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もう、会えないの
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飼い主とはぐれ、遠い町でひとりぼっちになった犬。
置き去りにされてしまった、マメシバ。
もしかしたら、こと切れていたのかもしれない、マメシバ。
本当は、生きていたのだとしたら、父が首輪を外して来たと言うなら。
その後、うちのマメシバは何を見ただろう?
どんな風になってしまった町を見ただろう?
人間が誰一人いない、避難する飼い主が時に連れて行くことが出来なかった動物たちしか残されていない町で。
崩れた家屋や、塀、凸凹に裂けた道路、津波がさらってしまった家たち、たくさんの死骸の転がる、そんな中をきっと年老いておぼつかない足取りでフラフラと彷徨って。
私たちを、探したのではないだろうか。
どんな想いで何を見て、私たちを探したのだろう?
それを考えるだけで私は涙が出る。
愛していたよ。
何があっても故郷の全てを。
失ってしまったから美化しているわけではない。
もう二度と立つことが出来ない場所だからこんなに恋しいわけじゃない。
本当に、心の底から愛していた。
せめて、と思い、ずいぶんと前に一時帰宅をした際に、マメシバの小屋の中に、作った千羽鶴を置いて来た。
たったそれくらいのことしか、私には出来なかった。
今、被災してから数年後、幾度か引っ越しをし、避難先を変え、やっと一つのところに家を建てて落ち着いて暮らすことが出来るようになった。
そしたら、父がある日マメシバの赤ちゃんを連れて帰って来たのだ。
そんな父を見て、なんだか故郷に置いてきたマメシバのことを思い出した。
父は「鎖と首輪を外して来た」「まだ生きていた」と言っていたけれど、やはり私たちが避難をしている間に、あのマメシバは寿命か、もしくは餓死か、病の悪化により、死んでしまっていたのではないだろうか?と。
そう、なんとなく思ったりする。
父は、マメシバが生きていたのだとしたら、必ず連れて戻ったと思うのだ。
どんな状態であろうとも、生きてさえいれば、連れて戻ったと思うのだ。
あれだけ可愛がっていたのだから。
見捨てたはずがないのだ。
だから、多分、置いてくると言う決断をしてしまったと言う言葉を告げることで、父は、私が哀しまないように、そう嘘をついてくれたのだと思う。
あの時は、責めたりして、ごめん、そういつか。
ちゃんと言いたい。
置き去りにされてしまった、マメシバ。
もしかしたら、こと切れていたのかもしれない、マメシバ。
本当は、生きていたのだとしたら、父が首輪を外して来たと言うなら。
その後、うちのマメシバは何を見ただろう?
どんな風になってしまった町を見ただろう?
人間が誰一人いない、避難する飼い主が時に連れて行くことが出来なかった動物たちしか残されていない町で。
崩れた家屋や、塀、凸凹に裂けた道路、津波がさらってしまった家たち、たくさんの死骸の転がる、そんな中をきっと年老いておぼつかない足取りでフラフラと彷徨って。
私たちを、探したのではないだろうか。
どんな想いで何を見て、私たちを探したのだろう?
それを考えるだけで私は涙が出る。
愛していたよ。
何があっても故郷の全てを。
失ってしまったから美化しているわけではない。
もう二度と立つことが出来ない場所だからこんなに恋しいわけじゃない。
本当に、心の底から愛していた。
せめて、と思い、ずいぶんと前に一時帰宅をした際に、マメシバの小屋の中に、作った千羽鶴を置いて来た。
たったそれくらいのことしか、私には出来なかった。
今、被災してから数年後、幾度か引っ越しをし、避難先を変え、やっと一つのところに家を建てて落ち着いて暮らすことが出来るようになった。
そしたら、父がある日マメシバの赤ちゃんを連れて帰って来たのだ。
そんな父を見て、なんだか故郷に置いてきたマメシバのことを思い出した。
父は「鎖と首輪を外して来た」「まだ生きていた」と言っていたけれど、やはり私たちが避難をしている間に、あのマメシバは寿命か、もしくは餓死か、病の悪化により、死んでしまっていたのではないだろうか?と。
そう、なんとなく思ったりする。
父は、マメシバが生きていたのだとしたら、必ず連れて戻ったと思うのだ。
どんな状態であろうとも、生きてさえいれば、連れて戻ったと思うのだ。
あれだけ可愛がっていたのだから。
見捨てたはずがないのだ。
だから、多分、置いてくると言う決断をしてしまったと言う言葉を告げることで、父は、私が哀しまないように、そう嘘をついてくれたのだと思う。
あの時は、責めたりして、ごめん、そういつか。
ちゃんと言いたい。
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