人生に疲れて南の島へ

ゆまは なお

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 ベッドで大倉の体温を感じながら、陽斗はふがいない自分を悔しく思う。
 誘われたら最後までするつもりだったのに、いざとなったら体が竦んでしまった。心の広い大倉は無理しなくていいと笑って、触りあうだけで終わってくれた。
 それはそれで気持ちがよかったし、好きな人と触れあって出せば満足はするけれど、大人の彼に我慢させたと思うといたたまれない。
 二十四歳にもなるのにセックスが怖いなんて、情けないにもほどがある。陽斗だって大倉が好きで、ちゃんと抱き合いたいと思っているのに。

 右も左もわからず、とにかく現状を変えたいと衝動的にやってきたこの国で、大倉はいつもさりげなく陽斗を助けてくれる。
 基本的に大らかな国民性だからおおむね快適に過ごしているが、それでも日本とは違う文化習慣の中で戸惑うことはたくさんあった。
 緊張からくる表情の乏しさと言葉が通じないことから、最初の頃は簡単なコミュニケーションエラーで誤解したりされたりすることもあったけれど、日本語を話せる生徒や大倉に助けられて、最近は多くの人から親しく声を掛けてもらえるようになってきた。

 この島に来てよかったと陽斗は心から思っている。
 あのまま日本に残っていたら、きっと心と体を壊して、病院のお世話になっていただろう。いや、すでに倒れて入院までしたのだから、もう限界だったのだ。
 日本の会社を思い出して、陽斗はきゅっと唇をかんだ。思い出すと今もまだ喉がつまったように息が苦しくなる。
 苦しくて逃げたくて、毎日が憂鬱だったあの頃。

 新卒で就職した会社で、陽斗は入社直後から先輩社員の一人からねちねちと陰湿な嫌がらせを受けるようになった。
 提出した書類を隠されたり、陽斗にだけ会議時間の変更を伝えなかったり、一つ一つは小さなことだけれど、陽斗のミスにつながるようなやり方が巧妙だった。
「今度の新人、使えないね」
「わかる。つまらないミスが多いよね」
 そんな評判が立つまで、それほど時間はかからなかった。

 誤解だと言いたくても、先輩社員のやり方は他人からはわかりにくく、陽斗がそう訴えたところで信じてもらえないことは明白だった。彼は陽斗以外にはそんなことをしないし、人当たりがよく仕事もできるという評判だったからだ。
 そして表面上は「まだ不慣れだからもう少し見守ってあげて」とか「僕の指導不足なのであまり怒らないでください」と陽斗をかばってくれていたのだ。
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