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香種上位の国3
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「助けてもらって食事まで頂いたし、俺で役に立つなら何でもするよ」
それを聞いた飛煌はにやりと笑う。ちょっと人の悪そうなその笑顔もいいなと思う。
「大丈夫、そんなに難しいことじゃない」
飛煌は足取り軽く樹海に入っていく。ペルルノアはその身軽さに驚きながらついていった。
途中で赤い猿のような妖魔に出会ったが、ペルルノアが剣を抜く間もなく飛煌が一撃で倒していた。その剣さばきにペルルノアはあっけに取られた。
昨日も水妖を倒したのを見たが、それと同じくためらいのない見事な動きだった。ペルルノアは剣を使うオメガに会ったのは初めてだから、オメガも鍛錬すればこんな動きができるのかと本気で驚いた。
「飛煌はすごいな」
「そうか? 巫術師ってこういうものだけど」
飛煌はまったく当然の顔をしている。
やはり魔術騎士に近い存在なんだなとペルルノアは思った。
「妖魔に会ったらできる限り、一撃で仕留めろ。彼らの牙や爪は鋭いし体液は毒がある。攻撃される前に止めるのが最良だ」
冷静な目つきでそんなことを言う姿は一人前の剣士そのものだった。
「わかった。心掛ける」
さらに進んだ飛煌は、森の中の小さな祠の前で足をとめ、丁寧に拝跪した。ここが目的地らしい。
「ここの草刈りをしてくれ」
祠の中に置いてあった小さな鎌を渡され、ペルルノアは祠の周囲の草を刈った。飛煌は祠に貼られた古い札を丁寧に剝がしていく。黄色の紙には黒い文字が書かれており、気になったペルルノアはそれを手に取った。
何だろう、とても懐かしい気持ちがして、見覚えがあるような気がする。どこで見たんだろう?
「ノア、どうした?」
新しい札を貼る手を止めて、飛煌が不審そうに見上げている。
「いや、何でもない」
ペルルノアは札の文字を人差し指でなぞった。思い出せないが、確かにどこかで見た気がする。
「トウレイ国の文字って複雑だな」
「それは巫術の呪文だ。結界を保持する力がある」
トウレイ人が樹海を歩き回れるのはこの結界のおかげらしい。やはり不思議な国だと思わざるを得ない。
掃除を終えた祠に飛煌は新しい札を貼り、もう一度、拝跪してからまた歩き出す。
歩いている途中、飛煌は時おり、足を止めた。両手の指を組んで何か呪文のようなものを唱えると、その場の空気がぱあっと変わる。
例えるなら、淀んだ灰色の空気が透き通った緑に入れ変わったような感じだ。
「いま何をしたんだ?」
「瘴気を払ったんだよ」
「しょうきって何だ?」
「陰の気だ。妖魔や人の死が多い場所には瘴気が溜まって、長く吸っていると生きている者にも害を及ぼす。だから定期的にそれを払って回るんだ」
「なるほど。それが巫術師の仕事?」
「そうだよ。そうやって妖魔を寄せ付けないようにして国の安全を守るのが巫術師の役目」
「ということは、ここからトウレイ国の王宮にはどう行くか知ってるか?」
「ノアは王宮に行きたいのか? 何をしに?」
飛煌の問いにペルルノアは身分を明かしていいのか一瞬、迷った。でも案内人もいない状態で、独力で王宮にたどり着けるとは思えない。
ウーヤンは国境から王宮までは半月ほどかかる距離だと言っていた。それならまだ道のりの半分も来ていないのだ。飛煌に道案内を頼むしかない。
たった一人で王に会ったところで国交を開いてくれるとは限らないが、使命を果たさなければ命を失った騎士団にも申し訳がたたない。とにかく王宮に行こう。
「飛煌、ちょっと話がしたい。落ち着ける場所はあるか?」
「そうだな。この先に茶屋がある。そこで休憩しよう」
「は? 茶屋があるのか?」
樹海の中にそんなものがあるとは。驚くペルルノアに飛煌は「もちろんあるよ」と当然のように答えて歩き出し、森を抜けると道に出た。道と言っても人が歩いて踏み固めた林道だ。
しばらく歩くと茶屋は本当にあった。というより小さな集落だ。
食堂がついた宿と雑貨屋らしい店、それに茶屋が並んでいる。やけに立派な厩舎が目についた。その集落を囲んで背丈ほどの壁が築かれているのは獣や妖魔を避けるためだろう。
手作りらしい木のテーブルと椅子が置いてある茶屋に、飛煌は慣れた様子で入って行った。
店主とは顔見知りのようで気安く挨拶しているがトウレイ語なので会話の内容はわからない。背もたれのない木の椅子に向かい合って座った。
「よく来るのか?」
「まあな。樹海の中の店は限られてるし」
「つまり、こういう店はいくつかあるのか?」
「あるよ。でも街道沿いだけで奥地にはないけど」
それを聞いてペルルノアは眉をひそめた。
樹海には宿や町はなく天幕や馬車で寝泊まりするしかない。ウーヤンはそう言って獣道を進み、使節団は散り散りになるまで野営だった。
こんな集落があるなんてひと言も言わなかった。ペルルノアはそれを不審に思った。
国境の町ハベナリアで出会って、滅多にいないトウレイ人の護衛ということで雇ったけれど、本当は兄の手先だったんだろうか。あるいは弟の?
魔の樹海で命を落としたなら誰も不思議に思わない。ウーヤンが案内したのは本当に王宮への道だったのか?
それを聞いた飛煌はにやりと笑う。ちょっと人の悪そうなその笑顔もいいなと思う。
「大丈夫、そんなに難しいことじゃない」
飛煌は足取り軽く樹海に入っていく。ペルルノアはその身軽さに驚きながらついていった。
途中で赤い猿のような妖魔に出会ったが、ペルルノアが剣を抜く間もなく飛煌が一撃で倒していた。その剣さばきにペルルノアはあっけに取られた。
昨日も水妖を倒したのを見たが、それと同じくためらいのない見事な動きだった。ペルルノアは剣を使うオメガに会ったのは初めてだから、オメガも鍛錬すればこんな動きができるのかと本気で驚いた。
「飛煌はすごいな」
「そうか? 巫術師ってこういうものだけど」
飛煌はまったく当然の顔をしている。
やはり魔術騎士に近い存在なんだなとペルルノアは思った。
「妖魔に会ったらできる限り、一撃で仕留めろ。彼らの牙や爪は鋭いし体液は毒がある。攻撃される前に止めるのが最良だ」
冷静な目つきでそんなことを言う姿は一人前の剣士そのものだった。
「わかった。心掛ける」
さらに進んだ飛煌は、森の中の小さな祠の前で足をとめ、丁寧に拝跪した。ここが目的地らしい。
「ここの草刈りをしてくれ」
祠の中に置いてあった小さな鎌を渡され、ペルルノアは祠の周囲の草を刈った。飛煌は祠に貼られた古い札を丁寧に剝がしていく。黄色の紙には黒い文字が書かれており、気になったペルルノアはそれを手に取った。
何だろう、とても懐かしい気持ちがして、見覚えがあるような気がする。どこで見たんだろう?
「ノア、どうした?」
新しい札を貼る手を止めて、飛煌が不審そうに見上げている。
「いや、何でもない」
ペルルノアは札の文字を人差し指でなぞった。思い出せないが、確かにどこかで見た気がする。
「トウレイ国の文字って複雑だな」
「それは巫術の呪文だ。結界を保持する力がある」
トウレイ人が樹海を歩き回れるのはこの結界のおかげらしい。やはり不思議な国だと思わざるを得ない。
掃除を終えた祠に飛煌は新しい札を貼り、もう一度、拝跪してからまた歩き出す。
歩いている途中、飛煌は時おり、足を止めた。両手の指を組んで何か呪文のようなものを唱えると、その場の空気がぱあっと変わる。
例えるなら、淀んだ灰色の空気が透き通った緑に入れ変わったような感じだ。
「いま何をしたんだ?」
「瘴気を払ったんだよ」
「しょうきって何だ?」
「陰の気だ。妖魔や人の死が多い場所には瘴気が溜まって、長く吸っていると生きている者にも害を及ぼす。だから定期的にそれを払って回るんだ」
「なるほど。それが巫術師の仕事?」
「そうだよ。そうやって妖魔を寄せ付けないようにして国の安全を守るのが巫術師の役目」
「ということは、ここからトウレイ国の王宮にはどう行くか知ってるか?」
「ノアは王宮に行きたいのか? 何をしに?」
飛煌の問いにペルルノアは身分を明かしていいのか一瞬、迷った。でも案内人もいない状態で、独力で王宮にたどり着けるとは思えない。
ウーヤンは国境から王宮までは半月ほどかかる距離だと言っていた。それならまだ道のりの半分も来ていないのだ。飛煌に道案内を頼むしかない。
たった一人で王に会ったところで国交を開いてくれるとは限らないが、使命を果たさなければ命を失った騎士団にも申し訳がたたない。とにかく王宮に行こう。
「飛煌、ちょっと話がしたい。落ち着ける場所はあるか?」
「そうだな。この先に茶屋がある。そこで休憩しよう」
「は? 茶屋があるのか?」
樹海の中にそんなものがあるとは。驚くペルルノアに飛煌は「もちろんあるよ」と当然のように答えて歩き出し、森を抜けると道に出た。道と言っても人が歩いて踏み固めた林道だ。
しばらく歩くと茶屋は本当にあった。というより小さな集落だ。
食堂がついた宿と雑貨屋らしい店、それに茶屋が並んでいる。やけに立派な厩舎が目についた。その集落を囲んで背丈ほどの壁が築かれているのは獣や妖魔を避けるためだろう。
手作りらしい木のテーブルと椅子が置いてある茶屋に、飛煌は慣れた様子で入って行った。
店主とは顔見知りのようで気安く挨拶しているがトウレイ語なので会話の内容はわからない。背もたれのない木の椅子に向かい合って座った。
「よく来るのか?」
「まあな。樹海の中の店は限られてるし」
「つまり、こういう店はいくつかあるのか?」
「あるよ。でも街道沿いだけで奥地にはないけど」
それを聞いてペルルノアは眉をひそめた。
樹海には宿や町はなく天幕や馬車で寝泊まりするしかない。ウーヤンはそう言って獣道を進み、使節団は散り散りになるまで野営だった。
こんな集落があるなんてひと言も言わなかった。ペルルノアはそれを不審に思った。
国境の町ハベナリアで出会って、滅多にいないトウレイ人の護衛ということで雇ったけれど、本当は兄の手先だったんだろうか。あるいは弟の?
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