ることは出来ない。
 そう、簡単に通ることは出来ないはずなんだけど、メリクル神父が兵士に一言二言話しかけると、そのまま砦を通過してしまった。
 既に連絡が行っていたようなんだけど、もう少し調べたりしなくて良かったのだろうか?
 まあ、面倒なことにならなくて良かったけれど。

 帝国のエリッセン大聖堂はエンプティモという街にある。
 エンプティモ周辺はは母が攻め込んだ帝国首都トレンテからは大きく離れているので、現時点では魔族の侵攻の被害を受けていない。
 そもそも帝国はその領土が非常に大きい。
 そのため首都と周辺地域が戦場になったものの、地方都市は戦いに巻き込まれてはいないのだ。
 しかし全く影響を受けていないわけでは無い。
 魔族の侵攻を抑えるため、首都周辺の抗戦地域に向けて各地から兵や兵站を出している。
 そのため経済力や統治力が低下していることは否めない。 

 エンプティモまでさらに七日かかる予定だ。
 その途中でトルポップという小さな村に立ち寄った。

 帝国の人達の服装は配色が綺麗な民族衣装だ。
 ただ、身分によって使って良い色が決まっている。
 平民は黄色を使ってはいけない決まりのようだ。

 僕達が村に立ち寄ると、民宿を営んでいた若い夫婦が歓迎してくれた。
 奥さんは出産を控えているらしく、お腹が大きい。
 そんな状況でも機敏に動いていた。
 母は強しなのだろうか。
 村の民宿ではここ一番に美味しい料理をご馳走になった。

 食事が終わってほくほく顔で村を散歩していると、村人から声をかけられ、採れたての果物をご馳走になった。
 旅人にも優しい、いい人達ばかりの村だ。
 優しいのは国境の規制が厳しくなって、旅人が減ったというのもあるのかもしれない。
 それほど裕福そうでは無いけれど、こういうところで暮らしたいと思えるような場所だ。

 この日、特に何事も無くこの村で一泊することが出来た。






 魔法剣無双は出来るかな?
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