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第3章

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『この平和な世界は偽りだ。俺たち下級魔族達には全く平和とは程遠い』
『ああ、貴族共が暗躍する世界なんて壊してしまえばいいのだ』
『いつやる?』
『まだ時が早いのではないか?』
『どうせ、貴族たちは平和ボケして俺たちの行動を把握していないだろう。何時でも事を起こすことは出来る』


魔法陣の中に映し出された映像を見て私は口元に手をやった。
これは証拠になる映像だ。
これをお父様や国王様にお見せすればクーデターを防げる。


「よくやりました。オロバス。この映像をお父様達に御見せし、何とか防ぎいましょう」
「御意」


『チャリン、チャリン』


金色の鐘を鳴らし侍女を呼んだ。
すると直ぐにマロンが掛け付ける。
重い空気が流れていることを悟ったのか顔強張らせていた。

「マロン、お父様は今どちらに?」
「はい、書斎かと思われます」
「分かりました。マロン貴女も一緒に来て頂戴」
「はい。アレーレ様」

私はマロンとオロバスを連れてお父様の書斎へ向かった。
もう、アンドレ―様やターバリン様の婚儀の事はどうでもいい。
今はこの一大事をお父様にお伝えせねば。
私はそう思っていた。
お父様の書斎ある扉の前で立ち止まると深く深呼吸をして扉をノックした。


「どうぞ」
「お父様、夜分に失礼いたします」


そ~っとと扉を開くと書斎で仕事をしているお父様が居た。
傍にマロンとオロバスを連れている事を見ると持っていた羽ペンを置いて私を見つめていた。


「どうした、アレーレ。それにその二人はなんだね」
「お父様、まずはこれをご覧くださいまし。オロバス、さっきの映像を出して」
「御意」


オロバスは魔法陣を出して先程の映像をお父様に見せた。
するとお父様が急に強張った表情に変わり顎に手をやりながらきりっとした目元に変わる。
私はその場で腕を前に組んでお父様の事を見つめていた。


「これは本当の事か、オロバス」
「はい。間違いない事です」
「だとすれば一大事だ。急ぎ国王にこのことを伝えよう。其方たちも一緒に来てくれ。よいか?」
「はい。分かりました」

私たちは夜遅く馬車を走らせお城に向かった。
平和な世界と言うのは貴族だけ出会って民たちの不満は消えていない。
それは人間族でも、魔族でも、ましてエルフ族だって同じことだ。
円卓会議で交わされている平和なんて薄いガラスのようなものだ。
私は馬車に揺れながらそんなことを思っていた。


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