形あるもの、いつかは失われるもの

卯月終

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狂気

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「お前なんかあいつの代わりでしかないんだよ」
帰り道、ふと思い立ち普段とは違う道を通っていたら男の人と思われる怒声と何がぶつかる音。喧嘩かと思い、携帯片手にそっと声のする方を伺う。
「なん、で」
そこにいたのは私の恋人と姉で、姉が殴られていて。
「っと、そろそろ帰ってくる時間か。ほら帰るぞ」
なんで姉が殴られているの?代わりって何?どういうこと……

「姉さん、怪我したの?」
帰宅後、何も知らないふりをして姉に尋ねる。
「あ、転んじゃって。でも大丈夫だから、心配しないで」
「気をつけてね」
この後、何を話したかなんて覚えていない。いつのまにか日付けは変わり学校も終わり、また帰り道に。もしかして、と思い立ち昨日と同じ場所に向かう。

「バレなくて良かったな。あいつに。俺が好きなのはあいつだが、こういう妄想を現実にするために利用するのはお前が適任だからまだまだ代わりはしてもらうぞ。双子かと思うほど見た目はよく似てるからな」
「姉、さん」
口からは掠れた音しか吐き出せなくて、手に持った携帯も使えない。
2人が帰宅するよりも早く帰宅し何も見なかったふりをする。

夢だったらいいのに……
そう望んでいても姉の増えた傷口が現実だと訴えてくる。


ある夜、私は一つのある作戦を実行することにした。
お湯を張ったお風呂にカッターナイフ。これで私が何をしようとしているかなんて丸わかりだろう。家には姉も恋人もいる。
私が消えれば姉は助かるかもしれない。たとえ助からなくても誰かが助けるはずだ。この世界には警察という組織が存在しているのだから。

カッターナイフで右手首を切り、浴槽につける。鈍い痛みと少しずつ赤に染まる浴槽。力の抜けていく体。

そろそろ限界かな……
「……ちゃん、しっかりして」
「ねえ、さ、ん?」
「そうだよ。しっかりして、今手当を」
やっぱり姉が来てくれたそう思い、最後の力を振り絞り左手で握りしめたそれを姉めがけて刺す。
繋いだ手からは少しずつ熱が消えていく。
なんで、姉も彼もそう言いたそうだった。
「来るのが遅いんだよ。姉さんは渡さない。姉さんはずっと私のものなんだから」
この声は届いたのだろうか。もう何も考えられない。


翌朝、恋人の暴力に耐えられず巻き込み自殺か、と報道されていた。
きっと2人の死体の前に立ち尽くしていた人が通報したのだろう。
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