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一章 孤児院卒業編
21話 卒業へ向けて
しおりを挟む──初期装備を買い終わった後、私はみんなに付き添って貰って、果物とお肉を買いに行く。
冒険者ギルドの周辺にある出店では、色々な食べ物が売られているから、みんなあちこちに目移りしているよ。
お値段はどれも、銅貨数枚から数十枚程度。銀貨一枚で、お腹いっぱいになりそうだね。
「みんな、何か食べたいものがあったら、買ってあげるよ」
「いいの……!? ぼ、ボクっ、お魚が食べたい……ッ!!」
真っ先にシュヴァインくんがお魚を所望したので、他の面々も口の中がお魚の気分になった。
私は五人+二匹分の、魚の串焼きを購入する。スラ丸とティラにも、食べさせてあげるんだ。
魚の種類はサバで、一本当たり銅貨十枚。日本円に換算すると、百円くらいだよ。
こんな値段のものでも、孤児院だと簡単には食べられなかった。そう考えると、ちょっと泣けてくる。
丸ごと一尾を一人で食べるのは、今世だと初めての経験だから、とても感慨深い。
みんなが骨に気を付けながら、黙々と食べている最中、私は前世の経験を生かして、手早く綺麗に完食した。
魚なんて、前世では幾らでも食べられたからね。あの頃の生活水準が恋しいよ……。
「アーシャ……。あんた、地味な特技を持っているわね……。こんなに綺麗に魚を食べる人、初めて見たわよ……」
「フフン、凄いでしょう」
「ええ、無駄に凄いわ」
フィオナちゃんが感心しながら、頭と骨と尻尾だけになった私の魚を見つめてきた。
私は胸を張って、得意げになったけど、すぐに虚しくなる。
前世の記憶という大きなアドバンテージがあっても、こんなことでしかマウントを取れないなんて……私の前世って、一体……。
駄目だ、深くは考えないようにしよう。
みんなが食べ終わるまで暇だから、屋台の店主である男性に、魚の産地でも聞いてみようかな。
「おじ──お兄さん、この魚はどこで獲れたものですか?」
店主はアラサーの男性だから、おじさん呼ばわりは傷付いちゃうかも……。
微妙なお年頃だって、私は痛いほどよく知っているので、口には気を付けよう。
「それは、流水海域で獲れた魚だ。一尾当たり、銅貨五枚で買い取っているから、お嬢ちゃんたちもダンジョンへ行くようになったら、釣ってきてくれよな」
「はい、善処します。……あの、利益ってどれくらい出るんですか? 塩と火が必要で、売れ残りが出ることも考えると、物凄く難しい商売に思えますけど……」
「お、おおぅ……。お嬢ちゃん、ちっこいのに随分と突っ込んだこと聞いてくるな……。純利益は一本当たり、銅貨二枚ってところだ。この街にある出店の売れ残りは、【収納】を持つ商人たちが格安で買い取っていくから、丸損にはならない。だから、赤字になることは滅多にないぞ」
スキル【収納】を使って異空間に仕舞ったものは、時間が止まっている状態になる。
つまり、出店の売れ残りを保存して、どこかへ売りに行くことも出来るんだよね。
出店で売られているものは嵩張らないし、沢山集めてから然るべきとき、然るべき場所で売り捌けば、大きな利益を得られるはず……。
私はお兄さんの話を聞いて、自分にも【収納】持ちの商人と同じことが出来ると考えた。
……でも、利権とか絡みそうだし、やめておこう。
長いものには巻かれて、角を立てないように生きるんだ。
この後、みんなが魚を完食してから、私はスラ丸に与える果物と、ティラに与えるお肉を購入した。
ティラは焼いてあるお肉よりも、生肉が好みだったので、屋台ではなく精肉店で購入したよ。
売っていたのは、アザラシ、ペンギン、スノウベアーのお肉。これらも魚と同じく、流水海域の産物だった。
普通の生物である魚とは違って、こっちは全部、魔物らしい。
アザラシとペンギンのお肉は、拳大で銅貨五枚。
スノウベアーのお肉は、その三倍くらいする。
ティラはスノウベアーのお肉に興味津々だったけど、日常的に贅沢はさせられないので、アザラシとペンギンのお肉で我慢して貰う。
「このお肉、ちょっと獣臭いかも……。しかも、嗅ぎ慣れた臭い……」
私はお肉の臭いを嗅いで、ハッとなった。
どうやら、これが孤児院のスープに入っている、謎のお肉の正体だったみたい。
スラ丸の中に仕舞っておけばいいので、大人買いしておいたよ。
この日の予定は、これで終わり。
ティラが仲間になったから、ステホで自分のステータスを確認しておこう。
アーシャ 魔物使い(13) 魔法使い(10)
スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
【魔力共有】【光球】
従魔 スラ丸×2 ティラノサウルス
私のレベルとスキルは変化なし。従魔はヤングウルフのティラが増えた。スラ丸二号はまだ分裂出来ないね。
孤児院を卒業した後の基本装備は、光る延長の指輪、白色のブラウス、濃紺色のスカート、編み上げのロングブーツの四点。
所持金は白金貨七枚と、金貨が数十枚。
職業選択を行った日と同じく、大金を得た今日この日も、人生の転機だったように思える。
この調子で、今後も上がり調子だといいなぁ……。
──翌日。私は孤児院で朝食をとった後、ステホを使ってバリィさんに連絡を取った。
「バリィさん、昨日の今日で申し訳ないんですけど、今日はお暇ですか?」
『午後から仕事に行く予定だが、午前中なら暇してるぞ。もしかして、デートのお誘いか?』
ステホの通話機能を使うのは初めてだから、きちんと繋がったことに安堵する。
「いえ、デートの誘い文句みたいになっちゃいましたけど、違います。もし宜しければ、私を不動産屋に連れて行って貰えませんか?」
『別に構わないが、婆さんはどうした?』
「断られちゃいました。二日連続で私に付き添うのは、公平性に欠けるとかなんとか……」
昨日、マリアさんが半日留守にしただけで、泣くわ喚くわ喧嘩をするわの大合唱が、孤児院の中に響いていたらしい。
この孤児院に送られてくる子供は、全員が五歳以上。
それ以下の子供は、別の孤児院で面倒を見て貰っているので、四六時中目を離せない赤子はいない。
それでも、保護者の不在はみんなを不安にさせてしまったらしい。
ごめんね。中身が大人の私が、マリアさんを独占したら、駄目だったよね。
『あー、他の子供たちが臍を曲げるからな……。分かった。それじゃ、どこへ迎えに行けばいい?』
「厚かましくて申し訳ないのですが、孤児院まで迎えに来て貰ってもいいですか? 私一人で出歩くと、大通りへ出る前に、面倒事が降り掛かるかもしれないので……」
『あいよ、了解。すぐに行くから、待っていてくれ』
バリィさんはあっさりと、気の良い返事をしてくれた。
マリアさん以外の頼れる大人が見つかって、本当に万々歳だよ。
私がスラ丸と一緒に、孤児院の入り口で待つこと数分。昨日と変わらない姿の、バリィさんが登場する。
「バリィさんっ、おはようございます!」
「おう、おはようさん。子供は朝から、元気いっぱいだな」
庭で修行に励んでいるルークスたちを眺めて、バリィさんは柔らかい笑みを浮かべた。
「あの子たち、もうすぐ冒険者デビューするんです。実力的に、問題ないと思いますか?」
「銅級としてなら、十分な実力だな。俺よりも才能がありそうな奴ばっかりで、嫉妬しちまうよ」
壁師匠に鍛えられたルークスたちは、やっぱりそれなりの実力が備わっているらしい。これなら、安心して送り出せるね。
ちなみに、ティラはルークスたちの修行に交ぜておいたので、今日は連れて行かないよ。
魔物は基本的に、魔石を食べさせないと成長しないっぽいから、壁師匠の恩恵はあんまり受けられない。けど、全くの無駄ではないと思う。
「──あっ、そうだ! 不動産屋へ行くなら、昨日買った服に着替えないと! 着替えが出来そうな場所って、ありますか?」
「おお、あの服か! 嬢ちゃんは女の子だから、その辺の木陰って訳にはいかないよな……」
「孤児院の中で着替える訳にも、いかないんですよね……。他の子が、悲しい思いをしそうだから……」
「それなら、俺が借りている宿の部屋を使うか?」
バリィさんの有難い申し出に、私は少しだけ逡巡する。
昨日、知り合ったばかりの男性の部屋へ行くのは、どうなんだろうか?
世の中には、小児性愛者という魔物も存在するんだけど……まぁ、バリィさんなら大丈夫かな。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます!」
「おう! それじゃ、付いて来てくれ」
孤児院から出発して、十五分ほど歩いたところに、バリィさんが利用している宿屋があった。
そこは大通りに面している場所で、中々に高級感がある。流石は一流の冒険者、泊まる宿も一流だね。
私はバリィさんの部屋を借りて、手早く着替えを済ませたよ。
スラ丸に【浄化】を二度掛けして貰って、身体もピカピカにしておく。
この部屋には全身を映せる鏡があったので、不動産屋へ行く前に、最後の身嗜みチェックだ。
「うーん……。うんっ、我ながら美少女! 百点満点!」
鏡は高級品なので、自分の容姿は水面に映すことでしか、確認したことがなかった。
こうやって、鏡できちんと確かめると、それなりの良家の血筋なんじゃないかと思えてくる。
新しい衣服も似合っているし、これでようやく、胸を張って大通りを歩けそうだよ。
──では、いざ行かん! 不動産屋へ!!
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