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第3章 贋作師のテクニック
第29話 おかしな夢を見ているのかな?
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突然の襲撃!
けれども、焦ったリムジンの運転手がアクセルを踏もうとした時、車体の前に銃を構えた東洋マフィアたちが立ちはだかってきた。
男たちが、手に銃を構えながらこちらへ近づいてくる。
「それは、グレン男爵が探していた息子だな。それと、好都合なことに、カーンワイラー氏のご令嬢まで一緒か」
キースは、両手にミルドレッドとウィリアムを抱えこんで、ぎゅっと唇をかみしめる。
ウィリアムとミルドレッドは、とりあえず、人質として生かされても、俺やパトラッシュや運転手は、即座にここで撃ち殺されてしまうぞ。けど、俺はまだこんな所で死ぬわけにはゆかないんだ。
どうする?
そんな質問をお互いにぶつけ合うように、キースとパトラッシュは目と目を交わす。
……と、彼の相棒が、
わぉんと、一声、大きく鳴いた。
すると、
突然、空から、ごろごろと雷鳴が鳴り響いてきたのだ。
ほどなく、バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。
「な、何だ、ゲリラ豪雨か!」
轟音を伴った光が、天から落ちてきたのは、キースが、窓の外に目を向けようとしたその瞬間だった。夜を切り裂きそうな閃光が、正門横の大銀杏の木を直撃する。
銀杏の木が焦げたきな臭い匂い。けど、今日の天気予報では、雷どころか、雨が降るなんて少しも言ってなかったじゃないか!
辺りに静けさが戻った時、
落雷の音と光に頭の芯が痺れたままで、キースは、恐る恐るリムジンの扉を外に開いてみた。
「だ……大丈夫なの」
ミルドレッドの声を背中に受けながら、銃弾が飛んでこないことを確認し、キースはリムジンから外に降り立つ。すると、
「おい、パトラッシュ……俺、おかしな夢を見ているのかな」
先ほどの大雨が嘘のように、外は晴れわたっていた。おまけに、夜空には星々が瞬き、白い月が煌々と輝いている。
けれども、雷が落ちたらしい銀杏の木の周りには、気を失ったマフィアたちが、ばたばたと倒れていたのだ。これは……やっぱり、現実なんだ。
するとその時、けたたましいエンジン音が響いてきたのだ。
まだ夜が明けきれぬ冷気の中に佇む、一台の黒塗りのバイク ―ゼファー1100―
そして、それに乗った黒いジャケットの男。
「あっ、イヴァン!」
少女の声に答えるでもなく、赤みかかった灰色の瞳で彼らに向ける。その直後にヘルメットを装着し、くるりとUターンをして走り出したバイクのライダーに、ミルドレッドが手を振る。そんな彼女に訝しげな目を向け、キースは言った。
「あいつ、何で、こんな所にいるんだ。それに、お前……親しげにしてるけど、分ってるんだろうな、あいつが殺人鬼だってこと」
「殺人鬼? 何それ」
「だって、ミリーだって見てたんだろ。お前を助けた時、奴がマフィアを殺ったところを」
「キース、あんた、何言ってんの。もしかして、あの時にあんまり怖い思いをしたんで、後でおかしな夢でも見たんじゃないの?」
ミルドレッドは、イヴァンに助けられたことは覚えていても、その後の惨劇については全く、記憶にないようなのだ。
イヴァン・クロウ……
さっきのゲリラ豪雨や、雷といい……あの男が現れる場所には、おかしなことばかりが起こる……。
だが、その時、くわんと吠えたパトラッシュの声に、キースは、はっと我を取り戻した。幸い、マフィアたちは気を失っているだけらしい。面倒が大きくならないうちに、さっさとウィリアムをグレン男爵の所へ送り届けてしまわなければ。
けれども、焦ったリムジンの運転手がアクセルを踏もうとした時、車体の前に銃を構えた東洋マフィアたちが立ちはだかってきた。
男たちが、手に銃を構えながらこちらへ近づいてくる。
「それは、グレン男爵が探していた息子だな。それと、好都合なことに、カーンワイラー氏のご令嬢まで一緒か」
キースは、両手にミルドレッドとウィリアムを抱えこんで、ぎゅっと唇をかみしめる。
ウィリアムとミルドレッドは、とりあえず、人質として生かされても、俺やパトラッシュや運転手は、即座にここで撃ち殺されてしまうぞ。けど、俺はまだこんな所で死ぬわけにはゆかないんだ。
どうする?
そんな質問をお互いにぶつけ合うように、キースとパトラッシュは目と目を交わす。
……と、彼の相棒が、
わぉんと、一声、大きく鳴いた。
すると、
突然、空から、ごろごろと雷鳴が鳴り響いてきたのだ。
ほどなく、バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。
「な、何だ、ゲリラ豪雨か!」
轟音を伴った光が、天から落ちてきたのは、キースが、窓の外に目を向けようとしたその瞬間だった。夜を切り裂きそうな閃光が、正門横の大銀杏の木を直撃する。
銀杏の木が焦げたきな臭い匂い。けど、今日の天気予報では、雷どころか、雨が降るなんて少しも言ってなかったじゃないか!
辺りに静けさが戻った時、
落雷の音と光に頭の芯が痺れたままで、キースは、恐る恐るリムジンの扉を外に開いてみた。
「だ……大丈夫なの」
ミルドレッドの声を背中に受けながら、銃弾が飛んでこないことを確認し、キースはリムジンから外に降り立つ。すると、
「おい、パトラッシュ……俺、おかしな夢を見ているのかな」
先ほどの大雨が嘘のように、外は晴れわたっていた。おまけに、夜空には星々が瞬き、白い月が煌々と輝いている。
けれども、雷が落ちたらしい銀杏の木の周りには、気を失ったマフィアたちが、ばたばたと倒れていたのだ。これは……やっぱり、現実なんだ。
するとその時、けたたましいエンジン音が響いてきたのだ。
まだ夜が明けきれぬ冷気の中に佇む、一台の黒塗りのバイク ―ゼファー1100―
そして、それに乗った黒いジャケットの男。
「あっ、イヴァン!」
少女の声に答えるでもなく、赤みかかった灰色の瞳で彼らに向ける。その直後にヘルメットを装着し、くるりとUターンをして走り出したバイクのライダーに、ミルドレッドが手を振る。そんな彼女に訝しげな目を向け、キースは言った。
「あいつ、何で、こんな所にいるんだ。それに、お前……親しげにしてるけど、分ってるんだろうな、あいつが殺人鬼だってこと」
「殺人鬼? 何それ」
「だって、ミリーだって見てたんだろ。お前を助けた時、奴がマフィアを殺ったところを」
「キース、あんた、何言ってんの。もしかして、あの時にあんまり怖い思いをしたんで、後でおかしな夢でも見たんじゃないの?」
ミルドレッドは、イヴァンに助けられたことは覚えていても、その後の惨劇については全く、記憶にないようなのだ。
イヴァン・クロウ……
さっきのゲリラ豪雨や、雷といい……あの男が現れる場所には、おかしなことばかりが起こる……。
だが、その時、くわんと吠えたパトラッシュの声に、キースは、はっと我を取り戻した。幸い、マフィアたちは気を失っているだけらしい。面倒が大きくならないうちに、さっさとウィリアムをグレン男爵の所へ送り届けてしまわなければ。
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