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第2章の2 新天地
第38話 勧誘
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俺たちが入室するのを見て、ギルド長のベスタフはいきなり立ち上がった。そして、好意的な笑みを浮かべた。
「出立する前の、貴重な時間をいただき、申し訳ありません。 どうぞ、席におかけください」
ベスタフは、深く頭を下げ一礼した。
俺は、少し離れた、マサンの背後の位置に立った。そんな俺の様子を見ても、ベスタフは何も言わなかった。俺の事は、眼中に無いようだ。
「初めまして、マサン殿。 ベルナ王国のナーシャである。 以後、お見知りおきを」
マサンが席に着くと、対面に座るナーシャが軽く頭を下げた。高圧的な雰囲気は、相変わらずだ。
しかし、変わった事もある。美しく華やかだった容姿は、老化のせいか、すっかり衰えていた。時は残酷である。
俺は、ムートに初めて来た10歳の頃より、国を捨てた15歳になるまでの間、ナーシャを何度も見た。
しかし、見たと言っても、直接、言葉を交わした訳ではない。集会等で訓示を述べる彼女を、見かけたと言った方が正しい。
しかも、俺は20歳になった。見かけも変わった。彼女が俺の事を、イースだと気づく可能性は極めて低いだろう。
マサンは、ナーシャに対し軽く頭を下げただけで、言葉を返さなかった。それどころか、無表情で笑顔も見せない。弟弟子が、ムートで受けた仕打ちを、慮ってのようだ。
マサンの態度を見て、ナーシャは、露骨に顔をしかめた。
そんな2人を見て、ベスタフは困ったような顔をした。
「マサン殿に話す前に、人払いをお願いする。 ベスタフ殿と、そこに立っておる弟子には、即刻、退席されるように!」
ナーシャは、当然のように言い放った。
「それは困る! 2人に聞かれたく無い話なら、私も聞かない」
2人が退席しようとするのを制し、マサンは声を荒げた。
「無礼な! 何を言っておる」
ナーシャは、マサンを睨みつけた。恐らくは、公爵家のプライドが、そうさせたのだろう。
「笑止。 無礼とは酷い言いようだ! 全く、話にならない。 私は、これにて失礼する」
マサンの声に共鳴し、部屋全体が、ガタガタと音を立てて振動した。怒りで魔力が溢れたようだ。
それを見て、ナーシャは青くなった。見かけは弱々しい女性が高名な魔道士である事を、実際に起きた事象を見て思い知ったのだ。
「すまなかった。 どうか、話だけでも聞いてくれ」
ナーシャは、すっかり態度を改めた。
「早く言え!」
マサンは、不機嫌そうに一言だけ返した。ナーシャは、そんなマサンを見ても、怒らない。
弱気に強く、強気に弱い、分かりやすい性格だ。
「これから話す内容には、軍事機密も含まれるため、他言しないでいただきたい …」
ナーシャは、覚悟を決めるため、一旦、言葉を呑み込んでから、深く息を吐いた。
「それでは話す …。 我がベルナ王国は、2つの大国に挟まれ、苦難の道のりを歩んで来た。 これまでは、卓越した力を発揮する上級魔法使いにより、相手国と力の均衡を保ってきたのだが、数年前から、理不尽にもサイヤ王国から、より強い圧力が加わるようになってきた。 これに対抗するため、我がベルナ王国は、特別軍事作戦を展開したのだ。 この軍事作戦を遂行するにあたり、我がムートが排出した3傑が活躍しておる。 この3人の名声は、広く世間に知れ渡っておるから、当然、知っておろう。 彼らにより、多くの戦果を収めてきたが、このような中、卑怯にもサイヤ王国は、50万もの兵を出し、数の力で我が国に攻め入ろうとしておる。 この戦線においては、3傑の一人でありベルナ王国最強の魔法使いでもあるビクトリア将軍が、わずか5千の聖兵で2万もの兵を蹴散らした実績があるが、さすがに50万の兵が相手となると厳しい …。 これに対抗するため、先に軍議が開かれ、総勢24万の聖兵を派兵する事が決まった。 数では劣るが、決して負けない聖戦士たちが集結するのだ! そこで、マサン殿にお願いがある」
ナーシャは、自信に満ちた表情でマサンを見つめた。
しかし、マサンの反応は薄い。
「マサン殿の卓越した魔道士の力により、我が国の将軍となっていただきたい。 そして、天地を揺るがす大魔法を駆使し 相手を蹴散らしてほしいのだ。 また、与えられた8万の聖兵を率い、ビクトリア将軍の聖兵8万と協力して戦ってほしいのだ! ベネディクト王は、マサン殿に伯爵の爵位を与えると言われておる。 決して、悪い話では無い」
ナーシャは、熱意をもって語ったが、マサンの反応は、相変わらず薄い。
その様子を見て、居た堪れなくなったのか、ベスタフが口を挟んだ。
「ベルナ王国最強と謳われるビクトリア将軍ですが、僅か5千の兵で4倍の2万の兵を蹴散らすとは、なんと凄まじい事か! これが8万の兵なら32万の兵に対抗し得る事になる …。 他に16万の兵がいれば勝てようものだな。 今回の派兵だが、3傑の内、他の2人はいかがするのか気になる?」
ベスタフが質問しても、マサンは上の空といった感じだ。ナーシャは、少し興奮しているようで、マサンの様子を気にもとめない。
「ベスタフ殿からの質問、マサン殿からと思い答えよう。 3傑筆頭のシモン宰相は出兵できないが、ガーラ参謀は、8万の聖兵を率いて参戦する。 つまり、ビクトリア、ガーラ、マサン、この3人の将軍が、それぞれが8万の聖兵を率い、連携し、24万の聖兵で、敵の50万の兵を蹴散らすのだ。 ベスタフ殿も存じておる通り、我が国には、ムートを卒業した優秀な指揮官が多数いるのだが、その者たちが、将軍配下の指揮官となる。 だから、数だけの大国に負ける道理は無い!」
ナーシャは、自信をもって答えた。
「出立する前の、貴重な時間をいただき、申し訳ありません。 どうぞ、席におかけください」
ベスタフは、深く頭を下げ一礼した。
俺は、少し離れた、マサンの背後の位置に立った。そんな俺の様子を見ても、ベスタフは何も言わなかった。俺の事は、眼中に無いようだ。
「初めまして、マサン殿。 ベルナ王国のナーシャである。 以後、お見知りおきを」
マサンが席に着くと、対面に座るナーシャが軽く頭を下げた。高圧的な雰囲気は、相変わらずだ。
しかし、変わった事もある。美しく華やかだった容姿は、老化のせいか、すっかり衰えていた。時は残酷である。
俺は、ムートに初めて来た10歳の頃より、国を捨てた15歳になるまでの間、ナーシャを何度も見た。
しかし、見たと言っても、直接、言葉を交わした訳ではない。集会等で訓示を述べる彼女を、見かけたと言った方が正しい。
しかも、俺は20歳になった。見かけも変わった。彼女が俺の事を、イースだと気づく可能性は極めて低いだろう。
マサンは、ナーシャに対し軽く頭を下げただけで、言葉を返さなかった。それどころか、無表情で笑顔も見せない。弟弟子が、ムートで受けた仕打ちを、慮ってのようだ。
マサンの態度を見て、ナーシャは、露骨に顔をしかめた。
そんな2人を見て、ベスタフは困ったような顔をした。
「マサン殿に話す前に、人払いをお願いする。 ベスタフ殿と、そこに立っておる弟子には、即刻、退席されるように!」
ナーシャは、当然のように言い放った。
「それは困る! 2人に聞かれたく無い話なら、私も聞かない」
2人が退席しようとするのを制し、マサンは声を荒げた。
「無礼な! 何を言っておる」
ナーシャは、マサンを睨みつけた。恐らくは、公爵家のプライドが、そうさせたのだろう。
「笑止。 無礼とは酷い言いようだ! 全く、話にならない。 私は、これにて失礼する」
マサンの声に共鳴し、部屋全体が、ガタガタと音を立てて振動した。怒りで魔力が溢れたようだ。
それを見て、ナーシャは青くなった。見かけは弱々しい女性が高名な魔道士である事を、実際に起きた事象を見て思い知ったのだ。
「すまなかった。 どうか、話だけでも聞いてくれ」
ナーシャは、すっかり態度を改めた。
「早く言え!」
マサンは、不機嫌そうに一言だけ返した。ナーシャは、そんなマサンを見ても、怒らない。
弱気に強く、強気に弱い、分かりやすい性格だ。
「これから話す内容には、軍事機密も含まれるため、他言しないでいただきたい …」
ナーシャは、覚悟を決めるため、一旦、言葉を呑み込んでから、深く息を吐いた。
「それでは話す …。 我がベルナ王国は、2つの大国に挟まれ、苦難の道のりを歩んで来た。 これまでは、卓越した力を発揮する上級魔法使いにより、相手国と力の均衡を保ってきたのだが、数年前から、理不尽にもサイヤ王国から、より強い圧力が加わるようになってきた。 これに対抗するため、我がベルナ王国は、特別軍事作戦を展開したのだ。 この軍事作戦を遂行するにあたり、我がムートが排出した3傑が活躍しておる。 この3人の名声は、広く世間に知れ渡っておるから、当然、知っておろう。 彼らにより、多くの戦果を収めてきたが、このような中、卑怯にもサイヤ王国は、50万もの兵を出し、数の力で我が国に攻め入ろうとしておる。 この戦線においては、3傑の一人でありベルナ王国最強の魔法使いでもあるビクトリア将軍が、わずか5千の聖兵で2万もの兵を蹴散らした実績があるが、さすがに50万の兵が相手となると厳しい …。 これに対抗するため、先に軍議が開かれ、総勢24万の聖兵を派兵する事が決まった。 数では劣るが、決して負けない聖戦士たちが集結するのだ! そこで、マサン殿にお願いがある」
ナーシャは、自信に満ちた表情でマサンを見つめた。
しかし、マサンの反応は薄い。
「マサン殿の卓越した魔道士の力により、我が国の将軍となっていただきたい。 そして、天地を揺るがす大魔法を駆使し 相手を蹴散らしてほしいのだ。 また、与えられた8万の聖兵を率い、ビクトリア将軍の聖兵8万と協力して戦ってほしいのだ! ベネディクト王は、マサン殿に伯爵の爵位を与えると言われておる。 決して、悪い話では無い」
ナーシャは、熱意をもって語ったが、マサンの反応は、相変わらず薄い。
その様子を見て、居た堪れなくなったのか、ベスタフが口を挟んだ。
「ベルナ王国最強と謳われるビクトリア将軍ですが、僅か5千の兵で4倍の2万の兵を蹴散らすとは、なんと凄まじい事か! これが8万の兵なら32万の兵に対抗し得る事になる …。 他に16万の兵がいれば勝てようものだな。 今回の派兵だが、3傑の内、他の2人はいかがするのか気になる?」
ベスタフが質問しても、マサンは上の空といった感じだ。ナーシャは、少し興奮しているようで、マサンの様子を気にもとめない。
「ベスタフ殿からの質問、マサン殿からと思い答えよう。 3傑筆頭のシモン宰相は出兵できないが、ガーラ参謀は、8万の聖兵を率いて参戦する。 つまり、ビクトリア、ガーラ、マサン、この3人の将軍が、それぞれが8万の聖兵を率い、連携し、24万の聖兵で、敵の50万の兵を蹴散らすのだ。 ベスタフ殿も存じておる通り、我が国には、ムートを卒業した優秀な指揮官が多数いるのだが、その者たちが、将軍配下の指揮官となる。 だから、数だけの大国に負ける道理は無い!」
ナーシャは、自信をもって答えた。
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