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七章 新生活の始まり
236話 エピローグ
しおりを挟む──翌朝。私が目を覚ますと、全てが終わっていた。
セバスとの戦いは、私の……というか、ブロ丸の勝利で幕を閉じているよ。
私は途中から寝てしまったので、【過去視】で戦闘シーンを確かめてみる。
すると、ブロ丸が作った人形たちの総攻撃によって、セバスは奮闘も虚しく殺されていた。
巨大竜巻を発生させる白虎が大暴れするも、ブロ丸の【魔力吸収】でじわじわと規模が縮小して、最後には霞のように消えたんだ。
結果的に、今回の一件で失ったものは、青色の上級ポーションだけかな。
切り札を一つ失ったのは痛手だけど、セバスとの因縁が終わったので、結果としては悪くない。
セバスはマジックアイテムを装備していたはずなので、戦利品を得られるかと思いきや、全て壊れていた。
ブロ丸の人形たちの総攻撃が、余りにも苛烈だったからね。
残念だけど、こればっかりは仕方ない。
ちなみに、ブロ丸はゴールデンボールに戻っている。
いつか、アヴァロンまで普通に進化させたいけど……進化条件が分からないし、私のレベルも足りていないので、果てしない道程だと思う。
セバスに敗北したトールたちは、命に別状こそないものの、精神的には結構参っていた。
みんなの戦いも、【過去視】で確認してみたところ、やっぱり手も足も出せていなかったよ。
【風神纏衣】とかいうチートスキルと、三つのスキルの複合技。それらを使われて、逃げ惑うので精一杯だったんだ。
村人たちとルーザー子爵の勝負は、村人たちが勝利していた。
平均レベルこそ、子爵の兵団の方が高かったけど、人数差と私の支援で、容易く覆る程度だったね。
取り逃がした人は皆無で、ルーザー子爵もきちんと討伐済みだよ。
槍で胸を貫かれている子爵の表情は、最期まで命乞いをしていたと一目で分かるような、恐怖と絶望に塗れたものだった。
これで、一件落着。とは言え、十三人の村人が戦死してしまったので、素直に喜べない。
全体の数字と比べると、被害は軽微だけどね……。
それでも、一人一人の亡骸を前にしたら、十三人の戦死という事実は、余りにも重たかった。
生存している村人たちも、大半がそう感じたみたいで、厭戦ムードが漂っている。
伯爵、あるいは侯爵との話し合いで、平和が訪れることを願うしかない。
ルーザー子爵領の街は、子爵がいなくなった途端、数百人規模の革命軍に占領されていた。
恐らく、事前にセバスと示し合わせていたんだ。
革命軍に良い印象はなかったけど、荒れ果てた村の復興に力を貸したり、盗賊や魔物の退治を行ったり、色々と頑張っている。
『貴族がいなくても、我々は生きていける!! 革命軍はいつでも、同志を募集しているぞ!!』
彼らはあちこちで、そう声高に叫び、仲間を集め始めた。
スラ丸に探って貰ったところ、革命軍はセバスの死に関心を持っていないらしい。
そもそも、死んだことに気付いていないかも……。
それと、新しい盆地の村の存在にも、気付かれていない。
つい先ほど、革命軍の人たちが旧盆地の村を見にきて、『生き残りはいない』と判断し、立ち去ったんだ。
──こんな感じで、私は今回の一件を纏めながら、戦死した村人たちのお葬式に立ち会った。
遺体は魔物化してゾンビにならないように、フィオナちゃんに燃やして貰って、遺灰の状態で土に埋める。
「聖女様……!! 死んじまっだ連中のために、なんが一言だけでも、お願いしますだ……!!」
野花と黙祷を捧げるだけの、簡素なお葬式──かと思いきや、ビーンさんが私に対して、難しいお願いをしてきた。
他の村人たちも、乞うような眼差しを向けてくる。
これは、流石に断れないね……。
「──では、勇敢な者たちの御霊が、道に迷わないように」
私は手のひらから、女神球を出して、青空の彼方へと緩やかに飛ばした。
ただのパフォーマンスだけど、村人たちは感涙しながら祈りを捧げている。
これでまた、余計な信仰心を育んでしまったかもしれない。
こうして、お葬式が終わった後、ニュートが黎明の牙のメンバーを集めた。
「皆に、大事な話がある。少しいいか?」
「なによ、改まって……。ちょっと緊張するわね」
フィオナちゃんが身構えながら、私たちの気持ちを代弁したよ。
一体、何を言い出すんだろうかと、みんながニュートを見つめていると、
「ワタシは、セバスとの戦いで、力不足を痛感した。故に、剣士に転職しようと考えている」
「あァ? テメェはノワールと戦う必要があンだろ? 今からレベル1の剣士になって、いいのかよ」
トールの問い掛けに、ニュートは深々と頷いて答える。
「決戦の日が近付けば、そのときに最もレベルが高い職業を選ぶ。アーシャのおかげで、転職は容易だからな」
「ぼ、ボクはいいと思う……!! レベル上げ、最近は停滞しているから……」
シュヴァインくんは真っ先に、ニュートの考えを支持した。
剣士になって手札を増やすのは、私としても悪くない考えだと思う。
本当なら、ノワールとの決戦の日までに、魔剣士になれるのが一番良い。
けど、そこまでいくのは難しいかな。
革命軍の勢力は、日に日に増大しているので、年内に一波乱ありそうなんだ。
そのときに、ノワールだって表舞台に出てくるはず……。
そこで取り逃したら、次はいつ姿を現すのか分からない。
決戦は年内に訪れると考えれば、ニュートが魔剣士に転職するのは、間に合わない気がする。
ちなみに、私が覗き見した過去のことは、仲間内に伝えておいた。
ノワールが絡んだら、ニュートとスイミィちゃんにとっては、他人事じゃないからね。
「ナハハハハハッ!! 我はニュートを応援してやるのだ! 必殺の剣技、サンダーライトニングスラッシュを伝授してやるのだぞ!」
「……兄さま、がんばる。……でも、一軍で、へいき?」
リヒトくんが明るく笑いながら激励する横で、スイミィちゃんは尤もな心配をした。
剣士に転職すると魔力がなくなるので、一軍だと足手纏いになる。
そのことは、ニュートも理解しているらしく、申し訳なさそうに一同を見回したよ。
「いや、平気ではないな……。そこで、話し合いが必要だと思った次第だ」
「にゃあっ!? ま、まさかっ、ニュートが二軍に!? みゃーはオスが増えるの、嫌にゃんだよ!?」
真っ先にミケが反応したけど、今は真面目な話し合いだから黙ってね。
私がスラ丸にアイコンタクトを送ると、この子はミケの顔に張り付いて、口を塞いでくれた。
ここで、フィオナちゃんが不安そうな表情を浮かべる。
「一軍に残るのが、あたしとシュヴァインと、トールだけになるってこと……? テツ丸とスラ丸もいるし、大丈夫だとは思うけど……」
「……スイ、一軍にいく。……シュヴァインと、一緒がいい」
「んんーーーっ!? んーーーっ!! んーーーっ!!」
一軍入りを希望したスイミィちゃんの腰に、ミケが大慌てでしがみ付いたよ。
口を塞いでいるので、何を言っているのか分からない。
……まぁ、どうせ碌でもないことだろうね。
「す、スイミィちゃん……!! ぼ、ボクも、キミと一緒が──」
シュヴァインくんは大歓迎、と思った矢先に、フィオナちゃんが割って入る。
「ダメダメっ!! スイミィは二軍にいなさいよ!! シュヴァインに近付かれるのも嫌だけどっ、あんたとあたしの魔法は相性最悪でしょ!?」
それを言うなら、ニュートの魔法とも相性が悪かった。
火と氷でも上手くやれてたし、火と水でも大丈夫じゃない?
私が内心で、そう考えていると、スイミィちゃんが手をフリフリする。
「……フィオナ、ばいばい」
「あんたの『ばいばい』って言葉、ほんと癪に障るわね……ッ!! しかもっ、喋るのが遅いし!! 口数は少ないし!! いっつも無表情でジト目だし!! もっとハキハキ喋って、キリッとしなさいよ!! このっ、馬鹿スイミィ!!」
「……フィオナ、ばか」
フィオナちゃんとスイミィちゃんが、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。
魔法の属性も噛み合わないし、性格も噛み合わないし、シュヴァインくんが絡むとキャットファイトが勃発してしまう。
ここまで悪い要素が重なると、同じパーティーに入れるのは難しい。
「ニュート以外に、転職を希望する人はいないの? 最近は盗賊も減ったし、ルーザー子爵も倒したし、1からレベル上げするなら、丁度いい期間だよ?」
私の問い掛けに、二軍のメンバーは全員が首を横に振った。
ミケ、スイミィちゃん、リヒトくんの三人は、まだ伸びしろがあるからね。
トールとシュヴァインくんは、結構悩んでいる。
「アーシャ、意見を聞かせろや。俺様は、どうするのが正解だと思ってンだ?」
「うーん……。レベルがリセットされてもいいなら、転職した方がいいかな」
トールに意見を求められたので、私は素直に答えた。
適正レベルが30以上の狩場って、近くで見つかっていないからね。
それが見つかるまでは、一軍全員で転職して、スキルを一つでも多く増やすべきだよ。
幸運の髪飾りを装備すれば、強力なスキルを取得出来るかもしれないし。
「──なら、俺様もニュートに付き合って、転職するぜ。シュヴァイン、テメェはどうすンだ?」
「ぼ、ボクは……っ、ボクも、もっと強くなりたい……!! だから、転職するよ……っ!!」
こうして、トール、シュヴァインくん、ニュートの三人が、転職することに決まった。
すると、フィオナちゃんが困惑しながら、彼らを見遣る。
「三人がレベル1からやり直すなら、パーティーはどうするのよ? あたしだけ、レベルが高いままよね……?」
「フィオナちゃんも、転職したら?」
「えぇー……。あたし、火属性の魔法以外に興味ないわよ? あ、魔剣士はパスね。剣を振り回す自信、ないから」
ずっと固定砲台に徹していたフィオナちゃんに、今から前衛職を勧めるのは酷な話だ。
私みたいな特異性がないと、他の属性の魔法も使い難い。
「普通の魔法使いに転職して、新しい火属性の魔法を狙うとか……?」
火、水、土、風、光、闇、氷、雷、それから無属性の魔法というのもあるし、普通の魔法使いが取得出来るスキルは、闇鍋感が物凄い。
ピンポイントで欲しい属性を引き当てるのは、運頼みになるけど……幸運の髪飾りがあるので、期待値は高くなるはず……。
あるいは、非戦闘職のレベル上げでも、全然悪くない。
庭師のスキル【箱庭】みたいに、便利なスキルが色々とあるだろうからね。
「んー……。ちょっとだけ、考える時間が欲しいわ」
フィオナちゃんはそう言って、みんなに猶予を求めた。
誰からも異論が出ないので、数日はゆっくりと羽を伸ばしながら、考えて貰おう。
こうして、私たちは束の間の平穏を満喫することになった。
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