他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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二章 子供たちの冒険編

56話 立て籠もり

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 大剣を構えているガルムさんと、冷気を纏った細剣を構えているニュート様。
 魔力を漲らせているセバスと、手の指の隙間に短剣を挟んでいるピエール。

 誰が先に動いてもおかしくない。そんな睨み合いが続く中で、ルークスたちがガルムさんに加勢する。
 フィオナちゃんだけ、まだガルムさんのことを怖がっているけど、ルークスとトールはすぐに恐怖を克服したみたい。

「オレたちも手伝います!! あいつらをぶっ飛ばして、仲間を助けないと!!」

「よォ……!! クソジジイにクソピエロ!! 借りを返しに来たぜッ!!」

 男の子二人は手酷くやられたにも拘わらず、気炎を揚げて武器を構えた。
 フィオナちゃんはセバスに苦手意識を持ったのか、ちょっとだけ腰が引けているよ。シュヴァインくんという、いつも彼女を守ってくれる騎士もいないし、気弱になってしまうのも無理はないかな。

「ねぇ、あたしには期待するんじゃないわよ……? あたしとあの執事、魔法の相性が悪いんだから……」

「それなら貴様は下がれ。セバスと相性が悪いということは、火属性なのだろう? であれば、ワタシの魔法とも相性が悪い」

 ニュート様はフィオナちゃんを下がらせて、冷たい魔力を漲らせた。それに呼応するように、細剣が纏っている冷気も爆発的に増える。
 一刺しの凍土。氷属性のスキルの威力を三倍にするという、破格のマジックアイテムだ。

 剣を使っているのに魔法使いなのかと、フィオナちゃんが訝しげな目を向けたけど、彼は実際にスキルを使って証明する。
 細剣の切っ先をセバスに向けると、そこから【氷塊弾】が放たれた。大人アザラシが使っていたスキルだけど、その大きさは三倍もある。

「餓鬼が……っ、舐めるなあああああああああああああッ!!」

 目を血走らせたセバスが、両手から突風を放つ。でも、氷の塊を吹き飛ばすことは出来ず、弾道を逸らすだけで精一杯だった。
 辛うじて被弾は免れたけど、いつまでも突風で対応していると、そう遠くないうちに当たると思う。

 ここで、ガルムさんの後方から上空へ向かって、三つの白い光が打ち上がった。これはモーブさんの仕業だね。
 ピエールはその光を見て、面白くなさそうに眉を顰める。

「救難信号……。こっちには人質がいるってのに、仲間を呼んだんスか……」

「まず貴様らを追い詰めないことには、対等な交渉など出来んだろう? どうだ、貴様らの命と人質の命、交換しないか?」

「ハハッ、お断りッス。もうこっちの命を握った気になってんスか?」

 ガルムさんから持ち掛けられた交渉。それをピエールは鼻で笑い、宿屋の方に向かって手招きした。
 すると、中からぞろぞろと、サーカス団の人たちが現れる。その数は五十人ほどで、みんな武装しているよ。

「しばらくは多勢に無勢か……。モーブ、ジミィ、お前ら毒を食らったな? 動けるか?」

「ポーションを使ったので、なんとか……。普段の半分程度しか、動けそうにありませんが……」

「半分も動けるなら上等だ。若様を守れ。他のチビっ子たちは、悪いが自分の身は自分で守ってくれ。厳しければ、いつ逃げても構わんからな」

 ガルムさんは捲し立てるように指示を出してから、単身で敵の集団に突っ込んでいった。
 ピエールと半数以上のサーカス団員がガルムさんに応戦するけど、残りはルークスたちに向かってきて、人数差のある乱戦が始まってしまう。

 ただ、早くも三名の騎士団員が駆け付けてくれて、人数差が少しだけ縮まったよ。街中に散っている騎士団員は、まだまだ大勢いるはずだから、時間を稼ぐことが出来れば、あっさりと逆転するね。

「姐さん!! 人質を連れてきて欲しいッス!! こいつらに自分たちの立場を分からせるッスよ!!」

「あいよ! 任せときな!!」

 この場に出ていたジェシカは、ピエールに頼まれて踵を返した。
 私はここが正念場だと判断して、【感覚共有】を切る。
 スラ丸とブロ丸には、ルークスたちに力を貸すよう命令しておいたよ。

「──シュヴァインくん!! そこの蛇と戦うよ!!」

「は、はいっ、師匠……!!」

 私が鋭い声で指示を出すと、シュヴァインくんは即座に反応して、イビルスネークと向き合った。
 現状、この地下室にいる敵はイビルスネークだけだから、こいつさえどうにか出来れば、幾らでも時間を稼げるんだ。
 私はここに立て籠もるべく、出入り口を二重の【土壁】で塞ぐ。私たちが人質として使われなければ、後は騎士団が上手くやってくれるはずだよ。

「シャアアアアアアアアッ!!」

 イビルスネークは私たちの行動を見て、待ってましたと言わんばかりに襲い掛かってきた。
 私は【土壁】を使って、この大蛇を閉じ込めようとしたけど、壁が生成される前にするりと逃げられてしまう。
 この魔物が持っているスキルは、【毒牙】と【蛇眼】の二つ。

 前者は急所にさえ当たらなければ、【再生の祈り】による効果でどうにかなると思う。
 後者は睨み付けた相手を硬直させるスキルだから、私とシュヴァインくんが距離を取っていたら、纏めて動けなくなるということはない。
 そう考えて、シュヴァインくんと少し距離を取っていたんだけど……イビルスネークは眼球をぎょろりと剥き出しにして、私が予想していなかった特技を使う。
 左右の眼球を別々に動かして、左目を私に向けながら、右目をシュヴァインくんに向けたのだ。

「「──ッ!?」」

 イビルスネークが血みどろ色の瞳を怪しく光らせると、私たちの身体は動かなくなった。
 心臓は動いているし、呼吸も出来るから、【蛇眼】だけで相手を殺せたりはしないみたい。だけど、それはなんの慰めにもならない。

 イビルスネークは鋭い牙を剥き出しにしながら、まずはシュヴァインくんに向かっていく。丸々と太っているから、一番美味しそうだもんね。
 今の彼は盾を持っていないし、鎧も剥ぎ取られた状態で、簡単に急所を狙われてしまう。

 硬直状態だと目を瞑ることが出来ないから、私はシュヴァインくんが死んじゃう瞬間を目撃しそうになり──その前に、私の影の中からティラが飛び出した。

 そして、音もなく振るわれた爪が、イビルスネークの片目を切り裂く。

「キシャアアアアアアアアアッ!?」

 私もシュヴァインくんも囮で、本命はティラの奇襲だよ。
 イビルスネークは悲鳴を上げて怯み、慌てて後退したけど、すぐに戦意を取り戻した。
 今までは容易く仕留められる獲物として見られていたけど、今は対等な敵として見られている。そのことが、ひしひしと肌で感じられて、とても怖い。

「ティラっ、ありがとう!!」

「ワンワン!!」

 動けるようになった私はティラに感謝しながら、十を超える【光球】をイビルスネークに向かって投げ付ける。
 まだ片目が残っているから、これで目潰しだ。敵は眼が関係しているスキルを持っているんだから、最初からこうすれば良かった。

 私たちの目も眩むけど、シュヴァインくんは光に手を翳しながら、イビルスネークに向かって全速力で突っ込む。

「ぼ、ボクだって、攻撃出来るんだ……!! う、うおおおおぉぉぉ……っ!!」

 彼は控え目な雄叫びを上げながら、イビルスネークを殴り付けた。その動作はトールを参考にしていることがよく分かる。
 でも、シュヴァインくんにトールみたいな馬鹿力はないから、あんまりダメージはなさそう。
 イビルスネークは目が見えていないはずだけど、正確にシュヴァインくんの位置を捕捉して、長い身体を振り回すことで反撃した。
 魔物の蛇にも、熱を感知出来るピット器官が備わっているのかもしれない。

「お願いっ、ティラ!! 止めを刺して!!」

 私は離れた場所から光に手を翳して、イビルスネークとティラの姿を視界に収める。
 この状態で【感覚共有】を使って、ティラに私の視界を見せることで、ティラの視界不良を解消した。

 吹き飛ばされるシュヴァインくんと入れ替わって、ティラがイビルスネークに飛び掛かり、柔らかい喉元に噛み付く。
 イビルスネークは片目を切り裂かれたことで、それなりに弱っているはずなんだけど……盛大にのた打ち回って、ティラを何度も床や壁に叩き付けた。

 それでも──ティラは相手の息の根が止まるまで、決して口を放さなかったよ。

「ワオオオオオオオオオォォォォォォォン!!」

 ティラは仕留めたイビルスネークの身体の上に乗って、マウントを取りながら遠吠えをキメる。

「ティラぁ……!! 本当に頑張ったねぇ……っ、ハッ!? そうだ!! 怪我はない!?」

 私はティラに駆け寄って、身体をわしゃわしゃしながら怪我の有無を確認した。
 血痕はあれど、傷は一つも見当たらない。【再生の祈り】って、やっぱりチートスキルだね。
 吹き飛ばされたシュヴァインくんも無事だし、スイミィ様も巻き込まれずに済んだ。これで一息吐けるよ。

 ──窮地を脱したことで、今更ながら外から聞こえてくる声に気が付いた。

「こ、この壁はなんだい!? 餓鬼どもッ!! 中で何してんだい!? アタイのイビルスネークをどうしたのさ!?」

 ジェシカが【土壁】を叩きながら、胸が詰まるような声色で怒鳴り散らしている。
 魔物使いと従魔の間には、目に見えない繋がりがあるから、ジェシカはイビルスネークが死んだことを感じ取ったはず……。
 彼女は敵なんだけど、同じ魔物使いとして同情してしまう。

「し、師匠……。外の人、どうするの……?」

「どうもしないよ。私たちはここに立て籠もって、助けがくるのを待つの」

 私はシュヴァインくんの問い掛けに答えて、膝を抱えながら座り込む。
 ジェシカに対する同情で、自分が馬鹿なことを仕出かさないように、助けがくるまでジッとしていよう。
 外ではジェシカの従魔が壁を壊そうとしているけど、微動だにしていないよ。

「アタイの大切な家族を殺さないでおくれよ……!! もう手遅れならっ、せめて顔を見させておくれよぉ……!!」

 ジェシカの怒声は次第に悲痛な声に変わって、私の同情心がどんどん膨れ上がっていく。
 ……騎士団が雪崩れ込んできたら、彼女はそのまま斬り殺されちゃうのかな。
 ジェシカの生死には全く心が動かされないけど、『従魔を失った魔物使い』という境遇には、物凄く心が動かされる。

 ど、どうしよう……。ジェシカが死ぬ前に、なんとかイビルスネークと会わせてあげられたら──って、駄目! ああもうっ、こういう考え方が駄目なんだよ!
 敵に情けを掛けるのは強者の特権だ。私みたいな弱者には、そこまで配慮出来る余裕がない。身の程を弁えよう。

「……姉さま。あの壁で、スイたち囲えば……かんたん、だった?」

「え……? あっ、イビルスネークとは戦わずにってこと!?」

「……そう、それ」

 私の隣に座っているスイミィ様に、とても賢い指摘をされてしまった。
 確かに【土壁】で私たちを囲えば、イビルスネークと戦う必要はなかったね。
 敵の戦力を削れたし、無駄な戦闘だったとは思わないけど、危ない橋を渡っちゃったよ。反省しよう。
 
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