白銀の転生魔剣士

ベルファール

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出会い

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 音がした方へ向けて走り続けている少年。林の中を走っている際、出口と思われる光が見えてきた。
「出口か?」
 少年はそう呟いて林を出た。
 林を出た際、眩しい光が瞳孔を刺激してきたことで少年は咄嗟に目を閉じた。手で影を作ってから、ゆっくりと目を開けて、眼前に広がった光景を見て、少年は目を瞬かせた。
「おぉ~」
 見上げれば雲一つない蒼穹に地上を傲然と見下ろす太陽が燦々と輝いている。
 陽射しが大地に満遍なく降り注ぎ、草が心地よさそうに風で揺れている。
 どこまでも続く草原に最初は目を奪われたが、少年は気を取り直して『気配探知』を再開する。
 先ほどは聴覚を強化していたが、次は視覚を強化して視野を広げる。広げた視野で周囲を見渡す。強化された視力で遠く景色を見る。
 そして、発見した。
 奇妙な集団を捉える。
 縦二列に伸びる馬に乗った集団。その集団が魔物に取り囲まれている。魔物にやられたのか負傷した者もいる。状況から見て、かなり危険な状態だと思われる。
 その中で少年の視力で二人の少女に視認する。
「…………」
 少年は少女を黙って見つめていた。見惚れてしまった――なんて言えるはずがない。
絹糸のような艶のある金髪。整った顔立ちは少々幼いけれど、サファイアよりも美しく澄んだ大海を思わせる蒼玉の瞳は強い意志を感じさせる。陶器に近しい白い肌いや薄い肌色の肌。
 もう一人の少女も滑らかな糸のような灰色の髪をポニーテールしている。整った顔立ちは幼さありつつも大人っぽい。だけど、ルビーよりも深く激しく燃えるような紅玉の瞳は意志を感じさせる。陶磁器を思わせる白い肌の下には血管が透けていた。
 二人とも天は二物も三物を与えずとはよく言えたもので、胸もそこそこある――とはいえ、彼女らの魅力が半減することはなく、きっと、将来は魅力溢れる女性となるだろう。
 少年は彼女たちに見惚れてしまった。だけど、今はそれではないと気を持ち直して、彼らの助けるために走りだした。

 集団は今、魔物の群れに取り囲まれている。
 数人。魔物にやられて負傷している。
 集団の大半が誰かを守るための兵士である。一人の兵士が少女に言葉を飛ばす。
「姫様!! このままでは全滅です!! お逃げください!!」
「ダメです!! ここで皆さんを見捨てることは出来ません!!」
「しかし…!?」
「どうせ、私は欠陥皇女。ここで野垂れ死んでも誰も悲しません」
 金髪碧眼の少女は自分を卑下する言葉を述べる。しかし、灰色の髪に紅眼の少女が
「何を言ってるの!! ここで生き残らないと貴方を推す貴族たちに示しが付かないじゃない!!」
「…ですが…」
 叱咤するも金髪碧眼の少女は自信なさげ。生きている価値が本当にあるのかと思い込んでいる。
 少女は周りから後押しされて皇位継承権を得た。
 だけど、彼女は自分に自信がなく内気な少女。そんな彼女を元気づけているのが灰色の髪に紅眼の少女である。
 しかし、今は魔物に取り囲まれている。状況も危険。
 混沌している状況下で魔物が兵士の間を突破し、少女たちへと襲いかかる。
 兵士たちが「姫様!?」と叫ぶ。少女は「これが自分の最期……」と、死を受け入れようとした。
 その時、一条の――銀色の閃光が目映いだ。
 いきなりの出来事に少女らや兵士らは目を閉じた。目を開け、少女らが見たのは縦に両断された魔物の亡骸。そして、魔物を両断したのであろう少年がいた。
 柔和な顔立ち。目元も穏やか。顔立ちも相俟って神秘的な少年。
 髪と瞳の色が銀色の少年である。
 少年の手には一振りの剣が握っていた。鋭い刃。滑らかな刀身。深き海を思わせる鍔と柄。鍔に竜の意匠が刻まれていた。
 少女らはいきなり現れた少年を凝視する。正直に言えば、見惚れた。
 今まで見た少年いや男性の中で一番に心が惹かれた。
 しかし、空気を読まず、お構いなしに魔物が兵士らや少女ら、そして、少年に襲いかかる。兵士らは応じようとするも少年が
「ラミアか…恐るるに足らんな」
 口にして姿を消す。否、正確に言うなら移動した。目にも止まらぬ速さで――。
 少女らの目から見れば、消えたと錯覚してもおかしくない速さだった。
 少年は兵士らが苦戦していた魔物を一太刀で斬り伏せてみせた。
 驚愕が走る。自分らが苦戦を強いられていた魔物を一撃で切り伏せた少年。
 兵士や少女らにとってみれば、信じられないことだった。
 少年は剣を鞘に納め、兵士や少女らに話しかける。
「大丈夫か? ラミアに酷くやられているが?」
 少年は傷ついている兵士らを気にかけながら話しかける。兵士は傷口を押さえながら
「いや…すまないが…自分はここまでのようだ……」
 告げる。少年は兵士の傷を見る。
「切り裂かれているな。この中に治癒を扱える魔法使いはいる?」
 傷口から具合を判断し、兵士や少女らに治療できる魔法使いがいるのかを尋ねる。
 しかし、兵士らは誰も返答しなかった。これに少年は
「あれ? もしかして、ここに治癒ができる魔法使いがいないのか?」
 あり得ないという表情を浮かべる。
 少年は治癒魔法を扱える魔法使いがいないことに驚いている。驚きを隠せない中、少年は気を取り直して、兵士の傷口に手をかざす。
「傷薬とかある?」
 兵士たちに話しかける。兵士らも少年の言葉を聞き
「あ、あぁ…薬なら持っている」
「貸してください」
 兵士は傷薬を少年に手渡す。少年は傷口に薬を塗り、手をかざす。
「応急処置だが、これで幾ばくか持つはずだ」
 少年がかざした手が光りだす。銀白色の光を――。
 兵士や少女らは少年が魔法を扱える人だと認識する。
 少年は怪我をしている兵士らに薬を塗っては魔法で治療する。
 怪我人の治療を終えた少年は少女らのもとにへ歩み寄り手を差し伸べる。
「大丈夫か? お嬢さん方?」
 少女らは差し伸べる少年の手を掴んで立ち上がる。
「え、えぇ…大丈夫です」
「助けてくれてありがとう」
 少女らは少年に感謝の言葉を述べる。
「いや、当然のことをしたまでだ」
 少年は当たり前なことを口にした。だけど、灰色の髪の少女は
「ところでさ。貴方は誰なの?」
 少年が何者なのか尋ねた。ここで少年は少女の問いに困惑する。
(ヤバいな…俺が1000年前の英雄だ。彼女たちが知っているかもしれない)
 少年は自分が過去の人間だと思われたら、不味いと考え、少年がとった方法とは
「俺はシリブロー・リン。シリブローでもいいし。リンと呼んでもいい」
 偽名である。
 偽名を使えば、自分が過去の人間だと思われないからだ。
 少年は偽名で答えた。
「シリブロー・リンね。うんうん。いい名前、そう思わないアリス・・・?」
 灰色の髪の少女は金髪の少女に言ってくる。
「そ、そうですね」
 少女は頬をほんのり朱に染めつつ言った。少女の反応にリンは首を傾げるも灰色の髪の少女は察した。
 すると、兵士の中から一人の兵士が少女らのところへ走ってくる。
 頬には大きな傷。鎧を着ていることもあって、戦士のような風格を漂わせている。
「姫様! イーディス殿! お怪我はございませんか!?」
 兵士の彼は少女らに怪我がないか気にかけていた。
「大丈夫よ。リンが助けてくれたから」
 イーディスという少女は兵士に助けてくれたことを述べる。
「この少年がか?」
 兵士の彼いや男は鋭い目でリンを一瞥してからイーディスに視線を向けた。
「確かに、この少年のおかげで助かりました。ですが、この少年が何者なのか我々は知りません」
「う~ん。そう言われたら、言い返せないわね」
「ですので、尋問しないと…」
「でも、いい人だよ。大丈夫だと思うよ。彼らの怪我を治してくれたし」
 イーディスはリンをフォローする。一呼吸を挟んで男は呆れたように頭を振った。だけど、ここでリンが割り込む形で話しかける。
「あ、あの~」
「なんだ?」
 男はリンに鋭い目を向け聞き出す。
「ここから逃げた方がいいですよ」
「あ?」
 鋭い目がさらに鋭くなる。若干だが、殺気を出している。リンはさっきを受け流しつつ
「俺がラミアを斬ったから。血の臭いで魔物がやってくると思いますが…」
 と、言った。
 リンに言われて、イーディス、アリス、男も今になって気づいた。
「そうよ! 今はここから離れないと…!?」
「姫様方!? 急いで馬に乗って逃げましょう!!」
 慌て始める。
 慌てている中、リンは『気配探知』の魔法を行使し続けている。さらに正確に言うなら、イーディスと男が話し合っているときからずっと探知していた。
 なお、魔法を行使しているからこそ、既に魔物が近づいていたのも気づいていた。
「慌てているところ悪いけど…」
「なんだ?」
「もう遅いみたい…」
 リンは既に剣を抜き態勢を取る。
 血の臭いで集まってきた魔物。
 上半身は美女で下半身は蛇の魔物。リンは魔物の特徴を見て
「エキドナ…か」
 固有名。つまり、正体を呟く。リンの呟きに男が
「エキドナだと!? 中隊ではないと倒せない怪物じゃないか!?」
 声を荒げる。リンは「えっ?」となる。
(エキドナって小隊規模で倒せるものじゃないか…)
 リンは男が言ったことに驚いている。
 リンの中ではエキドナなど簡単に倒せる魔物だと判断していた。だが、男の言葉に少なからず理解できることがある。
(確かにエキドナは魔物を生み出されるのは厄介だが、エキドナ単体はあまり強くない印象だ)
「姫様。ここは我々が相手にします。姫様方はお逃げください」
「ですが…」
「姫様は生きなければなりません。イーディス殿。姫様を頼みます」
「わかったわ」
 男は決死の覚悟をするも
「あの…なんで覚悟を決めた顔をするの?」
 リンは男や兵士が覚悟を決めるのかが分からなかった。
「小僧。貴様には分かるまい。エキドナの恐ろしさが…」
「恐ろしさもなにも。エキドナは他の魔物を産ませる排出口を潰せば、怖くないんだがな…」
「何を言っている」
「あと、無駄に時間を与えない。エキドナに時間を与えないことが基本だ」
 リンはそう言いながら、銀白色が身体を包み込む。リンは自分の身体に『身体強化』の魔法をかける。
 魔法をかけたのと同時に動いた。それもラミアを倒したのと同じように目に止まらぬ速さで――。リンは剣を振るい、エキドナが魔物を生み出す前に斬り伏せてみせた。

 リンの圧倒的までの強さ。アリスやイーディス、男を含めた兵士らは驚きを隠せない。
「ば、バカな…エキドナはBランク相当の魔物だぞ…そのエキドナを一撃で斬り伏せるなんてできるはずがない!?」
 信じられないと男は漏らす。兵士らも男が言ったことと同じであり、リンの異常性いや強さに目の当たりする。
 対するリンは剣を鞘に納める。一息つく。一息ついた後、アリスという少女らのところへ戻る。
 戻ったところで
「それじゃあ、急いで逃げようか」
 移動することを薦める。
「小僧。貴様は何者だ?」
 男は警戒心を高め、鋭い目を向ける。兵士らも男と同じように警戒している。
「俺はただの魔法剣士だが…」
「巫山戯たことを抜かすな。魔法剣士なんてものは存在しない。魔法というのは選ばれた者だけが使用できるものだ」
 ますます、目つきが鋭くなる男にリンは
「ここで尋問するより、さっさと移動した方がいい。さっきよりも大群の魔物に襲われる前にさ」
 再度、移動することを薦める。
「そうよ。リンのことは後で聞けるんだし。今は移動しましょう」
 イーディスが兵士らに移動しようと促す。彼女に言われて兵士らも納得し、渋々、馬に跨がり移動することを決めた。
 リンはアリスらが馬に跨がったのを確認した。
 確認したところでリンは魔法で強化して走って追いかけようとする。
 リンが走ろうとしたとき、イーディスが
「せっかくだし。馬に乗せてもらったら?」
「いや、いいよ」
 馬に乗せようと促すもリンはやんわり断る。
「でも、馬の速度に追いつけると思えないし。かといって、貴方の速度に合わせるのもね・・・そうだ! アリス! せっかくだから、乗せてあげなよ」
 イーディスは爆弾発言をする。
「えっ?」
 アリスは呆け、兵士らは動揺する。
「せっかくの恩人を無碍にするのも嫌だし。アリス、乗せてあげなよ」
「イーディス殿!! なにを仰るのですか!?」
「なにって、私はただ、リンをアリスの馬に乗せてあげようと思っただけよ」
「しかし、姫様に何があったら、どうするのですか!?」
「大丈夫よ。リンってそんなことしなさそうだし」
 イーディスはアリスがリンに惚れ込んでいるのを察しており、一緒にいさせようという魂胆である。
 だけど、男は断固反対する。もしものことを考えているからだ。
「もう鈍いんだから…」
 イーディスは悪態を吐く。リンはその間に
「お嬢さん。後ろ、失礼するよ」
 アリスの後ろに跨がった。
 男はいつの間に、と目を向ける。
「小僧…」
 憎らしげな視線を送る。
「それじゃあ、行こうか」
 イーディスは元気いっぱいな声をあげる。
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