他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
66 / 239
二章 子供たちの冒険編

66話 お葬式

しおりを挟む
 
 雲一つない青空の下、幾つもの馬車が大通りを緩やかに進んでいる。
 全ての馬車に、サウスモニカ侯爵家の紋章が刻まれており、荷台には空っぽの棺桶が乗せられていた。
 この街で暮らしている人々は、献花を持ち寄って棺桶に敷き詰めていく。

 これは、侯爵家が主導して執り行っているお葬式で、ソウルイーターと戦って散った者たちを弔っているんだ。
 私も一輪の白いカーネーションを棺桶の中に入れて、静かに知人の死を悼む。

「……私、ガルムさんのこと、忘れません」

 騎士団が壊滅して、街には大きな被害が出たから、とてもじゃないけどハッピーエンドとは言えない。でも、ソウルイーターはきちんと討伐されたよ。
 バリィさんが結界を維持している間に、国中から凄腕の冒険者が集まってくれて、王都からも第一王子が率いる精鋭部隊が駆け付けてくれた。
 彼らの尽力のおかげで、あれ以上の犠牲者は出ていない。

 功績の大部分は第一王子に持っていかれて、世間的には『第一王子が事態を収束させた』ということになっている。
 今回の大事件を纏めた第一王子の英雄譚には、ガルムさんを含めた騎士団員の名前が出てこない。それと、バリィさんの活躍も端折られているから、私としては大いに不満だ。
 子供たちの活躍なんて、一から十までなかったことにされたよ。

 それでも、誰も文句を言ったりしない。
 第一王子って、多分だけど未来の国王様だからね……。

 私は遠目から見たけど、第一王子は四十代前半くらいで、高身長、超肥満、丸坊主、そして隻腕の男性だった。
 丸っこいシュヴァインくんとは違って、顎や首、お腹周りの贅肉が、だらしなく垂れ下がっている。侯爵様も太っちょだけど、それを超える太っちょだね。歩くことすら大変そうだよ。

「──アーシャ、そろそろ行こう。みんなが待っているから」

「うん……。そうだね……」

 ルークスに手を引かれて、私は大通りを後にした。
 それから、露店で香り高い果物を幾つか購入して、侯爵家のお屋敷へと向かう。
 門番は私たちの顔を確認したら、問答もなく中に入れてくれたよ。

 メイドさんに案内して貰って、私たちはスイミィ様の部屋に到着する。
 少し前まではベッドしかない部屋だったけど、今は椅子とテーブル、それから大量のぬいぐるみが置いてある。
 丸みを帯びたものが好きみたいで、丸っこいぬいぐるみばっかりだね。

「……姉さま、おひさ」

「最近は毎日会っているのに、毎回その挨拶ですね……」

 迎え入れてくれたスイミィ様と言葉を交わしてから、私はベッドの横に座っているフィオナちゃんと目を合わせた。

「もうっ、アーシャったら! そんなに心配そうな顔するんじゃないわよ!」

 彼女はきちんと笑ってくれたので、今日も問題ないみたい。
 なんの問題かって、今も眠ったままのシュヴァインくんのことだよ。
 ソウルイーターに一度は殺された彼だけど、スイミィ様がスキル【生命の息吹】を使って、自分の命の半分を譲渡してくれたから、息を吹き返したんだ。

 でも、未だに目を覚まさないから、この部屋のベッドを借りている。宿屋に連れ帰っても良かったんだけど、スイミィ様がどうしても面倒を見たいって。
 彼女にとって、シュヴァインくんは死の運命を覆してくれたヒーローだからね。彼を見つめる瞳がどこか熱っぽくて、ラブコメの波動を感じてしまう。

 ちなみに、スイミィ様が【生命の息吹】を取得した理由だけど、いつか自分が殺されることを知っていたから、そうなる前に母親に命を譲渡して、生き返らせたかったみたい。
 でも、お墓を荒らすことを躊躇って、命の譲渡は結局しないままだった。

 スイミィ様は誰にも相談せず、宝物庫に忍び込んでスキルオーブを使ったから、彼女が【生命の息吹】を取得していることは、本人以外に誰も知らなかったよ。
 そんな訳で、ニュート様と侯爵様が、とても驚いていた。

 ……驚いたと言えば、私は侯爵家の親子関係に驚いた。
 ニュート様は美少年で、スイミィ様は美少女。それなのに、父親の侯爵様が……その……まぁ、リリア様がよっぽど美人だったのかな。

 話を戻そう。シュヴァインくんはこの部屋に泊めて貰って、スイミィ様が彼の面倒を見ている。
 こうなると、フィオナちゃんが黙っているはずもなく、彼女もこの部屋に泊めて貰っているよ。スイミィ様と一緒に、甲斐甲斐しくシュヴァインくんのお世話をしているんだ。

 私は今まで通り、自分のお店で寝泊まり。ルークスとトールも今まで通り、宿屋で寝泊まり。それで毎日、お屋敷へと足を運び、シュヴァインくんの様子を確かめに来ている。

「色々な果物を買ってきたよ。この匂いで、起きてくれないかな?」

「シュヴァインの食い意地を考えると、普通にあり得そうね……。鼻に近付けておくわ」

 フィオナちゃんは私から果物を受け取って、至極真面目な表情で有言実行。すると、早々にシュヴァインくんのお腹が鳴った。
 まだ起きてくれないけど、みんなの笑みが零れる。
 それから、フィオナちゃんが私とルークスの背後に誰もいないことを確認して、小首を傾げた。

「ところで、トールはどうしたのよ?」

「トールなら冒険者ギルドの練習場を借りて、バリィさんに指導して貰っているんだ」

 ルークスが肩を竦めてそう答えると、フィオナちゃんは盛大に頬を膨らませた。

「あいつぅ……!! シュヴァインのお見舞いにこないなんて、友達甲斐のないやつね!」

 トールは貪欲に強さを求めて、早朝からバリィさんのところへ押し掛けていた。
 バリィさんは戦士じゃないし、職業的には後衛の人なんだけど、それでも大ベテランの冒険者だからね。トールが学べることは、いっぱいあるみたい。

 ソウルイーターが討伐された後、みんなはすっかりバリィさんに懐いちゃった。
 彼もみんなの勇気ある行動を称賛して、随分と気に入ってくれたらしい。同じ孤児院出身の冒険者だし、あっという間に仲良くなっていたよ。

 全くもう、私のバリィさんなのに!
 私が内心でプリプリしていると、スイミィ様が一冊の絵本を持ってきて、みんなの前で広げて見せた。

「……これ、見て。……これで、シュヴァイン、目が覚める」

 その絵本の内容は、悪い魔女の呪いで永遠の眠りに就いたお姫様が、イケメンな王子様の接吻で目を覚ますという、なんともベタな童話だった。
 フィオナちゃんはこれを熟読した後、小さな溜息を吐く。

「はぁ……。これは参考にならないわよ。王子様はシュヴァインで、あたしがお姫様でしょ? 役割が逆じゃない」

「……分かった。フィオナ、見てるだけ。……スイが、やる」

 スイミィ様は無表情なまま、すたすたとシュヴァインくんの枕元に移動して、ムチューっと熱烈な接吻をキメた。
 もうね、傍から見ているだけでも、愛情がたっぷりだって伝わってくるよ。
 ルークスにはまだ早いから、私は彼の目を両手で塞いでおく。

 ……そういえば、私って中身はアラサーなのに、ファーストキスすらまだなんだよね。どうしよう、五歳児に大きく先を行かれちゃったよ。

 三十秒ほど、時間が止まったかのような接吻が続いて──スイミィ様はようやく、むふーっと満足げに唇を離した。
 シュヴァインくんの瞼が少しだけ動いて、頬が赤くなっているから、愛情が特効薬になったのかもしれない。

 ここで、あんぐりと口を開けながら硬直していたフィオナちゃんが、慌ててスイミィ様を押し退ける。

「──ッ!? こ、この泥棒猫っ!! あたしを差し置いて!! シュヴァインにキスしてんじゃないわよっ!!」

「……フィオナ、文句言った。……ばいばい」

「あたしは役割が逆だって指摘しただけでしょ!? キスなら幾らだってしてあげるんだからっ!!」

 スイミィ様との接吻を上書きするように、フィオナちゃんがシュヴァインくんの唇に吸い付いた。それはもう、タコみたいに、ブチューーーっとね。
 私は一体、何を見せられているんだろう?
 
 正気度が削られていくから、止めに入りたいんだけど……シュヴァインくんの鼻息が、興奮気味に荒くなった。なんか、このまま本当に目覚めそうだよ。
 結果良ければ全て良し、と自分を納得させて見守っていると、フィオナちゃんが手招きして私を呼び寄せる。

「ほらっ、早く来て! 次はアーシャの番よ!!」

「え……えぇっ!? 私も!?」

「当たり前でしょ!! これでシュヴァインが、目を覚ますかもしれないんだからっ!!」

 接吻をする人が増えると、シュヴァインくんの目覚めが早くなるの?
 そんなことないと思う……って、言いたいんだけど、フィオナちゃんとスイミィ様の目がマジだ。断ったら、何をされるか分からない。
 私が眠れる子豚の王子様に目を向けると、彼の唇がタコみたいに突き出された。

 ……あのさ、もう起きてるよね? 蹴飛ばして良いかな?

「うーん……。よしっ、ルークス! やってあげて!」

「う、うん? やってあげてって、オレがシュヴァインにチューするの?」 

「そうだよ。だって、絵本の王子様は男の人だからね。ルークスのチューの方が、絶対に効果あるよ」

「ああ、そっか。確かにそうだね! 分かった、任せて!」

 ルークスは仲間を助けたいという一心で、キリッとした表情をしながら、自分の唇をシュヴァインくんの唇に近付けた。
 そして──二人の唇がくっ付く直前、シュヴァインくんが目をカッと見開いて飛び起きる。

「お、起きた!! ボクもう起きたよ!! だからキスはいらないよ!!」

「良かった。これで駄目なら、トールの唇の出番だったからね」

「し、ししょぉ~~~!!」

 私の無慈悲な計画を聞いて、シュヴァインくんが泣きながら縋り付いてきた。それだけはやめて欲しいって顔だね。
 そんな彼に、フィオナちゃんとスイミィ様が大喜びで抱き着く。
 接吻はしてあげられないけど、私も抱き着くくらいはしてあげよう。
 
 これで本当に、一件落着だよ。



 ──子供たちの冒険編、終わり。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...