他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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二章 子供たちの冒険編

45話 密告

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 ──老執事とピエロの密会現場から離れた私は、お屋敷の壁に寄り掛かって膝を抱えた。
 今すぐ誰かに報告したいんだけど、よくよく考えてみると問題がある。

「困ったなぁ……。知り合ったばかりの私の言うことなんて、誰が信じてくれるの……?」

 老執事はこのお屋敷で、七年以上も働いているみたいだから、私よりも信頼されていることは明白。客観的に見て怪しいのは、老執事よりも私の方だよ。

「……困った? 姉さま、困ってる?」

「うわぁっ!?」

 真横から突然声を掛けられて、私は心臓が止まりそうになるほど驚いた。
 顔を向けてみると、スイミィ様が私と同じように、膝を抱えて座っていた。ブロ丸の姿もあるよ。

「……スイ、姉さまの力になる。……なんでも、言って」

 驚かされはしたけど、有難いことにスイミィ様は、私の味方になってくれるらしい。でも、死の運命を背負っている彼女に、これ以上の心労を与えることは躊躇われる。
 うーん……。協力は求めないにしても、注意だけはしておこうかな。

「スイミィ様は、老執事のことをどう思っていますか……?」

「……老執事? それ、いっぱいいる。……だれ執事?」

「えっと、図書館で私とスイミィ様が出会った日に、ニュート様と一緒にいた人です」

 スイミィ様はぼうっと宙を眺めて一考した後、無表情なままポンと手を打った。
 それから、やれやれと呆れたように頭を振る。これまた無表情で。

「……それ、セバス。……兄さまを甘やかす、ダメな人」

「あの人の名前はセバスさんですか……。それで、どう思います? あの人のこと」

「……スイ、好きちがう。……びみょう?」

 スイミィ様は老執事のセバスに、好意的じゃなかった。それだけで、とりあえずは一安心だと思えるよ。

「ええっと、いきなりこんなことを言われても、戸惑うかもしれませんが……あの人には、気を付けてください。絶対に、二人きりになったりしないように」

「……分かった。姉さま、ありがと」

「ず、随分とすんなり信じますね……。あの、事情を聞いたりとか……」

「……スイ、姉さま好き。信じる」

 真っ直ぐに好意を向けられて、私は思わずたじろいでしまった。
 好かれている理由なんて、首飾りをプレゼントしたことくらいしか、心当たりがない。
 たったそれだけで、長年勤務しているセバスより、私を信じてくれるって、ちょっと納得出来ないかも。

「その好感度の高さには、戸惑うばかりです……」

「……姉さま、首飾りくれた。……秘密のスキルも、使ってくれた」

 だから好きだと言ってくれるスイミィ様。私は目を見開いて、そんな彼女の無表情を凝視する。

「ま、待って……!! えっ、ひ、秘密のスキル……!?」

「……あ、秘密のスキル、まだ。……それ、夢で見た」

「もしかして、そのスキルって、大人になった私がピカーって出てくるやつ……ですか……?」

「……そう、それ。ピカーって」

 まだ話していない秘密のスキルを知られている。【予知夢】って、やっぱり強力というか、かなり怖いね……。
 私は頬を引き攣らせながら、おずおずと震える声で、事実確認をしておく。

「あの、そのこと、誰かに言いました……?」

「……スイ、言ってない。秘密だから」

 私はスイミィ様の言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。そうだよね、秘密のスキルなんだから秘密だよね。

「ありがとう、スイミィ様……。それじゃあ、今から秘密のスキルを使いますね」

 私が【再生の祈り】を使うと、純白の羽衣を纏った大人のアーシャが宙に現れた。相も変わらず後光が差しているから、ピカーって感じだよ。
 私は女神を自称するつもりなんてないけど、このスキルを使うと現れる彼女のことは、女神アーシャと呼んでいる。如何にもそれっぽいからね。

 女神アーシャがスイミィ様の頭に手を翳すと、優しい光が降り注いだ。

「……姉さま、ありがと。……からだ、ポカポカする」

「これで、大抵の怪我はすぐに治るはずです。もう言うまでもないとは思いますが、このスキルのことは秘密で」

「……ん、分かった。スイ、だれにも言わない。やくそく」

 この後、【再生の祈り】の効果は三日間しか持続しないことを伝えて、どうにか三日置きに密会出来ないか聞いてみた。
 すると、スイミィ様は私が遊びにくれば、二人きりになると約束してくれたよ。

「──あっ、そうだ! いつカマキリに襲われるか分からないし、ブロ丸を貸しましょうか? そんなに強くないけど、不眠不休で警備してくれますよ」

「……!! うれしい。……丸ちゃん、話し上手で好き」

「う、うん……? 話し上手……? ブロ丸って、喋るの……?」

 私は訝しげにブロ丸を見遣った。けど、この子はウンともスンとも言わない。
 まぁ、口がないからね。喋る訳がないよ。
 私がスイミィ様に揶揄われているのか、それとも彼女が不思議ちゃんなだけか、判断に困る。

「……姉さま、そろそろ部屋に戻る。……スイ、お腹空いた」

「そうですか。それなら、私はそろそろお暇しようかな……」

 私が帰ると聞いて、スイミィ様が寂しそうな雰囲気を醸し出した。
 ごめんね、私にも帰りを待つ家族がいるんだ。
 帰る前に、ゼバスとピエロが一騒動起こすかもしれないこと、大人の誰かに伝えておきたい。……でも、スイミィ様以外に、セバスより私を信じてくれる人なんて、いるのかな?

 うーん……。駄目だ、心当たりがない。ただ、黙っておくのもどうかと思うし、ガルムさんの耳に入れておこう。
 私が侯爵家の内部分裂を狙っているとか、そんな疑いを掛けられる危険性もある。けど、彼なら即座に私を拘束するとか、そんなことはしないと思う。

「そういえば……スイミィ様、気儘なペンギンの耳飾りを手に入れる当ては、あるんですか?」

「……ない。座して待つ」

「それなら、私の友達に借りられないか、聞いてみます。売って貰うのは難しそうですけど……」

「……ペンギン、母さまに、一目見せるだけ。それで十分」

 耳飾りを持っているのはフィオナちゃんで、彼女は仲間ペンギンに命を救われてから、あの装備を大いに気に入ってしまった。
 だから、手放すことはあり得ないと思う。貸し出しも怪しいところだけど、そこはなんとか交渉してみよう。
 私たちはお喋りしながら、最初の部屋まで戻ってきた。スイミィ様と一緒だったからか、不自然な迷い方はしなかったよ。

「それでは、スイミィ様。また三日後に」

「……ん、待ってる。姉さま、ばいばい」

 私はメイド服から私服に着替えて、スイミィ様に別れを告げた。
 もう迷子になるのは御免だから、きちんとメイドさんに声を掛けて、ガルムさんがいる場所まで案内して貰う。
 背筋を伸ばしてすまし顔で道を尋ねたら、畏まって対応してくれたよ。

 ──ガルムさんは屋外にある騎士団の訓練場で、大勢の騎士と模擬戦を行っていた。千切っては投げ、千切っては投げ、大の男が次々に吹っ飛ばされている光景は、圧巻の一言に尽きる。
 あちこちに疲労困憊で倒れている人たちがいて、死屍累々のような有様だ。
 熱いからか、上半身が裸の人も少なくない。みんな筋肉が凄くて、眼福だね。

「すみません、ガルムさん。お忙しいとは思いますが、少し伝えておきたいことが……」

「おお、おチビちゃんか。丁度休憩しようと思っていたところだ。……汗臭くても大丈夫か? 気になるようだったら、水浴びしてくるが」

「全然大丈夫です。えっと、ちょっとこちらに──」

 私はガルムさんの手を引いて、訓練場の片隅に誘導した。
 そして、近くに誰もいないことを確認してから、セバスとピエロの怪しい会話内容を伝える。
 ガルムさんは一から十まで聞き終えて、釈然としない表情で首を捻った。

「──その話、信じてやるのは難しいな。セバスは若様の物心が付く前から、ずっと若様の教育係を任されているんだ。いつも真面目で、怪しい動きをしている気配なんて、一度も感じたことがない」

「そう、ですか……」

 ガルムさんは半信半疑どころか、九割九分は私の話を疑っている様子だよ。
 やっぱり信じて貰えなかったか、と私は肩を落とした。

「ああいや、別におチビちゃんが見たもの、聞いたことを全て疑っている訳じゃないぞ? 誰かがスキルやマジックアイテムを使って、セバスに化けていた可能性もあるしな」

「あっ、なるほど……。確かに、そういうこともあり得ますよね……」

「なんにしても、そいつらが近々事を起こすってんなら、警備を厳重にしておこう。報告してくれて、感謝するぞ」

 とりあえず、肩の荷が下りたと思っていいのかな。
 セバスとピエロが何者であろうと、ガルムさんが率いている騎士団を出し抜くのは、そう簡単じゃないはず……。みんな、明らかに強そうだからね。
 
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