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六章 聖女の墓標攻略編
191話 ドラーゴ
しおりを挟む帝国兵を引き付けるために、私は自分の手を汚す覚悟を決めて、敵のゲートスライムを狙う。
「ふぅ……。ブロ丸っ、圧し潰して!!」
ブロ丸が私の命令に従い、敵の頭上まで移動して、一気に落下した。
ブロンズボールだった頃から、ブロ丸の攻撃手段はこれだと決まっている。
体長が二十メートルともなると、回避も防御も難しいはず……。
「受け止めろッ!! 結界師を総動員だ!!」
帝国兵の中にいる十数人の結界師が、息を合わせて【対物結界】を使った。
一人一人が三重前後の結界を張っているので、その強度は凄まじく、ブロ丸の攻撃は普通に防がれてしまう。
でも、私は地上が近付いたタイミングで、混乱状態の帝国兵に対して、【逃げ水】のバフ効果を与えた。
これで、彼らを取り押さえようとした帝国兵が、混乱状態に陥るはずだよ。
「ブロ丸っ、もう一度浮かんで、今度は円錐に変形して!! それから攻撃!!」
私の命令に従って、ブロ丸は円錐の形状になると、その先端で結界に攻撃を仕掛けた。
面に対する攻撃よりも、点に対する攻撃の方が、結界は壊れやすい。
ドン!とブロ丸が落下して、一度に十枚以上の結界が壊れた。
帝国兵は防げたことに安堵しているけど、こっちはまだまだ攻撃を繰り返す。
ブロ丸の上下運動によって、内部も大きく揺れ動いているけど、私にはスキル【騎乗】があるので問題ない。
「結界を張り直せッ!! あの魔物に攻撃が届く者は、攻勢を緩めるなッ!!」
「こっちに手を貸してくれぇ!! 混乱状態の奴が多すぎるんだ!!」
「こ、こいつ……っ、押さえ付けようとしたら、擦り抜けたぞ!? ああクソっ!! 俺まで頭がぐるぐるしてきた!!」
私の思惑通り、大勢の帝国兵を引き付けることが出来た。
これで、街の人たちが逃げるための時間を稼げる。
後は、敵の増援という不確定要素を潰したい。
「早くゲートスライムを倒さないと……!! ブロ丸っ、高度を上げよう!!」
ブロ丸の落下は勢いが付き過ぎると、自滅してしまう恐れがある。
街にも大きな被害が出るので、出来れば使いたくなかったけど……他に、方法が思い付かない。
スキル【浮遊】を使って、高度を上げるブロ丸を見て、帝国兵の顔色が青褪めていくのが分かった。
しかし、ドラーゴだけは奮起して、再び生み出した水の龍に乗り、ブロ丸を追い掛けてくる。
「老い先短い命ッ、ここで使わせて貰うぞい!! 【水彩戯画】──ッ!!」
ドラーゴが杖を振るうと、宙に水の線が引かれて、立体的かつ大規模な魔法陣が描かれた。
その魔法陣が輝き始めるのと同時に、私が知る魔力とは次元が違うような、途轍もないエネルギーがドラーゴの全身から迸る。
「まさか、大魔法……ッ!?」
危機感が刺激された私は、【感覚共有】+【過去視】の複合技で、ブロ丸の視界からドラーゴと目を合わせた。
彼の過去を覗き見して、どんな魔法を使おうとしているのか、確かめるんだ。
──ドラーゴは帝国南部の首都で、スレイプニル辺境伯家に仕える騎士の息子として、この世に生を受けた。
「ドラーゴ、お前は私の跡を継いで、立派な騎士になれ。身命を賭して、スレイプニル家の方々をお守りするのだ」
物心がついた頃から、しつこく父親にそう言われて、ドラーゴは騎士になるべく剣の腕を磨き続けた。
しかし、六歳になる頃には、父親の言葉に不満を持つようになっていた。
「父ちゃん……。俺さ、自分の命は自分のために使いたいよ」
「な、なんだと!? このッ、馬鹿息子がッ!!」
ドラーゴが本当の気持ちをぶつけると、父親は激怒して彼を殴り付けた。
これで反省したかと思いきや、ドラーゴは職業選択の日に、剣士ではなく水の魔法使いを選んでしまう。
父親が剣士であり、ずっと剣術の手解きを受けてきたので、この選択は大きな裏切りだった。
「食らえっ、クソ親父!! 冷水弾!!」
ドラーゴは父親に魔法をぶつけて、その日のうちに家を飛び出した。
それからすぐに冒険者となり、魔物を討伐する依頼を受けて、街の外にある森へと向かう。
討伐対象は角が生えた兎の魔物、ホーンラビット。
新米冒険者でも、簡単に倒せる程度の強さらしい。
しばらくして、ドラーゴは森の中で、ホーンラビットを発見した。
躊躇なく【冷水弾】を使って、敵が怯んだところで駆け出し、家から持ち出した剣で斬り殺す。
「──ははっ、楽勝じゃん! これなら俺は、一人でも生きていける!」
調子に乗ったドラーゴは、追加で二匹のホーンラビットを狩って、その死体を街へ持ち帰ろうとした。
けど、なんの処理もせずに持ち歩いていたので、その死体からは点々と血が滴っていた。
必然的に、血の臭いに誘われた狼の魔物の群れに、襲われてしまう。
「ち、ちくしょう……っ!! どうしてこんなことに……!?」
ドラーゴは慌てて木の上に登り、折角の獲物を手放した。
狼たちはホーンラビットの死体を貪るも、満腹にはならず、木の下に屯してドラーゴを待ち構える。
「あっち行けっ!! 俺に構うなっ!!」
パニックに陥ったドラーゴは、取得したばかりの魔法を連発して、狼たちを追い払おうとした。
しかし、魔力が尽きて意識を失い、木から落ちてしまう。父親に歯向かったことを後悔しながら、自分はここで死ぬんだと、そう思って──
次に目を覚ましたとき、ドラーゴは一匹のロバの背中の上で、仰向けに寝そべっていた。黒い毛並みが美しいロバだ。
「よう、起きたか! お前、チビの癖に一人で森へ入るなんて、馬並みに度胸があるやつだな!」
目覚めと同時に声を掛けられて、ドラーゴは弾かれたように上体を起こし、ロバの背中から落ちてしまう。
地面に頭を打ち付けて、悶絶しながら顔を上げると、同年代と思しき馬面の少年と目が合った。
「だ、誰だ!? 俺は、狼に襲われて死んだはずじゃ……!?」
「ヒヒンっ、拙者の名前はロバーダ!! 何もかもが馬並みの男ッ!! ロバーダ=スレイプニ──いや、家出したから、ただのロバーダだ。お前の命の恩人だぞ」
これが、後にスレイプニル辺境伯家の当主となる人物、ロバーダ=スレイプニルと、彼の旧来の親友となるドラーゴの出会いだった。
辺境伯家の子息とは言え、この時点でのロバーダは六男という立場であり、言ってしまえば味噌っかす。
誰にも重要視されず、長男や次男ばかりが大切にされている現状に嫌気が差して、ドラーゴと同じように家出した次第だ。
「ロバーダ、お前はどうやって狼を倒したんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!! エリザベスっ、馬並みの合体を披露するぞ!!」
ドラーゴの質問に対して、ロバーダは気分をよくしながら、自分の取って置きの切り札を披露する。
それは、スレイプニル家に代々伝わる血統スキル、【人馬一体】。
これによって、エリザベスと呼ばれたロバが、ロバーダと合体して、下半身がロバ、上半身がロバーダという、半人半馬が爆誕した。
ドラーゴはあんぐりと口を開けて、本音を漏らす。
「う、嘘だろ……。クソダセぇ……っ!! これが、俺の命の恩人かよ……」
「ヒヒン!? お前っ、失礼な奴だな!! この馬並みの格好よさが理解出来ないとは、全くけしからん!!」
「理解出来て堪るか!! 馬並みとか言っているが、どう見てもロバじゃねーか!!」
「エリザベスは進化すれば立派な馬になる!! ロバなのは今だけだ!!」
ギャーギャーと騒ぎながら、二人は帰路に就いて、街まで帰ってきた。
それから、お互いに実家へ帰るつもりがないことを確認して、冒険者パーティー『竹馬の友』を結成する。
ロバーダは魔物使いだったが、【人馬一体】を使えば身体能力が大幅に上がって、前衛を務めることが出来た。
ドラーゴも魔法使いとして、メキメキと成長し、二人は僅か数年で銀級冒険者へと昇格する。
エリザベスが進化して立派な馬になったり、ロバーダの従馬が増えて食費が嵩んだり、ドラーゴが水の魔導士に転職したり、取得したスキル【青龍越水】に合わせて、頭部に龍の刺青を施したり──様々な出来事を経験しながら、瞬く間に年月が経過した。
ちなみに、【青龍越水】とは、巨大な水の龍を生み出して暴れさせる上級魔法だ。
──パーティーの結成から、十五年後。
二人は青年となり、日々様々な冒険を楽しんでいた。そんなある日、宿屋で休んでいたロバーダのもとに、一枚の手紙が送られてくる。
「ロバーダ、何を読んでいるんだ? 新しい依頼か?」
「ヒヒン、拙者の実家からの訃報だ。兄上たちが、戦死したらしい」
「そうか……。もう十五年くらいは、実家と関わっていないんだろ? 今更、訃報を寄こされてもな……」
この時点で、ドラーゴは既に、ロバーダの出自を聞いていた。
十五年も音沙汰がなく、ロバーダの方からも連絡を取っていなかったが……彼はあちこちで、【人馬一体】を惜しげもなく使っていたので、出自と所在は分かりやすい。
帝国内であれば、こうして手紙を送ることは難しくなかった。
「死んだ兄上は、一人や二人ではない。長男から五男まで、軒並み亡くなったそうだ」
「お、おおぅ……。マジかよ……。それなら、跡継ぎはどうなるんだ?」
「ヒヒン……。馬並みの拙者に、任せたいそうだ……」
「ああ、そういうことか……。それで、どうする?」
辺境伯家の跡継ぎになれる。それは、多くの人が羨む未来だが、ロバーダは違う。彼には自由気儘な冒険者生活が、性に合っていた。
しかし、ドラーゴは察している。自分の相棒なら、この話を断らないだろうと。
「ドラーゴ……。お前との冒険は、馬並みに楽しかった。だが、ここまでだ。拙者は辺境伯家なんぞ、心底どうでもいいが……民を見捨てる訳には、いかない。それは、馬並みの矜持に反する」
冒険の合間にも、ロバーダは人助けをすることが多かった。
性根が優しく、責任感が強い。そんな相棒のことをドラーゴは気に入っている。
「ロバーダ、人生は冒険の連続だろ? 冒険者を辞めて、貴族になろうとも、それは変わらない」
「ど、ドラーゴ……?」
突然、何を騙り出すんだと、ロバーダは訝しげな表情を浮かべた。
そんな彼に、ドラーゴはニヤリと笑って尋ねる。
「冒険をするには、仲間が必要だ。違うか?」
「い、いや……っ、いや! 違わない!! 冒険にはっ、お前みたいな馬並みの仲間が必要だ!!」
ロバーダは感極まってドラーゴに抱き着き、ドラーゴはそんな相棒を引き剥がそうとする。
「おい馬鹿っ、やめろ!! 俺にソッチの趣味はねーよ!! それと馬並みもやめろ!! 俺は馬が嫌いなんだ!! 俺がハゲちまったのは、エリザベスに髪を齧られまくったせいだぞ!!」
二十代前半にして、ドラーゴの頭部は物の見事に禿げていた。
が、そんな事実はどうでもよくて──この日、ロバーダとドラーゴは冒険者を辞めて、貴族と騎士になることを決めた。
ロバーダがスレイプニル家の跡を継ぎ、ドラーゴも父親の後を継いだ形になって、これが運命なのかと二人は笑い合う。
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