恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。

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私の大好きな親友。

 エスカルト国に来て早一か月。
 食の味付けに最初は違和感があったものの、最近では複雑な味の違いが少しずつ分かるようになり楽しくなってきた。
 特にお菓子の美しさとレパートリーの多さといったら!マリアがお勧めしてくれるのはどれも美味しくてついつい食べ過ぎてしまう。目でも舌でも味わえる贅沢。生きていてよかった。
 でもマリア、そろそろじゅうぶ……え?マリアがこれを作ったの!?
 食べるに決まってるじゃない!

 今度は私も作ってみようかな。
 ……一緒に?いいえ、私だけで作ってみようと思うの。
 だって、初めて作ったお菓子はマリアに食べてもらいたいもの!

 え、マリア!
 大丈夫!?息してる!?

 ある日の午後。
 ……最近、コルセットが少しきつくなってきたので、できるだけ散歩をするようにしている。親友の家とはいえ、他国の王城。あまり城内を動き回るのは良くないだろうから、庭を歩かせてもらっている。兄と歩いていたはずなのに、いつも休憩中の様がやってきて、お兄様は入れかわりで侍従たちに連れていかれてしまう。
「兄様と仲良くなって、ずっとここに居てくれたら嬉しいわ!」とマリアが言っていたからマリアの差配なのだろう。
 マリアとも一緒に歩きたいのに、と残念に思うものの、はるか後方から強い視線を常に感じる。
 多分マリアがこっちを見ている。とっても見ている。

 ふふ、「カイン様と仲良くなって欲しい」という思いと「私と一緒にいたい」という気持ちがせめぎ合っているのだろう。
「カイン様、ご提案があるのですが」
「なんだい?」
「せっかくの綺麗な花ですから、マリアやお兄様を交えて皆で愛でませんか?」
 カイン様もマリアの視線に気が付いていたのだろう。もちろんだよ、と笑いながらガゼボにお茶の用意をするように指示を出してくれた。
 侍従が素早く呼びに行ったけれど……あら?マリアだけこっちに来ている?
 アベルお兄様も連れてきてあげて下さいな!

 そのまた別の日。今日は特別な夜。
 こちらに来た当初、私が使用する部屋について説明された。
 マリアは一緒に寝たがったけれど、親友とはいえ別の王国の人間と二人で眠るのは危機管理上許可できないとカイン様に言われてしまった。
 マまぁ、そうよね。今やマリアは国の至宝だし、私たちはその大切な姫様に婚約を破棄された国の人間。警戒する人がいるのは当然だろう。
 かしこまりました、と返事をしたけれど、マリアは不機嫌です!と言わんばかりにムスっとしている。仕方のない理由だからこそ反論はしないけど、不満なのでしょう。
 でもその表情さえ美しいのだから、私の親友、罪な子ですわ……。

 さて、現在21時。
 いつもはゲストルームに戻って就寝している時刻に私はマリアの部屋にいる。
 なぜかというと、今日はマリアの誕生日だからだ。誕生日と言っても、プレゼントと夕食がマリアの好物になるくらいのささやかなものだ。もちろん、そのプレゼントはさすが王族、と言いたくなるものばかりでしたが……。
 私が誕生日プレゼントに何が欲しいか聞くと「誕生日が終わるまで一緒におしゃべりしたいわ」と言ってきたのよ!可愛すぎますでしょう!

 王太子ならば華々しくパーティーが開かれるかもしれないが、マリアは王女。
 婚約を解消したとなれば、次の相手を探すためにパーティーを開く価値はあるかもしれないけれど、マリアは「確保する相手は決めています」と王様にはっきり伝えていた。
 実は好きな人がいたのだろうか!
 これはちゃんと聞きださなければいけないわね!
 ……?お兄様?どうしましたの?え、「なんか寒い」?
 風邪の引き始めですかね?お気を付けくださいませ。

 こうして警備を今日だけ増やすという条件のもと、マリアのお部屋で夜のティーパーティーができることになった。
 その分、今日の夕食はセーブしましたの。こぶたちゃんにはなりません。え、なってませんよね……?


 マリアのお部屋は何度も入ったけれど、寝室の部分は初めて入る。
 ベッドの横に、小さな二人掛けのテーブルセットが用意されていた。
 でもそれより、マリアのベッドにででん!置かれている私のデフォルメぬいぐるみが気になる。
「素材にこだわりました!」と言わんばかりのふわもち素材。
 つい手が伸びてしまう。
「自分の姿でなければ抱きしめて眠りたいくらい気持ちがいいね」
「私はもちろん抱きしめて寝ているわ!」
 ……うーん。それ、私どう反応したらいいのかな?
「でも、今日はぬいぐるみじゃなくてシェリスと一緒に寝られるからうれしいわ!」
「え?」
 ダメなのではなかったの?
 戸惑う私に、マリアが悪戯っぽく笑う。
「寝てしまえばいいのよ!」
 寝てしまった主人を無理やり起こして部屋に戻そうとする無粋な側仕えはいないということだ。
 おはようからおやすみまで一緒にいられるのね!
 素敵!

 うーん、私もこの素材で作ったマリアの人形、帰る時までに欲しいなぁ。
 どこに作成依頼をしたのか教えてもらわないと!

 でも今は、お茶会に集中です。
 デザートのケーキは私が作ったのです!
 あの、思い出の苺タルト。ちょっとタルトの端が焦げてしまって、あの時の宝石のようなタルトには及ばないけれど。喜んでくれると良いな。

 ケーキを見て、マリアの表情が無くなった。直後、一筋の涙が流れ落ちた。
 え、どうしたの!?と焦っていたら、マリアが抱き着いてきた。
 シェリス、だいすき。ありがとう。一番うれしいプレゼントだわ。
 と、少し幼い口調で伝えてくる。
 私もそっと抱きしめ返す。

 ええ。
 醜悪だと言われ、顔をしかめられた日々。
 美しいと言われ、ほめそやされる日々。

 上辺だけを見て判断されているあなた。
 こんなに中身も素敵なのにね。

 大好きよ。
 ずっと一緒にいたいね。

 最後にぎゅっと抱きしめ合って。
 二人でタルトを一緒に食べる。あの時とは違って、今回は最後の一口までゆっくりと。

 マリアの誕生日の夜は、静かに、優しく更けていく。

 次の日。
 マリアの侍女たちに起こされ、簡単な身支度をする。
 計画どおり、朝まで居られてマリアはご満悦だ。

 私もいったん客間に戻ろうと廊下を歩いていると、カイン様と出会った。
 カイン様は護衛を背後に下がらせると、にこやかに話しかけてきた。
「楽しい夜は過ごせたかい?」
「はい、ご配慮ありがとうございます」
 0時を超えても侍女が確認しに来なかったのはやはりカイン様の指示なのだろう。
「あの子にとって、シェリー嬢と過ごせる時間は何物にも代えがたいものだからね」
「ふふ、それは私にとっても同じです」
 だって大切な親友ですもの!
 ふんす!と胸を張って主張すると、カイン様はとろけるように笑う。
「なら、私も次の誕生日プレゼントはシェリー嬢と過ごせる権利を貰おうかな。……朝まで、とは言わないから安心して?」

 ……!
 ななななななにを言い出すのですかこの人はっ!
 真っ赤になる私を見てはははっと笑う。

 まったくもう!からかって!!
 ……でも、笑っていられるのも今のうちですわ。


 振り上げられたマリアの扇子が後頭部に直撃するまであと――

 *****************
 <あとがき>
 マリア→シェリスへの好きが大きく見えますが。
 シェリスもたいがいマリアが大好き。

 このあと、三歩進んで二歩下がるくらいのスピードでカインとシェリスは仲を深めていくことでしょう。


 <庭園のとき、後方にいたマリアとアベルの会話>
 ――二人でゆっくり散歩をさせたほうが良いのではないですか?
 ――でも急に兄様が襲い掛かるかもしれないじゃないの!
 ――理性のない獣みたいに言いますね!?そんなことにはなりませんよ。
 ――それに護衛もお兄様もシェリーといられるのにずるいですわ!
 ――そちらがどう考えても本音ですよね……。

 この後、シェリスに呼ばれたマリアは淑女ギリギリの速さで2人のもとへ。
 アベル?放置ですが何か?

 <お人形にまつわるあれこれ>
 ※もちろん人形はマリア作。
 マリアはシェリスから自分の人形が欲しいと聞いて大喜び。
 大中小作り上げます。寝るシェリスの左右と上(抱き枕)は譲らない。

「お兄様も欲しい?寝言は寝て言えですわ。私は暇じゃないのです」
「そこをなんとか」
「……しかたありませんわね」


「できあがりましたわ」
「!ありがとう!……独特のフォルムだね?」



「ストロードールといいますの」
感想 19

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みんなの感想(19件)

クレサ
2026.03.18 クレサ

かわいいお話!
マリア王女、こんなの王族に嫁に来ないで済んで良かったよ。え、それなら、シェリス嬢さらにいいことしったってことじゃない!
カイン王子とくっつくのもいいけど、公務大変そうだから、年上ゲロ甘騎士団長なんかいいなあ。で、マリア王女の侍女になれば一緒に過ごせるし。
マリア王女は、シェリス嬢の国で伯爵家に入るより、マリア王女の国に家族みんなで引越ししてくればいいのに。トップがあれで、因縁の侯爵家の下になるなんてやじゃない?

2026.03.20 みっちぇる。

こちらでも感想ありがとうございます!
読んでいただき大感謝です。

シェリスの相手は誰になるんでしょうか……!
どちらにしろ、シェリスが気に入った相手と何がなんでもくっつけようとマリアが動くので、恋は叶うことでしょう(笑)

引っ越すとなると爵位返上、今まで代々守ってきた領地を手放すことになりますし、マリアの国では爵位がもちろんありません。さすがに平民に瑕疵があるとはいえ王女は嫁げませんし、シェリスも貴族の実家を失うことになるので。
また、トップがアホだからこそ、領を国に返したくない父です(笑)

解除
Kou
2026.02.12 Kou

アホ国はどっかの他国に食われる未来しか見えない。合唱(笑)

2026.02.16 みっちぇる。

感想ありがとうございます!!
そうですね、自分たちのことしか考えてない人達ですので、遅かれ早かれ……。
まぁ、他国か自国の貴族にやられるか、の違いかと(笑)

解除
さごはちジュレ
2026.01.31 さごはちジュレ

はじめまして。
「政略結婚」のオススメから参りましたが、ざまあ以上に女の子たちがかわいい!
感想欄のご返信通り、ここの王家は考え自体はまあ、と思います。身分が高いなら自尊心も高くあろうとしなければ、彼ら自身がそうなってしまったような不誠実な輩に付け込まれるでしようから。
ただし言い方やり方を完っ全に間違えましたよね。
1話でシェリちゃんが思ったように頭も腰も低くして謝罪から入り、王家侯爵家共同でシェリちゃんやおうちの名誉を守るため慰謝料くらいは確約して怒りを封じていれば、ここまで醜態さらさなかったかも。
あ、他人を貶めることを悪いと思わないくせに自分たちは尊重されるべきとか格上の他王家相手にのたまうレヴェル(ココ巻き舌で)のおばかちんだから説明しても無理かな?

2026.02.02 みっちぇる。

初めまして。感想ありがとうございます!
婚約破棄からの素敵な男性に救われるのはほかの方が書いてくださっているので、主人公強火な親友(美少女)
が小さいころからの縁で助けてもいいじゃない!というのが始まりでした。なので女の子たちが可愛いと言っていただき非常に嬉しいです!

基本的に他国が絡まないと自分たちが一番なので、その特権意識が抜けないかつ「すごい婚約者を持った=自分もすごい!」と勘違いするオヴァカさんですからね!説明しても無理でしょうね(笑)
恩や縁を大事にしない国(人)は嫌われるということを実体験で学んだので、これを今後に生かせるかどうかは……?無理な気がしますね!(笑)

解除

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