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第3章 孤独の先に
第94話 活命剣
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パウエルからビクトリアの暗殺指令を受けてより、待機状態が続いていた。
これまで忙しく動いていた分、今は、時間をもて余している。
傭兵仲間から要注意人物と見られているようで、心を通じる友もいない。
自然と、魔法の水晶で亜空間に連絡する機会が増えていた。
マサンと話したいのだが、直接話せる水晶が無くて、ストレスが溜まる日々が続いている。
もちろん、亜空間のメディアから、マサンの考えを聞いてはいる。
彼女の考えでは、暗殺命令を絶好の好機と捉え、過去の負の思いを立ちきれとの事であった。
いかにも、マサンらしい考え方である。
ビクトリアの姿を見た時、斬れるか自信がないが、ベスタフを助ける事を考えれば、答えは一つしか無いのだ。
やはり、マサンの考えが正しいのだろう。
そんな事を思っていると、ポーチの中の、VIPトラベルカードから声が聞こえた。
俺は、身構えた。
「イース、久しぶりだな。 パウエルから聞いている最重要ミッションの連絡だぞ!」
それは、聞きたくもないアモーンの声だった。
「パウエルから、あなたから連絡があると聞いていたが、遅いじゃないか! それで、決行はいつなんだ?」
「そう慌てるな。 まだ準備ができていない。 だが、その時は突然訪れる。 もしかすると、この直ぐ後かも知れない。 だから、いつでも斬れるように剣を研いでおけ。 その時が来ると、VIPトラベルカードを通じて強い光の輪が現れる。 躊躇せずに、そこへ飛び込むのだ!」
アモーンは、人間離れした響くような声をあげた。
「ああ、分かった。 でも、ひとつ聞きたい事がある …」
「なんだ?」
「パウエルが、成功したらベスタフの借金を肩代わりすると言っていた。 その話を聞いているか?」
「バカバカしい。 そんな事を心配しているのか。 奴とは、マブ達だと言っただろ! 2人の間には、強い信頼関係があるんだ。 おまえがビクトリアを成敗したら、即刻契約を終了する。 どこへでも行くが良い!」
「もうひとつ、聞きたい事がある。 万が一、ビクトリアを仕損じたら、どうなるんだ?」
「おまえは、本当にマサンの弟子なのか?」
「どういう意味だ?」
「マサンの弟子なら、そんな弱気な発言をしないだろ! おまえの師匠は、戦闘狂だぞ!」
「いや、仕損じはしないが、もしもの話だ。 俺は、慎重派なんだ」
「万が一仕損じたら、その場合は、生き残ってダンジョンの街へ行け。 そこで傭兵契約を果たしてもらう」
「サイヤ王国へ戻らなくて良いのか?」
「その必要はない。 ミッションを仕損じるような無能をパウエルは欲しがらないからな!」
アモーンは、声を高らかに笑った。
「話は分かった …」
俺は、呟くように答えた。
「おい、イース。 おまえは、マサンの弟子なんだろ! ベルナの3傑といったって、たったの一人なんだから、負けちゃならんだろが!」
これまでに聞いた事がないような、凄みのある声がした。
そして、俺が何も言い返せないでいると、アモーンの声はしなくなった。
◇◇◇
アモーンから連絡が来て、半日ほど過ぎた頃の事である。
俺のテントを、親衛隊長のヒュウガが訪ねて来た。
いつもは仏頂面なのだが、今日は神妙な顔をしている。
「パウエル様から聞いたよ。 3傑の一人のビクトリアを暗殺するんだってな」
「ああ、暗殺のミッションを受けた。 それが、どうかしたのか?」
「頼みたい事がある」
普段は大声で捲し立てるように話すのに、ヒュウガの声は小さい。
「・ ・ ・」
俺が黙っていると、ヒュウガは申し訳なさそうに話し出した。
「俺は遥か東にある小さな島国出身の異国人だ。 見ての通り、髪は黒く、肌の色も違う」
「そうだな …。 それで、国の名前は?」
「ジーパンジーという国だ。 黄金の島と言われてるから、知っているだろ」
「知らない」
俺は、地理に疎かった。
いや、習う機会がなかったのだ。
ヒュウガは、分かりやすく落胆していた。
「ジーパンジーの事を、ちゃんと覚えておけ …」
ヒュウガは、一瞬、ため息をついて続けた。
「こう見えても、俺は有力な武家の生まれだ。 あっ、サイヤ王国で言ったら王族のようなものだ。 俺には、身分は低いが、剣の道を極めた、ミヤビという名の恋人がいたんだ。 彼女とは、互いに切磋琢磨したものだ …」
ヒュウガは、懐かしむように遠くを見つめた。
「その恋人が、どうかしたのか?」
「ミヤビの事は秘密にしていたが、彼女の妊娠をきっかけに父上に打ち明けた。 そしたら、ある日、突然、ミヤビは国を去ってしまった。 後で調べたら、父上が、彼女を国に居られないように仕向けた事が分かった。 それで、俺は、彼女を探すために国を捨てた。 ミヤビを、必死で探したんだ …」
ヒュウガは、言葉を呑み込んだ後、少し間をおいて続けた。
「ミヤビは病気になり、ベルナ王国で亡くなっていた。 俺の子は、孤児院で育てられた後の消息が不明だった。 でも、最近、それが分かった。 プレセアの諜報員からの情報だから間違いない」
「どこに、居たんだ?」
「有力な貴族である、ダデン家に、ヤマトという名の私兵隊長がいるが、その男が俺の息子だったんだ。 しかし、今は、私兵を辞めて、また、消息不明になっている。 ダデン家の子息のシモンは、3傑の一人で、おまえが殺そうとしているビクトリアの婚約者だ。 彼女は、ヤマトの行方を知ってる可能性がある …。 だから、殺す前に、ヤマトの居所を聞き出してほしいんだ」
「そんな事ができる訳がないだろ。 手加減をしようものなら、俺が殺られる」
強く否定すると、ヒュウガは一振りの長剣を取り出した。
「これで斬ってくれ。 この剣は、我が祖国の秘宝なんだ。 活命剣と言って、斬られた相手の命を奪わずに、身体を縛る事ができる。 もう一度斬れば、斬られる前の状態に戻る。 厄介なのは、かなり強い剣撃で斬らないと効果を発揮しない事だ。 マサンの弟子なら、できるはずだ! 今回の目的は暗殺だから、殺める時は、身体を縛った状態で活命剣を使わず、他の剣で斬れば良い」
そう言うと、ヒュウガは俺を見据えた。
「斬っても、相手を殺さない剣 …。 そんな都合の良い剣があるのか?」
俺は、心底驚いて思わず声を上げた。
その時、ヒュウガの口角が、一瞬、上がった気がした。
これまで忙しく動いていた分、今は、時間をもて余している。
傭兵仲間から要注意人物と見られているようで、心を通じる友もいない。
自然と、魔法の水晶で亜空間に連絡する機会が増えていた。
マサンと話したいのだが、直接話せる水晶が無くて、ストレスが溜まる日々が続いている。
もちろん、亜空間のメディアから、マサンの考えを聞いてはいる。
彼女の考えでは、暗殺命令を絶好の好機と捉え、過去の負の思いを立ちきれとの事であった。
いかにも、マサンらしい考え方である。
ビクトリアの姿を見た時、斬れるか自信がないが、ベスタフを助ける事を考えれば、答えは一つしか無いのだ。
やはり、マサンの考えが正しいのだろう。
そんな事を思っていると、ポーチの中の、VIPトラベルカードから声が聞こえた。
俺は、身構えた。
「イース、久しぶりだな。 パウエルから聞いている最重要ミッションの連絡だぞ!」
それは、聞きたくもないアモーンの声だった。
「パウエルから、あなたから連絡があると聞いていたが、遅いじゃないか! それで、決行はいつなんだ?」
「そう慌てるな。 まだ準備ができていない。 だが、その時は突然訪れる。 もしかすると、この直ぐ後かも知れない。 だから、いつでも斬れるように剣を研いでおけ。 その時が来ると、VIPトラベルカードを通じて強い光の輪が現れる。 躊躇せずに、そこへ飛び込むのだ!」
アモーンは、人間離れした響くような声をあげた。
「ああ、分かった。 でも、ひとつ聞きたい事がある …」
「なんだ?」
「パウエルが、成功したらベスタフの借金を肩代わりすると言っていた。 その話を聞いているか?」
「バカバカしい。 そんな事を心配しているのか。 奴とは、マブ達だと言っただろ! 2人の間には、強い信頼関係があるんだ。 おまえがビクトリアを成敗したら、即刻契約を終了する。 どこへでも行くが良い!」
「もうひとつ、聞きたい事がある。 万が一、ビクトリアを仕損じたら、どうなるんだ?」
「おまえは、本当にマサンの弟子なのか?」
「どういう意味だ?」
「マサンの弟子なら、そんな弱気な発言をしないだろ! おまえの師匠は、戦闘狂だぞ!」
「いや、仕損じはしないが、もしもの話だ。 俺は、慎重派なんだ」
「万が一仕損じたら、その場合は、生き残ってダンジョンの街へ行け。 そこで傭兵契約を果たしてもらう」
「サイヤ王国へ戻らなくて良いのか?」
「その必要はない。 ミッションを仕損じるような無能をパウエルは欲しがらないからな!」
アモーンは、声を高らかに笑った。
「話は分かった …」
俺は、呟くように答えた。
「おい、イース。 おまえは、マサンの弟子なんだろ! ベルナの3傑といったって、たったの一人なんだから、負けちゃならんだろが!」
これまでに聞いた事がないような、凄みのある声がした。
そして、俺が何も言い返せないでいると、アモーンの声はしなくなった。
◇◇◇
アモーンから連絡が来て、半日ほど過ぎた頃の事である。
俺のテントを、親衛隊長のヒュウガが訪ねて来た。
いつもは仏頂面なのだが、今日は神妙な顔をしている。
「パウエル様から聞いたよ。 3傑の一人のビクトリアを暗殺するんだってな」
「ああ、暗殺のミッションを受けた。 それが、どうかしたのか?」
「頼みたい事がある」
普段は大声で捲し立てるように話すのに、ヒュウガの声は小さい。
「・ ・ ・」
俺が黙っていると、ヒュウガは申し訳なさそうに話し出した。
「俺は遥か東にある小さな島国出身の異国人だ。 見ての通り、髪は黒く、肌の色も違う」
「そうだな …。 それで、国の名前は?」
「ジーパンジーという国だ。 黄金の島と言われてるから、知っているだろ」
「知らない」
俺は、地理に疎かった。
いや、習う機会がなかったのだ。
ヒュウガは、分かりやすく落胆していた。
「ジーパンジーの事を、ちゃんと覚えておけ …」
ヒュウガは、一瞬、ため息をついて続けた。
「こう見えても、俺は有力な武家の生まれだ。 あっ、サイヤ王国で言ったら王族のようなものだ。 俺には、身分は低いが、剣の道を極めた、ミヤビという名の恋人がいたんだ。 彼女とは、互いに切磋琢磨したものだ …」
ヒュウガは、懐かしむように遠くを見つめた。
「その恋人が、どうかしたのか?」
「ミヤビの事は秘密にしていたが、彼女の妊娠をきっかけに父上に打ち明けた。 そしたら、ある日、突然、ミヤビは国を去ってしまった。 後で調べたら、父上が、彼女を国に居られないように仕向けた事が分かった。 それで、俺は、彼女を探すために国を捨てた。 ミヤビを、必死で探したんだ …」
ヒュウガは、言葉を呑み込んだ後、少し間をおいて続けた。
「ミヤビは病気になり、ベルナ王国で亡くなっていた。 俺の子は、孤児院で育てられた後の消息が不明だった。 でも、最近、それが分かった。 プレセアの諜報員からの情報だから間違いない」
「どこに、居たんだ?」
「有力な貴族である、ダデン家に、ヤマトという名の私兵隊長がいるが、その男が俺の息子だったんだ。 しかし、今は、私兵を辞めて、また、消息不明になっている。 ダデン家の子息のシモンは、3傑の一人で、おまえが殺そうとしているビクトリアの婚約者だ。 彼女は、ヤマトの行方を知ってる可能性がある …。 だから、殺す前に、ヤマトの居所を聞き出してほしいんだ」
「そんな事ができる訳がないだろ。 手加減をしようものなら、俺が殺られる」
強く否定すると、ヒュウガは一振りの長剣を取り出した。
「これで斬ってくれ。 この剣は、我が祖国の秘宝なんだ。 活命剣と言って、斬られた相手の命を奪わずに、身体を縛る事ができる。 もう一度斬れば、斬られる前の状態に戻る。 厄介なのは、かなり強い剣撃で斬らないと効果を発揮しない事だ。 マサンの弟子なら、できるはずだ! 今回の目的は暗殺だから、殺める時は、身体を縛った状態で活命剣を使わず、他の剣で斬れば良い」
そう言うと、ヒュウガは俺を見据えた。
「斬っても、相手を殺さない剣 …。 そんな都合の良い剣があるのか?」
俺は、心底驚いて思わず声を上げた。
その時、ヒュウガの口角が、一瞬、上がった気がした。
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