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第3話:逃亡の果ては崖っぷち!? ~魔法に覚醒したと思ったら、今度は人喰いウサギですか!?~
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何も考えず、俺は足を全速力で回転させていた。
逃げる! 今の俺の「サバイバルメニュー」にある選択肢はそれだけだ!
後ろから追ってくるのがゴブリンだろうが地獄の悪鬼だろうが、そんなことはどうでもいい。奴らの目には、俺が「二本足で歩く最高級焼肉」にしか見えていないのだから!耳をつんざくような奴らの叫び声は錆びたナイフが擦れる音のようで、俺の尊厳と命が風前の灯であることを毎秒実感させてくる。
(あーもう! 異世界転生して早々、デスゲームかよ! 毎日の『死からの逃亡ログインボーナス』でもあるのか!? こんなことなら、ボロボロのスニーカーじゃなくて、有名ブランドのランニングシューズを履いてくるんだった!)
チラリと後ろを振り返る。群れの中に、一匹だけ異質な奴がいた。
ボロボロの黒いローブを羽織り、禍々しいオーラを放つ歪な木の杖を握っている。
(うわ、最悪! 「ゴブリンメイジ」のお出ましじゃん! 食う前に味付けの魔法でもかけるつもりか!?)
ゴブリンは冷酷に杖を振り上げ、その先端に真っ赤な火花が集まっていく。俺の勇気ゲージはすでにゼロを振り切っていたが、思わず引きつった笑みが漏れた。
「ははっ……俺の異世界デビューを祝うキャンドルサービスですかね?」
――ゴォォォォッ!
次の瞬間、火球(ファイアボール)が飛んできた! 隕石サイズではないが、極限まで圧縮されている。数ミリの差で俺の横を通り抜け、後ろの木に直撃した……ドカーン! 木は一瞬で炭の塊と化した。
俺の笑みがフリーズする。
(……はい、ゴブリンさんサーセン! 今の冗談なんで! 最初からテイク2でお願いします!)
背中に熱風を浴び、悟った。一発でも直撃すれば即ゲームオーバーだ。俺は森の静寂を引き裂くように絶叫しながら、さらに加速した。
「ふざけんなあああ! 異世界まで来て、こんな理不尽な犬死にってたまるかああ!」
その時、またあの冷たい声が脳内に響いた。
『――炎を、イメージしろ』
俺は絶望の中で歯を食いしばる。
(今じゃねえよポンコツ音声! もっと実用的なのをくれ! 瞬間移動とか! 飛行スキルとか! このデス・マラソンから抜け出せるやつ!)
『――イメージするのだ。先ほど感じたように』
また火球が飛んでくる! 足元は複雑に絡み合った木の根の迷路だ。一歩でも踏み外せばジ・エンド。
一瞬目を閉じ、炎を想像しようとしたが、脳裏に浮かんだのは『You Are Dead』と書かれた真っ暗な画面だけだった。
そして突然――足元の地面が、消えた。
「……え?」
苔むしたヌルヌルの崖を滑り落ちる。視界が反転し、ポンコツなピンボールのように岩にぶつかりながら斜面を転がり落ちて――
――ザッパーーーーーンッ!!
激しい水しぶき! 衝撃で肺から空気が押し出される。目を開けると、そこは深い青の闇。濁流が俺を川底へと引きずり込んでいく。
(笑えるぜ……異世界主人公のくせにカナヅチとか! 元の世界の奴らが聞いたら腹抱えて笑うような、劇的な最期だな!)
酸素が尽きかける。森の喧騒が消え、戦太鼓のように鳴り響く自分の心臓の音だけが聞こえる。
(生きたい……! なにがなんでも!)
溺れゆく中、奇妙な静寂が俺を包んだ。そして……感じた。
胸の奥から湧き上がり、全身の細胞へと流れ込む熱を!
『――炎を、イメージしろ』
いや、今回はイメージなんかじゃない……俺と炎が、一つの存在として同化する。
内側から爆発的な炎が噴き出した!
周囲の水が震え、巨大な水蒸気の泡が立ち上る。
冷たい水が温かくなり……数秒で沸騰し始めたのだ!
急激な蒸気圧が、俺をロケットのような勢いで水面へと押し上げる!
「ぷっはあああああっ!」
水面を突き破り、狂ったように空気を吸い込む。
泥だらけの岸辺に転がると、まるでオーブンから出たばかりのように全身から猛烈な湯気が立ち上っていた。
(俺……やったのか? 魔法に覚醒した結果、「人間瞬間湯沸かし器」になったってことか?)
俺は震えながら、ヒステリックに笑い出した。
「ははっ……すげえ! 溺死から助かったと思ったら、隠された力が『いつでも熱いお茶を淹れられる能力』だったとはな! どんなクソゲーだよ!」
◆ ◇ ◆
しばらく大の字になって、荒い息を整えた。
再び寒さが忍び寄り、ボロボロの服が気持ち悪く肌に張り付いている。未だに湯気を放っている自分の手を見つめた。
(待てよ……川を沸騰させられるなら、この炎魔法で服を乾かせるんじゃないか? このままじゃ、モンスターに食われる前に異世界の風邪でゲームオーバーだ)
意識を集中させる。胸の熱を引き出し、ゆっくりと慎重に手足へと向かわせた。
「よし……少しだけ温かく……『ヒーター機能』お願いしまーす……」
途端に、服からモワモワと大量の湯気が立ち上がり始めた!
心地好い温かさに包まれ、服が本当に乾き始める。
(ふふっ! 俺って天才か!? 炎魔法があれば乾燥機なんていらねえ! 環境適応能力高すぎだろ主人公!)
しかし……この呪われた世界では、何事もタダでは終わらないのがお約束だ。
調子に乗って、ほんの一秒だけ集中を切らした瞬間。
――チリチリッ!
焦げ臭い? 下を見ると……唯一のシャツの裾が黒く焦げ、本物の火が燃え移っているではないか!
「アッチィィィィ!? (熱い!) アチチチチッ!!」
俺はパニックに陥った猿のようにその場で飛び跳ね、全力でシャツをひっぱたいて火を消した。
(クソッ! 服を乾かしたかっただけなのに、あやうく炭火焼チキンになるところだったぞ! 魔法っていうか、ただのぶっ壊れた電子レンジじゃねえか!)
結果:脇腹に巨大な穴の開いたシャツと、砂漠で何週間も日焼けしたかのように真っ赤になった皮膚。俺は深くため息をついた。
「はぁ……破壊力:S、コントロール:Fってとこか。全身黒焦げになる前に、今日の魔法実験コーナーは終了にしよう」
◆ ◇ ◆
残りの魔力を回復させるための短い昼寝の後、目を覚ますと空は血のような赤に染まっていた。見知らぬブルーベリーのような木の実をかじり、慎重に歩みを進める。
そして……茂みの中で、俺はソレを見つけた。
真っ白な毛玉。長い耳と、無垢に輝く大きな目を持つウサギだ。(モグモグ)と、とても愛らしく草を食んでいる。
(おおぉぉ……なんて可愛い生き物! この悪夢みたいな森で、ついに『カワイイ』要素キター! やっとこの異世界も俺にデレてきたか!)
俺は警戒を解き、アホみたいな笑顔で手を伸ばした。
「よしよし……おいでチビちゃん……君は可愛いなぁ――」
ウサギは首を傾げ、俺に向かって微笑んだように見えた。
その瞬間……森の鳥たちの声がピタリと止んだ。不気味な静寂が落ちる。
「可愛い」ウサギの顔が、パックリと割れた!!
右耳から左耳にかけて、黒いヨダレを滴らせた鋭いサメの歯が何列も並んでいる!
「ギィシャァァァァァァッ!!」
怒り狂った悪魔のような咆哮を上げ、顔面めがけて砲弾のように飛びかかってきた!
「ヤメテェェェェェ!! 人喰いゾンビウサギーーーッ!?」
俺はショックで尻餅をつき、すぐさま反転して、疲れ切った筋肉が持てる最高速度で逃げ出した。
(この世界の設計者出てこい! ウサギまで捕食者とか聞いてねえよ! この世界に『カワイイ』なんて概念は存在しねえ! 全部俺を殺すためのデストラップじゃねえか!!)
背後から迫るウサギの跳躍音はホラー以外の何物でもなく、(カチッ……カチッ……)という歯を鳴らす音が俺の血液を凍りつかせる。
残り少ないボロ布を茨に引き裂かれながら、俺はこの容赦ないハードモードの理不尽さを呪って走り続けた。
◆ ◇ ◆
地平線に巨大な木の城壁が見えてきた頃、俺は墓場から這い出たばかりのゾンビのような有様だった。
顔は泥まみれ、髪はボサボサ。服は焦げて破れたボロ布の集合体で、隠している部分より見えている部分の方が多い。死にかけの老犬のようにゼェゼェと喘いでいた。
巨大な門の前で足を止める。そこには二人の門番が威風堂々と立っていた。
一人は、巨体と重厚な金属鎧を纏った男(ロン)。
もう一人は、軽装の革鎧を着た、氷のように冷たい美貌を持つ少女(クーデレ)。
俺が一歩足を踏み出した途端、ロンと呼ばれた男が威嚇するように大剣を抜いた。
「止まれ! お前は何者だ、胡散臭いよそ者め! ハッキリ答えねえと、犬の餌用にミンチにしてやるぞ!」
(よし、自動翻訳機能はまだ生きてるな!)。俺は物理的な疲労と絶望で、その場に膝から崩れ落ちた。
「俺は……ただの……哀れな旅人です……森で迷って……」
ロンは鼻で笑い、大声で吐き捨てた。
「旅人だと? あの『死の森』から生きて二本足で出てこられる奴なんざいねえ! 人間のクズに化けたモンスターに決まってやがる!」
そこへ、冷たい顔立ちの少女が一歩前に出た。彼女は鋭い視線で俺を上から下まで値踏みし……そして突然、人間が向けられる最大限の嫌悪感を込めた目で顔を背けた。
「剣を収めなさい、ロン……。この『物体』は、いかなる生命体に対する脅威にもなり得ないわ」
ロンが驚いて彼女を見ると、少女は感情の欠片もない氷のような声で続けた。
「よく見て。腐ったゴミ溜めから這い出たばかりの、惨めなゴキブリみたいじゃない。どれだけプライドのない悪魔やモンスターだって、ここまで完璧な『人間の底辺と失敗作』の姿に擬態するなんてプライドが許すはずないわ」
(…………グホッ!!)
見えない矢が心臓のど真ん中を貫いた!(毒舌美少女キッツ! えぐい! えぐすぎる!! 俺がさっきまでサメ歯のウサギと死闘を繰り広げてきたってのに、俺の人生ごと『失敗作の姿』扱いですか!?)
ロンはあからさまに退屈そうに剣を鞘に戻し、俺の焦げたシャツの襟をゴミ袋でも扱うように乱暴に掴み上げた。
「チッ。ならさっさと動け! 入れてやるが、少しでも問題を起こしたら外の野犬どもに放り投げるからな!」
そう言って、俺を木の門の向こう側へと力任せに突き飛ばした。
俺は一瞬だけ、安堵の息を吐く。(やっとだ……殺人ウサギのいないセーフティゾーン……!)
しかし、振り返って村の路地の暗がりや、冒険者たちの険しい顔つきを見た瞬間……俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
(『モンスターの森』から逃げ出して……『人間の森』に入っただけか……。気のせいか、このクソゲー、今まさに難易度が一段階上がった気がするぞ……!)
逃げる! 今の俺の「サバイバルメニュー」にある選択肢はそれだけだ!
後ろから追ってくるのがゴブリンだろうが地獄の悪鬼だろうが、そんなことはどうでもいい。奴らの目には、俺が「二本足で歩く最高級焼肉」にしか見えていないのだから!耳をつんざくような奴らの叫び声は錆びたナイフが擦れる音のようで、俺の尊厳と命が風前の灯であることを毎秒実感させてくる。
(あーもう! 異世界転生して早々、デスゲームかよ! 毎日の『死からの逃亡ログインボーナス』でもあるのか!? こんなことなら、ボロボロのスニーカーじゃなくて、有名ブランドのランニングシューズを履いてくるんだった!)
チラリと後ろを振り返る。群れの中に、一匹だけ異質な奴がいた。
ボロボロの黒いローブを羽織り、禍々しいオーラを放つ歪な木の杖を握っている。
(うわ、最悪! 「ゴブリンメイジ」のお出ましじゃん! 食う前に味付けの魔法でもかけるつもりか!?)
ゴブリンは冷酷に杖を振り上げ、その先端に真っ赤な火花が集まっていく。俺の勇気ゲージはすでにゼロを振り切っていたが、思わず引きつった笑みが漏れた。
「ははっ……俺の異世界デビューを祝うキャンドルサービスですかね?」
――ゴォォォォッ!
次の瞬間、火球(ファイアボール)が飛んできた! 隕石サイズではないが、極限まで圧縮されている。数ミリの差で俺の横を通り抜け、後ろの木に直撃した……ドカーン! 木は一瞬で炭の塊と化した。
俺の笑みがフリーズする。
(……はい、ゴブリンさんサーセン! 今の冗談なんで! 最初からテイク2でお願いします!)
背中に熱風を浴び、悟った。一発でも直撃すれば即ゲームオーバーだ。俺は森の静寂を引き裂くように絶叫しながら、さらに加速した。
「ふざけんなあああ! 異世界まで来て、こんな理不尽な犬死にってたまるかああ!」
その時、またあの冷たい声が脳内に響いた。
『――炎を、イメージしろ』
俺は絶望の中で歯を食いしばる。
(今じゃねえよポンコツ音声! もっと実用的なのをくれ! 瞬間移動とか! 飛行スキルとか! このデス・マラソンから抜け出せるやつ!)
『――イメージするのだ。先ほど感じたように』
また火球が飛んでくる! 足元は複雑に絡み合った木の根の迷路だ。一歩でも踏み外せばジ・エンド。
一瞬目を閉じ、炎を想像しようとしたが、脳裏に浮かんだのは『You Are Dead』と書かれた真っ暗な画面だけだった。
そして突然――足元の地面が、消えた。
「……え?」
苔むしたヌルヌルの崖を滑り落ちる。視界が反転し、ポンコツなピンボールのように岩にぶつかりながら斜面を転がり落ちて――
――ザッパーーーーーンッ!!
激しい水しぶき! 衝撃で肺から空気が押し出される。目を開けると、そこは深い青の闇。濁流が俺を川底へと引きずり込んでいく。
(笑えるぜ……異世界主人公のくせにカナヅチとか! 元の世界の奴らが聞いたら腹抱えて笑うような、劇的な最期だな!)
酸素が尽きかける。森の喧騒が消え、戦太鼓のように鳴り響く自分の心臓の音だけが聞こえる。
(生きたい……! なにがなんでも!)
溺れゆく中、奇妙な静寂が俺を包んだ。そして……感じた。
胸の奥から湧き上がり、全身の細胞へと流れ込む熱を!
『――炎を、イメージしろ』
いや、今回はイメージなんかじゃない……俺と炎が、一つの存在として同化する。
内側から爆発的な炎が噴き出した!
周囲の水が震え、巨大な水蒸気の泡が立ち上る。
冷たい水が温かくなり……数秒で沸騰し始めたのだ!
急激な蒸気圧が、俺をロケットのような勢いで水面へと押し上げる!
「ぷっはあああああっ!」
水面を突き破り、狂ったように空気を吸い込む。
泥だらけの岸辺に転がると、まるでオーブンから出たばかりのように全身から猛烈な湯気が立ち上っていた。
(俺……やったのか? 魔法に覚醒した結果、「人間瞬間湯沸かし器」になったってことか?)
俺は震えながら、ヒステリックに笑い出した。
「ははっ……すげえ! 溺死から助かったと思ったら、隠された力が『いつでも熱いお茶を淹れられる能力』だったとはな! どんなクソゲーだよ!」
◆ ◇ ◆
しばらく大の字になって、荒い息を整えた。
再び寒さが忍び寄り、ボロボロの服が気持ち悪く肌に張り付いている。未だに湯気を放っている自分の手を見つめた。
(待てよ……川を沸騰させられるなら、この炎魔法で服を乾かせるんじゃないか? このままじゃ、モンスターに食われる前に異世界の風邪でゲームオーバーだ)
意識を集中させる。胸の熱を引き出し、ゆっくりと慎重に手足へと向かわせた。
「よし……少しだけ温かく……『ヒーター機能』お願いしまーす……」
途端に、服からモワモワと大量の湯気が立ち上がり始めた!
心地好い温かさに包まれ、服が本当に乾き始める。
(ふふっ! 俺って天才か!? 炎魔法があれば乾燥機なんていらねえ! 環境適応能力高すぎだろ主人公!)
しかし……この呪われた世界では、何事もタダでは終わらないのがお約束だ。
調子に乗って、ほんの一秒だけ集中を切らした瞬間。
――チリチリッ!
焦げ臭い? 下を見ると……唯一のシャツの裾が黒く焦げ、本物の火が燃え移っているではないか!
「アッチィィィィ!? (熱い!) アチチチチッ!!」
俺はパニックに陥った猿のようにその場で飛び跳ね、全力でシャツをひっぱたいて火を消した。
(クソッ! 服を乾かしたかっただけなのに、あやうく炭火焼チキンになるところだったぞ! 魔法っていうか、ただのぶっ壊れた電子レンジじゃねえか!)
結果:脇腹に巨大な穴の開いたシャツと、砂漠で何週間も日焼けしたかのように真っ赤になった皮膚。俺は深くため息をついた。
「はぁ……破壊力:S、コントロール:Fってとこか。全身黒焦げになる前に、今日の魔法実験コーナーは終了にしよう」
◆ ◇ ◆
残りの魔力を回復させるための短い昼寝の後、目を覚ますと空は血のような赤に染まっていた。見知らぬブルーベリーのような木の実をかじり、慎重に歩みを進める。
そして……茂みの中で、俺はソレを見つけた。
真っ白な毛玉。長い耳と、無垢に輝く大きな目を持つウサギだ。(モグモグ)と、とても愛らしく草を食んでいる。
(おおぉぉ……なんて可愛い生き物! この悪夢みたいな森で、ついに『カワイイ』要素キター! やっとこの異世界も俺にデレてきたか!)
俺は警戒を解き、アホみたいな笑顔で手を伸ばした。
「よしよし……おいでチビちゃん……君は可愛いなぁ――」
ウサギは首を傾げ、俺に向かって微笑んだように見えた。
その瞬間……森の鳥たちの声がピタリと止んだ。不気味な静寂が落ちる。
「可愛い」ウサギの顔が、パックリと割れた!!
右耳から左耳にかけて、黒いヨダレを滴らせた鋭いサメの歯が何列も並んでいる!
「ギィシャァァァァァァッ!!」
怒り狂った悪魔のような咆哮を上げ、顔面めがけて砲弾のように飛びかかってきた!
「ヤメテェェェェェ!! 人喰いゾンビウサギーーーッ!?」
俺はショックで尻餅をつき、すぐさま反転して、疲れ切った筋肉が持てる最高速度で逃げ出した。
(この世界の設計者出てこい! ウサギまで捕食者とか聞いてねえよ! この世界に『カワイイ』なんて概念は存在しねえ! 全部俺を殺すためのデストラップじゃねえか!!)
背後から迫るウサギの跳躍音はホラー以外の何物でもなく、(カチッ……カチッ……)という歯を鳴らす音が俺の血液を凍りつかせる。
残り少ないボロ布を茨に引き裂かれながら、俺はこの容赦ないハードモードの理不尽さを呪って走り続けた。
◆ ◇ ◆
地平線に巨大な木の城壁が見えてきた頃、俺は墓場から這い出たばかりのゾンビのような有様だった。
顔は泥まみれ、髪はボサボサ。服は焦げて破れたボロ布の集合体で、隠している部分より見えている部分の方が多い。死にかけの老犬のようにゼェゼェと喘いでいた。
巨大な門の前で足を止める。そこには二人の門番が威風堂々と立っていた。
一人は、巨体と重厚な金属鎧を纏った男(ロン)。
もう一人は、軽装の革鎧を着た、氷のように冷たい美貌を持つ少女(クーデレ)。
俺が一歩足を踏み出した途端、ロンと呼ばれた男が威嚇するように大剣を抜いた。
「止まれ! お前は何者だ、胡散臭いよそ者め! ハッキリ答えねえと、犬の餌用にミンチにしてやるぞ!」
(よし、自動翻訳機能はまだ生きてるな!)。俺は物理的な疲労と絶望で、その場に膝から崩れ落ちた。
「俺は……ただの……哀れな旅人です……森で迷って……」
ロンは鼻で笑い、大声で吐き捨てた。
「旅人だと? あの『死の森』から生きて二本足で出てこられる奴なんざいねえ! 人間のクズに化けたモンスターに決まってやがる!」
そこへ、冷たい顔立ちの少女が一歩前に出た。彼女は鋭い視線で俺を上から下まで値踏みし……そして突然、人間が向けられる最大限の嫌悪感を込めた目で顔を背けた。
「剣を収めなさい、ロン……。この『物体』は、いかなる生命体に対する脅威にもなり得ないわ」
ロンが驚いて彼女を見ると、少女は感情の欠片もない氷のような声で続けた。
「よく見て。腐ったゴミ溜めから這い出たばかりの、惨めなゴキブリみたいじゃない。どれだけプライドのない悪魔やモンスターだって、ここまで完璧な『人間の底辺と失敗作』の姿に擬態するなんてプライドが許すはずないわ」
(…………グホッ!!)
見えない矢が心臓のど真ん中を貫いた!(毒舌美少女キッツ! えぐい! えぐすぎる!! 俺がさっきまでサメ歯のウサギと死闘を繰り広げてきたってのに、俺の人生ごと『失敗作の姿』扱いですか!?)
ロンはあからさまに退屈そうに剣を鞘に戻し、俺の焦げたシャツの襟をゴミ袋でも扱うように乱暴に掴み上げた。
「チッ。ならさっさと動け! 入れてやるが、少しでも問題を起こしたら外の野犬どもに放り投げるからな!」
そう言って、俺を木の門の向こう側へと力任せに突き飛ばした。
俺は一瞬だけ、安堵の息を吐く。(やっとだ……殺人ウサギのいないセーフティゾーン……!)
しかし、振り返って村の路地の暗がりや、冒険者たちの険しい顔つきを見た瞬間……俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
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