2 / 7
第一章 至福の島と七つの欠片
プロローグ
しおりを挟む「コーネリアスっ、ココったら!」
「え?」
「何をぼんやりしてるのよ。紅茶が冷めるわ」
そう話しかけてきた女性に視線を向け、ココは眩しげに目を細めた。
この女性の名前は天喜、ココより四つ年上だが、三十代半ばになっても、彼女の琥珀色の瞳と艶やかな髪の美しさは、昔と少しも変わらない。
「ごめん、ちょっと、考え事をしてた。そういえば、私、今日は祝春祭で黒馬亭に来てたんだっけ」
「もうっ、あなたは政治に忙しすぎるわ。でもね、休むときはちゃんと休まないと」
苦笑いを浮かべたココに、天喜は言う。
「ほら、フレアおばあちゃんのお手製クッキーも食べなさい。あの双子が帰ってきたら、全部食べられちゃうから」
その双子の声が聞こえてきたのは、ココがテーブルの皿にに手を伸ばした時だった。
「ただいまー!えっ、母さんが昼間に黒馬亭にいるなんて珍しいじゃん」
嬉しそうに笑って母・コーネリアスの隣に座る双子の姉は、さっそく、テーブルの上のクッキーに手を出した。一方、弟は母の隣に座ろうとしたが、少し迷って隣の席に座った。
天喜は、そんな弟の方を見て、くすりと笑った。
「あらら、お母さんに甘えたいくせに、素直になれないのね」
双子の姉は、母親の元気さと父親の気性の激しさを受け継ぎ、弟はココの兄似で、冷静で口数が少ない。
来年は彼らもこの島を出ることになっている。
彼らの成長を見守る度に、ココには寂しい気持ちが胸に沸きあがってくる。この子たちが生まれてからもう十二年が経つのか。
兄の姿を最後に見た時からも、同じくらいに長い時間が過ぎ去った。多分……兄とはもう会えないのだろう。
けれど、ココはその思いを胸にしまって笑顔を見せた。
その時、双子の姉が声をあげた。
「ねえ天喜、『レインボーヘブンの伝説』ってどんな話なの? ご典医のラピスが言ってたの。私たちの金と銀のロケットのことを知りたいなら、その伝説を天喜に話してもらえって。”かつて、私たちのために道を切り開いてきた人たちの想いが、きっとわかるから”って」
天喜は驚いてココを見た。
「いいの? 私が話しても」
ココは一瞬戸惑ったものの、すぐにこう答えた。
「いいわよ。でも、私はもう行かなきゃならないけれど」
「えっ、母さんも一緒に聞こうよ」
「また、別の日にね。大丈夫よ、その話は今日一日じゃ、とても終わりそうにないから」
そう言って、ココは不満げな双子を残して、貯まった仕事を片付けに行ってしまった。
島で唯一の旅亭『黒馬亭』の庭には、春の暖かな風が吹いていた。
「話を聞いているうちに、お腹がすいてしまうかも。フレアおばあちゃんに紅茶とクッキーを追加してもらわなきゃね」
円卓に集った双子に向かって、天喜は微笑むと、長い長い物語を語り始めた。
「――レインボーへブン。それは、至福の島と呼ばれ、五百年前に失われた幻の島。
虹の女神の伝説に魅せられた冒険者たちは、その楽園を目指して旅立った。
これは、彼らが見た夢と現実、喜びと悲しみ、友情と愛を綴った壮大な物語」
* *
それは、五百年も昔の話。
東の海の果ての出来事。
紺碧の海はその島を守るように、高く波をあげていた。
“レインボーヘブン”
それは、豊饒と慈愛の女神アイアリスに守られた、この世の富をすべて集めた至福の島。
島の緑は目に染み入るように輝いていた。
住民たちの歓びの歌は、辺りの島々にその豊かさをしらしめていた。
だが、その島は、ある日突然、海に消えた――。
海は、叫ぶように波をあげて渦を描きだした。すると、その中心に蒼い光が現われた。
泥の沼のように濁った天空。それを貫きながら光は七つに別れ、四方八方へ飛び去っていく。
“行け。……永い時を越えて、流離い、迷え”
レインボーヘブンの守護神、虹の女神アイアリスは、寂しげに空を見上げた。
“だが、再びお前たちはここに戻ってこれるのだろうか”
アイアリスは、レインボーヘブンを七つの欠片に分け、蒼の光として封印したのだ。
『IRIS Legend(アイアリス・レジェント)』
五百年の時を経て、今に伝えられた至福の島・レインボーヘブンの伝説の書。
それにはこう記されている。
―― レインボーヘブンは蘇る。七つの欠片とその住民が、約束の地に再び集結した時に、また蘇る ――
0
あなたにおすすめの小説
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
