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第十一話 床しい写真
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次の日の晩、私は肉に昨日引っ張り出してきた紅茶の茶葉を香味付けたものを作っていた。
肉に紅茶の茶葉を入れるのには少し勇気が必要だったが、試してみる価値はあるかもしれないと思った。もし美味しく無かったら…それはその時に考えよう。紅茶について考えていたら、あるものを不意に思い出した。
「そういえば、あの写真のこと聞いてないな…」
私はあの後写真をしばらく眺めたが見当もつかなかった。そして写真は私の部屋の机の上に置きっぱなしだ。写真は…食後に聞こうかな。そう思って改めて作業を再開した。
我ながら素晴らしい出来栄えに仕上がった。肉の焼き加減、柔らかさ、そして茶葉の香り。全てがうまくいってとても美味しい料理になった。茶葉一でこんなに変わるのか!って。ささやかかもしれないが私の中ではそこそこ大きな発見だった。やはり、何事もチャレンジっていうのは間違ってないらしい。この料理は母も大満足だったようで
「とっても美味しいわ!完璧よ全てが!」
母にベタ褒めされて一抹の恥ずかしさを感じながらも、母が喜んでくれていることに私は嬉しかった。紅茶の茶葉を入れた小一時間前の自分を撫でてやりたい。
「喜んでもらえたみたいでとっても嬉しいです!」
ちょっと声が大きくなてしまった。
幸せな食事の時間が過ぎ、片付けが概ね終わった頃、母はいつものように珈琲片手に暖炉の前で座っていた。やはり森の中なので、真夏以外は朝晩は冷える。今日も羽織りものなしでは冷気が肌に刺さるような日だ。
私は写真を片手に母に近づいた。
「今日もご一緒してもいいですか?」
「もちろんよ、ベレッタ。今日はどんな話をする?」
私はあの写真を母に手渡す
「この写真にいる人って…誰ですか?何か母と関係があるのですか?」
母はじっと写真を見つめている。その顔は悲しそうにも、嬉しそうにも見えた。
「これ、どこで見つけたの?」
「昨日倉庫に行った時にたまたま落ちてきたのです」
「なるほどね…」
母は深いため息をついた。もしかして何か思い出したくないものだったのだろうか。だから倉庫に置いていたのか。私にその吐いた息の真意は分からなかった。
「もしかして私…気分を害すようなものを持ってきてしまいましたか?」
すると母はかぶりを振った。
「いえいえ、少し懐かしくなっただけよ」
母は感傷的になっていた。私にはわかる。母は涙を寸前まで堪えていることを。聞くのは酷かもしれないが、それでも私は気になってしまった。
「この写真にお母様の過去と何か関係が?」
「えぇ。もちろん関係あるわよ。これは…」
「私が科学士を目指した理由よ」
「理由?」
「そう。科学士になってなかったら、きっとベレッタとも巡り合ってないわ…いや逆かもしれないけど」
私と巡り合わない…そんなにも大事だったのか。でも私はまた疑問が浮かんだ。
「この横にいる人は誰なんですか?」
この人達は誰なのか。至極真っ当な疑問だと思う。
しばらく沈黙が部屋に流れる。あの暖炉の燃える音。私は不意にあの日のことを思い出してしまった。母は覚えてないわけではない。きっと言葉を選んでいる。沈黙は一瞬だったかもしれない。けれど私は不用意に長く感じた。そして母が開口する。
「この人達は…そ…その…か…」
母の感情はもう限界に達していた。もう目は潤んでいる。なにか言いにくいものでもあるのだろうか。私は続きが気になった。それでも我慢しようとする母に私は我慢ならなかった。
「お母様…」
母と目が合う。そして、私は母を楽にさせようと言葉をかけた。
「言いたくないなら、言わなくても結構です…でも、涙は我慢しないでください…我慢は体に悪ですよ」
母はようやく感情を解放した。溜まっていた感情の波は目から流れ落ちていく。この写真はもう倉庫に戻しておこう。母は涙を流しながら、私に感謝の数々を口にした。
「ありがとう…ありがとう…」と。
私は何もしてないのに。
母が落ち着き、寝るために部屋に戻る時。母は部屋の方を向いたまま
「ごめんさいね…みっともない姿を見せてしまって」
みっともない姿?私は微塵もそうは思っていなかった。こう言ったら失礼かもしれないが、母が泣いている姿も私は美しいと思った。
「そんなことないですよ。感情を表せるのは人間の特権ですから」
母は振り返った。そして
「ありがとう。ベレッタは本当に優しいね」
また感謝された。でもこの感謝は受けておこう。
「どういたしまして」
母は踵を返して部屋に向かった。そこで、私は後ろから呼びかけた
「あ、あの」
母は足を止めた。
「明日…倉庫の整理をしませんか?」
母は無言でうなずいた。私は暖炉の火を消して、自分の部屋に向かった。正直、私は楽しみだった。倉庫にはまだ私が見たことのない掘り出し物がいっぱいあるかもしれない。ひょっとした…何か高価なもの…はあるわけないか。いずれにせよ私は楽しみだった。
明日になるのが楽しみ。そう感じれるのは今日までだった。
肉に紅茶の茶葉を入れるのには少し勇気が必要だったが、試してみる価値はあるかもしれないと思った。もし美味しく無かったら…それはその時に考えよう。紅茶について考えていたら、あるものを不意に思い出した。
「そういえば、あの写真のこと聞いてないな…」
私はあの後写真をしばらく眺めたが見当もつかなかった。そして写真は私の部屋の机の上に置きっぱなしだ。写真は…食後に聞こうかな。そう思って改めて作業を再開した。
我ながら素晴らしい出来栄えに仕上がった。肉の焼き加減、柔らかさ、そして茶葉の香り。全てがうまくいってとても美味しい料理になった。茶葉一でこんなに変わるのか!って。ささやかかもしれないが私の中ではそこそこ大きな発見だった。やはり、何事もチャレンジっていうのは間違ってないらしい。この料理は母も大満足だったようで
「とっても美味しいわ!完璧よ全てが!」
母にベタ褒めされて一抹の恥ずかしさを感じながらも、母が喜んでくれていることに私は嬉しかった。紅茶の茶葉を入れた小一時間前の自分を撫でてやりたい。
「喜んでもらえたみたいでとっても嬉しいです!」
ちょっと声が大きくなてしまった。
幸せな食事の時間が過ぎ、片付けが概ね終わった頃、母はいつものように珈琲片手に暖炉の前で座っていた。やはり森の中なので、真夏以外は朝晩は冷える。今日も羽織りものなしでは冷気が肌に刺さるような日だ。
私は写真を片手に母に近づいた。
「今日もご一緒してもいいですか?」
「もちろんよ、ベレッタ。今日はどんな話をする?」
私はあの写真を母に手渡す
「この写真にいる人って…誰ですか?何か母と関係があるのですか?」
母はじっと写真を見つめている。その顔は悲しそうにも、嬉しそうにも見えた。
「これ、どこで見つけたの?」
「昨日倉庫に行った時にたまたま落ちてきたのです」
「なるほどね…」
母は深いため息をついた。もしかして何か思い出したくないものだったのだろうか。だから倉庫に置いていたのか。私にその吐いた息の真意は分からなかった。
「もしかして私…気分を害すようなものを持ってきてしまいましたか?」
すると母はかぶりを振った。
「いえいえ、少し懐かしくなっただけよ」
母は感傷的になっていた。私にはわかる。母は涙を寸前まで堪えていることを。聞くのは酷かもしれないが、それでも私は気になってしまった。
「この写真にお母様の過去と何か関係が?」
「えぇ。もちろん関係あるわよ。これは…」
「私が科学士を目指した理由よ」
「理由?」
「そう。科学士になってなかったら、きっとベレッタとも巡り合ってないわ…いや逆かもしれないけど」
私と巡り合わない…そんなにも大事だったのか。でも私はまた疑問が浮かんだ。
「この横にいる人は誰なんですか?」
この人達は誰なのか。至極真っ当な疑問だと思う。
しばらく沈黙が部屋に流れる。あの暖炉の燃える音。私は不意にあの日のことを思い出してしまった。母は覚えてないわけではない。きっと言葉を選んでいる。沈黙は一瞬だったかもしれない。けれど私は不用意に長く感じた。そして母が開口する。
「この人達は…そ…その…か…」
母の感情はもう限界に達していた。もう目は潤んでいる。なにか言いにくいものでもあるのだろうか。私は続きが気になった。それでも我慢しようとする母に私は我慢ならなかった。
「お母様…」
母と目が合う。そして、私は母を楽にさせようと言葉をかけた。
「言いたくないなら、言わなくても結構です…でも、涙は我慢しないでください…我慢は体に悪ですよ」
母はようやく感情を解放した。溜まっていた感情の波は目から流れ落ちていく。この写真はもう倉庫に戻しておこう。母は涙を流しながら、私に感謝の数々を口にした。
「ありがとう…ありがとう…」と。
私は何もしてないのに。
母が落ち着き、寝るために部屋に戻る時。母は部屋の方を向いたまま
「ごめんさいね…みっともない姿を見せてしまって」
みっともない姿?私は微塵もそうは思っていなかった。こう言ったら失礼かもしれないが、母が泣いている姿も私は美しいと思った。
「そんなことないですよ。感情を表せるのは人間の特権ですから」
母は振り返った。そして
「ありがとう。ベレッタは本当に優しいね」
また感謝された。でもこの感謝は受けておこう。
「どういたしまして」
母は踵を返して部屋に向かった。そこで、私は後ろから呼びかけた
「あ、あの」
母は足を止めた。
「明日…倉庫の整理をしませんか?」
母は無言でうなずいた。私は暖炉の火を消して、自分の部屋に向かった。正直、私は楽しみだった。倉庫にはまだ私が見たことのない掘り出し物がいっぱいあるかもしれない。ひょっとした…何か高価なもの…はあるわけないか。いずれにせよ私は楽しみだった。
明日になるのが楽しみ。そう感じれるのは今日までだった。
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