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二章 子供たちの冒険編
47話 ティラの進化
しおりを挟む──侯爵家のお屋敷から帰って来て、一日、二日、と瞬く間に経過した。
そして、再びスイミィ様に会いに行く日の前日。私は真夜中に、待ち望んでいた夢を見ることが出来た。
暗闇の中に浮かぶ道の上。そこに、私自身が立っている夢だよ。
一本道の手前には、『シャドーウルフ』と書かれた看板が立てられている。
これはティラを進化させるか否か、選ぶための夢なんだ。スラ丸を進化させたときにも、こういう夢を見たから、戸惑うことは何もない。
「闇の魔石をいっぱい食べさせたから、そろそろだと思ったんだよね」
スラ丸二号から供給される闇の魔石。それをティラに食べさせ続けて、ようやく進化まで漕ぎ着けた。
シャドーウルフは目標にしていた進化先だから、この道をティラに進ませる。そう決意したところで、私の足元にティラが現れた。
「ティラ、行っておいで。強くなるんだよ」
私はティラの身体を一頻り撫で回してから、その背中を軽く押した。
ティラは『ワン!』と一鳴きして、勇ましく駆け出す。
小さくて可愛いティラは見納めだから、その姿を忘れないよう、網膜に焼き付けておこう。
一抹の寂しさと、大きな期待。その二つを噛み締めながら、私の意識は静かに浮上した。
──自室にあるベッドの上で、徐々に意識が覚醒していく。
窓の外では、小鳥がチュンチュンと鳴いているよ。まるで、早く起きてと急かされているみたいだ。
空はどんよりと雲っていて、気持ちの良い朝とは言い難い。
上体を起こして部屋の中を見回すと、私の隣ではフィオナちゃんが寝ていて、枕元にはスラ丸の姿がある。
そして、床に敷いたタオルの上では、見慣れない姿の魔物が寝そべっていた。
黒い毛並みの狼で、身体の大きさが二メートルくらいあるよ。
ステホで撮影してみると、種族名は『シャドーウルフ』で、個体名は『ティラノサウルス』だった。
「うん、ティラだね……。大きくなり過ぎて、違和感が凄いけど……」
私よりも小さかったティラが、一晩で私よりも大きくなっちゃった。
小犬っぽかった顔立ちが精悍になっていて、どこからどう見ても立派な狼だ。
スラ丸の進化は見た目が全然変わらなかったから、ティラの進化は衝撃が大きい。
持っているスキルは【気配感知】と【潜影】の二つ。
前者はヤングウルフの頃から持っていたスキルで、後者が進化してから取得したスキル。図書館で調べた通りだよ。
ティラの見た目は凄く強そうだけど、攻撃的なスキルを持っていないから、実際の戦闘力はセイウチ以下だと思っていい。敵が現れても、無暗に嗾けるのは危ないって、肝に銘じておこう。
「ティラ、おいで。もふもふしてあげるから」
進化して強くなったことで、命令を聞かなくなったらどうしようかと思ったけど、ティラの内面は全然変わっていなかった。
私が手招きすると、尻尾をブンブンさせて駆け寄ってくる。よしよし、可愛いね。
毛並みだって、もふもふが維持されているから、これで一安心だよ。大きくなった分、抱き着いたときの満足感が物凄い。
「うぅん……。アーシャ、おはよー……って、何よその魔物!? デカっ!! 敵っ!?」
私が進化後のティラと戯れていると、フィオナちゃんが起床した。
彼女はティラを見て驚愕し、即座に両手を頭上に掲げて、必殺技を使うべく魔力を漲らせる。
流石は冒険者、寝起きでも迅速な対応だね。……いやっ、悠長に感心している場合じゃない!!
「て、敵じゃないよ! 落ち着いてフィオナちゃん!! この子はティラ!! 進化したの!!」
「し、進化って、大きくなり過ぎでしょ……!? あんた、本当にティラなの……?」
フィオナちゃんが恐る恐る手を差し出すと、ティラはぺろっと一舐めして、甘えるように顔を擦り付けた。
「ね、ティラでしょ?」
「そ、そうね……。この甘え方は間違いないわ……」
フィオナちゃんは納得して肩の力を抜き、私と一緒にティラをもふもふした。
この世の中には、ティラのもふもふからじゃないと摂取出来ない栄養があるんだ。
しばらくして、ルークスたちがフィオナちゃんを迎えに来たので、みんなにもティラが進化したことをご報告。
ノリが悪いトール以外のみんなで、盛大にティラをもふもふしたよ。
その後、ルークスが今日の私の予定を尋ねてくる。
「アーシャは今日、何か予定があるの? オレたち、買い物に行くんだけど、アーシャも一緒に行かない?」
「あー、ごめんね。私はスイミィ様のところに、耳飾りを届けに行かないと」
ルークスたちは今日、ダンジョン探索をお休みして、買い物を楽しむらしい。
お金が貯まってきたから、私服と装備を新調するんだって。
「オイ、アーシャ。夜の予定、忘れンじゃねェぞ」
「忘れないよ、サーカス団でしょ? 私も楽しみにしているから」
トールに念押しされて、私はくすりと笑みを零す。
いつもツンツンしているトールだって、やっぱりまだまだ子供だよね。サーカス団の公演が楽しみで仕方ないみたい。
みんなとは夕方に合流する約束をして、ここで一旦お別れ。
「ティラ、私の影の中に潜って、護衛をお願いしてもいい?」
「ワン!!」
ティラは任せろと言わんばかりに吠えて、颯爽と私の影の中に飛び込んだ。
傍から見ても、影の中にティラが潜んでいるなんて、全く分からないと思う。
でも、私には確かに、ティラの存在が感じられた。
「うんっ、いいね! 今までとは安心感が段違いだよ!」
街中を歩く際の足取りが軽くなったので、私は陽気な鼻歌を口遊みながら、侯爵家のお屋敷へと向かう。
お供はスラ丸とティラだけで、ローズとタクミは家でお留守番だ。
「──ごめんください、スイミィ様とお会いする約束があるので、入れて貰えますか?」
「確認を取ります。少々お待ちください」
侯爵家の敷地内に入る前に、私は門番の人とお決まりのやり取りをする。
すぐに確認が取れて、難なく入れて貰えたけど、一人の兵士が見張るように私に付いてきた。……少しだけ、ピリピリしているかも。
敷地内もなんだか物々しくて、厳戒態勢であることが窺える。
ガルムさんが私の密告を聞いてから、きちんと対応してくれた証拠かな。
私が自然公園みたいな庭を歩いて、お屋敷へ向かう途中──不意に、私の足元に小石が投げ込まれた。
なんだろうと思って足を止め、周囲を窺ってみると、木陰から手招きしている不審者を発見。……アムネジアさんだ。
「兵士さん、どうしましょう? アムネジアさんに、呼ばれているみたいなんですけど……」
「彼は賓客なので、ご歓談を楽しんでくださっても、問題ありません。あの様子は内緒話だと思うので、自分はここで待機しています」
兵士さんは直立不動の姿勢でその場に残り、私だけがアムネジアさんに近付くことになった。
そういえば、兵士さんがアムネジアさんのことを『彼』と呼んだから、この人は男性なのかな。今の今まで、性別がよく分かっていなかったけど、私も男性として扱おう。
「やぁやぁ、密告者ちゃん。ご機嫌は如何かなぁ?」
アムネジアさんはニタァっと嫌な笑みを浮かべて、コソコソと私に話し掛けてきた。
私はきょとんとした表情を作って、小首を傾げる。
「密告者って、なんのことですか?」
私が密告したことをガルムさんが吹聴するとは思えない。だって、そんなことをしたら、私の命が狙われそうだもの。
あの人は善良っぽいから、子供の命を軽視するとは思えないんだ。
となると、鎌を掛けられているのかも……。
「やぁだなぁ、惚けちゃってぇ。セバスが怪しいってさぁ、団長さんに密告してたでしょぉ?」
「…………ガルムさんから、聞いたんですか?」
「へぇ……!! やっぱりキミだったんだねぇ! 今までセバスを信じていた団長さんがさぁ、三日前から少しだけ彼を疑うようになったからぁ……誰かに何か、吹き込まれたと思ったんだよねぇ!!」
アムネジアさんは心底愉快だと言いたげに、私を見下しながらアハハと高笑いした。……この人、嫌いだ。
十中八九、鎌を掛けられているって思ったのに、アムネジアさんの『確信がある!!』と言わんばかりの演技に、まんまと騙されちゃったよ。
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