38 / 61
第二十八話 生存意義
しおりを挟む
あれから悪夢を見ない日などなかった。目を閉じれば鮮明に浮かんでくる。夢なのに、自分で好きなように変えられるはずなのに、夢でも運命は変わらない。きっとこの先一生見るのかもしれない。ただ、目を開けた時にあの薄暗い天井じゃないだけでも私の気が楽になる。
そんな生活を早一週間。私は健康的な食事や水分補給のおかげか、かなり気力と取り戻した。だんだん部屋ではなくダイニングにいる時間が増やせるようになった。日中はただ茫然と部屋を見渡したり、カトリナさんとたわいのない会話をしたり。この間、毎日カトリナさんは私に話してくれた。私はもっと痛みに敏感になるべきだ、もっと自分を大切にするべきだと。初めのうちは何も感じなかったが、少しずつ何か感じるようになってきた。もっと自分を大切にしてもいいかもしれない、と。
その晩、3人で食事を取るとき、私はある質問をした。今でも忘れられない。別に決して気を病んでいたわけではなく、素朴な疑問。
「私に、私の生きる意義ってあると思いますか?」
「価値のない人間に生きる資格はありますか?」
私には分からなかった。母が死んだあの日、私も死んだはずなんだ。ずっと母だけを見てきてきた。母のためだけに生きてきた。それなのに、母を失った。生きがいを、生きる糧を。それだけに、私は聞いてみた。意外にも先に口を開いたのはフリッツさんだった。
「ベレッタ。人間の存在意義なんてものはあってないようなものなんだ。確かにベレッタはエリーナに寄り添って生きてきたかもしれない。けれど、ベレッタの存在意義はベレッタ、君自身なんだ」
「私自身?」
「そうだ。存在意義のない人なんて存在しない。だって、生きてさえいればその時点で存在意義だ。どうだ?思い返してごらん?君は牢にいる時、言い方は悪いかもしれないが、死ねたはずだ。その意思さえあれば。でもしなかった。ベレッタは心の奥底ではまだ諦めてなかった。その意思が、その心意気がベレッタの存在意義だ」
続いてカトリナさんも口を開いた。
「それに、あなたは生きる価値がたくさんありますよ。エリーナとの『約束』まだ果たしてないですよね?」
私自身が存在意義。私にも生きる価値がある。そう思うと今まで毎晩苦しんでいた苦悩、毎日見てきた悪夢は全て私の勘違いか。霧が晴れたようにすっきりした。でも同時に馬鹿馬鹿しくなって笑い出してしまった。
「どうしたのですか?大丈夫?」
カトリナさんが怪訝そうな表情を浮かべながら聞いてくれた。
「あぁ、大丈夫です。何だか今まで思い悩んできた自分が阿呆みたいで…でもありがとうございます、おかげで吹っ切れました」
「それはよかった。さぁ早く食べてしまおう。冷めてしまってはせっかくの料理も美味しく無くなってしまう」
それ以来、1人で頭を抱えることは無くなった。
私は生まれ変わった。あの日、私は死んだわけじゃない。いや、死んだのかもしれないが、私は生まれ変わったのだ。私という存在意義を持った私が生まれた日なのだ。何だか未来が明るく見えた。
そういえば『約束』って何のことだろうか。そしてカトリナさんがなぜ把握しているのだろうか。気づいた頃にはもうみんな寝静まっていた。
そんな生活を早一週間。私は健康的な食事や水分補給のおかげか、かなり気力と取り戻した。だんだん部屋ではなくダイニングにいる時間が増やせるようになった。日中はただ茫然と部屋を見渡したり、カトリナさんとたわいのない会話をしたり。この間、毎日カトリナさんは私に話してくれた。私はもっと痛みに敏感になるべきだ、もっと自分を大切にするべきだと。初めのうちは何も感じなかったが、少しずつ何か感じるようになってきた。もっと自分を大切にしてもいいかもしれない、と。
その晩、3人で食事を取るとき、私はある質問をした。今でも忘れられない。別に決して気を病んでいたわけではなく、素朴な疑問。
「私に、私の生きる意義ってあると思いますか?」
「価値のない人間に生きる資格はありますか?」
私には分からなかった。母が死んだあの日、私も死んだはずなんだ。ずっと母だけを見てきてきた。母のためだけに生きてきた。それなのに、母を失った。生きがいを、生きる糧を。それだけに、私は聞いてみた。意外にも先に口を開いたのはフリッツさんだった。
「ベレッタ。人間の存在意義なんてものはあってないようなものなんだ。確かにベレッタはエリーナに寄り添って生きてきたかもしれない。けれど、ベレッタの存在意義はベレッタ、君自身なんだ」
「私自身?」
「そうだ。存在意義のない人なんて存在しない。だって、生きてさえいればその時点で存在意義だ。どうだ?思い返してごらん?君は牢にいる時、言い方は悪いかもしれないが、死ねたはずだ。その意思さえあれば。でもしなかった。ベレッタは心の奥底ではまだ諦めてなかった。その意思が、その心意気がベレッタの存在意義だ」
続いてカトリナさんも口を開いた。
「それに、あなたは生きる価値がたくさんありますよ。エリーナとの『約束』まだ果たしてないですよね?」
私自身が存在意義。私にも生きる価値がある。そう思うと今まで毎晩苦しんでいた苦悩、毎日見てきた悪夢は全て私の勘違いか。霧が晴れたようにすっきりした。でも同時に馬鹿馬鹿しくなって笑い出してしまった。
「どうしたのですか?大丈夫?」
カトリナさんが怪訝そうな表情を浮かべながら聞いてくれた。
「あぁ、大丈夫です。何だか今まで思い悩んできた自分が阿呆みたいで…でもありがとうございます、おかげで吹っ切れました」
「それはよかった。さぁ早く食べてしまおう。冷めてしまってはせっかくの料理も美味しく無くなってしまう」
それ以来、1人で頭を抱えることは無くなった。
私は生まれ変わった。あの日、私は死んだわけじゃない。いや、死んだのかもしれないが、私は生まれ変わったのだ。私という存在意義を持った私が生まれた日なのだ。何だか未来が明るく見えた。
そういえば『約束』って何のことだろうか。そしてカトリナさんがなぜ把握しているのだろうか。気づいた頃にはもうみんな寝静まっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる