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最終話 ~春~
1. 卒業式
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もろともに あはれと思へ 山桜
花よりほかに 知る人もなし
「村田……どうしたの、急にしみじみと。気持ち悪っ!」
「何を言う。 俺が唯一覚えた百人一首を」
「たったの一首! で、意味、わかってんの」
そう言って村田の顔を覗き込んだのは、同じクラスの一ノ瀬 由香、通称ゆうちゃんだった。その時、背後から聞えてきた、からかうような別の声。
「お互いに懐かしいと思ってくれ 山桜よ。花のおまえくらいしか、心をかよわす人がいないのだ~」
村田は、はっと後ろを振向く。
「それって、百人一首 66番、前大僧正行尊の句だよね」
そこに、卒業証書と、記念品を抱えて現れた少女、石井 美夏。
ちぇっ、この中学の“百人一首大会”でクィーンの座に輝いた女が、姿を現しやがった。
「ま、だいたい、そんなとこかな」
村田の尊大な態度に、ゆうちゃんが飽きれたように言う。
「それで、何でその句をしみじみ、詠んでんの? 今日は卒業式だっていうのに」
彼らは中学三年生。時は三月も下旬。よく晴れ渡った青空を背に、六分咲きの桜が校庭の木を彩り始めている。
そして、今日は、彼らの晴れの日。卒業式なのだ。
「だってなあ。隣りのクラスのバスケ部のキャプテンを見ろよ。後輩たちに囲まれて、きゃあきゃあと…うらやま……いや、うるさいったらないな」
ゆうちゃんと、美夏は村田のつぶやきを聞くなり、急にぷうっと吹き出してしまった。
「そっか、さっきの句って村田の今の心情? でも、桜くらいしか心を通わす人がいないなんて、それ、本気?」
ゆうちゃんの悪戯っぽい視線を浴び、村田は思わず照れる。彼女はクラスでも一際目立つ存在だ。それに対し、村田はどこにでもいそうなオタクで地味な男子。けれど、そんな対照的な二人が、意外にも長く付き合っている。
美夏は、ついやっかみ混じりの声を漏らしてしまった。
「うちの学校は小学校からの一貫校だけど、4月には外部からの入学生も入ってくるよね。村田は心配なんじゃない? ゆうちゃんにもし振られたら、さっきの句みたいに心を通わせる相手がいなくなっちゃうかもよ」
「失礼な奴だな。そ、それに 俺には、笹原って親友だっているんだからな」
その時、ひゅうと風が吹き、校庭に咲いた桜の花がはらりと空に舞いあがった。
「誰か呼んだ?」
突然、どこからともなく現われた少年。だが、村田、美夏、ゆうちゃんの三人はもう、驚きもしない。
笹原 隆太。
同じ中学のクラスメート。でも、こいつが普通に現われたためしなんかないんだから。
村田が、ごく当たり前のことのように、隆太に言う。
「今日は卒業式だぞ。給食はないんだぞ。マジでお前が来るとは思わなかった」
隆太の好きなものは学校給食、嫌いなものは学校活動。たとえ、卒業式でも、そんなのこいつには関係ない。
「だって、今日は紅白まんじゅうを配る日だろ。 あれって美味いよな」
「卒業式はまんじゅうの配布日か」
「え、違うのか?」
悪びれる風もなく村田に笑顔を向ける隆太に、三人のクラスメートは、“はいはい”と、諦め気分で頷いた。
花よりほかに 知る人もなし
「村田……どうしたの、急にしみじみと。気持ち悪っ!」
「何を言う。 俺が唯一覚えた百人一首を」
「たったの一首! で、意味、わかってんの」
そう言って村田の顔を覗き込んだのは、同じクラスの一ノ瀬 由香、通称ゆうちゃんだった。その時、背後から聞えてきた、からかうような別の声。
「お互いに懐かしいと思ってくれ 山桜よ。花のおまえくらいしか、心をかよわす人がいないのだ~」
村田は、はっと後ろを振向く。
「それって、百人一首 66番、前大僧正行尊の句だよね」
そこに、卒業証書と、記念品を抱えて現れた少女、石井 美夏。
ちぇっ、この中学の“百人一首大会”でクィーンの座に輝いた女が、姿を現しやがった。
「ま、だいたい、そんなとこかな」
村田の尊大な態度に、ゆうちゃんが飽きれたように言う。
「それで、何でその句をしみじみ、詠んでんの? 今日は卒業式だっていうのに」
彼らは中学三年生。時は三月も下旬。よく晴れ渡った青空を背に、六分咲きの桜が校庭の木を彩り始めている。
そして、今日は、彼らの晴れの日。卒業式なのだ。
「だってなあ。隣りのクラスのバスケ部のキャプテンを見ろよ。後輩たちに囲まれて、きゃあきゃあと…うらやま……いや、うるさいったらないな」
ゆうちゃんと、美夏は村田のつぶやきを聞くなり、急にぷうっと吹き出してしまった。
「そっか、さっきの句って村田の今の心情? でも、桜くらいしか心を通わす人がいないなんて、それ、本気?」
ゆうちゃんの悪戯っぽい視線を浴び、村田は思わず照れる。彼女はクラスでも一際目立つ存在だ。それに対し、村田はどこにでもいそうなオタクで地味な男子。けれど、そんな対照的な二人が、意外にも長く付き合っている。
美夏は、ついやっかみ混じりの声を漏らしてしまった。
「うちの学校は小学校からの一貫校だけど、4月には外部からの入学生も入ってくるよね。村田は心配なんじゃない? ゆうちゃんにもし振られたら、さっきの句みたいに心を通わせる相手がいなくなっちゃうかもよ」
「失礼な奴だな。そ、それに 俺には、笹原って親友だっているんだからな」
その時、ひゅうと風が吹き、校庭に咲いた桜の花がはらりと空に舞いあがった。
「誰か呼んだ?」
突然、どこからともなく現われた少年。だが、村田、美夏、ゆうちゃんの三人はもう、驚きもしない。
笹原 隆太。
同じ中学のクラスメート。でも、こいつが普通に現われたためしなんかないんだから。
村田が、ごく当たり前のことのように、隆太に言う。
「今日は卒業式だぞ。給食はないんだぞ。マジでお前が来るとは思わなかった」
隆太の好きなものは学校給食、嫌いなものは学校活動。たとえ、卒業式でも、そんなのこいつには関係ない。
「だって、今日は紅白まんじゅうを配る日だろ。 あれって美味いよな」
「卒業式はまんじゅうの配布日か」
「え、違うのか?」
悪びれる風もなく村田に笑顔を向ける隆太に、三人のクラスメートは、“はいはい”と、諦め気分で頷いた。
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