6人目の魔女

Yakijyake

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第十八話 絶望を知る瞬間

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私は必死に考えた。別にそういう知識に詳しくない私はどうすればいいのかをずっと模索していた。というか、こうでもしてないと気が狂ってしまう。母の危機に何もしないなんて私には無理な相談だった。気分が良くなることはなかったが、気は楽になった。とにかく考えよう。あの王ならどんなことを言う?どう反論すれば納得される?試行錯誤してる私は時間を忘れて考えた。
最後の審判まで、あと5時間

ずっと考えてはいたが、五感が遮断されていたわけではない。私の耳は遠くからの足音を拾った。ちょっとずつ近づいている音。そして最大限まで近づいた音の主は兵士だった。鉄格子越しに私をずっと見ている。私はずっと目を逸らし続けた。
「おい、時間だ。出てこい」
久しぶりに聞いた他人の声。それは私を地獄へと誘う片道切符だった。言われるがまま牢を出て、手錠をかけられ昨日通った階段を登る。しばらく歩かされ、着いたのは昨日訪れたあの大聖堂。奥には待ってましたと言わんばかりに待っていた男が一人。
「どうだったかね?我々の地下牢の居心地は?さぞかし快適だっただろう」
私は王の嫌味に何一つ反応を示さなかった。返事も頷きも目線を合わせることも拒んだ。王は俯く私に一歩、また一歩と近づいてくる。
「魔女の子供か…お前もきっと人々を苦しめる魔女を見て育ったのだろう?」
私は微動だにせずずっと俯いていた。
「おい。なんとか言ってみたらどうだ?」
私はまだ動かない。
「おい」
まだ動かない。
「返事をしろっつってんだよ!」
イシロスは私を思いっきり蹴飛ばした。それまで動かなかった私は受動的に動くことになった。鈍い痛みを感じる。
「何も言わないか…ふっふっふ。ならば面白いことを教えてやろう」
イシロスは場にいた兵士を全員外に出した。
 「貴様のとこの魔女はあと数時間で審判が下される。そして」
「必ず処刑される」
必ず処刑される…?あと数時間で?突然の宣告を受けて私は顔を上げてしまった。
「いいねぇ…その顔!その絶望に満ち溢れた顔!そうだ、貴様の母はあと数時間で死ぬ。これはもう確定だ。別に正直誰でもよかったんだがな、貴様のところが一番都合がいい。誰とも接触せず、森に住み、怪しいことをする人。適任じゃないか。あいつには死んでもらわないと、我々一族の権威にも関わるのでね。でも安心なさい。母を亡くしたかわいそうな貴様の『保護』は我々が行おう」
母が死ぬ。あと数時間で。そして誰でもよかった。罪があるかどうかは関係ない。母は権威なんていうしょうもないもののために犠牲になってしまうのか。
 期待してなかった。審判なんて期待してなかったはずなのに。いざ言われてしまうともう何も考えられなかった。あの何時間の抵抗は全て水泡となった。
兵士に叩かれるまで、私は膝をついて呆然としていた。もうイシロスはここにはいない。
人生最大の絶望を味わった午後5時。
 処刑まで、あと1時間
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