6人目の魔女

Yakijyake

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第四十二話 数年ぶりの帰宅

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翌日は朝から忙しかった。手続きがとにかく煩雑だった。科学士がいろんな要素でも優遇されているからきっとこんなに複雑な手続きがいるんだ、にしても多すぎる、などと心の愚痴を外に漏れないように抑えながらなんとか昼過ぎには全部終え、晴れて正式な科学士になることができた。家に着いた頃にはもうクタクタだったが、だからと言って帰る日をずらそうとは思っていなかった。
 荷物を持って玄関に向かった。すでに森への足は確保しており、玄関の前には自動車が止まっている。
 「本当に行ってしまうのですね。もう少しここにいてもいいんですよ」
 カトリナさんの優しい誘いもあったが、私は丁重に断った。
 「お気遣いありがとうございます。でも、もう私は心に決めたので」
 私はここを譲る気はなかった。
 「これまで本当にありがとうございました。もう、感謝してもしきれません。ここにいる間、色々ありましたけど、二人がいなかったら、きっと私は約束も果たさずにどこかで死んでたでしょう。今生きているのも二人のおかげです」
 「ああ、もしなにかあったらいつでも戻っておいで。いつでも歓迎するからね」
 一瞥して自動車の後部座席に乗り込む。窓から見えるカトリナさんとフリッツさんに手を振っているうちに、自動車は音を立てて動き出してしまった。頑張って首を後ろに向けて最後の一瞬まで二人を見て居ようと思っていたのに、すぐに二人は見えなくなってしまった。
自分で行くって決めた。別れる日は最初から決まってた。分かってた。なのに、やっぱり別れるのは淋しかった。行く前にカトリナさんに紅茶の入った水筒をもらった。それを一口飲む、紅茶を飲んで気分を落ち着かせようとしたのに、その紅茶でさえ咽頭に沁みるようだった。
 そんな淋しさに耽っているうちにもうあの森の前までついた。やっぱり馬車なんかより断然早い。代金を運転手に払い、私は大きく深呼吸をした。目の前に茂る木々を見て、私は思い出した。ここは間違いなく私が愛してやまなかったあの森だ、と。
 あれから何年も経っているのに、不思議と道に迷うことなくすいすいと通れた。何百回と通った家への帰り方はどうやらこの体に染みこんでいるらしい。
 森の入り口から家までは結構な距離がある。それこそ自動車で行くような距離だが、私は自分の足でこの森を歩きたくなった。自動車に乗るだけだとだとこの心地よい爽やかな風は浴びれない。
 またしばらく歩く。もうこの辺りから疲れが見え始め、まだつかないのか、と息を切らしていた。自動車でここまでくればよかったとか、弱気なことを言っているうちに木々の隙間から見えた。私がずっと帰れなかった家の屋根。かなり疲れていたのに、息を吹き返して、どんどんペースを上げていく。最終的には我慢できずに残り数百メートルは走った。
数年ぶりに見た我が家は何一つとして変わっていなかった。
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