Guardian of Time ~ 時の守り人

RIKO

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最終話 ~春~

2. 送り出しの時間

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「おーい、そろそろ送り出しの時間だぞ。下級生が並んで花道をつくってくれてるから、みんな、急げ!」

 体育館から出て来たのは、臨時の担任、山下だった。

「相変わらず不必要にでかい声!」

 美夏はゆうちゃんと顔を見合わせ苦笑したが、山下がこちらを見た瞬間、

 まずいっ! 今日は笹原もいるんだった。
 と、大慌てでそっぽを向いた。

「おっ、笹原じゃないか。さすがに卒業式には学校にいるんだな」

 案の定、山下は嬉しそうに、こちらへやって来る。なぜだか知らないけれど、この教師は笹原を気に入っている。

「おっさん、まだ、先生やってんのか。また、K2に登るんじゃなかったのか」

 隆太に山下はしっと言うと、いきなり笹原の頭を抱え込んで2mほど、皆から離れた場所に引きずっていった。

「俺の名はおっさんじゃない。それにK2のことは皆の前では言うな」

 実は山下は登山家で、世界第二の高峰、K2の登頂中に遭難し、その時不意に現われた笹原と一緒に時の間を乗り越えてしまったのだ。それ以来、彼はこの学校で臨時教師として働きながら、再びK2に登る機会をうかがっている。

 笹原 隆太……K2にいた俺を一瞬で、日本の神室山に移動させた少年。一体、こいつは何者なんだ。普段はひょうひょうとして食い物の話ばかりの奴なのに……。
 
「K2の氷の割れ目に落ちていった友達を探しにゆくんじゃなかったのか」

「あの山の時間は、地上よりもゆっくり進むんだ。あせる必要なんかない。それに行くにしても今は金が足りん」

 隆太は人の悪い笑いを浮べて言った。

「ま、死んでても冷凍保存されるしな」
「こらっ、罰当たりなことを言うな!」

 わかってるさ。あいつの魂は、もうこの世にいないことくらい。

 山下は少し笑って、笹原の頭を軽くこづいた。

 *
 
「あ~あ、隆太を先生に拉致らちられたな。あんなにくっついちまって、あの先生、隆太に気でもあるんかい」

 遠巻きに隆太と山下の様子を見ていた村田が口をとがらす。

「まさか」
「でも、もしかしたら……」

 美夏が少し不安げな顔をした、その時、

「笹原 隆太って、顔はそこそこの美形だけど、えらい変わり者って噂じゃない」

 妙にきつい口調の生徒が現れた。華やいだ雰囲気で高等部の制服を着ている。

「先輩! 来てくれたんですか!」
「卒業おめでとう、美夏ちゃん、四月からはいよいよ、同じ高校ね」

 美夏が所属しているテニス部の元先輩 ― 工藤 エリカ ― に美夏は笑顔で挨拶する。

 すると、エリカが、
「美夏ちゃんって、笹原みたいな、あんな変人と友達なの? 辞めときなさいよ。それより、花道を通る時、お花を渡すからね。絶対に受け取ってくれなきゃ嫌よ」

 なれなれしく美夏に話しかけてくるエリカを見て、ゆうちゃんは村田にそっとつぶやく。

「この、先輩、美夏にずっとべったりだったくせに、美夏が好きだった男子テニス部の先輩にちょっかい出したりもしたんだよ。本当に嫌なやつ」

「へえ、それでよく石井は我慢してるなあ」

「美夏はそこんとこ、ちょっと鈍感なのよ」



  
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