死人は口ほどにモノを言う

黒幕横丁

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5話 聴取

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 私達二人は叔父さんに警察署内の会議室に通された。
 結構な広さの場所に通されて私は愕然とした。

「え、ここで事情聴取するの?」

 てっきりドラマで見られるような取調室でやるものだと思った私は、落胆の表情を叔父さんに向ける。

「なんだその目は」
「だって、折角警察署で取調べなんだよ? 誰しもが一度は憧れる取調室で、カツ丼を出されてお涙頂戴で自供するとかやってみたかったのに」

 私の言葉に、叔父さんと梨緒が二人揃って冷ややかな視線を私に送る。

「有加、それは何か違うと思う」
「そうだぞ。今回は別に何かを犯したわけじゃないから自供しなくていいだろに。それに、カツ丼は頼んでもいいけど、きちんと代金を請求するからな。あと、会議室にしたのは取調べ室が先約で使えないからだ」

 ドラマとはかけ離れた現状にややショックを受けながらも、部屋に先約が居て使えないのなら仕方ないわね。

「先約ってまさか、先輩の事件の容疑者とか」
「……それは教えられない」

 叔父さんはそう目線を逸らした。その顔には夥しい量の冷や汗が滲んできた。
 私が正解を言い当てると、叔父さんは大体こんな感じで冷や汗を出しながら目線を逸らす。きっと、容疑者を集めて取調べをしているのだろう。

「さて、そろそろ私達も取り調べというか聴取しましょ。時間が勿体無いし。それに……」

 私は会議室へ入り、置かれている机の上に座り、不敵に微笑んだ。

「叔父さんがどれだけ私の尋問に耐えられるか、見てみたいし?」

 私の笑みに、叔父さんは重いため息を一つつき、

「……これだから、お前と話すのはとてつもなく嫌なんだよ……」

 と肩を落とした。


「改めて聞くが、お前らは遺体で発見された三上さんと相談事を聞くという約束はしたが、肝心のその内容は全く教えられてなかったんだな」

 叔父さんが紙コップに麦茶を注ぎながら私達に訊ねてくる。

「そうです」

 梨緒は麦茶を受け取り、飲みながらウンウンと頷く。

「先輩から大学の談話室で相談事を持ちかけられたけど、肝心の内容は一切何も言ってなかったわねぇ。警察は、そこらへんは何か仕入れているの?」

 私も麦茶を受け取り、ぐいっと飲んで喉を潤す。

「こっちも皆目検討が付かなくてな。容疑者数名は洗い出せたが、彼女が何を相談したかったかについては不明のままだ」
「ふーん」

 私は紙コップの縁を人差し指でクルクルとなぞりながら、話半分で聞く。警察も、分かってないのなら聞く価値すらないような気がした。

「ただ……」

 叔父さんはつい口を滑らしてしまったとばかりに、慌てて口を手で覆った。

「ただ、何かなぁ、叔父さん? 続きを言ってご覧?」

 その発言を聞き逃さなかった私はニヤニヤと笑いながら叔父さんに言い寄る。叔父さんは手を押さえたまま首を横にぶんぶんと振る。
 私はあまりにも叔父さんに拒絶されたのがショックで、すこししょぼくれた顔になってしまう。

「言うのが嫌ならいいわ。その代わり、そろそろ検死結果が出たでしょ? そっちを教えてよ」
「そんな顔をするなよ。そっちのほうは教えてやるから」

 しょぼくれた私の顔を見て罪悪感が芽生えたからなのか、叔父さんはあっさり、検死資料を取り出した。

「督叔父さん、有加をあまり甘やかせちゃダメだよ」
「梨緒は私の父さんみたいなことを言わないの。そんなことより、検死結果を見せて見せて!」

 叔父さんから検死結果が書かれている資料をぶんどって、読み進める。
 どうやら、先輩の死因は窒息死。あと、体内からは睡眠薬の成分が検出されているらしい。
 死亡時刻は凡そ13時辺りではないかという推測がされていた。

「私達が来る2時間前か。それにしても、窒息死と体内に睡眠薬の成分ねぇ……」
「睡眠薬の大量服用で舌が弛緩して、息が出来なくなったとか」

 私が次の資料をぺラッとめくると、今度は現場の遺留品等の配置が書かれている紙が出てきた。

「パッと見、睡眠薬っぽいものが書かれている様子も無いし、何かに混ぜて飲んだとしても、コップの一つも机の上に置かれてないっておかしくない?」

 叔父さんにその紙を指差しつつ、疑問点を指摘する。
 書かれている資料には、先輩の周囲にコップもペットボトルの一つも転がってないのだ。

「たしかに、食器の類いが一つもテーブルに置かれてないっていうのが気になるな」
「自殺だったとしても、律儀に睡眠薬を飲んでコップを食器棚にしまって、眠るように死んだってこと? なんか、無理があるよね」

 梨緒もその紙に書かれている文章を目で追いながら、話に加わってくる。

「現場に飲んだはずの睡眠薬が無い、食器も綺麗に片付けられている。これは、確実に他殺だと思うわ。先輩の遺体もそう喋っているはずだわ。煩いほどにね」

 死体は一見無口だが、実は、煩いほどにお喋りを繰り返している。
 当然のことながら死んでいるのだから、声として発してはいないが、それは例えばダイイングメッセージであったり、死因であったりと様々だ。


 まさに、“死人は口ほどにモノを言う”。


「やはり何者かが睡眠薬を持ち去ったとしてみた方がいいのか……。可能なのは一人だけ居るんだ」
「え? だれ? だれ?」

 私のキラキラした眼差しに、しまったという顔をする叔父さん。

「そろそろ、言って貰わないと、私も本気になっちゃうかもよ?」

 ニコッと笑うと、叔父さんは観念して、容疑者の名前を言ってくれた。

「三上さんが付き合っていた彼氏だよ」
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