アイアリス・レジェンド~虹の女神と闇の王

RIKO

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第一章 至福の島と七つの欠片

プロローグ

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「コーネリアスっ、ココったら!」
「え?」
「何をぼんやりしてるのよ。紅茶が冷めるわ」

 そう話しかけてきた女性に視線を向け、ココは眩しげに目を細めた。
 この女性の名前は天喜あまき、ココより四つ年上だが、三十代半ばになっても、彼女の琥珀色の瞳と艶やかな髪の美しさは、昔と少しも変わらない。
 
「ごめん、ちょっと、考え事をしてた。そういえば、私、今日は祝春祭で黒馬亭くろうまていに来てたんだっけ」

「もうっ、あなたは政治に忙しすぎるわ。でもね、休むときはちゃんと休まないと」

 苦笑いを浮かべたココに、天喜は言う。

「ほら、フレアおばあちゃんのお手製クッキーも食べなさい。あの双子が帰ってきたら、全部食べられちゃうから」

 その双子の声が聞こえてきたのは、ココがテーブルの皿にに手を伸ばした時だった。

「ただいまー!えっ、母さんが昼間に黒馬亭にいるなんて珍しいじゃん」

 嬉しそうに笑って母・コーネリアスの隣に座る双子の姉は、さっそく、テーブルの上のクッキーに手を出した。一方、弟は母の隣に座ろうとしたが、少し迷って隣の席に座った。
 天喜は、そんな弟の方を見て、くすりと笑った。

「あらら、お母さんに甘えたいくせに、素直になれないのね」

 双子の姉は、母親の元気さと父親の気性の激しさを受け継ぎ、弟はココの兄似で、冷静で口数が少ない。
 来年は彼らもこの島を出ることになっている。

 彼らの成長を見守る度に、ココには寂しい気持ちが胸に沸きあがってくる。この子たちが生まれてからもう十二年が経つのか。
 兄の姿を最後に見た時からも、同じくらいに長い時間が過ぎ去った。多分……兄とはもう会えないのだろう。

 けれど、ココはその思いを胸にしまって笑顔を見せた。
 
 その時、双子の姉が声をあげた。

「ねえ天喜、『レインボーヘブンの伝説』ってどんな話なの? ご典医のラピスが言ってたの。私たちの金と銀のロケットのことを知りたいなら、その伝説を天喜に話してもらえって。”かつて、私たちのために道を切り開いてきた人たちの想いが、きっとわかるから”って」

 天喜は驚いてココを見た。

「いいの? 私が話しても」

 ココは一瞬戸惑ったものの、すぐにこう答えた。

「いいわよ。でも、私はもう行かなきゃならないけれど」
「えっ、母さんも一緒に聞こうよ」
「また、別の日にね。大丈夫よ、その話は今日一日じゃ、とても終わりそうにないから」

 そう言って、ココは不満げな双子を残して、貯まった仕事を片付けに行ってしまった。


 島で唯一の旅亭『黒馬亭』の庭には、春の暖かな風が吹いていた。

「話を聞いているうちに、お腹がすいてしまうかも。フレアおばあちゃんに紅茶とクッキーを追加してもらわなきゃね」

 円卓に集った双子に向かって、天喜は微笑むと、長い長い物語を語り始めた。

「――レインボーへブン。それは、至福の島と呼ばれ、五百年前に失われた幻の島。
 虹の女神の伝説に魅せられた冒険者たちは、その楽園を目指して旅立った。
 これは、彼らが見た夢と現実、喜びと悲しみ、友情と愛を綴った壮大な物語」

*  *

 それは、五百年も昔の話。
 東の海の果ての出来事。
 紺碧の海はその島を守るように、高く波をあげていた。

 “レインボーヘブン”

 それは、豊饒と慈愛の女神アイアリスに守られた、この世の富をすべて集めた至福の島。

 島の緑は目に染み入るように輝いていた。
 住民たちの歓びの歌は、辺りの島々にその豊かさをしらしめていた。
 だが、その島は、ある日突然、海に消えた――。
 
 海は、叫ぶように波をあげて渦を描きだした。すると、その中心に蒼い光が現われた。
 泥の沼のように濁った天空。それを貫きながら光は七つに別れ、四方八方へ飛び去っていく。

 “行け。……永い時を越えて、流離さまよい、迷え” 

 レインボーヘブンの守護神、虹の女神アイアリスは、寂しげに空を見上げた。

 “だが、再びお前たちはここに戻ってこれるのだろうか”

 アイアリスは、レインボーヘブンを七つの欠片に分け、蒼の光として封印したのだ。

 『IRIS Legend(アイアリス・レジェント)』

 五百年の時を経て、今に伝えられた至福の島・レインボーヘブンの伝説の書。
 それにはこう記されている。


 ―― レインボーヘブンは蘇る。七つの欠片とその住民が、約束の地に再び集結した時に、また蘇る ――

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