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もう一度一緒にいられるなら

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仲の良い友人がいた。
ずっと一緒に居ようねと言えるほどに仲が良かった。親友という言葉が僕たちの関係性を表すんだろう、ずっとそう思っていた。
無理矢理そう思おうとしていたのかもしれない。
自分の気持ちに嘘をついて、この関係性が壊れないように鍵をかけて隠した。
もしあのとき、隠さなければ、鍵をかけなければ関係性は変わっていたのかもしれない。
少なくとも僕は後悔しなかった。

ある少女が言った。
「言わない後悔より言ったあとの後悔の方が私は好きだから!」
僕はその言葉が大嫌いだ。
傷を抉られている気分になる。

僕には好きな人がいた。
大好きだった。
親友という言葉では表せないほどに僕は彼女に恋をした。
綺麗で明るくて笑顔が愛らしい幼馴染に。
昔からずっと好きだったんだと思う。
だけどもう遅いんだ。彼女は僕の前から世界から姿を消した。
両親には不幸な事故だと伝えられた。
僕は何も言えなかった。
ただ何かが足りなくて何が欠けているそんな気持ちになった。
彼女のお墓ができて、僕は彼女に会いに行った。
お葬式以来だね、なんて何も言わない彼女に話しかけた。
僕は涙が止まらなかった。気づいてしまったから。
この感情が何なのかを。これは恋。
淡い淡い恋心。
そして一生叶わない終わった恋だと。
気づいたときにはもう終わっていて失われたものだった。
世界で一番好きな人は世界から消えた。


あれから何年が経っただろうか。
僕は社会人になった。
好きな人も大切な人もいない一人きりの日々を過ごして、彼女と過ごした思い出に会いに、カメラマンになった。
学校に赴いては写真を撮る、そんなカメラマンに。

ある日、一人の少女にあった。
いつも笑っていて幼さの残る子供だった。
何もかもが違うのにどこか彼女に似ていた。
そんな少女に話しかけられた。

「恋人はいますか?」

「好きな人ならいたよ」
そう、答えた。
「……ごめんなさい」
泣きそうな顔でそう言われた。
言い方が悪かったか。
「恋人はいた事ないけど」
察しの良い子供らしい、その言葉でさらに暗い顔をした。
「こちらこそごめんね、くらい話をしちゃって」
「いえ、ただ、あの。こんな話、困ると思います。でも言わせてください。私は言わないで後悔をしたくない! 私はあなたが好きです。私があなたの初めての人になっても良いですか?」

何かが壊れる音がした。
止まった時計の歯車が動き出す音によく似ていた。

「あ、安心してくださいよ! 私こう見えて大人なので」
そう言って笑った彼女はキラキラと輝いていた。
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