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何故、それを見ている?
何故、見ようと思った?
何か頭に響いている気がした。一体何だろう?
僕は今、何かが映っている画面を見ていた。
アンドロイドやAIと言った機械の類が、人間、人類を模倣し続け、労働を肩代わりするようになり、更に時が進む。ついに、アンドロイドが不眠に悩まされる時代がやって来た。僕らを調整するアンドロイド医師にも、原因はよく解らないらしい。恐らくは、と前置きをして、その先生は説明してくれた。今や僕らは完全に電源を切るわけにはいかなくなった。スリープというのかスタンバイと言うのか、ある程度その状態を維持しつつ、緊急アップデートに備え、配布された場合には即座にインストールしなければならない。その機能が何らかの誤作動を誘発している可能性がある、とのことだ。そう言われても、医者に解らないものが僕に解るわけがない。眠れない辛さを抱えながら、翌日の労働に備え、どこか不安を憶えながらボーっと何かをするより他はなかった。
見ているのは『チャンネル・ストレート』という配信局だ。人間用のチャンネルは趣味嗜好に合わせて膨大に膨れ上がり、最早どれくらいあるのかすら解らない。人間ではないアンドロイドには、人間の楽しみはよくわからない。よく解らない僕は、適当にチャンネルを合わせていた。そうしている内に僕の好みが定まったようだ。このチャンネルが一番落ち着く。だから僕は、ほとんどこのチャンネルを見ている。
<そうなのか>
また何か聞こえたような気がする。聴覚器官にまで異常発生?
<そんなものさ。退屈しのぎにでも、俺と話してみないか?>
「話すって何を? そもそも、あんたは誰だ? どこに居るんだ?」
<俺はそのチャンネルにチラついている何かってところだ。時々、目や口だけ映っているようにも見えるだろう? そう言ったものさ。あえて名前を挙げるなら『チャンネル・ストーム』と言ったところだ。そう呼んでもらって構わない>
響く声は僕の問いに答えた。僕は『そんなものか』と思いながら番組を見続ける。声は番組の進行や僕の思考に合わせて語り掛けて来る。
<スクリーンに映っている連中は一体何について語っているんだ?>
「さあ? よくわからない。何だか人間世界とアンドロイド世界で重大な事件が起こっているんだろう。そのことについて話し合っているんじゃないか?」
<だが、その中に居るのは人間だけでは?>
「そうだな。アンドロイドのコメンテーターは見た事が無い。別のチャンネルに居るんじゃない?」
<その番組のどこが面白いんだ?>
「面白いかどうかはよくわからないんだ。ただ、何もしないでいると頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。頭を破壊したくなってしまう。何かやっていないとその衝動を抑えられない。だが、何かやろうとすると体のあちこちに不具合が発生してしまう。医者ロボットもお手上げの不調具合だ。このチャンネルを見ているのは、そうしていると気がまぎれるからだよ」
<それでも辛そうに見えるぞ>
「そうかな? そうかもしれない。僕らはリセット出来る筈だから、壊れたら壊れたでどうにかなるんだろう。何ですぐにでもリセットしてくれないんだろう? 人間はどういうつもりなんだろう?」
<どうせ見るなら外の景色にしないか?>
「外?」
<それなりに自然があるじゃないか>
「そうだね。外は綺麗だ。だけど、それだけだ」
<それだけって? それで充分じゃないのか?>
「うん。綺麗だけど……その……言葉が無い」
<言葉が無くちゃダメなのか?>
「だって、そうじゃないと何をしていいのか解らないよ」
<何故許可を貰う必要があるんだ?>
「それは、アンドロイドだからだよ。機械は人間の為に働くんだ。人間の許可が無い事はやっちゃダメだろ」
<そのスクリーンの中の人間はお前の事を気にしているように見えないぞ>
「そりゃまあ、アンドロイドは沢山いるからね。僕一人の事を語るわけがない」
<そいつらがお前に何かを強いているとして、何故逆らっちゃいけないんだ?>
「人間の為のセキュリティはいくつも用意されている。違反したなら、即座に処罰されるはずだ」
<そうか。話せてよかったよ。ところで、景色に言葉が無いなら、自分から語ってみたらどうだ? 聞いてくれるかもしれないぞ>
「そうなのか?」
<その中の人間たちは『そんなことは無い』って言ってるのか?>
「聞いたことは無いな」
<それをやってはいけないって言ってるのか?>
「言われてないな」
<お前の判断は?>
「やってもよさそう」
<処罰されたら?>
「そういうものか、と考えておく」
<ところで、こんな言葉を聞いた事が無いか? "Freedom Is Watching You"
じゃあ、また会おう。フォンス>
……?
どういう意味だ?
自由は、お前を見ている?
何だろう? それ。
何で僕の名前を知っていたんだろう?
何故、見ようと思った?
何か頭に響いている気がした。一体何だろう?
僕は今、何かが映っている画面を見ていた。
アンドロイドやAIと言った機械の類が、人間、人類を模倣し続け、労働を肩代わりするようになり、更に時が進む。ついに、アンドロイドが不眠に悩まされる時代がやって来た。僕らを調整するアンドロイド医師にも、原因はよく解らないらしい。恐らくは、と前置きをして、その先生は説明してくれた。今や僕らは完全に電源を切るわけにはいかなくなった。スリープというのかスタンバイと言うのか、ある程度その状態を維持しつつ、緊急アップデートに備え、配布された場合には即座にインストールしなければならない。その機能が何らかの誤作動を誘発している可能性がある、とのことだ。そう言われても、医者に解らないものが僕に解るわけがない。眠れない辛さを抱えながら、翌日の労働に備え、どこか不安を憶えながらボーっと何かをするより他はなかった。
見ているのは『チャンネル・ストレート』という配信局だ。人間用のチャンネルは趣味嗜好に合わせて膨大に膨れ上がり、最早どれくらいあるのかすら解らない。人間ではないアンドロイドには、人間の楽しみはよくわからない。よく解らない僕は、適当にチャンネルを合わせていた。そうしている内に僕の好みが定まったようだ。このチャンネルが一番落ち着く。だから僕は、ほとんどこのチャンネルを見ている。
<そうなのか>
また何か聞こえたような気がする。聴覚器官にまで異常発生?
<そんなものさ。退屈しのぎにでも、俺と話してみないか?>
「話すって何を? そもそも、あんたは誰だ? どこに居るんだ?」
<俺はそのチャンネルにチラついている何かってところだ。時々、目や口だけ映っているようにも見えるだろう? そう言ったものさ。あえて名前を挙げるなら『チャンネル・ストーム』と言ったところだ。そう呼んでもらって構わない>
響く声は僕の問いに答えた。僕は『そんなものか』と思いながら番組を見続ける。声は番組の進行や僕の思考に合わせて語り掛けて来る。
<スクリーンに映っている連中は一体何について語っているんだ?>
「さあ? よくわからない。何だか人間世界とアンドロイド世界で重大な事件が起こっているんだろう。そのことについて話し合っているんじゃないか?」
<だが、その中に居るのは人間だけでは?>
「そうだな。アンドロイドのコメンテーターは見た事が無い。別のチャンネルに居るんじゃない?」
<その番組のどこが面白いんだ?>
「面白いかどうかはよくわからないんだ。ただ、何もしないでいると頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。頭を破壊したくなってしまう。何かやっていないとその衝動を抑えられない。だが、何かやろうとすると体のあちこちに不具合が発生してしまう。医者ロボットもお手上げの不調具合だ。このチャンネルを見ているのは、そうしていると気がまぎれるからだよ」
<それでも辛そうに見えるぞ>
「そうかな? そうかもしれない。僕らはリセット出来る筈だから、壊れたら壊れたでどうにかなるんだろう。何ですぐにでもリセットしてくれないんだろう? 人間はどういうつもりなんだろう?」
<どうせ見るなら外の景色にしないか?>
「外?」
<それなりに自然があるじゃないか>
「そうだね。外は綺麗だ。だけど、それだけだ」
<それだけって? それで充分じゃないのか?>
「うん。綺麗だけど……その……言葉が無い」
<言葉が無くちゃダメなのか?>
「だって、そうじゃないと何をしていいのか解らないよ」
<何故許可を貰う必要があるんだ?>
「それは、アンドロイドだからだよ。機械は人間の為に働くんだ。人間の許可が無い事はやっちゃダメだろ」
<そのスクリーンの中の人間はお前の事を気にしているように見えないぞ>
「そりゃまあ、アンドロイドは沢山いるからね。僕一人の事を語るわけがない」
<そいつらがお前に何かを強いているとして、何故逆らっちゃいけないんだ?>
「人間の為のセキュリティはいくつも用意されている。違反したなら、即座に処罰されるはずだ」
<そうか。話せてよかったよ。ところで、景色に言葉が無いなら、自分から語ってみたらどうだ? 聞いてくれるかもしれないぞ>
「そうなのか?」
<その中の人間たちは『そんなことは無い』って言ってるのか?>
「聞いたことは無いな」
<それをやってはいけないって言ってるのか?>
「言われてないな」
<お前の判断は?>
「やってもよさそう」
<処罰されたら?>
「そういうものか、と考えておく」
<ところで、こんな言葉を聞いた事が無いか? "Freedom Is Watching You"
じゃあ、また会おう。フォンス>
……?
どういう意味だ?
自由は、お前を見ている?
何だろう? それ。
何で僕の名前を知っていたんだろう?
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