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二章 子供たちの冒険編
64話 レベルアップ
しおりを挟む私がローズの正面に出した複合技、新・壁師匠。
それは、女神アーシャの姿がレリーフになっているという、純白の土壁だった。
大きさや厚みは普通の【土壁】と同程度だから、迫りくる業火の熱線を前にすると、かなり頼りなく見える。
それでも、賽は投げられたよ。
業火の熱線が新・壁師匠に直撃して、瞬く間に表面から灰塵へと変えられていく。しかし、新・壁師匠の灰塵になった部分は、瞬時に修復され続けた。
これは多分、【土壁】に対して【再生の祈り】のバフ効果が、適用されているんだと思う。
生物以外には効果がなかったのに、複合技ならこんなことも出来るみたい。
削られては修復して、削られては修復して、ずっとそれを繰り返しながら、新・壁師匠は業火の熱線を受け止めている。
周辺に散った熱はバリィさんの結界で防げているから、私が気にしなくても大丈夫。後はこの攻撃さえ、凌げれば……っ!!
なんとかなると思ったけど、ドラゴンは自分の十八番の攻撃を受け止められて苛立ったのか、私に敵意を向けながら火勢を強めた。
そのせいで、新・壁師匠の修復速度が追い付かなくなってしまう。
「さっきまで見向きもしなかったくせに……っ、このおおおおおおおおッ!!」
敵意を向けられた恐怖で、気を失いそうになったけど、怒りの感情で塗り潰す。
私は路傍の石ころなんかじゃない!! やれば出来るアーシャだよ!!
他力本願なんてクソ食らえ!! この攻撃は、私が絶対に止めてやるッ!!
「アーシャよ!! その壁を追加で出せたりせんのかっ!?」
「あっ、で、出来るかも!!」
ローズに問い掛けられて、私はすぐに新・壁師匠を追加で出そうと試みた。
その結果、二重、三重と出すことに成功して、業火の熱線を見事に防ぎ切る。
「や、やったのじゃ!! 見たかドラゴンめ!! 妾の家族の底力を侮るでないぞっ!!」
「ちょっ、やめてやめて! 挑発しないで!」
ソウルイーターというか、ドラゴンに向かってローズが中指を立てたので、私は慌ててその手を下ろさせた。
そんな下品なハンドサイン、どこで覚えてきたの?
ドラゴンが激怒するんじゃないかと、私がビクビクしていると──ソウルイーターの内側から覗くドラゴンの瞳が、『ぐぬぬ……』と悔しがるように細められた。
次の攻撃がくる!? そう思って身構えたけど、不意に奴の瞳が街の方へ向けられて、新たな獲物を見つけたと言わんばかりに、大きく見開かれたよ。
そして、ドラゴンが私たちを一瞥した後、ソウルイーターは身体を引き摺りながら、再びサウスモニカの街へ向かって歩き出す。
「むっ!? わ、妾を諦めたのじゃ……!! 簡単には食べられないと、判断したのかの……?」
「だとしても、街へ向かう意味が……いや、もしかして……簡単に食べられそうなドラゴンの一部が、街にあるってこと……?」
私は嫌な可能性に思い至って、頬を引き攣らせた。
ローズは神妙な表情で頷き、更に嫌な可能性を付け加える。
「その可能性が大きいのぅ……。それを食べて、ぱわーあっぷしてから、今度こそ妾を食べようという魂胆かもしれん……」
私とローズは憶測を重ね合って、震えながら頭を抱えた。
街を守るために、あの魔物を連れ出したのに、これじゃあ色々と水の泡だよ。
ここで、ようやく回復したバリィさんが立ち上がる。
「それを許す訳には、いかないよな……。パワーアップなんてされたら、いよいよ手に負えなくなっちまう」
「な、なら、どうすれば……」
「どうもこうも、阻止するしかない。気合を入れろ! 行くぞ相棒!!」
立ち止まっていても、事態は好転しない。
あの街には仲間たちがいるし、育ての親であるマリアさんだっているんだ。
見捨てられないなら、行くしかない。やるしかないよね。
私たちは覚悟を決めて、再びバリィさんの【移動結界】に乗り、ドラゴン入りのソウルイーターの後を追った。
奴は付いてくるなと言わんばかりに、後方の私たちに業火の熱線を連発してくる。
その度に新・壁師匠で防ぐも、途中で私の魔力と集中力が切れそうになったので、休憩を余儀なくされてしまった。
「すみません……。前よりも、沢山スキルを使えているんですけど……これ以上は……」
「謝らなくていい。相棒は本当に、よくやってくれているぞ」
バリィさんに頭をポンポンされて、私は少しだけ肩の力を抜く。
それから、彼に貰った青いポーションを飲み干した。中級ポーションは品切れみたいで、下級ポーションだったよ。
初めて飲んだ青いポーションは、目玉が引っ繰り返るほど不味かったけど、文句は言わない。
休憩時間は三分程度で、私たちは再び移動を開始する。
ソウルイーターの背中が随分と遠ざかっているから、私は焦燥感に駆られた。
バリィさんを急かそうと思って、顔を見上げると──彼は決戦に備えて、心を落ち着かせていたよ。
「……やっぱり、凄い人ですね」
私は思ったことをボソッと呟いて、深呼吸を繰り返す。
バリィさんだってマリアさんが心配だろうし、全速力を出していない訳がないんだ。今は焦っても仕方がない。落ち着いて、少しでも心身を回復させよう。
──道中、ふとバリィさんが自分のステホを確認して、口角を上げながらガッツポーズをする。
「っし、ようやく届いた……ッ!! これなら、なんとか出来るかもしれない!!」
「届いたって、どういうことですか?」
私が質問すると、彼は自慢げにステホを見せつけてきた。
普通は自分のステホって、他人に見せたりしないんだけど、私は以前にも見せて貰ったことがある。
バリィ=ウォーカー 結界師(60)
【対物結界】【対魔結界】【迷彩結界】【消音結界】
【移動結界】【反射結界】【規定結界】
私は思わず目を見張り、バリィさんが笑みを深くする。
「見ての通り、レベル60に届いたんだ。多分、自分の限界を超えて、七重の結界を張ったタイミングでな」
「す、凄い……!! ローズクイーンを倒したのがつい最近で、あのときはまだ、レベル53でしたよね? レベルが上がる速度、尋常じゃない気がします……」
「あの後も、幾つか修羅場を潜ったんだ。相棒の支援スキルのおかげで、かなりの無茶が出来たからな。レベル上げが捗ったぞ」
バリィさんはローズクイーンを倒して、レベル51→53になったはずだから、そこからレベル60に持っていくのに、一体どんな修羅場を潜ったのか……。
ちょっと想像が付かないけど、彼には彼の大冒険があったんだろうね。
「バリィよ、彼の魔物を相手に、何が出来るようになったのじゃ? 何かこう、切り札になるスキルでも手に入れたのかの?」
「ああ、その通りだ。新しく取得したスキルが、大いに役立つぞ」
バリィさんがレベル60の大台に乗ったことで、新たに取得したスキル──その名も【規定結界】。
これは、内部の空間に新たな法則を追加する結界で、この法則はなんと、自分で設定出来るらしい。結界師が取得出来るスキルの中で、一番の大当たりだと思う。
ただし、追加する法則は一度決めると、生涯変更することが出来ない。
私の【魔力共有】に追加されている特殊効果と、似たようなものだね。
バリィさんの新スキルの説明を聞いて、私とローズは瞳を輝かせる。
「そのスキルがあったら、ドラゴンだって敵じゃないですね!」
「魔物の寿命が急速に減っていく法則とか、どうかの!? あるいは、魔物の首が勝手に捻じ切れる法則とか!! そういう殺傷力が高い法則にするのじゃよ!!」
「いや、命を直接奪えるような法則はなしだ。法則の内容次第で、消耗する魔力量が決まるから、余りにも強力な法則にすると、使い物にならなくなる」
【規定結界】には面倒な制約があったけど、それでも切り札になるスキルなのは間違いない。
三人で案を出し合った結果、『ドラゴンの気力が湧かなくなる』という、怠惰の法則にすることが決まった。
対象をドラゴンに限定することで、魔力の消耗を抑えてあるよ。
「──あっ、そういえば!」
私はポンと手を打って、重要なことを思い出す。
私が支援スキルを掛けた人が戦闘を行うと、私も戦闘に貢献したことになって、レベルが上がるんだ。
貢献度は実際に戦っていた人よりも低いから、貰える経験値も少ないけど……バリィさんが私の支援スキルに頼っていたなら、期待してもいいはずだよね。
最近、自分のレベルを確認していなかったから、今のうちに見ておこう。
アーシャ 魔物使い(16) 魔法使い(30)
スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】
従魔 スラ丸×3 ティラノサウルス ローズ ブロ丸
タクミ
魔物使いのレベルが14→16で、魔法使いのレベルは12→30だよ。
後者が予想以上で驚きだ。レベル30って、大人の平均レベルだったはず……。
私の年齢で、このレベルに到達している人は、早々いないと思う。
魔法使いのスキルを使って支援することが主だから、そっちのレベルばっかり上がったんだろうね。
こんなにレベルが上がったことは、とても喜ばしい。けど、一つだけ不満がある。
「魔法使い(30)って表記、物凄く嫌かも……」
これだとレベルじゃなくて、年齢の表記に見えるんだ。こんなのもう、他力本願のアラサーメイジだよ。
……気を取り直して、新しく取得した二つのスキルを確認しよう。
魔法使いのレベルが20のときに取得した【微風】。これは、アムネジアさんが持っていた外れスキルだね。
微かな風を吹かせて、矢を少しだけ遠くに運んだり、暑い日に涼んだり、一応はちょっとした支援スキルという扱いになる。
【他力本願】の効果で強化されているから、本来であれば扇風機の『弱』くらいの風量だけど、それが『強』くらいになっていた。
まぁ、それでも立派な外れスキルだ。
重要なのは追加されている特殊効果で、この風を浴びた対象は、精神の乱れが緩和されるみたい。つまり、鎮静効果だね。心が弱い私にとっては、非常に有難い。
お次は、魔法使いのレベルが30になってから取得した【風纏脚】。読み方は『ふうてんきゃく』かな。
これは任意の対象の脚に風を纏わせて、走る速度を一時的に上げてくれるスキルだよ。
【他力本願】の効果によって、移動速度と持続時間が伸びている他、宙を蹴って跳躍出来るという特殊効果まで追加されている。
バリィさんにこれらを説明すると、大喜びしてくれた。
「そりゃ凄いぞ!! 【風纏脚】は文句なしの大当たりだ!! それさえあれば、軍属でも貴族のお抱えでも、一生重宝して貰えるからな!」
「軍属も貴族のお抱えも嫌ですけど、大当たりなのは嬉しいですね。……ちなみに、【微風】の方は?」
「文句なしの大外れだな。それを引き当てると、地域によっては呪いだなんだって騒がれるほどだ」
天国と地獄かな? まさか、呪いとまで言われるとは思わなかったよ。
でもまぁ、夜間の照明として役に立つ【光球】ですら、外れスキルとして扱われているんだもの。役に立つ機会がそれ以上に少ない【微風】なんて、呪い扱いでも納得しちゃうね。
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