私のための小説

桜月猫

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13話

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 桜は卓球部の仮入部にやって来ていた。桜以外にも6人の男女が仮入部にやって来ていた。

「俺が卓球部の顧問です」
「あの~名前は?」

 新入生の少女が手を上げて問いかけた。

 あぁ。各部や各同好会の顧問は出てくる回数が少ない、というより今後出てくるかわからないから名前はつけないから。だから、卓球先生と呼んであげて。

「ホント手抜きね、作者」

 俺が楽しむための小説だからな。

 桜が苦笑していると、卓球先生が話を始めた。

「とりあえず、今日はうちの卓球部ではどんな練習をしているかを見学してもらう。別に最後まで見学している必要はないから好きに帰ってもらってかまわないから」

 そう言うと、卓球先生は部員達を見た。

「それじゃあウォーミングアップを始めろ」
『はい!』


          ◇


 料理部の部室である家庭科室の前にやって来た暁は扉を開いた。

「仮入部しにきたんですけど」
「はいは~い」

 対応しに来たのは先生ではなく少女。

「あら、珍しい。男の子の仮入部なんて」
「ダメですか?」
「そんなことはないよ。男の子でも大歓迎。さぁ、入って」

 少女に招かれて暁が中に入ると、中は女子しかいなかった。

「君は料理経験ある?」
「はい。家で手伝いとかしてますから」
「そう。なら早速手伝ってもらっちゃおうかな」

 少女はどこからともなく取り出したエプロンを一瞬で暁に着せた。

「あ~れ~?」

 抵抗する間もなくエプロンを着させられた暁は少女に手を引かれて女子達の中に連れていかれた。

しずく部長!この可愛い男の子は誰ですか!」

 女子の1人が手を上げて少女、雫に問いかけた。

「仮入部をしに来てくれた、え~と」

 困ったように雫が暁を見ると、察した暁は自己紹介を始めた。

「暁です。よろしくお願いします」

 自己紹介をして暁が頭を下げると、女子達から『きゃー!』という黄色い歓声が上がった。

「はいはい。みんな、作業に戻って」

 雫が手を叩くと、女子達はそれぞれの作業に戻っていった。

「それじゃあ暁君はこの野菜を一口大に切ってもらえる?」
「わかりました~」

 暁は雫と並んで野菜を切り始めた。


          ◇


 庵と朧月が漫才研究会の部室に向かっていると、前を歩く女子2人組のうちのちっちゃい方が振り返ってきた。

「なについてきてるのよ!ストーカーなの!?」

 2人にとってはわけの分からない突っかかりなので反応せずに横を通りすぎる。

「ちゃっと!なにか言いなさいよ!」
「無視」

 なにか言えと言われたから言った朧月の一言に、ちっちゃい少女は「ムキャー」と奇声を上げて地団駄を踏む。

「落ち着きなよ、ゆっこ。ゴメンね。ゆっこが変な言いがかりをつけて」
「ちょっとゆう。なにストーカーに謝ってるのよ」
「お前の失礼な態度を友達が謝ってくれてるのにさらに失礼を重ねてどうしたいんだよ」

"その通りなのだが、1度無視をしたのになんで反応するかな"

 朧月は庵に対しても呆れていた。

「失礼ってホントのことでしょ。このストーカー」
「お前はそうやって後ろを歩く人間全員をストーカー扱いする気か?」
「そんなことするわけないでしょ!あんたみたいな不審者だからストーカーだと思っただけです!」
「制服を着ている俺のどこが不審者だよ!そう見えるお前の頭は異常だろ!」
「なんですってー!」
「やるか!」
『やめろ(なさい)』

 朧月が庵の頭を、夕がゆっこの頭を叩いて一触即発だった2人を止めた。

「くだらないことで喧嘩すんな」
「ゆっこも後ろを歩いていただけでストーカー扱いはダメでしょ」

 怒られた2人は頭をおさえて涙目になりながらも睨みあった。

『だ~か~ら~』

 再度2人の頭を叩く朧月と夕。

「うちのバカがすまないな」
「こっちこそ、ゆっこがゴメンね」

 冷静な2人が謝りあって話をまとめた。

「行くぞ、庵」
「ゆっこも行くよ」

 今度は前後が入れ替わり、朧月が庵を連れて先を歩き、夕がゆっこを連れて後ろを歩きだした。そうして2組がやって来たのは漫才研究会の部室の前。4人は顔を見合わせた。


          ◇


 見学だけと言われていたが、練習着にシューズとラケットを持ってきていてやる気満々だった桜は普通に練習に参加していた。

「次、スマッシュ100本!」

 卓球先生の指示で練習方法が変わる中、桜は1つのことがずっと気になっていた。それは、体操服を着て球拾いや卓球先生の補助をしている少女。

"雑用をしているからマネージャーなんだろうけど、なんであの人がマネージャーなんかしているんだろう?"

 疑問に思いながらも練習はきっちりこなし、休憩に入ったので少女に近づいた。

「あの、一昨年の県大会で優勝したたまさんですよね?」

 すると、少女は逃げるように先生のほうへ行ってしまったが、その行動で桜は少女が球だと確信した。でも、だからこそわからないこともあった。

"あんなに強かった球さんがマネージャーなんてしてるんだろう?"

「君、球のことを知っているの?」

 女子卓球部部長の瑠璃るりが桜に声をかけた。

「はい。私もいちようその県大会に出場してましたから」
「君強いんだね」
「いえいえ。私なんてまだまだです。それで、なんで球さんはマネージャーをしてるのですか?どこか怪我でもしているのですか?」

 少し考えた瑠璃は球を見て苦笑した。

「私の口から言うべきことじゃないかな~」

 そう言って瑠璃は去っていったので、桜はモヤモヤしたまま練習を続けた。


          ◇


「ついつい作りすぎちゃったね~」

 暁が仮入部に来たことでテンションが上がった料理部の面々は次から次へと競うように料理を作った結果、暁の前には大量の料理と苦笑する雫と少女達の姿があった。

「部長~。どうするんですか~」
「こんな量、さすがに食べきれませ~ん」

 泣きそうな声で雫に助けを求める少女達。

「でも、余らせるわけにもいかないよ。作った料理は責任をもって食べきる。それが料理部の鉄則なんだから」
『それはそうですけど~!』

 雫の言葉に少女達はさらに泣きそうになった。

 作った料理は食べきる。この鉄則はいい鉄則だな。

「でしょ」

 近頃は作ったのに消費できずに期限切れをおこしたり、食べたくて買ったはずなのに食べきれずに捨てたりする人がいたりするから、ホントにいい鉄則だな。

「そう!ホントにいい鉄則なんだけど、今の状況ではツラいのよ!」
『うんうん』

 だからといって、破るのはダメだからな。

「わかってる」

 じゃあどうするのさ。

 俺の言葉に雫達は悩みだす。しかし、いい案は出てこない。
 そんな雫達を見ていた暁はスマホを取り出して電話をかけはじめた。

『もしもし。どうかしたの?暁』

 電話の相手は楓だ。

「今料理部の仮入部に来てるんだけど~、いろいろあって料理を作りすぎちゃって食べきれそうになくて困ってるんだけど~。どうすればいいと思う~?」
『そうね。まだ学校には部活や同好会で残ってる人達がいるのだから、その人達におすそわけするかしたらいいのじゃないかしら』
「なるほど~。ありがと~」
『どういたしまして』

 電話を切った暁は、雫達に楓が提案してくれた解決策を話した。

『それだ(よ)!』

 すると、早速雫は家庭科室を飛び出して放送室に向かった。


          ◇


「いや~、初日でいきなり4人も新入生がやって来てくれるとは思わなかったよ!」

 『漫研』だと漫画研究会と被るから『笑研』にするか。

 ということで笑研の部長が喜んでいた。

「4人は1つのグループなのかい?」
『違う!』

 庵とゆっこが声をハモらせて否定する。

「俺がこいつとコンビを組んでいます」
「私の相方は夕です!」

 庵は朧月と肩を組み、ゆっこは夕の腕に抱きついた。

「コンビを組んでいるなら相方探しから始めなくていいから話が早くて助かるよ。それぞれのコンビ名は?」
「コンビーフです」
「パンケーキです」

 似たような名前に庵とゆっこは朧月と夕を間に挟んで睨みあった。

「マネしないでくれる?」
「俺達はこのコンビ名で中学から活動してるんだぞ!」
「私達も中学からこのコンビ名なのよ!」

 続く2人の睨みあいを終わらせたのは当然朧月と夕の一撃。しかも、さっきより強い一撃に2人は悶絶していた。

「え~と」

 部長が戸惑っている中、朧月と夕はため息を吐いた。

「すいません」
「お騒がせしました」
「あ、あぁ」

 部長が苦笑した。

「中学からのコンビということは、ネタを持っているんだな?」
「俺達は持っていますね」
「いちようは」

 夕の歯切れが悪い。

「いちよう?」
「はい。人前でやったことはないので」
「それでよっ!」
「うるさい」

 復活してゆっこに罵声をあびせようとした庵を一撃で沈める朧月。

「それに、ネタとして完成しているかも微妙なんです」
「ネタなんてこれから考えていけばいいから心配することはないさ」

 夕は若干苦笑気味に頷いた。

「そういえば、名前を聞いてなかったな」

 あっ!笑研の部長には名前つける気ないから笑研部長と呼んであげてくれ。

「どこまで手を抜く気だ?」

 名前はできる限り手を抜く気だぞ?

『………………………………』

 言いたいことがあるなら言えよ。

「俺は朧月です。相方の名前は庵です」
「私は夕です」
「ゆっこです」

 何事もなかったように自己紹介をした朧月達。庵はまだ目覚めていないので朧月が変わりに行い、ゆっこは復活したが元気なく大人しかった。

『ピンポーンパンポーン。今から家庭科室にて料理部の料理をお裾分けいたします。数量限定でなくなり次第終了になるのでお早めにお越しください。ピンポーンパンポーン』

 放送を聞いた朧月は料理部と聞いて暁を思い浮かべた。

「笑研部長。家庭科室に行っていいですか?」
「あぁ。俺も気になるから行くつもりだ」
「庵。起きろ」

 朧月が頭を叩くと庵はハッと目覚めた。

「庵。家庭科室行くぞ」
「家庭科室?なんで?」

 放送を聞いていない庵は当然わけを理解していない。

「とりあえず行くぞ」

 朧月は無理矢理庵を引っ張って部室を出て家庭科室に向かう。途中で桜と出会った。

「2人も家庭科室に行くの?」
「あぁ」
「???」

 誰も状況を教えてくれないので庵をずっと首を傾げていたまま家庭科室までやって来た。家庭科室の前にはすでに10人程待っていた。

「ホントになんなんだよ」

 ようやく疑問を口にした庵だが、朧月も桜も答えてくれない。

「だーかーらー!」
「うるさい」

 理不尽ともいえるツッコミに庵が泣きたくなっていると、暁が家庭科室から出てきた。

「やっぱり来た~」

 桜達を見た暁は1度家庭科室に戻ると今度は後ろの扉から出てきて、桜達を手招きしながら準備室へ入っていった。暁の後を追って3人が準備室に入ると、準備室の机の上には料理と飲み物が用意されていた。

「座って~」

 暁にすすめられて椅子に座った朧月と桜。

「庵も早く座れ」

 朧月に促されて庵が椅子に座ると、暁達が手を合わせたので庵を手を合わせる。

『いただきます』
「いただきます」

 流れから料理を食べ始めた庵は、食べながらも必死に状況を理解しようとするが、考えれば考えるほど混乱するだけだった。

「で、この状況はどういうことなんだ?」

 庵が再度問いかけると、暁からようやく状況説明が返ってきた。

「料理部で料理を作りすぎて~、部員だけでは食べきれないから他の生徒にお裾分けしようってなったんだよ~」

 ようやく状況が理解できた庵は、それならと遠慮なく飲み食いを始めた。
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