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第7話 心に刻むもの~12月25日の花火
1. クリスマス会
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今日は、12月25日。
「よっしゃぁ! 課題、終わりっ、カラオケやるぞー!」
クラスメートの村田が狂喜乱舞の声をあげた。相変わらず無神経なやつだ。あんたが期末試験で赤点なんて取るもんだから、せっかく計画した”クリスマス会”の前に”勉強会”をやる羽目になったじゃないの。
「でも、美夏ちゃん、カラオケ店でクリスマス会なんて、臨時の担任になった山下にバレたらマズいんじゃないの」
「平気~。ここって、午後6時までなら中学生だけでもOKな店。それに、山下先生って今日から谷川岳だって。冬の雪山になんてよく行く気になるよね。死ぬよ、絶対に死ぬ」
「大丈夫かも。あいつ、体力オバケだもん。体育の先生も体力じゃ敵わないって」
そう言われてみれば、そうかもしれない。山下は、休みの度に登山ばっかりやっている変わり者だし。
「まぁ、私たちは、あったかい部屋でぬくぬく遊んでる方が幸せだけどねー」
最近、駅前にできたカラオケ店は、コタツ部屋があって、カラオケというより、みんなの憩いの場みたいになってしまっている。
クリスマス会のメンバーは二年一組のクラスメートの四人。私、石井美夏と親友のゆうちゃんと、
他に男子が二人 。それは、
どうでもいい村田と、つかみどころがない笹原隆太
コタツ布団に肩まで埋もれながら、ゆうちゃんは、リモコンで楽曲メニューを検索しはじめた。私はその斜めで、彼女と同じポーズでコタツに潜り、別のメニューに没頭している男子《ささはら》に目を向けた。
この顔だけはいい”変人”のクラスメートが、カラオケ店でのクリスマス会に参加するとは思わなかった。
笹原隆太の嫌いなものは、”学校活動”
クリスマス会も、笹原にとっては学校活動の一部だと思っていた。けれども、私の心配は、この部屋に入って、すぐにどこかに消えてしまった。
笹原隆太の好きなものは、”学校給食”
「あっ、カニコロッケトマトソースかけ、これ美味そう。こっちの揚げチキン南蛮も捨てがたい。これが一皿350円なのか! 俺、迷う~」
幸せそうに”お食事メニュー”に見入る彼。妙に納得してしまう。笹原にとっては、カラオケ店での食事も”学校給食”の一部なのだから。
「それはそうと、笹原、冬休みなのに、何で今日も学ラン姿なのよ」
「俺の持っている服じゃ、学ランが一番あったかいし」
「はあ? 」
相変わらず、わけの分からない奴。
授業中に鯖缶、食べてたり、午前中で家に帰ってしまったり、校外学習中に突然、姿が見えなくなったり、臨時の担任に変に気に入られてたり……だが、こんなことには、もう慣れてしまった。
カラオケの選曲に没頭していた、ゆうちゃんが声をあげた。
「みんなっ、せっかくのクリスマス会なんだし、この日に合った曲を歌うっていうのはどう? ってことで、私はCHRISTMAS ……」
その時、村田が、ゆうちゃんを押しのけてマイク片手に立ち上がった。
「一番は俺、俺っ! 村田が行きま~す。山下達郎!『クリスマスイブ』」
「うわっ、先越された! おまけに『クリスマスイブ』?村田がぁ?!」
センスのない奴の歌なんて聞けたもんじゃない。
かくいう私、石井美夏も、歌はそんなに得意じゃない。ただ、仲の良い友人たちと、わいわいがやがやと遊ぶことは好きだ。とくに、今日みたいに少し浮かれていても許されそうなお祭りの日は。
その時、私の心はまた、浮世離れしたクラスメートに向いた。
「ねえ、笹原は何、歌う?」
「え? だからカニクリームコロッケだって」
「もうっ、違うっ、食べ物の話 じゃなくって、カラオケで歌う歌! クリスマスソング!」
「……」
一瞬、沈黙してから、笹原隆太は、眉目秀麗な顔をこちらに向けて言った。
「俺、クリスマスソングなんて知らない。だいたい、クリスマスって何?」
……案の定だ。やっぱり、こいつは”超浮世離れ”男だ。
その時、ノックの音と同時に、カラオケボックスの扉が開いた。香ばしい揚げ物の匂いと共に、店員が運んできた、笹原の”給食”
「お待ちどおさま。カニクリームコロッケです」
「おっ、旨そう! 何だかよくわからないけど、クリスマスって最高の日だなっ!」
喜々として、カニクリームコロッケの皿を出迎える笹原の笑顔は、ものすごく爽やかだった。けどね……こいつの興味って、いつも食べ物だけ。
少しだけ、ムカつく。
はいはい、そうですか。
いいのよ。みんなで楽しく過ごすのが、クリスマスって日なんだから。
私は、村田を脇に押しのけて、マイクを手に取った。
「ゆうちゃん、歌おう。今なら、私、どんな曲でも歌えそう!」
― 2に続く ―
「よっしゃぁ! 課題、終わりっ、カラオケやるぞー!」
クラスメートの村田が狂喜乱舞の声をあげた。相変わらず無神経なやつだ。あんたが期末試験で赤点なんて取るもんだから、せっかく計画した”クリスマス会”の前に”勉強会”をやる羽目になったじゃないの。
「でも、美夏ちゃん、カラオケ店でクリスマス会なんて、臨時の担任になった山下にバレたらマズいんじゃないの」
「平気~。ここって、午後6時までなら中学生だけでもOKな店。それに、山下先生って今日から谷川岳だって。冬の雪山になんてよく行く気になるよね。死ぬよ、絶対に死ぬ」
「大丈夫かも。あいつ、体力オバケだもん。体育の先生も体力じゃ敵わないって」
そう言われてみれば、そうかもしれない。山下は、休みの度に登山ばっかりやっている変わり者だし。
「まぁ、私たちは、あったかい部屋でぬくぬく遊んでる方が幸せだけどねー」
最近、駅前にできたカラオケ店は、コタツ部屋があって、カラオケというより、みんなの憩いの場みたいになってしまっている。
クリスマス会のメンバーは二年一組のクラスメートの四人。私、石井美夏と親友のゆうちゃんと、
他に男子が二人 。それは、
どうでもいい村田と、つかみどころがない笹原隆太
コタツ布団に肩まで埋もれながら、ゆうちゃんは、リモコンで楽曲メニューを検索しはじめた。私はその斜めで、彼女と同じポーズでコタツに潜り、別のメニューに没頭している男子《ささはら》に目を向けた。
この顔だけはいい”変人”のクラスメートが、カラオケ店でのクリスマス会に参加するとは思わなかった。
笹原隆太の嫌いなものは、”学校活動”
クリスマス会も、笹原にとっては学校活動の一部だと思っていた。けれども、私の心配は、この部屋に入って、すぐにどこかに消えてしまった。
笹原隆太の好きなものは、”学校給食”
「あっ、カニコロッケトマトソースかけ、これ美味そう。こっちの揚げチキン南蛮も捨てがたい。これが一皿350円なのか! 俺、迷う~」
幸せそうに”お食事メニュー”に見入る彼。妙に納得してしまう。笹原にとっては、カラオケ店での食事も”学校給食”の一部なのだから。
「それはそうと、笹原、冬休みなのに、何で今日も学ラン姿なのよ」
「俺の持っている服じゃ、学ランが一番あったかいし」
「はあ? 」
相変わらず、わけの分からない奴。
授業中に鯖缶、食べてたり、午前中で家に帰ってしまったり、校外学習中に突然、姿が見えなくなったり、臨時の担任に変に気に入られてたり……だが、こんなことには、もう慣れてしまった。
カラオケの選曲に没頭していた、ゆうちゃんが声をあげた。
「みんなっ、せっかくのクリスマス会なんだし、この日に合った曲を歌うっていうのはどう? ってことで、私はCHRISTMAS ……」
その時、村田が、ゆうちゃんを押しのけてマイク片手に立ち上がった。
「一番は俺、俺っ! 村田が行きま~す。山下達郎!『クリスマスイブ』」
「うわっ、先越された! おまけに『クリスマスイブ』?村田がぁ?!」
センスのない奴の歌なんて聞けたもんじゃない。
かくいう私、石井美夏も、歌はそんなに得意じゃない。ただ、仲の良い友人たちと、わいわいがやがやと遊ぶことは好きだ。とくに、今日みたいに少し浮かれていても許されそうなお祭りの日は。
その時、私の心はまた、浮世離れしたクラスメートに向いた。
「ねえ、笹原は何、歌う?」
「え? だからカニクリームコロッケだって」
「もうっ、違うっ、食べ物の話 じゃなくって、カラオケで歌う歌! クリスマスソング!」
「……」
一瞬、沈黙してから、笹原隆太は、眉目秀麗な顔をこちらに向けて言った。
「俺、クリスマスソングなんて知らない。だいたい、クリスマスって何?」
……案の定だ。やっぱり、こいつは”超浮世離れ”男だ。
その時、ノックの音と同時に、カラオケボックスの扉が開いた。香ばしい揚げ物の匂いと共に、店員が運んできた、笹原の”給食”
「お待ちどおさま。カニクリームコロッケです」
「おっ、旨そう! 何だかよくわからないけど、クリスマスって最高の日だなっ!」
喜々として、カニクリームコロッケの皿を出迎える笹原の笑顔は、ものすごく爽やかだった。けどね……こいつの興味って、いつも食べ物だけ。
少しだけ、ムカつく。
はいはい、そうですか。
いいのよ。みんなで楽しく過ごすのが、クリスマスって日なんだから。
私は、村田を脇に押しのけて、マイクを手に取った。
「ゆうちゃん、歌おう。今なら、私、どんな曲でも歌えそう!」
― 2に続く ―
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