神暴き

黒幕横丁

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漆日目その4

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 心臓を一撃で貫かれ、弐沙はその場へ倒れこむ。



 ……ことは無く、弐沙は刀で貫かれたまま笑っている怜を睨む。
「本当に……いい加減にしろ、怜」
「あぁ、君はなんて素晴らしいんだ弐沙!」
 血を吐き、ゼーゼーと息をしている弐沙を見て、怜は高笑いをする。
 その一瞬の隙を突いて、弐沙は怜の口を手で押さえ込んだ。
 すると怜の動きがピタッと止まった。
「……落ち着いたか?」
「……うん。口の中が甘いや」
 弐沙は怜の口を押さえ、口の中にキャラメルを放り込んだのだ。


 怜は体内に甘味が摂取されて、正気に戻ったのだ。


「あーあ、やり過ぎちゃったねー」
 怜はいつも通りの口調で、弐沙を貫いていた刀を思いっきり引き抜く。
 刀を振ると、弐沙の血で木の幹に赤い花が咲いた。
 支えをなくした弐沙はその場へと崩れ、倒れこんだ。
「全くだ。お前のお陰で更にボロボロになってしまったじゃないか。どうしてくれる」
 弐沙は、はぁはぁと息をするが、胸部を貫かれているため、時折空気がそこから漏れていた。
「俺が今から弐沙を担いで戻ろうか?」
「いや、少し休めば楽になる。それに今戻ったら逆に人目に付きやすい」
「あー、確かに」
 怜は弐沙の言葉に納得して笑った。
「疲れた。ここで休む」
「はーい。弐沙が寝ている間は見張っとくから安心して寝ててねー」
「……一番安心できないのがお前なのだが」
 弐沙はじっと怜を見つめた後、目を閉じて、眠りに入った。



 次に気が付いた時、弐沙が聴いたのは遠くで鳴くカラスの鳴き声だった。
 目を開けると、空は茜色に染まりつつあった。
「あ、弐沙、おっはよー」
 むくりと起き上がると、怜は弐沙に挨拶を交わした。
「今何時だ?」
「六時頃だよー。随分と良く寝てたねぇ。調子はどうだい?」
「それが心臓を一突きした奴の言う台詞か」
 弐沙はため息をつきながら、立ち上がって屈伸運動をする。

 弐沙の全身は血で真っ赤に染まってはいるが、殆ど流血は止まっていた。

「まぁまぁ“回復”はしつつあるな。さて、もうじき夜になる。そろそろ戻るとするか」
「そっだねー。結局、あの白い奴の正体は掴めないままかー」
 怜はつまらなそうに腕を上げて伸びをする。
「アレだけの体力の持ち主だと、そういうことに従事していた可能性も考えられるな」
「また戦ってみたいなぁー」
「やめろ。お前は私を“何回殺せば”気が済むんだ」
 呆れ果てた顔で弐沙は雑木林を抜けた。
 夕方だったので外へ出歩いている人間は全くおらず、村はしんと静まり返っていた。
「六日目にもなると、人がだんだん少なくなっているから凄く静かだねー」
「……そうだな。ゴホッ」
 弐沙は口を手で押さえて咳を一つ。
 手を離すと、掌には鮮血が広がっていた。
「随分と深く突き刺したものだな」
 弐沙がチラリと怜をみると、ごめんごめんと軽そうに謝ってくる。
「いやぁ、スイッチ入っちゃうと手加減が出来なくてー。今、俺を止められるのって弐沙くらいしかいないよー。本当に」
「私と出会う前の“あの頃”はどうだったんだ?」
「えー、どうだったかなぁ? 昔のことなんて忘れたよー」
 あははーと怜が笑っていると、
「お前ら、一体どうしたんだ」
 広場の前で高田と鉢合わせをする。高田は弐沙が血まみれで歩いているのに驚いて、口に咥えていた煙草を地面へと落としてしまう。
「お前さん、全身血だら……もごっ」
 高田が叫ぼうとした途端、弐沙が高田の口を塞いだ。
「叫ぶな。さらに人が来たらどうする。私の拠点で事情は話す」
 そう言って、高田の口は塞いだまま、弐沙は自分の拠点へと高田を連れて行く。
 引き戸を開けて、高田を中へと案内する。
「これ以上騒ぎになったら大変だからな」
 弐沙は拠点へと戻ると血まみれになった服を床へと脱ぎ捨てる。
 弐沙の体は血が変色して真っ黒に染まり、生々しい傷たちが無数にあった。
「えらい、ズタボロにされたものだなぁ」
 高田は弐沙の体を上下嘗め回すように見て、思った感想を述べた。
「八割くらいはコイツの仕業だけどな」
 弐沙は顎で怜を指すと、怜は照れ笑いをする。
「いやはや、照れますなぁー」
「……全く褒めていない」
「今朝、柏木と思われる死体が発見され村長に回収された後、私は拠点へ戻ろうとした。しかし、背後からつけられているような気配を察知して雑木林まで誘き寄せたら、案の定、昨日怜を襲った白い奴だった訳だ」
 高田に事のあらましを説明すると、高田はほう、それで?と話の続きを催促する。
「そして、雑木林でもみ合いになったわけなのだが、奴は軍刀を取り出してきてな」
「これが、ソレだよー」
 怜は血がべっとりと付いた軍刀を高田に見せる。
「うわー、こりゃ、真っ赤になってるじゃねぇか。その白い奴にそれだけやられたってことか?」
「いや、さっきも言ったが軍刀を血で真っ赤にした犯人は怜だ」
 弐沙の説明に目をきょとんとする高田。
「ん? それはどういうことだ?」
「話の続きからするぞ。軍刀を持っていた白い奴を私は必死にかわしながら逃げていたのだが、避けるのに必死で雑木林に罠が仕掛けられていたのを失念していて、トラバサミに足を挟まれ、白い奴にトドメを刺されそうになったところを、怜が飛んできて白い奴は逃げ出した」
「じゃあ、付着している血はその白い奴のものか?」
「いや、私のだ」
「……は? イマイチ展開が読めないのだが」
「その後、ちょっと兄弟喧嘩しちゃったんだよ。ねー、弐沙」
 怜は笑いながら弐沙に同意を求める。
「いやいや、兄弟喧嘩でそんなに血まみれのズタボロになる訳無いだろ。ホラ、首に巻いている包帯だってボロボロじゃねぇか」
 高田はそう言って包帯に触ろうとすると、
「触るな!」
 弐沙は明らかな拒絶。しかし、ボロボロになっていた包帯は徐々に剥がれ落ち、肌が見えてしまう。
「お前、一体どうしてそんなモノが……」
 素肌が見えたとき、高田は驚愕した。


 弐沙の首には、まるで手で首を絞めているような赤黒い痣のようなものがあったのだ。

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