6人目の魔女

Yakijyake

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*** 自らの正義

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……。もっと早く行動するべきだった。そうすれば彼女は痛い目に遭わずに済んだかもしれない。森から帰った後、王から拷問を受け、居場所を吐いてしまった。とても後悔している。もし吐いてなければ、起こらなかった犠牲かもしれない。でも最低限ことはした。とりあえず、頼み事は果たせそうだ。
確かに僕は軍に入った。王への忠誠を誓った。ただ、王への忠誠よりも自分の正義の方が大事だったし、この選択は正しかったと思っている。
 僕が軍の志望理由は国民を守るため。周りの国は敵だと学校で習った僕は、そんな敵から愛する家族、愛されている他の家族を守るために入った。
僕がヘーゼルの森に調査に向かうことになった時正直嫌だったが、それより行かねばならないという責任感が勝った。そして僕は出会うことになる。
 かれこれ五日間ぐらい森を彷徨った。携帯食料は底をつき、僕は生きながらえるため、その辺にあったキノコを食べた。それから謎の化け物に追いかけ回された。どれだけ走っても追いかけてくる。体力が切れた僕は諦めて木の下で蹲った。触られた。もう諦めていたが、触ったのは化け物じゃなかった。ぱっと見僕と5つぐらいしか変わらない可愛い女の子だった。初めて会う僕に優しく接し、家までついていくことになった。
 少し歩いて、木造の家に着いた。ドアを開けるともう1人、女の人が座っていた。
「あら?どちら様?」
と尋ねられたので、
「私はテイン王国軍所属のベール准尉です」
と僕は自分の身分を名乗った。話を聞けば、お母さんの名前がエリーナで娘の名前はベレッタと言うらしい。青い髪のエリーナと黒い髪のベレッタ。すぐに名前を覚えた。
 その後、お茶を出してもらうことになったあの親子は話している間ずっとお互い微笑んでいて、まるで話しているだけで楽しいのかのようしていた。なんとも美しい親子愛である。
 ベレッタさんが茶葉を取りに行くと言って外に出て、私とエリーナさんだけが残った。正直気まずい。特に話す事もないし、第一僕は彼女の事も何も知らない。何も共通の話題などないと思っていた。ただ、エリーナさんが口から出した言葉は残酷な共通点だった。
 「あなた、魔女を探しにきたんでしょう?」
僕は一瞬固まった。軍の中で機密となっているはずの魔女の情報。なぜ彼女が知っているのか、なんと返せばいいのか分からず、僕は黙ってしまった。
「……」
「いいのよ、もうわかっているわ。あの王に言われたんでしょう。さがして来いと」
僕はさらに困惑した。すると、エリーナさんは僕にある願いを申し立てた。
「ベール准尉。あってばかりのあなたにするのは変かもしれないけど、一つ頼み事をしてもいいですか?どうかベレッタを…ベレッタだけは救ってもらえませんか」
「もちろん一方的にお願いするわけではありません。対価として、真実を教えましょう」
もう何が何だか。でも、誰かを守るのは兵士の務めだし、僕はこの件に関わる真実も気になった。少し後悔した。生半可な気持ちで聞く話ではなかった。
全てを知った。今までの彼女らのこと。本当の家族じゃないこと。
全てを聞いた。これから王がどうするか。ベレッタさんがどうなるかを。
エリーナさんは聡明だ。かなり先の方まで察することができる。いや、できてしまうという表現の方が正しいか。もう彼女は受け入れているようだった。自分が死ぬかもしれないという状況の中、こんなにも娘のことを思えるなんて…ただの親子愛などでは済まされないものだ。
でもこれは正しいのだろうか。エリーナさんは聞けば聞くほど自己犠牲心の強い方だ。きっと、育てられたベレッタさんも多少なり影響を受けて育っているだろう。王立の学校に行ってないなら尚更。もし、もしエリーナさんがいなくなったとき、ベレッタさんはどういう行動を取るか僕には予測もつかない。ひょっとしたら、後を追って…なんてことも考えられる。ただ、見越せる人はそうは思ってないらしい。
「もし、ベレッタを助けられて、私がいなかったら…この場所に連れて行ってあげてください。きっと彼女に寄り添ってくれるはずです」
紙を渡された。僕は静かに頷く。
「お願いしますね」
そういったエリーナさんの表情は寂しげだった。当たり前だ。あんな話を聞いてしまったら、僕だって悲しくなる。
僕は一つ気になった。この物事の根底の部分を。
「一ついいですか?」
「いいですよ。なんでもどうぞ」
「エリーナさんは…生きることはまだ諦めてませんよね…?」
しばらくの沈黙が流れた。長く感じた。そして、口を開けようとした瞬間、玄関の木製のドアが音を立てて空いた。
ベレッタさんが帰ってきた。僕らは2人で彼女を見つめた。ベレッタさんはそのままキッチンへ赴き紅茶を作り僕らに渡してくれた。暖かい、甘みのある紅茶。
「私がいない間、どんな話をしてらっしゃったのですか?」
 ドキッとした。この話をしてもいいのかと。かえって傷つけないかと。
「実は…」
僕がそう言いかけた途端、エリーナさんは遮るように
「私はベールさんの…人生相談に乗っていたのよ」
といった。僕は察した。とりあえず僕も彼女に合わせた。なんとかベレッタさんをうまく騙せたようだ。
 あまり長居してもしょうがない。僕は離れることにした。そそくさと準備をして玄関に向かうと、ベレッタさんが頭を下げて
「気をつけて。またこちらに来る機会があればぜひ寄ってください」
と言ってくれた。なんて礼儀の正しい人なのだろう。でも、あの話をを聞いてしまうと手放しに喜べない。僕は彼女に嘘をついてしまった。罪悪感に苛まれた。そんな罪悪感から少しでも逃げようと僕は言葉を残した。
「あなたのお母さんは優しい人だ。もし何かあったら。お母さんを守ってやってくれ」
 願わくば、誰も死なない、誰も傷つかないで欲しい。そんなのは綺麗事だって僕もわかっている。でも少しでも長く幸せな親子であって欲しいと願った。
 僕は逃げるように家を後にした。
 今、僕は共和国の保護を受けている。時期にテイン王国が地図から姿を消すもの分かっている。でもここで立ち止まっているわけにはいかない。無理な願い事なのを承知で僕はテイン城に送ってもらえないかと頼んだ。最初は拒否された。今出るのは危ない、と。でも僕は食い下がらなかった。今食い下がったら一生後悔する。僕には守るべき人がいる、果たさなければいけない約束がある、と叫ぶように訴えたら。熱意に負けたのか向こうが折れてくれた。行ってもいい、ただし護衛付きで、と。あらかじめ彼女からがどこに囚われているか分かってる。
 約束を果たすため、自分の正義を守るために、僕はテイン城へと向かった。
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