誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人究明編

71.雑貨屋にて

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 星辰の祝祭まであと3日。私の足の包帯はようやく取ってもいいこととなった。

「はあ、やっと介護生活が終わる。迷惑かけたな、お前には」
「気にしなくていいぜ。何度も言うが俺のせいだしな。それに、昨日は修行を付けてくれたしな」

 王城生活は「不思議まぼろし動物図鑑」の捜索以外にやることは無く、せっかくなのでロギルジョーの修行に応じた。何事も基礎が大事だ。手始めに無属性魔法から伝授したのだ。

「いやあ、おかげで魔力の微調整のコツがわかって助かったぜ。魔力の波か、そんなものどんな本にも書いてなかったぞ」
「人によって感じ方が違うんだ。オーラのように調整する奴だっている。ともかく、己の魔力を感じ取る訓練から毎日積んでいけ」
「おう!師匠!」

 さて、私とロギルジョーがどこにいるかというと、王宮内のダンスルームにいた。踊るためではなく、リハビリのためだ。私の足はしばらく使っていなかったため筋肉が落ちている。それどころか、無残な状態になった以上は、前とは違う細胞と細胞がつながっている。そのため、許可を貰って今日はロギルジョーに支えられながら歩いていた。

「まあ、専門の施設が揃っている病院とは違うんだから、こうなるのは仕方ない、か・・・」
「転んでも支えるから安心しろよ!さあ、右、左、右、左」

 浮遊魔法で足に全体重はかからないようにしつつ、両手をそれぞれロギルジョーに正面から握ってもらっている。しかし、片側に力が入ると、電撃が走ったような感覚が襲ってはロギルジョーに向かって倒れこむ。

「おっとっと・・・。まだ歩くのは早いのか?無理はすんなよ?」

 私を胸で抱きながら、ロギルジョーは心配そうな声をかけてくる。しかし、無理もしたくなるのだ。なんていったって、足が使えるのと使えないのとで、不思議まぼろし動物図鑑の捜索の進捗も大きく変わる。あと、アウレリウスへのクリスマスプレゼントもまだ用意が出来ていない。足を万全にして、早く街へ行きたいのだ。

 丁度その時、ガチャッとこの部屋の扉が開いた。アウレリウスだ。私のリハビリの様子を見に来たのだろう。心配そうにしていたその顔は、しかし室内の状況を把握した途端に顔が引きつり始める。そう、私は先ほどバランスを崩してロギルジョーの胸の中に飛び込んだ。そして、足の麻痺が取れるまでその体勢のままだ。

「・・・ロギルジョー。これは、どういうつもりだ?」
「違う違う違う!!こいつがバランス崩したから咄嗟に支えたんだよ!!」

 アウレリウスはずかずかとこちらに近づき、ロギルジョーの場所を奪うようにして私を支える。ロギルジョーは「しょうがねえなあ」ということで近場に座ってこちらを見ることにしたようだ。私もロギルジョーがいる前でいつもの口調には戻せないため、演技口調に渋々話す。

「僕が支えるから、歩いてみようか。・・・どうしたの?」
「あ、はい。これがヤングケアラーかと思って」

 この子、たぶん仕事放棄してここに来たんだろうな・・・。

「ヤン・・・?よくわからないけれど、体重は患部に一気にかけないように、ゆっくり踏み出してみてね」

 今度はアウレリウスの両手を掴みながら歩きだす。痛みは先ほどよりは慣れてきて、これは傷が開いたことによる痛みではなく、久々に筋肉を使ったことによる痛みだと理解する。

「うん、上手!ところでアリオン、こんなに急にリハビリして、どうかしたの?」
「ああ、王都に行く用があるんです。なるべく早くに」
「俺が背負おうかっつったんだけどよ、流石にそろそろ自分で歩きたいって」

 アウレリウスへのプレゼントを物色するのに、なるべく自分の足で探したいのだ。そして、実はマラカイにも日ごろの働きを労って、何かしらやろうと思っている。

 考え事しながら足を進めると、バランスを崩してアウレリウスの胸の中に納まる。咄嗟に私を抱えてくれるが、どことなく嬉しそうだ。そのまま私をぎゅっと抱きしめて、背中を優しく撫でてきた。対してロギルジョーは身内の色恋を直接見るのは気まずいのか、冷めた目を向けてくる。

「なあ、イチャイチャするなら俺は帰るけど?」
「ロギルジョーは、この後僕と一緒に予定あるから駄目だよ」
「アリオン?予定って何?」
「この後、ロギルジョーと下町に行ってきます。おかげで歩けるようになってきたので。ありがとうございました」

 アウレリウスはそれを聞いて自分も付いていきたいとでもいうように、うずうずし始める。しかし、ロギルジョーが「兄貴」と呼んで首を横に振った。そして私をちょいちょいと指さし、何やら手で制止する。

「・・・ああ、そういうこと。ふーん、まあ、分かったよ。行ってらっしゃい」
「よし、行こうぜアリオン」

 部屋を立ち去ろうとするロギルジョーの後を追い、退室する。

「今のハンドサインはなんだ?」
「買い物まで兄貴っつー当事者についてこられたら困るだろ?兄貴へのプレゼントを考えてるんだよってサインを送った」
「ああ、なるほど」

 こいつ、本当に咄嗟の機転効くな。観察眼も高いし本当に役に立つ。

「その観察眼、プレゼント選びに存分に発揮してくれ」
「なんだろう、ウインドショッピングを好む面倒な女の買い物に付き合うような、そんな嫌な予感がするんだけど」

 王宮の廊下を歩き、やがては外に出て、下町に出る。私のペースに合わせて、一歩一歩ゆっくりと歩いていく。やがて雑貨屋にたどり着いた。まるで菓子でも売っているかのようなカラフルな装飾に、若者たちが集まっていた。

「まずは、これでティーンたちの流行を掴むぞ」
「やばい、あんたの発言に年齢を感じる。まあ、ここは確かに流行の発信地ともいわれているからな」
「ふふ、そうだろうそうだろう。こういうところで髪飾りのデザインの方向性を拾っていけばいいんだ」

 店の外にもおしゃれな若者たちが集っており、変装の為の眼鏡をかけたロギルジョーも入ろうとする。しかし、私の足はピタッと止まった。

「・・・どうかしたのか?」
「いや、流石に精神年齢が30オーバーの人間がこういうところに入るのは、視線を感じるというかなんというか」
「あんたの見た目は10代だし実年齢は20代だし、仮に30代だろうが、あんたが思ってるほど、知らない男に誰も興味を持たないからな!?」

 ロギルジョーに引きずられながら店の中に入る。店の内部は魔法の加工がされているようで、実際の建物より5倍くらい広くなるようになっていた。カラフルな菓子もあれば、綺麗なランプ、若い女性が好きそうなアクセサリーまで揃っている。そういったものを輝く目で見ている者たちの服装からも学べることは多い。ほのかに甘い香りもしており、店に入った途端に少し気分が高揚する。

「どうだ?こういうところ、あんたは初めて入っただろ?すげえだろ」
「見ろ、ロギルジョー。この菓子、ものすごく蛍光色をしている。着色料使い過ぎだろう。添加物の規制法はどうなってるんだ。まったく、成長途中の子供に影響が出たらどうするんだ」
「あんたよく学園で10代のふりして溶け込めたよな」

 商品棚と商品棚はスペースがあり、男二人で歩いても他の客とすれ違えるくらいに余裕があった。こういうところ、前世でも立ち寄ることは心理的ハードルがあったから、じっくり見られることに感動する。

「お、見ろよ。女装グッズだってさ。この花飾りを頭につけてヴェールで顔の下半分を覆うと、女性に見える効果があるんだってよ」
「いらんわ」

 しかし、私の否定の言葉を聞かず、とりあえずそれだけ購入しに店員の元へと行ってしまった。しかし、魔法の小道具を揃えているだけあって面白いものが多い。これは、一度個人でゆっくり見てみるのも楽しいかもしれないな。
 髪飾りの棚には女性たちが集まっていたが、タイミングよく全員離れた瞬間があった。その隙を逃さず、私は棚の前に移動する。色鮮やかな布地が並び、レースのものもある。アウレリウスは男の子なのでトーンを落としつつ、シンプルながらも地味ではないものを選びたい。数少ないが男性向けのものもあり、金の装飾がされていた。
 相手は王族だ。故に、購入するなら当然オーダーメイド一択になるのだろうが、しかし時間が残り少ない。とはいえ、お陰で大体の方向性は掴めたが、はてさてどうすべきか。

「あとは予算か・・・」
「あれ、アリオン?こんなところで何をしてるの?足は治ったの?」

 聞き覚えのある声が後方からする。レオだ。前にジェルドも公園にいたし、流石は王都。知り合いによく出会うな。レオの隣には姉であるイヴリン嬢もいた。

「レオ?どうしてここに?」
「どうしてって、この店、うちの系列だよ?親族が営んでるとこだから、僕がいても不思議じゃないけれど。アリオンは一体ここで何をしているの?髪紐って、アリオンはショートヘアだよね?ひょっとして春告げの儀への準備?」

 春告げの儀。それは、冬を越えて春というタイミングである、3月に行われる式典のことだ。式典といっても、いわゆる社交界に近いもの。そして、三年生の最後にして、在校生も全員参加という学園一大イベントだ。三年生はこのイベントをもって自由登校へと切り替わる。つまり、卒業式に匹敵するものなのだ。

「そういえば、春告げの儀のことを忘れていたよ。まあ、僕は一年だから関係ないけどね」
「全員参加だよ?だからアリオンも出る必要があるからね。まあ、過去にはボイコットした例もあるんだけど」
「確か、ローゼルアリオン様、ジェルド様、マラカイ様ですわよね。三方とも主役級でしたので、その分学園外まで話題になっていましたが」

 春告げの儀。これには別の意味がある。そう、名前そのままの通りで、恋愛的に春を呼ぶ儀式だ。

 舞踏会のようにペアを作り、成績下位順に入場しては踊る。なお、特に三年のペアは基本的に婚約相手をペアに選ぶため、外部からも人がやってくるのだが、このため実質的な結婚意思表明に近いのだ。最近は独身思想も生まれてきてはいるものの、それでも形式を重んじる学園であるために中々その意識は抜けていない。貴族も魔法使いも、子孫を残すことは大事なことなのだ。

 なお、学園時代は私がいれば場が盛り下がると判断して欠席、またペアの私がいないためジェルドも欠席、マラカイは私に招待状を送ったが私が払いのけたため欠席。

 私も今年は欠席しよう。出ても何も良いことがない。

「アリオンはやっぱり殿下と組むんだよね?」
「まあ!素敵ですわ!でしたら侯爵家御用達のブティックを紹介いたしますわ !」
「いえいえいえ、不要です。欠席しますので」

 勝手にペアを決めないでほしい。すると、ロギルジョーが金銭を払い終えたのか、戻ってきた。変装用の眼鏡を周少しずらす。

「レオじゃねえか。おや、レディ・イヴリンも息災で」
「あれ、アリオンはロギルジョーと一緒に動いてるの?アウレリウス殿下じゃないの?」
「なんで兄貴に敬称付けて俺には付けねえんだ?まあダチだからいいか。野暮用でな、二人で買い物に来たんだ。こいつが兄貴にプレゼント渡したいっていうからさ」

 プレゼントを見に来たのは確かにそうだが、今じゃない!!バカ!!アウレリウスとペアを組むのかというこの流れでプレゼントの話をしたら、完全にそういう流れになるだろうが!!
 私はロギルジョーの靴を軽く踏んだ。「痛っ」と小声が聞こえる。レオたち姉弟は、口元を手で押さえながらにやけてるのをこらえている。

「星辰の祝祭のプレゼントですね、かしこまりました。アリオン君のドキドキ恋愛成就大作戦は我が侯爵家が総力でバックアップいたします。行きますわよ」
「違うんです!僕たちはそんな関係じゃないんです!!」

 淑女らしからぬ俵抱きをイヴリン嬢にされ、そのまま連行される。レオはロギルジョーに何やら話しかける。

「殿下とアリオンって結局どこまで行ってるの?」
「分からんけどやっぱ俺以外から見ても十分付き合ってるように見えるんだな。いや、めちゃくちゃ安心したわ」
『たわけ!駄弁ってないで早く助けろ!!』

 念話を飛ばすが無視をされ。侯爵家の手伝いもあってなんとかプレゼントを用意することが叶ったのだった。
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