【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第2章の2 新天地

第70話 サイヤ王国へ

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 マサンが出て行ってから、俺とメディア2人きりの生活は、最初は気まずかったが、彼女の気さくな性格もあって、次第に打ち解けるようになっていった。

 ポーチの中に食材が十分にあるから、食事の心配はない。
 それに、メディアがご馳走を作ってくれるから、自分の母親の事を思い出してしまい、目頭が熱くなったりした。
 
 彼女は、身の上を恥じる事なく話すから、俺も、次第に気を許し、自分の事を語るようになっていた。

 その際に、メディアは、シモンがした事を、何度も謝罪した。

 複雑な気持ちではあったが、メディアの優しい人柄に好感を持てるようになり、お互い辛い過去を抱えた身の上を理解し、同情とも取れる連帯感のようなものが芽生えるようになった。

 マサンが居ない寂しさや不安もあったが、メディアのおかげで、それを考えないで過ごす事ができた。


 魔法の水晶については、常に目につく場所に置いてあったが、マサンからの連絡はなかった。
 しかし、それでもとメディアに言われ、マサンが出て行ってから3日目の夕方に、水晶を手に取って覗き込んでみた。


「ねえ、水晶の中に、小さく星のように光る点があるけど? 私は、歳を取って目が悪くなってるから、よく見えないけれど …。 これって、光ってるよね …」


「確かに光ってる。 何だろう? 魔道書で水晶の見方を確認して見るよ」

 俺は、ポーチから魔道書を取り出した。


「イースも、この本を持っていたんだ …」

 メディアは、懐かしそうに大きく重い書籍を手に取った。


「ああ。 マサンから貰ったんだ」


「凄く貴重な本よね。 マサンは必要ないのかしら?」


「全て、頭に入ってると言ってた」

 俺の話を聞いて、彼女は目を丸くして驚いた。

 その後、メディアと魔道書を読み解きながら水晶を触っていると、小さく光る点が次第に大きくなり、映像に移り変わった。


「エッ、これは …」

 俺は、驚きのあまり息を呑んだ。

 最初に、ビクトリアの怒りに満ちた表情が見えた。
 また、マサンの、彼女を蔑むような音声も入っており、最後は、ビクトリアが発する、光の矢の攻撃を受けて映像が途切れた。


「ビクトリアが冷たくて薄情な人だと、マサンが言ってたけど …。 それに、戦っているように見える …。 これって、なに?」

 メディアは、俺の顔を心配そうに見つめた。


「マサンが危ない! 直ぐに加勢しないと! これからマサンを助けに行く!」

 俺が興奮して立ち上がると、メディアも立ち上がり、行く手を阻んだ。


「待って! これは、3日も前の映像なのよ。 今から行っても、間に合わない …。 マサンは、5日間待てと言った。 あと、2日あるから、彼女が来るのを待つのよ!」

 メディアは、俺の手を握りしめ、大きな声で言い聞かせた。


◇◇◇


 あれから、魔法の水晶を持ち歩き、マサンからの連絡を待ったが、結局、5日を過ぎても音沙汰がなかった。
 俺が、落ち込んでいると、メディアが強く背中を叩き、大声で叱った。


「何をショボくれてるのよ! 男なんだから決断しなさい。 マサンの言いつけを守って、サイヤ王国に向かうのよ! 彼女は、伝説の魔道士ジャームの弟子なのよ! 負ける訳がないでしょ! 私は、ジャームの事を良く知ってるけど、よほど天賦の才がなければ弟子に取らないのよ! 私は、弟子になれなかった。 でもね、マサンは違った。 マサンは、ジャームに選ばれた娘なの。 3傑だろうが何だろうが、彼女に敵うはずがないわ。 先に行って、マサンを待ってれば良いのよ!」  


「ああ …」

 俺は、やっとの思いで返事をした。


 結局、マサンをこれ以上待てず、サイヤ王国に向かう事にした。

 俺が知ってる空間移動ポイントは、ベルナ王国にある「魔法の門」しかない。
 しかし、メディアは、冒険者時代に、多くの空間移動ポイントを使っており、今でも覚えていた。

 結局、メディアに案内されて、サイヤ王国の国都に、直接、出る事ができた。

 マサンは、こうなる事を見越していたのだろうか …。
 とても、敵わないと思った。


◇◇◇


 サイヤ王国の国都は、人口が多く、立派な建物が密集していた。
 また、道路の幅が広く、機能的に都市造りがされている印象だ。

 それに、外国人も多く、様々な人種が見られた。
 ベルナ王国のように、戦時色に染められた感じはなく、この国は大国なのだと、改めて感じた。

 俺たちは、市街地の中心部に宿を取った。
 
 部屋の中から、遠くの方に、白く美しい巨大な城が見える。
 メディアは、冒険者時代に、何度かこの国に訪れたとの事で、懐かしむように城を眺めていた。


「遠くに見た感じだけど、サイヤ王国の城は、かなり規模が大きいよな」

 この国は大国だけあって、全てにおいてベルナ王国を上回っているように思えた。 


「そうね。 ベルナ王国の城とは比べ物にならない位大きいわ。 あの中にワムがいる」


「エッ、城に住んでるのか?」


「国王付きの魔道士で雇われているわ。 職責は、宰相クラスだそうよ。 王族の居住空間の近くにいると思うわ」


「そんなに偉いのか …。 ワムの面会だけど、いきなり行ってだいじょうぶかな?」

 メディアの話を聞いて、俺は、少し不安になってきた。


「多分無理よ。 魔法のマントを被って透明になって行くしかないと思うわ」


「じゃあ、2人で被るか?」


「2人だと、動きが鈍くなって危険よ。 私は、ここで待っているから、一人で行ってらっしゃい。 それから …。 もしも、見つかって姿を現す場合は、イーシャになるのよ」


「どうしてだい?」


「ワムは、女性が苦手で恥ずかしがり屋なの …。 でも、女性に優しい」

 メディアは、何かを思い出したのか、少し頬を赤くしていた。
 
 
◇◇◇


 俺は、メディアに十分な滞在費を渡し、彼女を宿に一人残して、早速、城に向かった。

 魔法のマントを被り、最初から透明になっている。
 人混みの中を、すり抜けながら城を目指したが、かなりの距離があり、到着したのは夕方になっていた。

 遠くから見えた、白く美しく巨大な城が、そびえ立っている。
 思わず目を奪われる、圧巻の景色だ。

 そして、正面には大きな門があり、衛兵が厳重に警備していた。

 俺は構わず、門の方へ歩を進めた。
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