【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

文字の大きさ
103 / 124
第3章 孤独の先に

第92話 イースの親友(ビクトリア主観

しおりを挟む
 パル村に設置された、軍の大規模駐屯地が何者かに襲撃された。
 この事がキッカケで多数の囚人が脱走し乱闘騒ぎとなり、多くの死傷者が出た。
 
 現在、軍に馴染めず脱走する兵が多すぎて、牢がパンク状態にある。これらの者が、凶悪な囚人と化したのだ。

 脱走する者が後を絶たないのは、過度な徴兵が原因であり、これに対し国民の怒りが増幅している。公然と、国を批判する輩も出てきた。
 これらの不穏な空気を一蹴するため、秘密警察が無理な取り締まりを行っている。
 国民の不満は、日を追うごとに増大して行った。

 事件の報告を受けて、国都よりガーラ参謀が訪れたため、私も最前線を離れ、パル村の軍の大規模駐屯地に赴いた。


「おお、ビクトリア、来たか! 後の処理を、そなたに任せるぞ。 良いな」

 ガーラは、顔を会わせるなり、いきなり話しかけて来た。
 面倒な事を私に押し付けて、逃げようとする魂胆が透けて見える。


「後の処理とは?」

 私は、白々しく聞いた。


「問題を起こした囚人の処刑と、脱走を許した幹部の処断だ。 他に、侵入者の探索については、秘密警察に捜査を指示したから、後日、そなたが報告を受けよ」

 やはり、面倒な後始末だった。
 特に脱走した囚人の処刑は、国民感情を逆撫でし批判の矛先となる。ガーラは、矢面に立たされる事を避けたのだ。


「承知しました。 して、ガーラ参謀は?」

 参謀の言う事には逆らえない。


「急用で、国都に戻る。 それから …。 私の最前線への赴任であるが、徴兵が芳しくないから、当分の間は無いと思え。 だから、今まで通り、そなたが最前線の司令官として死守するのだ」

 勝手な言い分である。


「承知しました …」

 私は、下を向いて怒りを抑えた。


◇◇◇


 ガーラが去ってから、私は駐屯地の幹部を召集し、会合を開いた。
 詳しく、状況を報告させたのである。
 皆、責任を感じているのか、神妙な面持ちであった。

 今回の事件に関わった者達は、全て拘束され、量刑の案まで示されてある。
 私が署名するだけで執行されるのだが、複雑な気分だ。
 他に、事件のキッカケとなった潜入者は、魔石鉱山に入った事まで突き止めたが、その後の行方は分からなかった。
 捜査は、秘密警察に委ねられていた。
 
 私は、再発防止の徹底について檄を飛ばした後、幹部の面々を見据えた。
 殆どがムート出身のためか、Sクラスだった私を尊敬の眼差しで見ている。
 自分は、人に敬われるような存在ではない。イースにした事を考えると、むしろ、蔑まれるべき人間なのだ。
 それを思うと、胸が苦しくなった。

 そんな中、明かに他の者と違い、私を敵視するかのような目を向けて来る者がいた。
 良く見ると、どこかで見たような気がする。

 だから、会合を終えてから、その者に近づいた。


「そなた、どこかで会った事はあるか?」


「はっ! 僭越ながら、ビクトリア司令官とは、ムートで何回かお会いしております」


「そうであったか …」

 
「自分は大隊長のベアスです。 騎士の特殊訓練を担当しております」

 私は、思い出せず、さらにベアスという男の顔をマジマジと見た。


「覚えて無いのは無理もありません。 今から、7年も前の事です。 Aクラスのジダンに、親友が殺されかけたところを、ビクトリア司令官に助けられました」


「えっ、ジダン? 私が助けた親友って …」

 私には、心当たりがあった。
 

「はい、イースです」

 元恋人の名を聞いて狼狽えた。
 そして、全てを思い出した。


「確か、あの時、私をイースのところに案内した少年 …」


「そうです。 ビクトリア司令官も少女でした。 懐かしいです」

 ベアスからは、会合の時の私を敵視するような表情は消えていた。


「少し、別室で話さぬか?」


「エッ、自分とですか?」

 ベアスは、少し驚いたような顔をしたが、結局、彼の執務室に行って話をする事になった。
 幹部クラスの将校ともなると、それぞれに専用の個室が与えられていた。


「それで …。 イースが親友だと言っていたが、彼の居所は分かるのか?」

 私は、変に勘ぐられないように、サラッと話した。


「知りません。 彼はダンジョンの街で、多くの聖兵を殺めた大罪人です。 居所が分かれば報告します」

 ベアスは、淡々と答えた。


「そうだな」

 私が答えると、ベアスは少し考え込んだ様子で下を見た。


「実は …。 ダンジョンの街に居た男がイースである事を、自分が証言しました」


「証言したとは、どういう事だ?」


「前の赴任地は、ダンジョンの街でした。 マサンとイースを捕らえようとして、自分も戦ったのです。 相手は顔を隠していたのですが、フードがめくれた時に見えたんです。 あれは、間違いなくイースでした」

 ベアスは、真剣な表情で話した。


「間違いないか? そなたの証言で、イースは大罪人となったのだぞ!」

 私は、苛つく気持ちを隠せず、少し態度に出してしまった。


「間違いありません! 実は …。 顔が見えた時に、思わずイースと名前を叫んだため、敵と通じていると思われ、味方に捕らえられたのです。 その後、ガーラ参謀の尋問を受けて誤解が解けました。 でも …。 彼が国を恨む気持ちは分かります …」


「どういう意味だ?」


「イースと恋人関係にあったビクトリア司令官なら、お分かりのはず」

 ベアスは、再び、敵視するかのような目を、私に向けてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

処理中です...