Guardian of Time ~ 時の守り人

RIKO

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第9話 江戸の火消し~時空を超えた修学旅行

8. 火消しの心意気

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「火事だ、火事だあっ!」

 家財道具を行李こおりに詰めて、逃げ惑う町民たちを尻目に、”り組”のまといを持った隆太は、風下の屋根であらん限りの力で纏を回す。

 ”俺のいる、この場所で、火勢を食い止めろ!”

 隆太が、回す纏の馬簾ばれんが、火の粉を空に押し返す。
 屋根まで火が回れば、彼自身も命を落とす。それでも、ひるむことなく、纏を回し続ける。

  
 ……が、その雄姿を見上げていた私の心中は、

「かっこいい……よね」

 でも、あれは、お正月に私を守ってくれた笹原とはまた違う……。
 いや、ぜんぜんっ、別人でしょ!?
 普段のボケっとした笹原は、どこへ行っちゃたのよ。
 っていうか、私たちの修学旅行は、で、江戸じゃないんだからっー!

 その時だった。

わしの店がぁっ! ああっあああ……」
「親父っさん、駄目だ! もう、諦めるんだっ!

 バイト先の鰻屋の店主の嗚咽が聞こえてきたのだ。
 燃える店に駆け込もうとする店主の両脇を押さえて、引き止めているのは、あの凛々しいお侍。その傍には白田屋の若旦那もいた。
 火元は鰻屋だったのだ。

「親父さん、大丈夫っ?」

 そう言って私が、駆け寄って行った時、

「お夏っ、お前、無事だったのかっ!」

 突然、店主に抱きつかれ、私は目を白黒させてしまった。

「お夏ううっ、良かった……。逃げ遅れたのかと、心配でならなかった。本当に良かった……」

 おいおいと、私の胸元で感涙にむせぶ店主。

「そ、そんなに心配してくれなくても……私、バイト……」

「何を言ってんだい! バイトだって、家族と一緒でい!」

 これが江戸の人情! 親父さんっ、修学旅行のレポートに、私、きっと書くわ!

 けれども、”まとい持ちの隆太”がいる屋根は、すぐ上なのに、火の勢いは一向に止まる様子を見せないのだ。
 お侍が声を荒らげた。

「ここはもう駄目だ! みんな、もっと風下へ逃げろっ。家が崩れて、火に飲み込まれるぞ!」

「えっ、でも、まとい持ちが、まだ上にいるのにっ」

「お夏ちゃん、隆太の気持ちを台無しにしちゃ駄目! 纏持ちってぇのは、炎の中で死んでもいい覚悟で、纏を振ってんだ。それが火消の心意気ってもんなの」

「そ、そんなこと言ったって、笹原は、修学旅行中の中学三年っ……」

 その言葉を言い終わらないうちに、白田屋の若旦那が、私の手を強く引っ張った。

「笹原っ、逃げてえぇーっ!!」」

 怒涛の火の粉が、ゲリラ豪雨みたいに降り注いでくる。
 笹原がまといを振っていた家が崩れ落ちた。

 ”ここで私だけ逃げたら、ゆうちゃんと村田にぶっ飛ばされるっ”

 真っ赤に燃えた家の屋根が、真上に落ちてきたのは、握られた手を振りほどいた瞬間だった。


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