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私の願い
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そして今、もう一度「マメシバ」を飼うことで、何か、あのマメシバに気持ちを返したいと考えたのではないだろうか、なんてことを考えた。
そんな経緯で家に新しく、赤ちゃんのマメシバがやって来た。
はじめはもう大変だった。
おしっこやうんちをする場所もなかなか覚えてくれず、甘噛みも結構痛いのに、中々やめなかった。
しばらくは躾と、夜泣きと、お世話だけでも手いっぱいな日々だった。
新しくうちにやってきたこのマメシバは、今でもうちにいる。
もう成犬となり、昼間は良く眠っているし、夕方には元気に部屋を歩きまわり、お散歩はお庭だ。
ご飯の時間は父の横に「何かくれ」とばかりにピッタリと寄り添い、何か食べ物をちょっとでももらえることを期待する。
ツンとしているところもあるが、今でもたまに心細くなり凹んでしまいそうになる私を癒してくれる存在でもある。
私は、今でもあのコに会いたくなる。
そのたびに、側にいる今のマメシバを抱きしめる。
今日は、お昼まではいいお天気で。
ベランダで煙草を吸っていると太陽の光があったかくて、なんて良い日だろうって思ったのに。
ふと静かだなと気づいて、スマホで好きな歌を選び、流した頃には、煙草はフィルター近くまで灰になっていた。
なんだか、あの日も物凄く天気が良かったな、なんてことを、空を見ていたら思い出してしまう。
その一面に広がる水色に、一瞬胸がドキリとした。
一階で、うちで飼っている、二代目のマメシバが吠えているのが聞こえる。
宅配便の車でも来たのだろうか、とベランダから玄関の方へ身を乗り出して眺める。
私が東京で、ビルの上からコンクリートの地面へと向かってそうしたように。
避難中、少しの間共に暮らした青年のマンションのベランダからそうしたように。
でも、絶対に落ちることはないように、手すりをしっかりと握って。
犬の鳴き声の方を目で追うと、庭を駆け回って小鳥を追いかける愛しいうちのマメシバがいた。
なんだ、小鳥と遊んでいたのか、と思う。
そして、原発事故後、共に避難することのできなかった、あのマメシバのことを想った。
頭に浮かんだのは、一時帰宅の際に見つけた、道路で干からびていた犬の死骸だった。
ぺちゃんこで、もう骨と皮だけになった、ハエや蛆すらもわいていない状態のそのコは、赤くてボロボロの、千切れた鎖のついた首輪をしていた。
私、そのコを見て一瞬、同じコだったらどうしようって思ったの。
ウチのコだったら、どうしようって思ったの。
置いてきちゃって本当にごめんなさい。
ごめんなさい。
最後まで、一緒にいられなくてごめんなさい。
幼い頃から、庭に出れば私のこといつもあっためてくれた、穏やかで優しい、少し臆病な、イイコだった。
たくさんたくさん、ごめんね、って謝って生きて来た。
心の中で謝って、謝り続けて、何度だって声をかけて、名前を呼んで、元気でいてね、って願った。
もう、あれから11年だ。
きっととっくに死んでいるって、わかってる。
みんなが、色々なものを、大切なものを、あの地に残して着の身着のまま何も知らされずに突然避難することになったあの日。
きっと、すぐに戻れるものだと思って、言われるがままに避難をすることになったあの日。
その日おとずれた夜の、身を切るような寒さも、山の上の廃校から見た美しすぎる星空も、ぼんやりとして何も考えられなかった頭も、早く死んでしまいたいと願って生きた時間も。
東京で、私なりに必死に生きて来て、それでもダメで、結局は連れ戻されることとなった実家で、私は心の機能を回復する時間すら与えられず、今度は避けようのない震災、津波、事故、差別、偏見によって、今度こそ以前よりもさらにボロボロのがらんどうになってしまった私の心も。
必死で、生きた。
大好きだったよ。
今でも大好きだよ。
きっと私は生きていて、とても幸せだった。
どんなに苦しくて哀しくて虚しくて傷ついても。
同じくらい沢山、笑っても来た。
どうか、どうかお願い、あのコが死ぬその時に見た夢が、あたたかな家族と共に過ごす夢でありますように。
そんな経緯で家に新しく、赤ちゃんのマメシバがやって来た。
はじめはもう大変だった。
おしっこやうんちをする場所もなかなか覚えてくれず、甘噛みも結構痛いのに、中々やめなかった。
しばらくは躾と、夜泣きと、お世話だけでも手いっぱいな日々だった。
新しくうちにやってきたこのマメシバは、今でもうちにいる。
もう成犬となり、昼間は良く眠っているし、夕方には元気に部屋を歩きまわり、お散歩はお庭だ。
ご飯の時間は父の横に「何かくれ」とばかりにピッタリと寄り添い、何か食べ物をちょっとでももらえることを期待する。
ツンとしているところもあるが、今でもたまに心細くなり凹んでしまいそうになる私を癒してくれる存在でもある。
私は、今でもあのコに会いたくなる。
そのたびに、側にいる今のマメシバを抱きしめる。
今日は、お昼まではいいお天気で。
ベランダで煙草を吸っていると太陽の光があったかくて、なんて良い日だろうって思ったのに。
ふと静かだなと気づいて、スマホで好きな歌を選び、流した頃には、煙草はフィルター近くまで灰になっていた。
なんだか、あの日も物凄く天気が良かったな、なんてことを、空を見ていたら思い出してしまう。
その一面に広がる水色に、一瞬胸がドキリとした。
一階で、うちで飼っている、二代目のマメシバが吠えているのが聞こえる。
宅配便の車でも来たのだろうか、とベランダから玄関の方へ身を乗り出して眺める。
私が東京で、ビルの上からコンクリートの地面へと向かってそうしたように。
避難中、少しの間共に暮らした青年のマンションのベランダからそうしたように。
でも、絶対に落ちることはないように、手すりをしっかりと握って。
犬の鳴き声の方を目で追うと、庭を駆け回って小鳥を追いかける愛しいうちのマメシバがいた。
なんだ、小鳥と遊んでいたのか、と思う。
そして、原発事故後、共に避難することのできなかった、あのマメシバのことを想った。
頭に浮かんだのは、一時帰宅の際に見つけた、道路で干からびていた犬の死骸だった。
ぺちゃんこで、もう骨と皮だけになった、ハエや蛆すらもわいていない状態のそのコは、赤くてボロボロの、千切れた鎖のついた首輪をしていた。
私、そのコを見て一瞬、同じコだったらどうしようって思ったの。
ウチのコだったら、どうしようって思ったの。
置いてきちゃって本当にごめんなさい。
ごめんなさい。
最後まで、一緒にいられなくてごめんなさい。
幼い頃から、庭に出れば私のこといつもあっためてくれた、穏やかで優しい、少し臆病な、イイコだった。
たくさんたくさん、ごめんね、って謝って生きて来た。
心の中で謝って、謝り続けて、何度だって声をかけて、名前を呼んで、元気でいてね、って願った。
もう、あれから11年だ。
きっととっくに死んでいるって、わかってる。
みんなが、色々なものを、大切なものを、あの地に残して着の身着のまま何も知らされずに突然避難することになったあの日。
きっと、すぐに戻れるものだと思って、言われるがままに避難をすることになったあの日。
その日おとずれた夜の、身を切るような寒さも、山の上の廃校から見た美しすぎる星空も、ぼんやりとして何も考えられなかった頭も、早く死んでしまいたいと願って生きた時間も。
東京で、私なりに必死に生きて来て、それでもダメで、結局は連れ戻されることとなった実家で、私は心の機能を回復する時間すら与えられず、今度は避けようのない震災、津波、事故、差別、偏見によって、今度こそ以前よりもさらにボロボロのがらんどうになってしまった私の心も。
必死で、生きた。
大好きだったよ。
今でも大好きだよ。
きっと私は生きていて、とても幸せだった。
どんなに苦しくて哀しくて虚しくて傷ついても。
同じくらい沢山、笑っても来た。
どうか、どうかお願い、あのコが死ぬその時に見た夢が、あたたかな家族と共に過ごす夢でありますように。
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