他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
64 / 239
二章 子供たちの冒険編

64話 レベルアップ

しおりを挟む
 
 私がローズの正面に出した複合技、新・壁師匠。
 それは、女神アーシャの姿がレリーフになっているという、純白の土壁だった。
 大きさや厚みは普通の【土壁】と同程度だから、迫りくる業火の熱線を前にすると、かなり頼りなく見える。

 それでも、賽は投げられたよ。

 業火の熱線が新・壁師匠に直撃して、瞬く間に表面から灰塵へと変えられていく。しかし、新・壁師匠の灰塵になった部分は、瞬時に修復され続けた。
 これは多分、【土壁】に対して【再生の祈り】のバフ効果が、適用されているんだと思う。

 生物以外には効果がなかったのに、複合技ならこんなことも出来るみたい。
 削られては修復して、削られては修復して、ずっとそれを繰り返しながら、新・壁師匠は業火の熱線を受け止めている。

 周辺に散った熱はバリィさんの結界で防げているから、私が気にしなくても大丈夫。後はこの攻撃さえ、凌げれば……っ!!

 なんとかなると思ったけど、ドラゴンは自分の十八番の攻撃を受け止められて苛立ったのか、私に敵意を向けながら火勢を強めた。
 そのせいで、新・壁師匠の修復速度が追い付かなくなってしまう。

「さっきまで見向きもしなかったくせに……っ、このおおおおおおおおッ!!」

 敵意を向けられた恐怖で、気を失いそうになったけど、怒りの感情で塗り潰す。
 私は路傍の石ころなんかじゃない!! やれば出来るアーシャだよ!!
 他力本願なんてクソ食らえ!! この攻撃は、私が絶対に止めてやるッ!!

「アーシャよ!! その壁を追加で出せたりせんのかっ!?」

「あっ、で、出来るかも!!」

 ローズに問い掛けられて、私はすぐに新・壁師匠を追加で出そうと試みた。
 その結果、二重、三重と出すことに成功して、業火の熱線を見事に防ぎ切る。

「や、やったのじゃ!! 見たかドラゴンめ!! 妾の家族の底力を侮るでないぞっ!!」 

「ちょっ、やめてやめて! 挑発しないで!」

 ソウルイーターというか、ドラゴンに向かってローズが中指を立てたので、私は慌ててその手を下ろさせた。
 そんな下品なハンドサイン、どこで覚えてきたの?
 ドラゴンが激怒するんじゃないかと、私がビクビクしていると──ソウルイーターの内側から覗くドラゴンの瞳が、『ぐぬぬ……』と悔しがるように細められた。

 次の攻撃がくる!? そう思って身構えたけど、不意に奴の瞳が街の方へ向けられて、新たな獲物を見つけたと言わんばかりに、大きく見開かれたよ。
 そして、ドラゴンが私たちを一瞥した後、ソウルイーターは身体を引き摺りながら、再びサウスモニカの街へ向かって歩き出す。

「むっ!? わ、妾を諦めたのじゃ……!! 簡単には食べられないと、判断したのかの……?」

「だとしても、街へ向かう意味が……いや、もしかして……簡単に食べられそうなドラゴンの一部が、街にあるってこと……?」

 私は嫌な可能性に思い至って、頬を引き攣らせた。
 ローズは神妙な表情で頷き、更に嫌な可能性を付け加える。

「その可能性が大きいのぅ……。それを食べて、ぱわーあっぷしてから、今度こそ妾を食べようという魂胆かもしれん……」

 私とローズは憶測を重ね合って、震えながら頭を抱えた。
 街を守るために、あの魔物を連れ出したのに、これじゃあ色々と水の泡だよ。
 ここで、ようやく回復したバリィさんが立ち上がる。

「それを許す訳には、いかないよな……。パワーアップなんてされたら、いよいよ手に負えなくなっちまう」

「な、なら、どうすれば……」

「どうもこうも、阻止するしかない。気合を入れろ! 行くぞ相棒!!」

 立ち止まっていても、事態は好転しない。
 あの街には仲間たちがいるし、育ての親であるマリアさんだっているんだ。
 見捨てられないなら、行くしかない。やるしかないよね。

 私たちは覚悟を決めて、再びバリィさんの【移動結界】に乗り、ドラゴン入りのソウルイーターの後を追った。
 奴は付いてくるなと言わんばかりに、後方の私たちに業火の熱線を連発してくる。
 その度に新・壁師匠で防ぐも、途中で私の魔力と集中力が切れそうになったので、休憩を余儀なくされてしまった。

「すみません……。前よりも、沢山スキルを使えているんですけど……これ以上は……」

「謝らなくていい。相棒は本当に、よくやってくれているぞ」

 バリィさんに頭をポンポンされて、私は少しだけ肩の力を抜く。
 それから、彼に貰った青いポーションを飲み干した。中級ポーションは品切れみたいで、下級ポーションだったよ。
 初めて飲んだ青いポーションは、目玉が引っ繰り返るほど不味かったけど、文句は言わない。

 休憩時間は三分程度で、私たちは再び移動を開始する。
 ソウルイーターの背中が随分と遠ざかっているから、私は焦燥感に駆られた。
 バリィさんを急かそうと思って、顔を見上げると──彼は決戦に備えて、心を落ち着かせていたよ。

「……やっぱり、凄い人ですね」

 私は思ったことをボソッと呟いて、深呼吸を繰り返す。
 バリィさんだってマリアさんが心配だろうし、全速力を出していない訳がないんだ。今は焦っても仕方がない。落ち着いて、少しでも心身を回復させよう。

 ──道中、ふとバリィさんが自分のステホを確認して、口角を上げながらガッツポーズをする。

「っし、ようやく届いた……ッ!! これなら、なんとか出来るかもしれない!!」

「届いたって、どういうことですか?」

 私が質問すると、彼は自慢げにステホを見せつけてきた。
 普通は自分のステホって、他人に見せたりしないんだけど、私は以前にも見せて貰ったことがある。

 バリィ=ウォーカー 結界師(60)
 【対物結界】【対魔結界】【迷彩結界】【消音結界】
 【移動結界】【反射結界】【規定結界】

 私は思わず目を見張り、バリィさんが笑みを深くする。

「見ての通り、レベル60に届いたんだ。多分、自分の限界を超えて、七重の結界を張ったタイミングでな」

「す、凄い……!! ローズクイーンを倒したのがつい最近で、あのときはまだ、レベル53でしたよね? レベルが上がる速度、尋常じゃない気がします……」

「あの後も、幾つか修羅場を潜ったんだ。相棒の支援スキルのおかげで、かなりの無茶が出来たからな。レベル上げが捗ったぞ」

 バリィさんはローズクイーンを倒して、レベル51→53になったはずだから、そこからレベル60に持っていくのに、一体どんな修羅場を潜ったのか……。
 ちょっと想像が付かないけど、彼には彼の大冒険があったんだろうね。

「バリィよ、彼の魔物を相手に、何が出来るようになったのじゃ? 何かこう、切り札になるスキルでも手に入れたのかの?」

「ああ、その通りだ。新しく取得したスキルが、大いに役立つぞ」

 バリィさんがレベル60の大台に乗ったことで、新たに取得したスキル──その名も【規定結界】。
 これは、内部の空間に新たな法則を追加する結界で、この法則はなんと、自分で設定出来るらしい。結界師が取得出来るスキルの中で、一番の大当たりだと思う。

 ただし、追加する法則は一度決めると、生涯変更することが出来ない。
 私の【魔力共有】に追加されている特殊効果と、似たようなものだね。
 バリィさんの新スキルの説明を聞いて、私とローズは瞳を輝かせる。

「そのスキルがあったら、ドラゴンだって敵じゃないですね!」

「魔物の寿命が急速に減っていく法則とか、どうかの!? あるいは、魔物の首が勝手に捻じ切れる法則とか!! そういう殺傷力が高い法則にするのじゃよ!!」

「いや、命を直接奪えるような法則はなしだ。法則の内容次第で、消耗する魔力量が決まるから、余りにも強力な法則にすると、使い物にならなくなる」

 【規定結界】には面倒な制約があったけど、それでも切り札になるスキルなのは間違いない。
 三人で案を出し合った結果、『ドラゴンの気力が湧かなくなる』という、怠惰の法則にすることが決まった。
 対象をドラゴンに限定することで、魔力の消耗を抑えてあるよ。

「──あっ、そういえば!」

 私はポンと手を打って、重要なことを思い出す。
 私が支援スキルを掛けた人が戦闘を行うと、私も戦闘に貢献したことになって、レベルが上がるんだ。
 貢献度は実際に戦っていた人よりも低いから、貰える経験値も少ないけど……バリィさんが私の支援スキルに頼っていたなら、期待してもいいはずだよね。

 最近、自分のレベルを確認していなかったから、今のうちに見ておこう。

 アーシャ 魔物使い(16) 魔法使い(30)
 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
     【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】
 従魔 スラ丸×3 ティラノサウルス ローズ ブロ丸
    タクミ

 魔物使いのレベルが14→16で、魔法使いのレベルは12→30だよ。
 後者が予想以上で驚きだ。レベル30って、大人の平均レベルだったはず……。
 私の年齢で、このレベルに到達している人は、早々いないと思う。

 魔法使いのスキルを使って支援することが主だから、そっちのレベルばっかり上がったんだろうね。
 こんなにレベルが上がったことは、とても喜ばしい。けど、一つだけ不満がある。

「魔法使い(30)って表記、物凄く嫌かも……」

 これだとレベルじゃなくて、年齢の表記に見えるんだ。こんなのもう、他力本願のアラサーメイジだよ。
 ……気を取り直して、新しく取得した二つのスキルを確認しよう。

 魔法使いのレベルが20のときに取得した【微風】。これは、アムネジアさんが持っていた外れスキルだね。
 微かな風を吹かせて、矢を少しだけ遠くに運んだり、暑い日に涼んだり、一応はちょっとした支援スキルという扱いになる。

 【他力本願】の効果で強化されているから、本来であれば扇風機の『弱』くらいの風量だけど、それが『強』くらいになっていた。
 まぁ、それでも立派な外れスキルだ。
 重要なのは追加されている特殊効果で、この風を浴びた対象は、精神の乱れが緩和されるみたい。つまり、鎮静効果だね。心が弱い私にとっては、非常に有難い。

 お次は、魔法使いのレベルが30になってから取得した【風纏脚】。読み方は『ふうてんきゃく』かな。
 これは任意の対象の脚に風を纏わせて、走る速度を一時的に上げてくれるスキルだよ。

 【他力本願】の効果によって、移動速度と持続時間が伸びている他、宙を蹴って跳躍出来るという特殊効果まで追加されている。
 バリィさんにこれらを説明すると、大喜びしてくれた。

「そりゃ凄いぞ!! 【風纏脚】は文句なしの大当たりだ!! それさえあれば、軍属でも貴族のお抱えでも、一生重宝して貰えるからな!」

「軍属も貴族のお抱えも嫌ですけど、大当たりなのは嬉しいですね。……ちなみに、【微風】の方は?」

「文句なしの大外れだな。それを引き当てると、地域によっては呪いだなんだって騒がれるほどだ」

 天国と地獄かな? まさか、呪いとまで言われるとは思わなかったよ。
 でもまぁ、夜間の照明として役に立つ【光球】ですら、外れスキルとして扱われているんだもの。役に立つ機会がそれ以上に少ない【微風】なんて、呪い扱いでも納得しちゃうね。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...