他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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五章 スレイプニル戦役

163話 復活

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 ──特に飾り気のない天幕にて、私たちはルチア様と面会した。
 帝国南部が信じられないほど荒らされて、首都スレイプニルも滅びる寸前まで追い詰められている。そんな状況でも、ルチア様は気弱な様子を一切見せず、毅然としていたよ。

 この人には、何かのために殉じる覚悟がある。
 如何なる艱難辛苦に見舞われても、死が確定する瞬間まで、心が折れることは決してない。
 そういう意志の力が、その瞳には宿っているように見えた。

「ようこそおいでくださいました。貴方たちのご助力に、心から感謝致します」

 私がルチア様の存在感に圧倒されていると、彼女は深々と頭を下げてきた。
 私だと役者が違い過ぎるので、ここはバリィさんを前に出す。

「アクアヘイム王国の民として、そう感謝されると複雑な気持ちになるが……」

「全ては、第一王子のアインスが仕組んだこと。わたくしは、そのように理解しております。故に、王国の全てを恨むつもりはありません。わたくしの感謝は、嘘偽りのないものとして、お受け取りください」

「……分かった。それで、皇女様が俺たちを呼んだ理由は?」

「首都を守るために、バリィ殿のお力を貸していただきたい。それと、そちらの聖女様には、兵士たちの回復をお願いしたいのです」

 ルチア様は私のことを真っ直ぐに見つめて、鮮烈な眼差しで『お願い』をしてきた。
 なんかもう、強制力のある命令にしか聞こえない。
 断ることは絶対に許さないって、ひしひしと言外から伝わってくるよ。

 彼女の職業は観測者で、覗き見に特化したスキルを持っている。
 だから、私がロバートさんに行っていた支援は、全部見られていたはず……。

 恐らくだけど、ルチア様は【再生の祈り】を見て、私が聖女だと勘違いしたんだ。
 このスキル、如何にもそれっぽい演出が発生するからね。

「ええっと、私は聖女ではないです……けど、はい……。回復は、了解です……」

 断れる雰囲気じゃないので、私は素直に頷いておく。その直後、天幕に一人の老人が駆け込んできた。
 如何にも魔導士っぽい人で、八脚馬の紋章が縫い付けられた水色のローブと、大きな杖を装備している。
 それから、彼の髪がない頭には、龍の刺青が施されているよ。

「ルチア様っ!! た、大変ですぞ!! 外ッ!! 外を見てくだされッ!!」

 老人にそう言われて、ルチア様は弾かれたように天幕の外へ出る。
 私たちも後に続いて、すぐに目を見張ることになった。
 まず、辺り一帯に降り注いでいた【天地陽光】が、完全に消えているよ。
 三日三晩も続くはずの大魔法が、何故──と疑問を挟む間もなく、原因が判明した。

 ソルガルーダの身体を内側から突き破って、熱エネルギーで形成されているドラゴンの上半身が、外に出ているんだ。
 ドラゴンは既に、自分の翼で飛んでいる。そして、ソルガルーダは生気を失い、全く動いていない。
 【天地陽光】が消えたのは、ソルガルーダが死んだからだろうね……。

 今現在、ドラゴンは食事の真っ最中で、ロバートさんと思しき半人半馬を口に運んでいた。
 丸焦げになっているから、顔は確認出来ないけど……二百五十メートルの巨躯で、別人ということはないと思う。

「ロバート……ッ!!」

 ルチア様は血が出るほど、拳を強く握り締めた。
 後ろ姿しか見えないので、どんな表情を浮かべているのか、私には分からない。
 でも、その心中に激情が渦巻いているのは、痛切に感じ取れてしまった。
 それと、先ほどの老人や帝国兵たちは、絶望に打ちひしがれて、立つことすら出来なくなっているよ。
 
「あちきのロバートが、あちき以外に食べられているわよん……!?」

「参ったな、機を逸したぞ……。今のドラゴンを封じ込めるには、魔力が全然足りない……」

 カマーマさんが頭を抱えて、バリィさんは冷や汗を掻いている。
 ソルガルーダが死んで、ドラゴンだけになった今なら、【規定結界】が通用するはず……。そう思ったのに、まさかの魔力不足。
 ドラゴンが力を取り戻しすぎたので、その分だけ【規定結界】に、沢山の魔力が必要らしい。

「──つまり、ドラゴンを弱らせるしか、ないんですね……?」

「はは……。出来る気はしないが、そういうことだな……」

 バリィさんは乾いた笑みを浮かべて、本心からの弱音を吐いた。
 ローズクイーン、ソウルイーター、シャチ、ソルガルーダ。これらの強大な敵を相手にしても、彼が怖気付くことなんてなかったのに……。
 そんな人が、怯えている。ドラゴンとは、それだけ規格外の存在らしい。

 奴はロバートさんを糧にすることで、更に存在感を膨らませているよ。
 なんかもう、どれだけ強いのか、私には測れない。
 余りにも巨大なものが、すぐ目の前にあったら、全体像が分からなくて、恐怖も何も感じられない。そういう規模の違いみたいなものが、私とドラゴンの間にはある。

 だから、怖くないんだ。怖いと思えないことが、過去に類を見ないほどの、危険信号なのかもしれない。

「る、ルチア様……。その、切り札があったり、しませんか……?」

「あればとっくに使っていますッ!!」

 私がおずおずと問い掛けると、ぴしゃりと怒鳴り付けられてしまった。
 今度はカマーマさんが、レイジーさんに尋ねる。

「レイジーお婆様は、どうなのかしらん? リリア様と一緒に、アレを倒したのよねん?」

「馬鹿なこと言うんじゃねーデス。ドラゴンはリリアが一人で、ぶっ殺しちまったんデスよ。今のあちしの戦闘力は、おめーよりチョイ上くらいデス」

 レイジーさんの自己申告が確かなら、彼女はカマーマさんより強いらしい。
 とても心強いことだけど、それだけじゃ足りないよ。バリィさんの様子を見た感じ、絶望的に勝ち目がなさそうだもの。
 ドラゴンはロバートさんだけじゃなくて、ソルガルーダも食べるみたいだから、多少は時間の猶予がある。

 ……逃げる? いや、まだ出来ることがあるかもしれない。
 とりあえず、兵士たちの回復からだよね。
 私は女神球を浮かべようとして──ふと、思い止まった。

 負傷者が大勢いるという、この状況を利用すれば、切り札が手に入るかも……。

「ルチア様っ、今すぐ神聖結晶を用意出来ませんか!? 大至急っ、一秒でも早く!!」

 私の要求に対して、ルチア様は無駄な問答を挟まず、即座にステホで誰かと連絡を取った。
 すると、帝国軍に所属している魔物使いの男性が、私たちのもとへ走ってきたよ。彼はコレクタースライムを抱きかかえている。
 どうやら、スキル【収納】を使って、神聖結晶を取り寄せてくれるみたい。

「待っている間に、せめて兵士たちの回復だけでも、お願い出来ませんか?」

「まだ駄目です! どうしても待って貰う必要があるのでっ、ごめんなさい!!」

 ルチア様に再びお願いされたけど、私は思いっきり頭を下げて突っ撥ねた。
 今この瞬間にも、生死の境目を越えて、亡くなってしまう人たちがいる。
 そのため、ルチア様は私に、責めるような眼差しを向けてきた。

 ──針の筵で、辛い。

 それから、凡そ一分後。私の目の前に、神聖結晶が用意されたよ。
 ドラゴンはロバートさんを完食した後、熱エネルギーで下半身を形成し、ソルガルーダの身体から出てきてしまった。
 奴は宿主への情なんて、微塵も持ち合わせていないらしく、ソルガルーダを豪快に食べ始める。

「皆さんっ、こっちを見ないでください!!」

 私はみんなに背を向けて貰ってから、神聖結晶に左手で触った。
 こうして、結晶の中に浮かび上がるのは、十二の職業の選択肢。

 『聖女』『異世界人』『商人』『庭師』『音楽家』『盗賊』
 『結界師』『魔法使い』『水の魔法使い』『土の魔法使い』
 『風の魔法使い』『光の魔法使い』

 聖女という職業だけが、これを選べと訴え掛けてくるように、大きく表示されている。
 前々からそうだったけど、今までは厄介事を招くと思って、忌避していたんだ。
 でも、今は違う。この凄そうな職業に、全てを賭けてみよう。

「選んであげるからっ、ガッカリさせないでよ……ッ!!」

 私は観測者から聖女に転職して、すぐに女神球を使った。
 一つ、二つ、三つと、何個も放り投げて、負傷者たちを余すことなく照らし出す。ドラゴンを見上げて絶望していた人たちが、今度は女神球を見上げて、ポカンとしたよ。
 神々しい光が降り注ぎ、瀕死の重傷ですら瞬く間に治って──兵士たちは、騒然とし始める。

「う、腕が……!? 俺の腕が生えたぞ!?」

「ああっ、見える!! 目が見える!!」

 誰かがポツリと、『奇跡か?』と呟いた。それを皮切りに、みんなが祈り始める。

「女神様ッ!! どうか我々をお助けくださいッ!!」

「帝国に……我らの故郷に……っ、どうか安寧をお与えください……ッ!!」

「祈れぇッ!! 女神の祝福だ!! 勝利を祈れえええぇぇぇぇッ!!」

 彼らの祈りの声が、あちこちから私の耳に届いた。
 どれだけ祈られても、女神球にはドラゴンを打倒するような力はない。それはただの、回復魔法だからね。
 でも、みんなの祈りに呼応するように、私の中で清らかな魔力が膨れ上がっていく。
 これだけの人たちから、信仰心を集めているので、聖女の職業レベルが急速に上がっているんだ。
 私は懐からステホを取り出して、最後の頼みの綱である新スキルを確認した。

 ──切り札っ、こい!!
 
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