誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

31.住居問題

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「マラカイ殿と暮らしているの?な、なんで?前に僕が一緒に暮らそうって提案したら拒否してきたのに・・・?」
「せんせ・・・?まさか、僕との同棲のために小僧のことを拒否したんですか・・・?好き、せんせー大好き!!」

 私に向かってぴょんと飛び上がり、熱烈な抱擁をするマラカイ。そんなマラカイを、アウレリウスは防護幕を敷くことで私に近づけないように跳ね除けた。

「ああ、でもそれも今日までかな。マラカイは魔塔主となった。するとあっちに籠る必要があるからな」
「え?先生?僕そんな話初耳ですよ?」
「魔塔主のしきたりだ。塔を魔塔主の魔力に染めるため、任命してからしばらくしたら2か月は拘束されるんだよ。するとあの家には私一人になる。正直私一人では危ないから、ここの寮に移ることにするよ」

 マラカイは茫然としている。

「僕は数日で魔塔主を降りる伝説の人間になります。先生、同級生になるマラカイをよろしくお願いします」
「悪いが、国防の観点から魔塔主の交代は回数を絞るために、最低3年の勤務は義務づけられている」
「いやです!いーやーでーすー!!嘘つき!紫紺の森で、僕が魔塔主になったらセックスさせてくれるって約束したのに反故にされるし!」

 喚くマラカイを、アウレリウスはゴミを見る眼差しを向ける。けれど、私には笑顔を向けてくれた。

「じゃあアリオンは明日から僕と寝泊まりするんだね!その・・・一応学生寮っていうことでそんなに大きなベッドじゃないけど、一個しかないからお互い抱きしめあいながら寝ることになるんだけど、そ、それでもいいかな・・・?」
「アバラの複数人部屋を使うか。一応あいつは勘はいいから、何かあったら気が付くだろ」
「アリオン?複数人部屋より僕の部屋の方が、はるかに安全だよ?」

 アウレリウスはもじもじと照れていたが、しかし私のアバラ発言に表情を変える。マラカイは怒りながら私に近寄ってきた。

「じゃあ先生は僕と一緒に魔塔に住めばいいじゃないですかー!?送り迎えは僕がしますから!!」
「マラカイ。お前はあまり貴族的な言い回しを好まないから知らないと思うが、私は普通にお前と暮らしたくはないから遠回しに断っているんだぞ。というか、自分の殺人現場で寝泊まりできるか」
「僕の何が不満なんですか!食事も用意して、先生の着替えも全部洗って皺も伸ばしていました!僕がいないと先生ずぼらだから、魔塔主時代もローブの皺とか気にせずうろついてたじゃないですか!!」

 痛いところを突かれた。確かに、家事はほぼこいつがやっていたな。

「アリオン、僕と同室になれば僕が全部やるよ!アリオンのここの髪の跳ねも、僕がちゃんと丁寧にブラッシングするから」
「所詮王族のボンボンが僕レベルの気遣いを出来るわけありませーん」
「そんなことないよ、僕はおはようからおやすみまでアリオンに尽くすから。アリオンが望むのなら、その、お、お着換えだって手伝うし・・・」
「先生、こんなよこしまな心を持つ変態小僧、僕ら大人の本気セックスを見せつけて分からせてあげましょう!!」

 互いに息を乱し、牽制し合う。何を部屋ごときでと言いたいところだが、この先私の正体が感づかれないとは限らない。その際にどうしても命にかかわることになってくる。

 とはいえ、アウレリウスと同室というのは安全である反面、無用な噂が立ちかねない。それを聞いてあのイヴリン嬢がアウレリウスを諦めでもしたら、私は立つ瀬がない。一人部屋と認識されている部屋に別人を住まわせるというのは、それくらい覚悟がいることなのだ。

「・・・分かった。ではこうしよう。アウレリウスの隣室に住むというのはどうだ?」
「うーん、まあ確かに空いてるけど、安全性を考えたらやっぱり僕の部屋の方が・・・」
「駄目だ。隣室でも十分だ。それだけあれば万が一の時は私は大人に戻れるし、お前たちの救援を呼べる」
「・・・分かったよ」
「まあ、せんせーは小僧と性的接触は自発的に避けてるようですし、信じてあげましょう。せんせ、僕は明日から籠って速攻で帰ってきますから、待っててくださいね」

 ということでアウレリウスとは別れ、私たちは家に戻る。

 私の訃報、そしてアウレリウスの暴走というように長い一日だった。

 マラカイとは本日が同居最終日だが特筆すべきことも無く、やがて翌日となる。

「いいですか、せんせー。僕は魔塔を燃やしてでもやめる覚悟があるんですからね。でもそれをすると先生の選んだ男が間違いだった、先生の目が間違っていたってことになるから、そのためだけに戻るんですからね」
「ああ」
「でも先生の評判を貶めても、先生が危険な時は絶対に帰りますから!!緊急信号を送ってくださいね!!小僧がベッドに侵入してきたときも送るんですよ!!」
「ああ」
「先生はすぐにご飯を抜きますから、絶対食べるんですよ!あと、服の皺もおろそかにしないように!あと・・・」
「お前は私の母親か!!!」

 マラカイは言いたいことを言うと、けれど離れたくないのか私にぴったりとくっつく。
 ・・・うざいことも気持ち悪いことも多かったが、そもそもこいつがいなければ私は復活直後に魔物に殺されていたろうし、証拠の回収も死亡時刻のずらしも学園潜入もできなかった。

 今の私は地位を追われ収入も途絶え、魔力も持たない。そんな男に尽くしたとて返ってくるものなどなにもないのに。私はマラカイの頭を撫でた。

「ありがとう、お前がいなければ私はもっと強引な復讐手段を取って取り返しのつかないことになっていたよ」
「・・・え?せんせ・・・?」

 マラカイは私の感謝の言葉を聞くと、カチコチに固まった。やがて頬がピンクに染まり、笑顔になる。

「せんせー!!僕も先生が大好きです!!先生、ちゅー!!」
「本当にこれさえなければお前には非の打ちどころがないんだけどな・・・」

 私を抱きしめ、名残惜しそうに匂いを嗅いでいく。けれど、その動きがぴたりと止まった。

「せんせ・・・。僕、勃っちゃいました・・・。朝からごめんなさい、先生の綺麗な細いその手で扱いてもらっていいですかぁ・・・?」
「じゃあ2か月後に会おうな」

 荷物運びは授業が終わり次第始めるか。どうせ明日明後日は休みだし。後ろでマラカイがなにか叫んでいるが、無視して私は学園に向かって歩き始めた。




「ええ、寮に移るぅ!?なんで、こんな時期にそれ言うんや!!俺の同室に別の奴入れてしまったやないか!!」
「あはは、ごめんね。急な話だったからさ」

 植物学の授業中で、私とアバラはペアを組んで魔法植物の収穫をしていた。ここはガラス張りの温室。収穫しているのは喋るニンジンで、こいつの喋りかけてくる質問に答えると、体が麻痺したりする。他の生徒たちが私語を謹んで慎重に抜いている中、私とアバラはさして気にすることもなく雑談をしていた。

「同室の奴、夜な夜などっか行って気持ち悪いからおチビの方が絶対にええわ~。今から交代できへんかなあ」
「ああ、ごめんね。一応生徒会メンバー御用達のところに入れてもらえることになったから、部屋交換は厳しいんだ」

 本当は学園の寮は身分別である。アウレリウスはあの後生徒会室へ戻り、こっそり寮の規則を「生徒会メンバーだったらOK」と書き換えてきたらしい。ということで私は無事にアウレリウスの隣室に入れることとなった。

 中間テストで満点を叩き出したお陰で生徒会入りも入寮の件も、私が平民にもかかわらず全く反発が無いらしい。伝統にこだわるこの学園だが、こだわるからこそ記録を塗り替えたというのは偉業なのだ。

 魔法ニンジンが私に「陰キャ童貞~」とバカにしてくるが、私は大人だぞ。そんなガキの悪口にいちいち反応するわけがないだろ。魔法ニンジンの口にスコップで土を沢山入れたら、渾身の力を振り絞って「恋人どころか友達いないくせに!!」と叫んできた。たわけ!いないんじゃなくて作らないだけだ!!交友関係を広げるだけ広げて、人間関係トラブルを作ってるたわけより数倍賢いわ!!

「じゃあおチビはこれから荷運びなんか~。奇遇やなぁ、俺もなんや」
「え?アバラはまだ終わってないの?入学してからどれだけ日が経ったと思ってるの?」
「それがな、俺は退学確定と思ってたから実家に帰るための引っ越し準備しとったんよ。で、配送の中間地点に結構荷物を送っててもうてなぁ。また荷運びせんとあかんねん」

 おかげで昨日はベッドの木の上で直接寝て待ったんやけどなあとアバラは笑いながら語る。

「でも、授業で学んだ浮遊魔法のおかげで次はもっと早く引っ越しできると思うから心配せんで!」
「・・・退学、免れてよかったね」
「うん、せやね」

 アバラが退学できたのは私の死のおかげ。私はあの訃報でせめて一人を助けられたのだからそれでいいと納得している。けれど、アバラは納得していない。彼の手元のニンジンは「オマエ退学寸前のあんぽんたんかー!?きゃっはは」と叫んでいるため、アバラはニンジンの顔を土に押し付けて黙らせる。

「ローゼルアリオン、あいつ、勝ち逃げやん。俺、なんも見返せんかったよ。悔しいなあ、俺はあの時守られたのに、礼すら言えとらんよ」

 もくもくと作業をしている周囲の面々が、こっそりと私たちの話を聞いていた。全員が全員私の死を喜んでいたわけではないのだろう。中にはあの誘拐事件を経て少し考えを改めた者も少なからずいる。

「そもそも紫紺の森を封鎖したのは前魔塔主やったんやろ?なら、いまだに見つからん聖女さんの件だって、前もって対策しようとしてたあの人には責任ないわけやん。俺は自分の目で見たことしか信じへんことにするから、ローゼルアリオンは英雄やって記憶する。あの時の魔法、あまりに凄すぎて何が起こったんか分からんかったけど、俺もいずれはああなりたいんや」
「・・・墓参りに行ってあげたら?アバラのその気持ちはきっと前魔塔主にも伝わるよ」
「せやな!指さして宣言したるわ!未来の大魔法士アバラ様参上ってな!!」

 手元のニンジンは一斉に「アバラ様ーッ笑」と叫びだすが、私もアバラも殴ってニンジンを黙らせた。

「ところでこれってどうやって使うん?」
「食用らしいよ。食べたら少し魔力が回復するんだって」
「え?食べるの?これ?」

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