怪盗デュークとへっぽこ探偵

ひまたろう

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1章 怪盗デュークと至宝のアクアマリン

19.今からここを風俗店とする

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 喫茶店はいつもと違う異様な空気に包まれていた。カーテンも全て閉められ、明かりが灯される。まだ昼だというのに、ここに広がっているのは明らかに夜の怪しいお店だった。

 そして店内はまあまあ広いというのに、一つのソファを男二人が隣に座る。アルトさんは僕の腰に手を添わせ、優雅に水を飲んでいた。そう、水である。ここはただの喫茶店でしかない。

「さて、まず一杯目はワインにしましょうか。貴方も飲みやすいように白にしましょう」
「ここ喫茶店です。ワインなんておいてませんから」
「あるよ!!持っていきな!!」

 町子さんは僕たちの机に近づき、ワインを置いていった。なんで置いてあるんだ。飲む人誰もいないだろ。うちは夜はバーとかやってないんだけど。

 まあ、町子さんの秘蔵の奴とかだろう。アルトさんは受け取ったグラスに二人分注ぎ、乾杯の待ちをした。町子さんが否定しないならもうなんでもいいや。僕はグラスを持ち上げ、こつんと乾杯をした。ワインの味は、流石に専門の店ではないので悪くはないが特別美味しくもない味だ。

「オーナー、こちらのワインはおいくらですか?」
「500ゴールドだよ」
「分かりました、5割増しで750ゴールド払います。差額はすべて、僕の指名を受けている彼に」
「あいよ」
「ちょちょちょ」

 何の店だっけ?ここ。僕の本職は探偵で、ついでに喫茶店のアルバイトのはずなのに妙な路線を進んでいる。しかし誰も違和感を持ってくれない。

 アルトさんは酒豪なのか、さっさと飲み干す。僕はまだ1杯しかいっていないのに、簡単に飲み干した。僕に貢ぐために率先して消費しているのだろう。

「オーナー、シャンパン入れてください」
「ありませんから。ただの喫茶店にシャンパンはありませんから」
「あいよ」
「なんであるんですかシャンパン!?」

 町子さんは当たり前のように机の上にシャンパンを置いた。おかしいな、僕の知らない営業時間後に、実はここはバーとかやっているのだろうか。いやそんなわけはない。夜にお手洗い行く際にそんな光景を見た記憶がない。

「こちらのシャンパンはおいくつございますか?」
「15本はあるよ」
「ではシャンパンタワーをしましょうか」
「よし、グラスを用意するからね」

 町子さんは普段は使わない棚を開き、グラスを取り出しては一つ一つ拭いている。今この場に三人しかいないのだけれど、シャンパンをどうやって消費するんだ。

「あの、一体どうしてこんなにシャンパンを抱えて・・・?」
「べ、別にあんたが怪盗を捕縛したらお祝いに念のため保管しようとしてただなんて思ってないよ!」

 突然ツンデレを見せられた。町子さん、意外と僕のことを息子かなにかだと思ってくれてるんだよな。

「あの町子さん、僕も手伝います」
「あんたは接待をするんだよ!」

 追い返された。僕は渋々アルトさんの隣に戻る。さて、シャンパンタワーが出来るまで、今僕が出来ることをしよう。

「あの、聞きたいことがあるのですがいいでしょうか。ディアさんのことです」
「他の男の話ですか・・・。ふむ・・・」

 アルトさんは渋い顔をする。やはりディアさんのことは何かしら思うところがあるようだ。

「別に大した情報は持っていませんが、私もタダで教えるわけにはいきません。シアン君にも代償を払ってもらいます」
「私が許可をだすよ。今からハッスルタイムの解禁だ。・・・ああ、挿入は駄目だよ」
「完全に風俗になってるじゃないですか!!」

 町子さんはグラスを拭きおえ、タワーを作り上からシャンパンを注いだ。黄金の波が二段目三段目・・・とどんどん下に落ちていく。神秘的な光景に目を奪われそうになる一方、隣のアルトさんはじーっと僕を見ている。

「ではオーナーからも許可をいただいたので、おさわりさせていただきますね」
「え・・・?あ、あはは・・・」

 アルトさんは僕に体を寄せ、にじり寄る。頬も赤く染まり、息遣いも荒い。目の前に興奮している男性がいることに僕は縮みあがる。いやだ、こんなところで裸にされて自由に触られたくない!僕はとっさに目を瞑った。・・・・が、アルトさんは静かに僕の手を両手で包んだ。

「シアン君の手、荒れておらず綺麗ですね。けれど男性らしさもあってとても美しい」

 アルトさんは僕の手を握って、恍惚とした表情を浮かべる。そして僕の手を自分の顔に寄せ、楽しそうにしている。

「今ならシアンにタダで触り放題なのに、手だけでいいのかい?胸とかも自由に吸っていっていいんだよ?」
「町子さん。僕の体を安売りするのはやめてください。そもそも僕の体は売り物じゃないです」
「シアン君の心は穢れが無くて綺麗なのです。故に、それを大切に尊重したい。婚姻前にふしだら行為はしたくありません」

 今のアルトさんの発言を耳にした僕と町子さんは驚きのあまり目を開いて互いの顔を見る。そしてそのまま二人同時にシアンさんを見た。
 僕の頭の中に、今まで出会ったαが浮かぶ。

 処女厨。
 人の体を蹂躙する怪盗。
 難癖付けて襲ってくる助手。

 町子さんも似たようなことを思っているのか、アルトさんのことを凝視している。そしてふっと笑う。

「いいよ、使いな。ベッド。今日はもう閉店にするよ。あたしは街でメルたちの足止めしているから、存分に楽しみな」
「ちょっと町子さん!?」

 行ってしまった。どうするんだこのシャンパンタワー。すでにアルトさんがグラス六杯分飲み干してるけど。僕も協力するためにグラスを手に取る。シュワシュワしているけれどどういう原理なのだろう。あまりこういったものは飲んだことが無いから、その食感の不思議さにびっくりする。

「さて、大公殿についてでしたね。とはいっても、私も深くは知りません。何故なら彼は隣国の人ですから」
「以前呪いのアイテムがどうこうと言ってましたよね。もう一度お願いできますか?」

 アルトさんはグラスを仰ぎ、また飲み干す。そしてグラスを机に置いた。

「大公殿は代々呪いの品を保有しており、それを現当主のディアウィンド殿が手放しました。呪いの品は所持するだけで不幸が続くもので、彼の父も母も祖母も、呪いによって死に至ったとのことです」
「それを売却したんですよね?そんな危ないもの、普通は捨てるとかしませんか?」
「・・・私がこの情報を入手したのは、とある富豪のΩからです。そのΩは以前、怪盗から宝を奪われたという話をしていました。しかし、宝の入手の経路はかなり誤魔化して話をしていましたね。あれは後ろめたいことがある。例えば盗品を扱う闇オークションとか」

 警察上層部も似たような反応だったことを警部が言っていた。つまり、怪盗が盗んでいったお宝は、すべてルーツが一緒の可能性が高い。

 もし、仮に怪盗と大公が同一人物だった場合、一つのストーリーが出来る。呪いの品を処分しようとした大公は、しかし捨てる過程で誰かに盗まれた。一つ一つが相当な価値のあるものだ。捨てるなんて勿体ないと思った人物がへそくりしたのだろう。そして、呪いの品は非合法に売られていった。

 

 いや、この説は動機としては正解に近いだろうが、しかし腑に落ちない点も多い。
 どうして怪盗を名乗る必要があったのか。
 どうして予告状を送る必要があったのか。
 どうして僕を盗むという宣言をしたのか。

 この流れだと完全に僕の存在が呪い扱いじゃないか。
 失礼だな。
 本当に失礼だな!!

「なにか貴方の手助けになれましたでしょうか?」

 気が付いたらシャンパンはすべて空になっていた。僕の手元の机にも6杯分のグラスがあった。そのせいかちょっと頭がふらふらする。

「はい、重要な情報をありがとうございました!」

 残りは怪盗の正体のチェックメイトだけ。けれど、まずは親しい人を疑わなくていいように、弾く作業もしていこう。

「アルトさん、あなたの能力を聞いてもいいですか?」
「え!?」

 能力は誰にでもあるわけではない。が、不思議とαとΩが大半を占めているという。僕の直感ではアルトさんもなにかしら能力を持っていると思う。しかしアルトさんは動揺したように僕から視線を外した。元来能力というものは親しい人にしか話さないものであるため、ディアさんの時もそうだったが基本はこうやって動揺するものなのだ。

「・・・実は、貴方には一番知られたくないのです」
「え!」

 まさか、空間移動・・・?
 アルトさんは気まずそうに僕の方をちらちらと伺い、けれどやはり目を逸らす。本来であれば嫌がる人に対して追及はしないが、酒でいい気になっている僕はつい踏み込んでしまうのである。

「教えてくらさい、アルトさん」
「ちょ、シアン君近いです。あのですね、よく聞いてください。私の能力は魅了なのです。でも決して貴方を過度に洗脳するといった悪用したことはありませんから信じてください」
「魅了・・・?本当れすかぁ・・・?」
「シアン君は真偽見分けられますよね?私の発言は本当って分かりますよね!?」

 確かに嘘は言っていないものの、しかし彼は嘘が上手であるらしいため、簡単には鵜呑みにできない。僕はアルトさんに顔を近づけて観察するものの、しかしもっといろいろ調べたくなった。

「能力、僕に使ってみてくらさい」
「え?あの、その・・・このお店の貸し切りの際にオーナーに少しだけ使いましたので、それで証明になりませんか?」
「駄目れす!!」

 アルトさんの逃げ腰に、何故か僕は追い詰めたくなってきた。最近は殺人事件以外が多かったから、犯人を追い詰められていない、おそらくぶり返しというか反動が来たのだろう。

「でも、強制的に発情期になりますよ?いいんですか?」
「早くやってくらさい!!」

 アルトさんはやれやれと言った様子で目をつぶる。そして僕と目を合わせた。
 吸い込まれるような感覚に、僕の体温は急激に上がっていく。


 発情期が来てしまった。

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