他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
132 / 239
四章 流水海域攻略編

130話 ミストゼリー

しおりを挟む
 
 ──無事に転職を済ませた私は、ミケと一緒に楽器屋さんへと向かった。
 彼はすぐに、自分好みの音色が出る笛を発見。購入してから、ずっとピロピロ吹いているよ。
 木製の笛で、私の魔笛と同じく、横向きで吹くタイプ。お値段は銀貨三十枚。

 当然、草笛と木製の笛は別物だけど、初めて触ったとは思えないくらい、ミケの演奏は素晴らしい。
 大通りで歩きながらピロピロしているのに、誰にも咎められないんだ。
 それどころか、もっと聞きたいと言わんばかりに、人が後ろから付いてくる。

「ミケ、その笛を吹くの、本当に初めてなの……? もうベテランって感じだけど……」

「音が出る道具の使い方にゃんて、どれも似たり寄ったりにゃんだよ」

「いやいやいや、その笛と草笛は全然違うでしょ。本当に凄いね……」

 私が本気で感心していると、ミケはにんまり笑って、身体を摺り寄せてきた。

「にゃふふ……!! みゃーがご主人に、手取り足取り腰取り、しっぽり教えてあげるのにゃ……!! 今夜は寝かせにゃいよ、子猫ちゃん……!!」

「変なことしたら、去勢するからね」

 私がチョキチョキと指で威嚇すると、ミケは内股になって後退りした。

 この後、私は商業ギルドに赴いて、脆い水の杖を買い求め──案の定、在庫は殆どなかったよ。
 一本だけあったから、金貨一枚で購入したけど、これじゃあ全然足りない。

 水の魔法使いに転職するだけでも、十本くらいは必要なんだ。
 それから、レベル上げのために、百本くらい追加で欲しいかも……。
 白金貨が羽ばたいていくけど、それは別にいい。それよりも、在庫不足が深刻だね。

 商業ギルドの職員さん曰く、今ではコレクタースライムを使った物流網があるから、遠方でしか需要がない代物でも、あっという間に売れるようになったとか。
 予約や取り置きみたいな制度は、廃止されたって。すぐに仕入れて、すぐに売れるんだから、面倒な仕組みは必要ないらしい。

 私はガクっと肩を落として、ミケの笛の音色を聴きながら帰路に就く。

「ただいまー。ローズ、きちんと転職してきたよ」

「うむっ、転職出来て偉いのじゃ! どれ、頭を撫でてやるかの」

 帰宅した私は、ローズによしよしと頭を撫でられて、ほっこりしながら一息吐いた。
 そして、ローズと一緒にカウンター席に座り、ゴマちゃんを愛でながら次の予定を考える。

 水属性の魔物をテイムするつもりだけど、どんな魔物がいいかな?
 近場で見繕うのであれば、流水海域のペンギンかセイウチ。それと、街の外にいるアクアスワンも水属性だね。
 少し遠出するなら、魚とか蟹とか貝とか、選択肢が一気に増える。

 我が家の空きスペースには限りがあるから、あれもこれもとテイムする訳にはいかないし……実に悩ましい。

「うーん……。水属性の魔物……。水属性の魔物……」

「ペンギン! 水属性の魔物と言えばっ、絶対にペンギンよ!!」

 いきなり真横から声を掛けられて、思わずビクッとしちゃった。
 私が顔を向けると、そこにはフィオナちゃんの姿があったよ。
 今日は夕方まで、修行をする日だったと思うけど……。

「フィオナちゃん、もう帰ってきたの?」

「もうって、外を見なさい。もう夕方よ?」

 フィオナちゃんに促されて外を見ると、確かに夕方だった。
 目的を持って行動していると、時間が過ぎるのはあっという間だね。
 私はお店の外に、『閉店中』の看板を出してから、フィオナちゃんに相談してみる。

「水属性の魔物をテイムしようかと──」

「ペンギンよ!! 絶対の絶対にっ、ペンギンがいいわ!!」

 やはりと言うべきか、食い気味にペンギンを推されてしまった。
 フィオナちゃんって、大のペンギン愛好家だからね。
 私もペンギンは好きだけど、子供アザラシほどじゃない。それに、

「今回は強さを重要視しているから、ペンギンはちょっと微妙かも……」

「大丈夫っ、進化させれば強くなるわよ!」

「まぁ、それはそう……。でもなぁ……」

 流水海域の第五階層にいた魔物、エンペラーペンギンは強そうだった。けど、あそこまで進化した個体でも、カマーマさんに瞬殺されていたんだ。
 正直、ペンギンっていう種族が弱いと思う。
 私が渋っていると、フィオナちゃんは更にペンギン推しを続けたよ。

「アーシャはいっぱい魔物をテイム出来るでしょ? ペンギンの一匹や二匹っ、増やしても問題ないわよ!」

「いや、使役数に問題はなくても、家のスペースに問題が……」

「くっ、家のスペースを持ち出されると、居候のあたしは強く言えないわね……!!」

 フィオナちゃんが引き下がってくれたから、私はペンギンよりも強い魔物をテイム出来ることになった。
 そしてまた、何をテイムしようかと、堂々巡りになってしまう。

 この日は就寝する直前まで、考え抜いて──ふと、名案を思い付く。
 冒険者ギルドで聞けばいいんだ。お勧めの水属性の魔物。
 餅は餅屋。魔物のことに詳しいのは、冒険者ギルドだよね。



 ──翌日の早朝。私はスラ丸とティラ、それからブロ丸を引き連れて、冒険者ギルドまでやって来た。
 ルークスたちはダンジョン探索の日で、レベル上げとお金稼ぎを頑張っているから、邪魔をしたくない。
 そんな訳で、今日は私と従魔たちだけだよ。

 私のお店を利用している冒険者が多いから、このギルドはホームグラウンドと言っても過言じゃない。
 顔見知りの冒険者たちと軽く挨拶を交わして、私は空いているカウンターへと向かう。

 美男美女の職員さんのところには、行列が出来ているのに、一ヵ所だけガラ空きのところがあった。
 そこで受付をしているのは、熊みたいに毛むくじゃらで大きい男性、ギルドマスターのクマさんだよ。
 本名は知らないけど、みんなは『ギルマス』『クマの旦那』『クマちゃん』とか、色々な愛称で呼んでいる。

「こんにちは、クマさん。閑古鳥が鳴いていますね」

「ああ、雑貨屋の店主か……。今は手隙だから、受付を手伝っているんだが……ここに俺が座ると、毎回こうでな……」

 クマさんは間違いなく、冒険者たちに慕われているよ。
 でも、受付に美男美女が並んでいたら、そっちに人が流れてしまう。悲しいかな、その程度の慕われ方なんだ。
 彼も私のお店で、ポーションを買ってくれるから、顔見知りになっている。
 ギルドマスターというだけあって、魔物に関する知識は豊富だろうから、相談相手としては丁度いいね。私は早速、用件を切り出すことにした。

「実はですね、私が使役するのにピッタリな魔物がいないか、聞きに来たんです。条件は水属性の魔法が使えて、身体は出来るだけ小さく、ペンギンよりも強い魔物。ただし、セイウチより強いと私の実力的に、テイム出来ないかもです」

「それなら、アシッドフロッグがお勧めだな。酸を吐き出す蛙の魔物で──」

「蛙は苦手なのでっ、勘弁してください!」

 私が食い気味に拒絶すると、クマさんはばつが悪そうに頭を掻いた。

「そ、そうか……。それなら、ミストゼリーはどうだ?」

 ゼリーというのは、クラゲの魔物の名前に付くことが多い。
 この街の周辺に生息しているゼリーと言えば、アクアゼリーだよ。
 ペンギンやアクアスワンよりも魔力が多くて、やや威力が高い【冷水弾】を使える。
 でも、アクアゼリーは身体の殆どが水で構成されていて、核である魔石を全然守れていないから、クリアスライムよりも防御力が低い。
 しかも、動きが非常に緩慢で、水中でしか活動出来ないという欠点がある。

 多分、ミストゼリーっていうのは、そんなアクアゼリーの進化個体か、あるいは亜種だろうね。

「ミストゼリーなんて、聞いたことがないんですけど、近場に生息しているんですか?」

「いや、していないな。そもそも、野生で現れることなんて、滅多にないぞ」

「へぇー……。ちょっと興味が湧いてきました。詳しく教えて貰えますか?」

「ああ、構わんとも。ミストゼリーって魔物は──」

 クマさん曰く、それはアクアゼリーが進化した魔物で、身体が霧状になっているクラゲだとか。
 空中を漂って移動出来るから、進化前と比べると、活動範囲がとても広い。

 進化して得られるスキルは、【霧雨】という水属性の魔法だよ。
 霧を発生させるだけだから、人間の魔法使いにとっては外れスキルになる。けど、ミストゼリーは霧の中で高速移動出来るから、非常に有用なんだって。

 肝心の進化条件は、アクアゼリーに火の魔石を沢山食べさせること。
 水中でしか活動出来ないアクアゼリーが、火の魔石を沢山食べる機会なんて、野生だと滅多にないよね。

 私はクマさんから得た情報に満足して、にんまりと笑顔を浮かべる。

「決めました! ミストゼリーにします! まずはアクアゼリーをテイムして、火の魔石を買い集めないと……!!」

「ああ、頑張れよ。最近になって、火の魔石だけ高騰しちまったから、財布に厳しいとは思うが……」

 火の魔石を持っている魔物は、王国南部だと滅多に現れない。
 そんな訳で、遠方から取り寄せる必要があるんだけど……例の如く、コレクタースライムのおかげで、手間は掛からないんだ。
 高騰に関しても、よっぽど法外な値段じゃなければ、問題ないよ。

 さて、街の外へ出るに当たって、ルークスたちに護衛依頼を出して──と思ったけど、すぐに躊躇する。
 アクアゼリーなら、街の近くに生息しているので、依頼料は多くても銀貨五十枚程度。

 今のルークスたちは、一日で金貨数枚を稼ぐから、こんな依頼は迷惑だよね。
 ……いや、迷惑だなんて思わず、快く引き受けてくれるかな。だとしても、それがまた申し訳ない。
 みんなには、もっと多くの依頼料を出してもいいんだけど、受け取って貰えないと思う。水臭いってやつだよ。

「うーん……。クマさん、護衛依頼を出してもいいですか? 指名は特にありません」

「勿論、大歓迎だ。どういう内容で、報酬はどうする?」

「アクアゼリーのテイムに行くので、その護衛をお願いしたいです。報酬は銀貨五十枚で」

「街の外に少し出るだけだが、五十枚も出すのか……? しかも、そのシルバーボールまで、連れて行くんだろう……?」

 私が表に出しているブロ丸だけでも、街の近くなら問題ないらしい。
 リュックの中のスラ丸と、影の中のティラも合わせれば、冒険者の護衛は必要ないかもね。
 ただ、銀貨五十枚をケチって、街の外で不測の事態に陥ったら……泣いちゃう。

「身の安全は、出来るだけ確保しておきたいので、お願いします」

「まあ、依頼人がそれでいいなら、ギルドとしては構わないが……」

 クマさんは呆れ半分、感心半分で、私の依頼書を作成。それを掲示板の目立つところに、ペタっと貼ってくれたよ。
 慎重って、重ねれば重ねるだけいいものだから、これでよし!
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...