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第三話 疑念は邪念
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今日も平和な朝がやってきた。窓の外には美しいヘーゼルの森。とりあえず私は着替えて朝ご飯を作って、まだ起きてないであろう母を起こそうと思った。ぱっぱと着替えて、料理に必要な薪を外へ取りに行く。早朝の森はまだうっすら霧がかかっていて薄暗い。けれども、差し込む淡い光に冷たい空気に森の香り。実に幻想的で美しい。しかし、見惚れている暇もない。すぐに火を起こし大体料理が出来上がった頃に母が起きてきた。
「おはようベレッタ…」
「おはようございますお母様。今日の朝はパンですよ」
「あぁ…いつもありがとね」
こういう何気ない日頃の感謝も心にしみる。まだ母は眠たそうにしている。麗しい青い髪にくもり一つすらない青い瞳。いつ見ても艶やかだ。しかし、この頃この容姿を見るたびにつっかかる。
私と全然似てない…と。
私の髪の毛は黒いし目も黒い。いつかあんな感じになれると夢見ていたがいつになってもならない。今までは何とも思ってなかったが、近ごろ感じることがある。
もしかしたら…母は私の母でない…?
いや、そんなことはありえない。子供でない人をこんなに大切にしてくれる訳ないし、ここまで養ってもらってこれはあまりにも失礼だ…と思い邪念を振り払うように首を左右に振る。パッと上を見ると青色の瞳と目が合った。そして優しく微笑んでくれた。私は母が母でないとかいう邪念を抱いた自分にひどく失望した。
でも少し考えてしまった。もし万が一、いや億が一母が母じゃなかったら…
私はそれでも母のことをお母様と呼べるだろうか。
そんな私の思いはつゆ知らず、母はすでに朝食を完食してしまった。何かに思い悩んでることがきっとわかったのだろう。
「どうしたの?」
と聞いてきた。朝食に手もつけずに考え込んでいたから至極当然の反応だろう。もちろんここで本人に聞けばすぐに解決するだろう。しかし私は聞かなかった。いや、聞けなかった。こんなことを聞けば今までの関係も悪くなってしまう。あの幸せな時間をもう一緒に過ごせなくなりそうな気がして…
「いや、なんでもないです」
そうキッパリ答えた。
「あら…そう…ならいいわ」
「心配かけてすみませんお母様。すぐに食べます」
そう言って一気にパンを口に入れて無理やり飲み込んだ。ちょっと苦しかったが、何だか少しスッキリしたした気がする。
昼になって母はまた部屋にこもって何かをやっている。邪魔する気はないから私は外に散歩に出かけた。外は森だが長い間住んでいれば迷うことは基本的にない。巷では一度入ったら出られないなんて言われているらしい。なんでも無限に森が続いているとかなんだとか。実に大袈裟だ。母にいろいろ教わって無限なんてものは存在しないと教わった。確かにいつかは人は死ぬし、草木も枯れる。そしてこの森にもちゃんと端はある。でも私にとって人の死とは最もかけ離れた存在だと思っていた。実際自分がいつ死ぬかなんて考えたこともない。1秒でも長く母といたい。1秒でも母と長く話していたい。そう思って毎日生きてきたから。
深呼吸をする。私はなぜ今こんなにも重たいことを考えているのだろう。何か変なものでも食べただろうか。それともこれはなにかの予知…?私は急に寂しさ、孤独感を感じて真っ直ぐ家に向かった。
その日はずっと手が冷たかった。
「おはようベレッタ…」
「おはようございますお母様。今日の朝はパンですよ」
「あぁ…いつもありがとね」
こういう何気ない日頃の感謝も心にしみる。まだ母は眠たそうにしている。麗しい青い髪にくもり一つすらない青い瞳。いつ見ても艶やかだ。しかし、この頃この容姿を見るたびにつっかかる。
私と全然似てない…と。
私の髪の毛は黒いし目も黒い。いつかあんな感じになれると夢見ていたがいつになってもならない。今までは何とも思ってなかったが、近ごろ感じることがある。
もしかしたら…母は私の母でない…?
いや、そんなことはありえない。子供でない人をこんなに大切にしてくれる訳ないし、ここまで養ってもらってこれはあまりにも失礼だ…と思い邪念を振り払うように首を左右に振る。パッと上を見ると青色の瞳と目が合った。そして優しく微笑んでくれた。私は母が母でないとかいう邪念を抱いた自分にひどく失望した。
でも少し考えてしまった。もし万が一、いや億が一母が母じゃなかったら…
私はそれでも母のことをお母様と呼べるだろうか。
そんな私の思いはつゆ知らず、母はすでに朝食を完食してしまった。何かに思い悩んでることがきっとわかったのだろう。
「どうしたの?」
と聞いてきた。朝食に手もつけずに考え込んでいたから至極当然の反応だろう。もちろんここで本人に聞けばすぐに解決するだろう。しかし私は聞かなかった。いや、聞けなかった。こんなことを聞けば今までの関係も悪くなってしまう。あの幸せな時間をもう一緒に過ごせなくなりそうな気がして…
「いや、なんでもないです」
そうキッパリ答えた。
「あら…そう…ならいいわ」
「心配かけてすみませんお母様。すぐに食べます」
そう言って一気にパンを口に入れて無理やり飲み込んだ。ちょっと苦しかったが、何だか少しスッキリしたした気がする。
昼になって母はまた部屋にこもって何かをやっている。邪魔する気はないから私は外に散歩に出かけた。外は森だが長い間住んでいれば迷うことは基本的にない。巷では一度入ったら出られないなんて言われているらしい。なんでも無限に森が続いているとかなんだとか。実に大袈裟だ。母にいろいろ教わって無限なんてものは存在しないと教わった。確かにいつかは人は死ぬし、草木も枯れる。そしてこの森にもちゃんと端はある。でも私にとって人の死とは最もかけ離れた存在だと思っていた。実際自分がいつ死ぬかなんて考えたこともない。1秒でも長く母といたい。1秒でも母と長く話していたい。そう思って毎日生きてきたから。
深呼吸をする。私はなぜ今こんなにも重たいことを考えているのだろう。何か変なものでも食べただろうか。それともこれはなにかの予知…?私は急に寂しさ、孤独感を感じて真っ直ぐ家に向かった。
その日はずっと手が冷たかった。
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