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第3章 孤独の先に
第92話 イースの親友(ビクトリア主観
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パル村に設置された、軍の大規模駐屯地が何者かに襲撃された。
この事がキッカケで多数の囚人が脱走し乱闘騒ぎとなり、多くの死傷者が出た。
現在、軍に馴染めず脱走する兵が多すぎて、牢がパンク状態にある。これらの者が、凶悪な囚人と化したのだ。
脱走する者が後を絶たないのは、過度な徴兵が原因であり、これに対し国民の怒りが増幅している。公然と、国を批判する輩も出てきた。
これらの不穏な空気を一蹴するため、秘密警察が無理な取り締まりを行っている。
国民の不満は、日を追うごとに増大して行った。
事件の報告を受けて、国都よりガーラ参謀が訪れたため、私も最前線を離れ、パル村の軍の大規模駐屯地に赴いた。
「おお、ビクトリア、来たか! 後の処理を、そなたに任せるぞ。 良いな」
ガーラは、顔を会わせるなり、いきなり話しかけて来た。
面倒な事を私に押し付けて、逃げようとする魂胆が透けて見える。
「後の処理とは?」
私は、白々しく聞いた。
「問題を起こした囚人の処刑と、脱走を許した幹部の処断だ。 他に、侵入者の探索については、秘密警察に捜査を指示したから、後日、そなたが報告を受けよ」
やはり、面倒な後始末だった。
特に脱走した囚人の処刑は、国民感情を逆撫でし批判の矛先となる。ガーラは、矢面に立たされる事を避けたのだ。
「承知しました。 して、ガーラ参謀は?」
参謀の言う事には逆らえない。
「急用で、国都に戻る。 それから …。 私の最前線への赴任であるが、徴兵が芳しくないから、当分の間は無いと思え。 だから、今まで通り、そなたが最前線の司令官として死守するのだ」
勝手な言い分である。
「承知しました …」
私は、下を向いて怒りを抑えた。
◇◇◇
ガーラが去ってから、私は駐屯地の幹部を召集し、会合を開いた。
詳しく、状況を報告させたのである。
皆、責任を感じているのか、神妙な面持ちであった。
今回の事件に関わった者達は、全て拘束され、量刑の案まで示されてある。
私が署名するだけで執行されるのだが、複雑な気分だ。
他に、事件のキッカケとなった潜入者は、魔石鉱山に入った事まで突き止めたが、その後の行方は分からなかった。
捜査は、秘密警察に委ねられていた。
私は、再発防止の徹底について檄を飛ばした後、幹部の面々を見据えた。
殆どがムート出身のためか、Sクラスだった私を尊敬の眼差しで見ている。
自分は、人に敬われるような存在ではない。イースにした事を考えると、むしろ、蔑まれるべき人間なのだ。
それを思うと、胸が苦しくなった。
そんな中、明かに他の者と違い、私を敵視するかのような目を向けて来る者がいた。
良く見ると、どこかで見たような気がする。
だから、会合を終えてから、その者に近づいた。
「そなた、どこかで会った事はあるか?」
「はっ! 僭越ながら、ビクトリア司令官とは、ムートで何回かお会いしております」
「そうであったか …」
「自分は大隊長のベアスです。 騎士の特殊訓練を担当しております」
私は、思い出せず、さらにベアスという男の顔をマジマジと見た。
「覚えて無いのは無理もありません。 今から、7年も前の事です。 Aクラスのジダンに、親友が殺されかけたところを、ビクトリア司令官に助けられました」
「えっ、ジダン? 私が助けた親友って …」
私には、心当たりがあった。
「はい、イースです」
元恋人の名を聞いて狼狽えた。
そして、全てを思い出した。
「確か、あの時、私をイースのところに案内した少年 …」
「そうです。 ビクトリア司令官も少女でした。 懐かしいです」
ベアスからは、会合の時の私を敵視するような表情は消えていた。
「少し、別室で話さぬか?」
「エッ、自分とですか?」
ベアスは、少し驚いたような顔をしたが、結局、彼の執務室に行って話をする事になった。
幹部クラスの将校ともなると、それぞれに専用の個室が与えられていた。
「それで …。 イースが親友だと言っていたが、彼の居所は分かるのか?」
私は、変に勘ぐられないように、サラッと話した。
「知りません。 彼はダンジョンの街で、多くの聖兵を殺めた大罪人です。 居所が分かれば報告します」
ベアスは、淡々と答えた。
「そうだな」
私が答えると、ベアスは少し考え込んだ様子で下を見た。
「実は …。 ダンジョンの街に居た男がイースである事を、自分が証言しました」
「証言したとは、どういう事だ?」
「前の赴任地は、ダンジョンの街でした。 マサンとイースを捕らえようとして、自分も戦ったのです。 相手は顔を隠していたのですが、フードがめくれた時に見えたんです。 あれは、間違いなくイースでした」
ベアスは、真剣な表情で話した。
「間違いないか? そなたの証言で、イースは大罪人となったのだぞ!」
私は、苛つく気持ちを隠せず、少し態度に出してしまった。
「間違いありません! 実は …。 顔が見えた時に、思わずイースと名前を叫んだため、敵と通じていると思われ、味方に捕らえられたのです。 その後、ガーラ参謀の尋問を受けて誤解が解けました。 でも …。 彼が国を恨む気持ちは分かります …」
「どういう意味だ?」
「イースと恋人関係にあったビクトリア司令官なら、お分かりのはず」
ベアスは、再び、敵視するかのような目を、私に向けてきた。
この事がキッカケで多数の囚人が脱走し乱闘騒ぎとなり、多くの死傷者が出た。
現在、軍に馴染めず脱走する兵が多すぎて、牢がパンク状態にある。これらの者が、凶悪な囚人と化したのだ。
脱走する者が後を絶たないのは、過度な徴兵が原因であり、これに対し国民の怒りが増幅している。公然と、国を批判する輩も出てきた。
これらの不穏な空気を一蹴するため、秘密警察が無理な取り締まりを行っている。
国民の不満は、日を追うごとに増大して行った。
事件の報告を受けて、国都よりガーラ参謀が訪れたため、私も最前線を離れ、パル村の軍の大規模駐屯地に赴いた。
「おお、ビクトリア、来たか! 後の処理を、そなたに任せるぞ。 良いな」
ガーラは、顔を会わせるなり、いきなり話しかけて来た。
面倒な事を私に押し付けて、逃げようとする魂胆が透けて見える。
「後の処理とは?」
私は、白々しく聞いた。
「問題を起こした囚人の処刑と、脱走を許した幹部の処断だ。 他に、侵入者の探索については、秘密警察に捜査を指示したから、後日、そなたが報告を受けよ」
やはり、面倒な後始末だった。
特に脱走した囚人の処刑は、国民感情を逆撫でし批判の矛先となる。ガーラは、矢面に立たされる事を避けたのだ。
「承知しました。 して、ガーラ参謀は?」
参謀の言う事には逆らえない。
「急用で、国都に戻る。 それから …。 私の最前線への赴任であるが、徴兵が芳しくないから、当分の間は無いと思え。 だから、今まで通り、そなたが最前線の司令官として死守するのだ」
勝手な言い分である。
「承知しました …」
私は、下を向いて怒りを抑えた。
◇◇◇
ガーラが去ってから、私は駐屯地の幹部を召集し、会合を開いた。
詳しく、状況を報告させたのである。
皆、責任を感じているのか、神妙な面持ちであった。
今回の事件に関わった者達は、全て拘束され、量刑の案まで示されてある。
私が署名するだけで執行されるのだが、複雑な気分だ。
他に、事件のキッカケとなった潜入者は、魔石鉱山に入った事まで突き止めたが、その後の行方は分からなかった。
捜査は、秘密警察に委ねられていた。
私は、再発防止の徹底について檄を飛ばした後、幹部の面々を見据えた。
殆どがムート出身のためか、Sクラスだった私を尊敬の眼差しで見ている。
自分は、人に敬われるような存在ではない。イースにした事を考えると、むしろ、蔑まれるべき人間なのだ。
それを思うと、胸が苦しくなった。
そんな中、明かに他の者と違い、私を敵視するかのような目を向けて来る者がいた。
良く見ると、どこかで見たような気がする。
だから、会合を終えてから、その者に近づいた。
「そなた、どこかで会った事はあるか?」
「はっ! 僭越ながら、ビクトリア司令官とは、ムートで何回かお会いしております」
「そうであったか …」
「自分は大隊長のベアスです。 騎士の特殊訓練を担当しております」
私は、思い出せず、さらにベアスという男の顔をマジマジと見た。
「覚えて無いのは無理もありません。 今から、7年も前の事です。 Aクラスのジダンに、親友が殺されかけたところを、ビクトリア司令官に助けられました」
「えっ、ジダン? 私が助けた親友って …」
私には、心当たりがあった。
「はい、イースです」
元恋人の名を聞いて狼狽えた。
そして、全てを思い出した。
「確か、あの時、私をイースのところに案内した少年 …」
「そうです。 ビクトリア司令官も少女でした。 懐かしいです」
ベアスからは、会合の時の私を敵視するような表情は消えていた。
「少し、別室で話さぬか?」
「エッ、自分とですか?」
ベアスは、少し驚いたような顔をしたが、結局、彼の執務室に行って話をする事になった。
幹部クラスの将校ともなると、それぞれに専用の個室が与えられていた。
「それで …。 イースが親友だと言っていたが、彼の居所は分かるのか?」
私は、変に勘ぐられないように、サラッと話した。
「知りません。 彼はダンジョンの街で、多くの聖兵を殺めた大罪人です。 居所が分かれば報告します」
ベアスは、淡々と答えた。
「そうだな」
私が答えると、ベアスは少し考え込んだ様子で下を見た。
「実は …。 ダンジョンの街に居た男がイースである事を、自分が証言しました」
「証言したとは、どういう事だ?」
「前の赴任地は、ダンジョンの街でした。 マサンとイースを捕らえようとして、自分も戦ったのです。 相手は顔を隠していたのですが、フードがめくれた時に見えたんです。 あれは、間違いなくイースでした」
ベアスは、真剣な表情で話した。
「間違いないか? そなたの証言で、イースは大罪人となったのだぞ!」
私は、苛つく気持ちを隠せず、少し態度に出してしまった。
「間違いありません! 実は …。 顔が見えた時に、思わずイースと名前を叫んだため、敵と通じていると思われ、味方に捕らえられたのです。 その後、ガーラ参謀の尋問を受けて誤解が解けました。 でも …。 彼が国を恨む気持ちは分かります …」
「どういう意味だ?」
「イースと恋人関係にあったビクトリア司令官なら、お分かりのはず」
ベアスは、再び、敵視するかのような目を、私に向けてきた。
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