他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
54 / 239
二章 子供たちの冒険編

54話 拉致

しおりを挟む
 
 私はピエールとは初対面だけど、セバスとは何度か顔を合わせているから、すぐに気付かれる。

「貴様は……確か、アーシャだったか?」

「そ、そうです! 貴方がどうして、スイミィ様を攫ったのか知りませんが、やめてください!」

 とりあえず、何も知らないという体で対話を試みた。
 少しでも時間を稼いで、騎士団が駆け付けてくれるのを待つんだ。
 私のそんな姑息な手はお見通しなのか、セバスは鼻を鳴らして踵を返す。

「やめろと言われて引き下がるなら、最初からこんなことはしていない。ピエール、行くぞ」

「うッス。……およ? この子、かなりの別嬪ッスよ?」

「この大事なときに、余計なものに目移りし過ぎだ。売り物は一人で十分だろう。増やすと管理が面倒になる」

「非力な子供ッスから、もう一人くらい大丈夫ッスよ。今後の活動を考えれば、資金は幾らあっても困らないッス」

 ピエールに商品価値を見出されて、私はゾッとした。
 どうしよう、と次の言葉を考えた直後、ピエールの爪先が私の腹部にめり込む。

「おぇ──ッ!?」

 動きが速すぎて視認出来なかった。蹴られたと理解した瞬間に、私は膝から崩れ落ちて、一歩も動けなくなってしまう。
 ティラが再び、私の影の中から飛び出しそうになったけど、『まだ駄目ッ!!』と強く念じる。言葉にしなくても、心が繋がっているから伝わってくれたよ。

 こうして、私はシュヴァインくんの上に重ねられて、ピエールに拉致されることになった。……最悪だ。ルークス、トール、フィオナちゃんがやられて、私とシュヴァインくんは奴隷として売られそう。
 スイミィ様も助けられなかったし、私たちは完全敗北したと言える。



 ──いや、まだだ。生きているんだから、まだ終わりじゃない。
 すぐにお腹の痛みが収まって、冷静な思考を取り戻せた。
 折れそうな心を希望で補強するべく、私は自分が切れる手札を頭の中に並べる。

 まずは、影の中に潜ませたままのティラ。
 それから、各種スキルと装備しているマジックアイテム。
 これらをどう使えば、事態が好転するのか分からないけど、何も出来ないなんてことはない……はず、だよね……?

 セバスの視点では、私が魔物使いだって把握していると思う。
 ルークスとトールは接近戦を仕掛けていたし、シュヴァインくんとフィオナちゃんは各々の職業スキルを使っていたから、魔物を嗾けたのは消去法で私しかいない。

 ここで、スラ丸とブロ丸の姿を見せたという事実が、活きてくるかもしれない。
 セバスは私がブロンズミミックをテイムしていることも、多分だけど把握している。
 魔物使いが四匹目の魔物を従えるには、普通ならレベル30も必要だから、私みたいな子供がそこまで上げているとは考えないよね。
 伝説級の装備と騎士団の力を使って、レベル上げを頑張っているニュート様ですら、レベル20には届いていないんだ。

 つまり、ティラの存在はセバスたちにとっての想定外。
 私が彼らの懐に身を置いていたら、獅子身中の虫になれるかも……。
 と、そんな希望的観測に縋りながら、私が自分を元気付けていると、街の片隅にある場末の宿屋に到着した。

 空気がジメジメしていて、治安が悪そうな場所だけど、宿屋の外観は良くも悪くも普通に見える。その中に入ると、一階は酒場になっていて、そこにいた人たちが口々にセバスへ声を掛けた。
 『元気そうで安心しました』とか、『また会えて良かった』とか、好意的な言葉ばっかりだよ。

 どうやら、ここにいるのは仲良しサーカス団のメンバーらしい。
 セバスは彼らに、かなり慕われているみたいだね。悪人たちのアットホームな雰囲気とか、私は全く求めていない。

「座長、戻ったのかい。首尾は上々……でもない? 随分とお疲れみたいだねぇ」

「予期せぬ邪魔が入ってな……。もう済んだことだ。それよりも、ジェシカ。私が留守の間、ご苦労だった」

「なぁに、アタイは大したことなんざしてないよ。拾って貰った恩を返しただけさ」

 サーカス団の公演で見た、魔物使いのジェシカ。彼女もこの場にいて、親しげにセバスと話している。
 彼らのやり取りを見ていると、複雑な気持ちになってきた。だって、仲良しサーカス団という名前の通り、本当に仲良しっぽいから……。
 犯罪者集団なら、もっと殺伐としていて欲しいよ。悪役然としていない悪人って、恨みや敵意を向け難いんだ。

「姐さん、この子供たちの監視、お願いするッスよ。青い髪の子が大事な人質で、他は売り物にする予定ッス」

「ああ、そうかい……。分かったよ」

「おデブちゃんは怪我をしているんで、手当ても頼むッス」

 ピエールはジェシカに私たちの身柄を預けて、セバスと一緒に他の団員たちと今後の話し合いを始めた。
 私が聞き耳を立てる前に、ジェシカは私たちを荒縄で縛り、宿屋の地下室へと連行する。
 周りを見た感じ、お酒の貯蔵庫かな。ここにはジェシカの従魔、イビルスネークの姿があったよ。

「──ん? 怪我をしているって話だけど、掠り傷一つないじゃないか……。鎧と服に短剣が刺さった痕跡なら、あるんだけどねぇ……」

 ジェシカが気絶しているシュヴァインくんの鎧と服を脱がせて、傷の手当てをしようとしたけど、傷は完全に塞がっていた。
 私は定期的に、仲間たち全員に【再生の祈り】を使っているからね。あの程度の怪我は問題ない。
 当たり前だけど、そのことをジェシカに説明してあげようとは思わないよ。

 ルークスたちも、大丈夫だとは思うんだけど……毒が身体を麻痺させるだけじゃなくて、ダメージも与えるものだった場合、かなり心配だ。
 毒が自然に抜けるまで、継続ダメージと回復が交互に繰り返されて、苦しむことになりそう……。

「ま、手間が掛からないなら、それでいいか。そんで、アンタたちは怪我とかしてないかい?」

 犯罪者であるジェシカに気遣われるのは釈然としないけど、その言葉にはそれなりの温かみがあった。
 私とスイミィ様は顔を見合わせて、お互いの無事を確認してから頷く。

「私たちは大丈夫です。それより、貴方はそんなに悪い人には見えないのですが、どうしてこんな悪事に手を貸しているんですか……?」

「どうしてって……まあ、隠すことでもないか……。アタイは元々、戦争孤児だったんだ。そんで、座長に拾って貰った。その恩を返すためなら、善悪なんて気にしない。それだけの話さ」

 ジェシカ曰く、セバスは宮廷魔導士として働いていた頃、戦争孤児を助けるために慈善活動をしていたらしい。
 他にも、戦争に巻き込まれた村の復興支援とか、戦死した仲間の遺族に自腹で見舞金を配ったりとか……。
 そうして積み重ねた善行、名声があったから、ニュート様の教育係に収まることが出来たのかな。

「孤児を助ける……。そんな善人が、どうしてこんな……」

 セバスが悪人に堕ちた理由なら、ジェシカに問うまでもない。アムネジアさんから聞いた話で、説明が付くからね。
 ただ、ここはジェシカを絆して利用するべく、出来るだけ会話をしておきたい。
 彼女は生粋の悪人じゃなさそうだから、隙があると思うんだ。

「座長にも色々とあったんだよ。酷いことが、色々ね」

「酷いこと……。それ、気になります。教えて貰えませんか?」

「ああ、構わないよ。座長がただの悪人だって思われるのは、少し面白くないからねぇ……。あれは十五年前のことで──」

 しんみりしているジェシカの口から語られたのは、アムネジアさんから聞いた話をなぞるものだった。
 国のために働いていたのに、魔力欠乏症になった途端、第一王子に切り捨てられた。それで、愛国心が憎悪に裏返ってしまった。そういう悲劇だよ。
 セバスは力を取り戻すために、【生命の息吹】のスキルオーブを欲している。力を取り戻した後は、やっぱり復讐だって。

 ここまで聞いて、いつの間にか意識を取り戻していたシュヴァインくんが、むくりと起き上がる。

「ぼ、ボクが……っ、そのスキルオーブを使って、セバスさんに命をあげます……!! だからっ、女の子二人は無事に解放するって、約束してください……!!」

「はぁ……。坊や、その男気は買うけどね? そりゃ無理ってもんだよ」

「ど、どうして……!?」

「スキルオーブを使い逃げされたら、堪ったもんじゃないだろう? 出来るだけ忠誠心の高い奴に使わせて、命を譲渡して貰うってのが、一番堅実なのさ」

 例えば、アタイとかね。と、ジェシカは小声で付け足した。
 彼女には、セバスに命を捧げるほどの忠誠心があるみたい。

「ぼ、ボクなら、きっと沢山の命をあげられます……!! ボクには、先天性スキルがあるから……!!」

 シュヴァインくんはジェシカに自分のステホを見せながら、先天性スキル【低燃費】の詳細を必死になって伝えた。
 自分なら生命力の消耗を抑えることで、何度も【生命の息吹】を使えるはずだと、そう訴え掛けて……。

 この場には彼の一番大切な人、フィオナちゃんがいないのに、それでも自分の命を捨ててまで、私とスイミィ様を助けようとしている。
 私もスイミィ様も、シュヴァインくんの自己犠牲の精神に胸を打たれて、思わず涙が溢れてきた。
 私なんて、この期に及んでも、自分のスキルを交渉材料にしようとは思えないのに……。

 もしかしたら、【再生の祈り】を使えば、魔力欠乏症を治せるかもしれない。
 でも、それでセバスに感謝されて、全てが丸く収まるなんて、あり得ないと確信している。
 復讐心に駆られた鬼が、どんな形で私を利用するのか想像が付かないけど、碌な未来は待っていないと思うんだ。

「先天性スキル、か……。それなら、可能性はあるね。座長に相談してくるから、少し待ってな」

 ジェシカはシュヴァインくんの男気を称えるように、彼の頭を優しく一撫でして、地下室から立ち去ろうとした。
 けど、途中で足を止めて、言い忘れていたことを私たちに伝える。

「一応言っておくけど、ステホで外部と連絡を取ろうなんて、考えるんじゃないよ? アタイの従魔が見張っているからね」

 彼女はそう言い残して、今度こそ立ち去った。
 とぐろを巻いているイビルスネークが、美味しそうな獲物に狙いを定めているような目付きで、私たちを凝視している。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...