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第12章-2

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 綾乃と別れたあと、高2の1年間で、祐樹は6人の女の子とつき合った。最短で3週間、いちばん長くて4カ月。全部、相手から告白されて始まり、祐樹から終わらせた。

「どうしちゃったの、祐樹」

 3人目の彼女ができたとき、河野がふしぎそうに訊いてきた。7月のテスト終わりのことだ。

「なにが?」

「いままでとっかえひっかえなんてしなかったのに、急に次々つき合うようになったから。なんかあったのかと思うじゃんか」

「べつに何もないよ。たまたま告白されて、いいなと思ってつき合ってみたけど違ったってだけで。二股はしてないよ」

「それはわかってるけど。いいなとは思ってるんだ?」
「思わなきゃつき合わないよ。なんで?」

「だって3人とも全然タイプ違うじゃん。押し切られてるんじゃないのか?」

 よく見てるよなと河野の心配そうな顔に、“王子さまの笑顔”で笑って見せた。4月から意識して作るようになった笑顔だ。

「どんなタイプが合うかわからないから、いろいろつき合ってみようかなって。それだけ」

「…まあ、それはわかるけど。じゃあ好きな子とつき合ってるわけじゃないのか」

「好きになれそうな子を選んでるんだけど。…これってあんまよくない?」

「いや、そんなことないけど。始めはそうじゃなくても、つき合ってるうちに好きになることもあるだろうし」

 祐樹は意識してやわらかい表情を浮かべた。

「初めての彼女が年上だったから、同級生とか下級生の彼女ってよくわからなくて。試行錯誤中?」 

 どこか釈然としない顔で、河野は眉間にしわを寄せる。

「祐樹、最近変わったし。前はもっと元気だったっていうか、わかりやすかったっていうか。いまはなんか…、お上品に作ってる感じがする」

 祐樹はちょっと困って目を伏せた。感情が顔に出ないようにコントロールする。

 それは意識してやっていることだった。

 こっそりお手本にしているのは東雲だ。張りがあるのにやわらかな話し方や、にっこりと笑って内心を悟らせないところなど、東雲のたたずまいというかふるまいは祐樹の理想に近い気がした。

 いままでのように好きなことを言って、甘え上手の末っ子というキャラのままではいられないと思った。この先はもっといろいろと注意深くならなければ。

 そう思うと感情のままにしゃべって、照れて顔を赤くしたり怒ってふくれっ面をしたりということができなくなった。本音を見せるのが怖くなったのだ。

「大人になろうと思って」
 などと河野にはうそぶいて見せたが、単に怖がっているだけだ。

 じぶんを隠したい気持ちがそうさせるのだ。やましい気持ちがあるから、本当のじぶんをだれにも見せられないと、ポーカーフェイスを身につけることを覚え始めていた。

 王子さまの仮面をつけて、やわらかな笑顔を作って見せながら、こんなじぶんを好きになってもらって意味はあるんだろうか、とふと思うこともある。嘘だらけのじぶんに気持ちを向けられても、そんなの無意味じゃないのか、と。

 それでも感情を隠す訓練はやめられなかった。


 7月になって東雲から連絡があり、約束通り芙蓉の花を見に行った。

 東雲とのドライブはやはりリラックスできた。大人の男性の余裕が東雲にはあって、祐樹のささくれた感情などふわりと包みこんでくれるような気分になる。

 そもそもそれほど親しいわけでもない東雲のまえではじぶんを繕う必要などなく、王子さまの祐樹ではなく素の祐樹のままでいられる。

 高速のPAでソフトクリームを食べ、おいしい蕎麦屋があるからと昼は天ぷらそばをごちそうになった。隠れ家的な山のなかのその店は、いかにも大人の行くたたずまいの店だった。

 東雲はどういうつもりでじぶんを誘うのだろう。ちょっと年下の弟みたいな気持ちでかわいがってくれているんだろうか。それとももっと別の何かがある? 考えてみたものの、答えは出ない。

 取り立てて思わせぶりな態度をとるわけでもないし、なにか誘いかけられるということもない。ごくごく健全にドライブして花を見て、植物園や美術館にも寄ったりする。

 時おり見せる男っぽい仕草にどきっとすることもあるが、祐樹はそっと目をそらしてなかったことにした。これは年上の男性への憧れだ。なにしろお手本にしているのだから。

 二度目のドライブも夕食前に最寄駅まで送られて、穏やかな気分で別れを告げた。
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