盲目エルフは異世界勇者と旅をする

茜色蒲公英

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世界樹の子 前編

変わらぬ街

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リトスの故郷に向けて町を出て数日、一行は森から一番近い町であるチアミンの街に来ていた。

「ここに来るのも久々だな。ラルアとはここで出会ったんだよな」

「こんな場所で出会ったのでござるか…そういえばここはまだ奴隷の文化があったのでござったな」

「ラルアも商品だったんだよね。でも出会ってなかったら何度死んでもおかしくなかったな」

人の心を読むことや縛り付けること、万物を吸収して自らの力に変えることができるラルアの能力は所々で役に立っていた。

「そんで腹減ったからあの店行ったんだよな。よし!金もまだあるし肉食いに行くか!」

隆がその店に歩いていき、それについていく四人。
すると肉の焼ける香ばしい匂いがしてきた。

「そうそうこの匂いだよな~そんで兎耳つけた店員がいてだな…」

店に入り店員を探そうと店の中を見渡すと見たことのある人物がいた。
それはトロルの森で馬車に乗っていた時一行を襲い全滅させたトパーズという魔王の部下だった。

「てめえ…なんでここにいやがる」

「ただの食事だ、そう身構えるな。ここで争う気もなければもう君らと戦う気もない」

「どういうことだ?」

「数日前魔王様からこの街にエルフ含む例の五人組が来るができれば接触するなと言われていてね。正直こんなに早く来るとは思ってもいなかったものだから正直どうしようかと思っているんだ。ここで暴れようものならこの店に迷惑がかかるし小生は魔王様に首を跳ばされかねない」

戦わなくていいのかとリトスは安心するものの隆は全く信じておらずトパーズに敵意の眼差しを向けている。
それもそのはずラルアとライナは生き返った際トパーズとの戦ったことを忘れてしまっているので自分を殺した相手が目の前にいるとは思っていない。

「それでは小生はこれにて帰るとする。バジル、代金はここに置いていくぞ」

「おう、あのバカによろしく言っておいてくれ」

トパーズはテーブルの上に代金を置くと逃げるように店を出て行ってしまった。

「それで、お客さん。わざわざあいつに挨拶しに来たってんじゃないだろ?」

「お、おう。適当焼き一つずつ頼む」

「あいよ。バニラ!あいつの知り合いらしいから飲み物出してやれ!」

「はーい!」

隆が以前見た時より心なしか見た目が綺麗になっている店員を眺めているとそれをライナは見逃さなかった。

「隆殿はああいう女の子が好みなのでござるか」

「ち…がくはないが惚れたとかそういうのじゃねえよ。ほら、あの店員さん奴隷の割には生き生きとしてるだろ?」

「もしかしたら奴隷ではないのかもしれませんね。誰かの友人や妻でしたら『まだ』売り物ではないため人攫いは動きますがもう買われてしまっているものを再び攫うことは界隈で御法度とされているそうなのです」

そもそも人攫い自体が御法度なのではないのかと一行の頭をよぎるが「まぁこの街だしな」と誰も口に出すことはなかった。

「こちらサービスのミックスジュースです」

丸いテーブルを囲って座る一行の前に出されたのは緑色の濃い飲み物。
体によさそうではあるものの若干固形らしきものも浮いており飲むのには勇気がいる。
しかし真っ先に口をつけたのはラルアとリトス。そのまま半分ほど飲んでしまった。

「おいしいのでござるか?」

(うん。自然の味がする)

「久々にほとんど手が加えられていないもの口にしたから感動しちゃいそうになっちゃった」

この二人がここまで言うのならおいしいのだろう。
そう思ったのはアランだけだった。
残りの隆とライナはというと飲んだ二人の味覚はあくまで「肉を食わないエルフ」と「毒さえなければ何でも吸収してしまうアルラウネ」なので未だ目の前に置かれたジュースを眺めているだけ。

「おまちどう!…ってお前らまだバニラの作ったジュースに口付けてないのか」

「こんないかにも『自然』って感じのもん出されたら俺達ヒューマンは普通ビビるぞ!」

「そりゃお前が野菜嫌いなだけだろ?いいからつべこべ言わず飲め!」

「クソ…サービスどころか罰ゲームじゃねえか…」

「普段の行いが悪いからこういうことが起きるのでござるよー!…え?拙者も飲むのでござるか?」

バジルが無言で頷き、二人を睨むとその威圧に耐えられない二人は意を決してジュースを口の中へと入れた。

「「苦っ!!」」

「健康的な味がしますなぁ」

椅子から転げ落ちる隆とライナをよそに他の三人はキレイに飲み干したのだった。

食事を終えるころにはあたりが暗くなり始めてしまい一行はこの街で一泊をすることになった。
宿のチェックインを終え部屋で寝るまでの時間を過ごす一行だったがラルアだけ外に出て散歩をしていた。

(人がいないと落ち着くな)

街は建物からこぼれた明かりのみでほとんど真っ暗になっていた。

(もうちょっと歩いたら部屋に戻ろう)

何も考えず歩き、あるものが目に留まって足を止めた。

(ここ、僕が売られていた場所だ)

ラルアにはここで売られていた以前の記憶がほとんどない。
覚えているのは世界樹から生まれてきたということだけ。
どうやってここまで来たのか、どうして売られていたのかは忘れていた。

(思い出してはいけないのか、思い出さなくてはいけないのか…忘れているのならきっと大したことじゃないんだろう。けれど知りたい)

「こんばんはです」

急に後ろから話しかけられ即座に距離をとるラルア。
後ろにいた誰かは驚いて手を横に広げていた。

(君は…リビか)

「今日はシショーもいるですよ」

「こんばんは。あなたがリビの言っていたラルアだね」

リビの後ろには黒いおしゃれな帽子を被った若い男の人がおり、ラルアに軽く頭を下げた。
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