他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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五章 スレイプニル戦役

136話 発病

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 アクアヘイム王国の軍勢が、ダークガルド帝国に侵攻する。
 そのことが決定したところで、私は王城の覗き見をやめた。
 今更だけど、国家の一番重要な話し合いを盗み聞きしちゃったよ。

「バレなければ、大丈夫だよね……?」

 一応、スラ丸四号に何かあったときのために、あっちで分裂させて五号を生み出そう。
 スラ丸一号の【収納】を経由して、水の魔石を送っておく。

 ……あっ、そういえば、【感覚共有】を使ったときに、鬱陶しいノイズが走ったよね。
 あれって、防諜のためのスキルか、マジックアイテムの影響かもしれない。
 逆探知みたいなことが出来たら、どうしよう……。
 嫌な想像をして、私の額から冷や汗が流れる。

「わ、私は未来の王様のお友達だから、きっと大丈夫……!!」

 そんな希望的観測に縋りながら、私は図書館へと向かうことにした。火属性の魔物のこと、調べないとね。
 お供として連れて行くのは、スラ丸、ティラ、ブロ丸、ユラちゃん。

 スラ丸はペンギンを模した形のリュックに入れて、ティラは私の影の中に潜んでいる。だから、表に出ているのは、ブロ丸とユラちゃんだけ。
 それでも、街中での悪党に対する抑止力としては、十分だと思う。

「雑貨屋の店主ちゃん、魚の串焼きはどうだい? 美味しく焼けているよ!」

「それじゃあ、五本ください!」

「お嬢ちゃん、うちの串焼きも買っておくれ! セイウチのお肉だよ!」

「はーい! そっちも五本ください!」

 雪が少しだけ積もっている表通り。そこを歩いていると、出店を営んでいる人たちに、次々と声を掛けられた。
 この寒空の下でも、みんな一生懸命働いているんだ。

 彼らはご近所さんなので、お勧めされた商品はどんどん買うよ。
 私の雑貨屋は商売繁盛しているから、ケチだと思われると関係が悪くなってしまう。
 それに、出店の食べ物は安いし、スラ丸の【収納】があれば腐らないし、私が嫌いなものはスラ丸に食べさせればいいし、断る理由がない。

 そうこうして、私は道草を食ってから、図書館に到着した。

「──本を読みに来ました。従魔たちを預かってください」

「畏まりました。ごゆっくりどうぞ」

 図書館では従魔の持ち込みが禁止されているので、受付のお姉さんにスラ丸たちを預けておく。とは言っても、ティラだけは影の中に潜ませたまま、連れて行くんだけどね。
 世の中、どこで何が起こるか分からないから、ルールよりも身の安全が大事なんだ。

「さて、王都のダンジョンに関する本は、どこかな……っと、あった」

 ここの本棚は整理整頓されているから、目的の本を探しやすくて助かるよ。
 著者不明の本のページを捲ると、熱砂の大地のことが書いてあった。

 『熱砂の大地』──アクアヘイム王国の最難関ダンジョンで、第一階層に生息している魔物は二種類。

 『ベビーサラマンダー』──火を吐く蜥蜴の魔物で、名前にベビーなんて付いているのに、体長が五メートルもあるらしい。
 しかも、この魔物はスキル【爆炎球】を使ってくる。
 フィオナちゃんの必殺技と同じやつだね……。それを敵が使ってくるなんて、この時点で私の心は折れた。

 『ヒクイドリ』──飛べない鳥の魔物で、体長はニメートル程度。真っ赤なダチョウみたいな姿をしているらしい。
 脚に炎を纏わせながら爆速で走り、強烈な蹴りを繰り出すという、近接攻撃が得意なタイプだよ。
 ティラとの一対一であれば、こっちは楽勝だと思う。でも、常に二十匹を超える群れで、行動しているのだとか……。

「ローズには申し訳ないけど、これはちょっと……」

 無理だね。熱砂の大地で私が魔物をテイムするのは、絶対に無理。こんなの死んじゃうよ。
 一応、第二階層に生息している魔物も、興味本位で調べてみることにした。

 『ボルケーノキャメル』──体長が三十メートルもあるラクダの魔物。
 背中のコブが火山みたいになっており、そこから大量の溶岩を噴射するらしい。

 『レーザースコーピオン』──体長が二メートル程度の蠍の魔物。
 物凄い貫通力かつ、超高速の熱線を撃ってくる。しかも、百匹近くの群れで。

 うん、よく分かった。これは、絶対の絶対に、行ったら駄目なやつだ。
 ダンジョンは厄介なところで、落とし穴とか転移の罠によって、下層にご招待されることがあるんだよ。自分の身に、そんなことが起こるかも……って想像したら、もう足が震えてきた。

「うーん……。困ったなぁ……」

 無属性の魔物に、火の魔石を沢山食べさせたら、火属性の魔物に進化するかもしれない。そう考えて、魔物の進化先に関する本を読んでみた。
 しかし、大分ガッカリする内容が書いてある。
 アクアヘイム王国に生息している魔物は、水との親和性が高くて、火属性の魔物に進化させることは難しいみたい。
 著者不明の本曰く、不可能ではない。ただし、歪な進化を遂げる可能性が高いとか……。

 困った。本当に困った。これはどうしたものかと、私が頭を悩ませていると──

「……困った? 姉さま、困ってる?」

 突然、真横から誰かに声を掛けられた。
 ビクッとして顔を向けると、超至近距離にスイミィ様の顔があったよ。

 彼女はライトン侯爵の娘で、歴とした侯爵令嬢だ。
 髪は青色で、立っている状態でも毛先が床に届きそうなほど長い。少しだけクルクルしている癖っ毛で、見るからに手入れが大変そうだけど、相も変わらず隅々まで艶々だね。
 瞳の色は右が灰色、左が金色のオッドアイ──なんだけど、今日は左目に眼帯を付けているから、金色の瞳が隠れている。

「スイミィ様、おはようございます。その目、どうしたんですか?」

「……ん、おはよ。……スイの左目、封印した」

「ふ、封印……? えっと、怪我をしたとか、そういうことではなく?」

「……怪我ちがう。スイの左目、悪魔が宿ってる。……だから、封印」

 スイミィ様の表情は虚無そのもので、目付きがジトっとしているから、その心情を推し量ることは難しい。
 でも、きっと悲しんでいると思う。だって、オッドアイを馬鹿にされたというか、怖がられたんだよね?

 左右非対称の瞳は珍しいけど、こんなのただの個性なんだから、忌み嫌われるようなものじゃない。それなのに、悪魔だなんて酷すぎるよ。
 私はスイミィ様をギュッと抱き締めて、よしよしと頭を撫でてあげた。

「悪魔が宿っているなんて、そんな酷いこと、誰に言われたんですか?」

「……姉さま、酷いちがう。……悪魔、かっこいい」

「…………う、うん?」

 スイミィ様の口から、予想していなかった言葉が出てきて、私は首を傾げてしまう。格好いいって、どういうこと?
 抱き締めていたスイミィ様の身体を放して、目と目を合わせた。それから、私は徐に、彼女の眼帯を外してみる。

 ──その左目に、異常は見当たらない。いつも通りの、綺麗な金色の瞳だよ。
 これは、心配して損をしたってやつかな。

「……姉さま、大変。……悪魔、出てくる」

「悪魔が出ると、どうなるんですか?」

「…………悪魔が出ると、かっこいい」

 スイミィ様の言葉を聞いて、私は思わず頭を抱えてしまった。

「あの、まさかとは思うんですけど、中二病が発症しましたか……?」

「……ちゅーにびょう? スイ、分からない。……でも、悪魔は、かっこいい」

「そ、そうですか……」

 分からないって、それは私の台詞だよ。
 悪魔のどこが、スイミィ様の感性に突き刺さったのか、サッパリ分からない。
 そもそも、侯爵令嬢として、中二病特有の黒歴史を生み出してしまう言動は、許されるのだろうか?

 ……まぁ、私がとやかく言うことじゃないかな。
 とりあえず、お付きの人にスイミィ様を預けよう。そう思って辺りを見回したけど、誰の姿も見当たらない。
 どうやら、スイミィ様はまた迷子になっているらしい。

「……スイ、迷子ちがう。……それより、姉さま。困ってる?」

「え、ええ、まぁ、少しだけ……」

「……悪魔が、解決する。……姉さまなら、対価いらない。とくべつ」

「優しい悪魔なんですね……。えっと、実は──」

 私はスイミィ様に、火属性の魔物をテイムしたいという事情を伝えた。
 すると、彼女は無表情のままコクコクと頷いて、一つ提案してくれる。

「……ヒクイドリの卵、孵化させる。……それで、まるっと解決」

「なるほど、魔物の卵……。うん、名案かも」

 ヒクイドリの進化前の魔物なら、多分だけど簡単にテイム出来る。
 スイミィ様曰く、ヒクイドリの卵は商業ギルドで、取り寄せて貰えるらしい。
 侯爵家では食用として、定期的に購入しているのだとか。

「──お嬢様っ!! ようやく見つけました!! また迷子になられて……!!」

 ここでようやく、スイミィ様のお付きの人たちが迎えに来た。
 護衛の騎士とメイドさんが、合計で五人。こんなにいて、大切なご令嬢を見失わないで貰いたい。

「……スイ、迷子ちがう。……モーブが、迷子」

「そんな訳ないでしょう!? ほらっ、もう帰りますよ!!」

 スイミィ様の護衛の一人は、モーブさんだった。特徴がないのが特徴という、ごく平凡な容姿の男性騎士だ。
 そんなに親しい訳じゃないけど、私とも顔見知りだよ。
 私は手を振ってお見送り──と思ったら、スイミィ様に服の裾を摘ままれた。

「……姉さま、一緒に行く」

「う、うん? 一緒にって、侯爵家のお屋敷に、ですか?」

「……そう。スイの卵、あげる」

 スイミィ様が食べる予定だったヒクイドリの卵。それを私に譲ってくれるらしい。
 お金はあるから、商業ギルドで買ってもいいんだけど……折角だし、ご厚意に甘えよう。
 
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